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右の頬を打たれたら左で世界を制すべし
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セバル首脳陣の会議にトマソンとグレンが共に参加していた。現状はセバルにとって厳しいものばかりで、のっけから雰囲気が暗い。
「ふむ、帝都の大臣はおろか財務長官ですら動いてくれないのか。もはや伯爵が手を回しているとしか考えられんな。既に落とされた都市を鑑みるに、これ以上期待しても無駄なのだろう。」
「政治家や官僚は帝国の歳入が減っても自らの懐さえ温まれば、地方の自由都市がどうなろうと一向に構わないのだ。宮廷に巣食うダニどもめ。」
「しかし頭が痛いな。ユグルトの使者はルシード街道の関税大幅引き上げを通告して来た。事実上の街道封鎖に等しい。街道を使おうと、使わずに迂回しようと大幅な赤字になるのは間違い無い。商品の値上げでは費用が吸収しきれんぞ。」
「よろしいではありませんか、市長。ワシは無理して帝国内の大消費地に舶来品や必要物資を回してやる必要は無いと思いますぞ。」
トマソンは軽口のような調子でこともなげに言い放つ。突然何を言い出すのだとばかりに皆の視線がトマソンに集まった。
「しかしボーネランド全権、商品がさばけねば我らとて長くは持ちませんぞ。」
「なぁに、同盟の盟主たるグラムスも手をこまねいていた訳ではないのです。既にハオリンドへの販路を確保しております。」
「何ですと!亜人国家ロンバールの首都へ?」
思いもかけない言葉に議場が色めき立った。それがあまりにも意外なことだったからだ。
「左様。幸い我ら同盟は地理的に国境に近接しております。帝国が亜人差別をしていようとそんなものは商売に関係ありません、そもそも我が帝国に交易禁止令など無いのですから。我が義父モーゼルトはロンバール王ドラン2世からも手ずから勅許をいただいております。」
「おぉ、亜人相手に商売とは思いもつきませんでした。いかにユグルトと言えど国境付近に実力で介入するのは危険だと判断するでしょう。差別制度が我らの目をくもらせていたのですなぁ、さすがモーゼルトさまだ。」
「しかしそれだけではございません。」
「まだ何か秘策が?」
「正直これ以上のブレイクスルーは無いのですが、ワシが申し上げたいのはそろそろユグルトに目にモノ見せてやらんといかんということです。」
「それはどういうことでしょう?」
「平たく言えば反撃ですな。守るだけでは攻め入られるばかりで、どうにもならないということです。」
反撃と言っても職業軍人相手に戦いを挑んでも勝てる見込みが無い。かつて帝国に生じた農民一揆も6倍の兵力差で挑んだにも関わらず鎮圧されてしまった。
「我らに武力は備わっておりませんぞ。下手すれば武力で潰されるのは我々なのでは?」
「いかにも市長のおっしゃる通り。しかし反撃とは武力によるものばかりではございません。」
「ん?話が見えませんなぁ。」
「まぁドーンとワシらにお任せください。」
「し・・・しかし。」
「やはり武力が気になりますか?武力が無いと言うならどこかで調達すれば良いのですよ。ユグルト自身が我らにとって最大の援助者となることでしょう。わっはっはっは。」
安心させたいならきちんと説明しろよとグレンはため息をついた。
***
一方その頃、リーファたち冒険者は商船で海上に出ていた。
「海賊かぁ?どんなやつらなんだろう。」
「何だ?ビビってるのかよリーファ。大丈夫、私が火炎魔術で守ってやるから大船に乗ったつもりでいろよ。」
「というかまさに商船に乗ってるんだけどな。まぁ頼りにしてるよシンディー。」
ユグルト伯がセバルへ揺さぶりをかけるのと軌を一にして海賊が出没するようになったらしい。おや、甲板で倒れているのは・・・。リアンとマイクがいるってことはスアレスなのか?行ってみよう。
「大丈夫かスアレス?」
「うー、気持ち悪い。」
「こりゃ船酔いだなぁ。こうなっちまったらロクに戦えねぇよ。偉丈夫も形無しだぜ。」
「す、すまない。」
へぇ、船酔いってあんなに辛そうなのか。でもこれから戦闘があるかもしれないのになぁ。
「バトラー、メディックで何とかならないか?」
「毒や麻痺状態には有効なのですが、船酔いはやってみないとわかりません。ひとつ試してみましょう。」
「ちょっと試してみたいことがあるんだけど良いかな?」
「リーファ、何を試すんだ?」
「まぁ見ててよマイク。」
「あぁぁ気持ち悪・・・ん?すこぶる調子が良いぞ。どうしたことだ?」
メディックの効果があったのか、スアレスが突然身を起こした。マイクとリアンがビックリして目を丸くしている。
「いま何をしたんだ?魔術なのか?俺には何も見えなかったぞ。」
「はははは、最高だー!健康ってサイコー!俺ってサイコー!」
スアレスは握った両拳をあげて陽気に叫んでいる。
「うるせぇよスアレス!なぁ、リーファは何をしたんだ?」
「良いではないかマイク。こうしてスアレスも元に戻ったんだ、無闇に詮索するものではないぞ。なぁリーファ、ついでにスアレスの残念な部分も治せたりしないか?」
「やめておけリアン、リーファをあまり困らせるな。何故ならば俺に残念なところなど・・・・・・無いっ!!(キリッ)」
「なぁ、いま何でタメた?そういうところだよスアレス。」
「ん、トンチか?はっはっは、いかにもリアンらしいな。」
「ダメだこりゃ。」
「海賊船だー!こちらに向かって来るぞー!
「各員戦闘態勢!」
「ついにお出ましか。リアン、マイク。暴れるぞ!」
「あぁ。」
「腕が鳴るぜ。」
「ふむ、帝都の大臣はおろか財務長官ですら動いてくれないのか。もはや伯爵が手を回しているとしか考えられんな。既に落とされた都市を鑑みるに、これ以上期待しても無駄なのだろう。」
「政治家や官僚は帝国の歳入が減っても自らの懐さえ温まれば、地方の自由都市がどうなろうと一向に構わないのだ。宮廷に巣食うダニどもめ。」
「しかし頭が痛いな。ユグルトの使者はルシード街道の関税大幅引き上げを通告して来た。事実上の街道封鎖に等しい。街道を使おうと、使わずに迂回しようと大幅な赤字になるのは間違い無い。商品の値上げでは費用が吸収しきれんぞ。」
「よろしいではありませんか、市長。ワシは無理して帝国内の大消費地に舶来品や必要物資を回してやる必要は無いと思いますぞ。」
トマソンは軽口のような調子でこともなげに言い放つ。突然何を言い出すのだとばかりに皆の視線がトマソンに集まった。
「しかしボーネランド全権、商品がさばけねば我らとて長くは持ちませんぞ。」
「なぁに、同盟の盟主たるグラムスも手をこまねいていた訳ではないのです。既にハオリンドへの販路を確保しております。」
「何ですと!亜人国家ロンバールの首都へ?」
思いもかけない言葉に議場が色めき立った。それがあまりにも意外なことだったからだ。
「左様。幸い我ら同盟は地理的に国境に近接しております。帝国が亜人差別をしていようとそんなものは商売に関係ありません、そもそも我が帝国に交易禁止令など無いのですから。我が義父モーゼルトはロンバール王ドラン2世からも手ずから勅許をいただいております。」
「おぉ、亜人相手に商売とは思いもつきませんでした。いかにユグルトと言えど国境付近に実力で介入するのは危険だと判断するでしょう。差別制度が我らの目をくもらせていたのですなぁ、さすがモーゼルトさまだ。」
「しかしそれだけではございません。」
「まだ何か秘策が?」
「正直これ以上のブレイクスルーは無いのですが、ワシが申し上げたいのはそろそろユグルトに目にモノ見せてやらんといかんということです。」
「それはどういうことでしょう?」
「平たく言えば反撃ですな。守るだけでは攻め入られるばかりで、どうにもならないということです。」
反撃と言っても職業軍人相手に戦いを挑んでも勝てる見込みが無い。かつて帝国に生じた農民一揆も6倍の兵力差で挑んだにも関わらず鎮圧されてしまった。
「我らに武力は備わっておりませんぞ。下手すれば武力で潰されるのは我々なのでは?」
「いかにも市長のおっしゃる通り。しかし反撃とは武力によるものばかりではございません。」
「ん?話が見えませんなぁ。」
「まぁドーンとワシらにお任せください。」
「し・・・しかし。」
「やはり武力が気になりますか?武力が無いと言うならどこかで調達すれば良いのですよ。ユグルト自身が我らにとって最大の援助者となることでしょう。わっはっはっは。」
安心させたいならきちんと説明しろよとグレンはため息をついた。
***
一方その頃、リーファたち冒険者は商船で海上に出ていた。
「海賊かぁ?どんなやつらなんだろう。」
「何だ?ビビってるのかよリーファ。大丈夫、私が火炎魔術で守ってやるから大船に乗ったつもりでいろよ。」
「というかまさに商船に乗ってるんだけどな。まぁ頼りにしてるよシンディー。」
ユグルト伯がセバルへ揺さぶりをかけるのと軌を一にして海賊が出没するようになったらしい。おや、甲板で倒れているのは・・・。リアンとマイクがいるってことはスアレスなのか?行ってみよう。
「大丈夫かスアレス?」
「うー、気持ち悪い。」
「こりゃ船酔いだなぁ。こうなっちまったらロクに戦えねぇよ。偉丈夫も形無しだぜ。」
「す、すまない。」
へぇ、船酔いってあんなに辛そうなのか。でもこれから戦闘があるかもしれないのになぁ。
「バトラー、メディックで何とかならないか?」
「毒や麻痺状態には有効なのですが、船酔いはやってみないとわかりません。ひとつ試してみましょう。」
「ちょっと試してみたいことがあるんだけど良いかな?」
「リーファ、何を試すんだ?」
「まぁ見ててよマイク。」
「あぁぁ気持ち悪・・・ん?すこぶる調子が良いぞ。どうしたことだ?」
メディックの効果があったのか、スアレスが突然身を起こした。マイクとリアンがビックリして目を丸くしている。
「いま何をしたんだ?魔術なのか?俺には何も見えなかったぞ。」
「はははは、最高だー!健康ってサイコー!俺ってサイコー!」
スアレスは握った両拳をあげて陽気に叫んでいる。
「うるせぇよスアレス!なぁ、リーファは何をしたんだ?」
「良いではないかマイク。こうしてスアレスも元に戻ったんだ、無闇に詮索するものではないぞ。なぁリーファ、ついでにスアレスの残念な部分も治せたりしないか?」
「やめておけリアン、リーファをあまり困らせるな。何故ならば俺に残念なところなど・・・・・・無いっ!!(キリッ)」
「なぁ、いま何でタメた?そういうところだよスアレス。」
「ん、トンチか?はっはっは、いかにもリアンらしいな。」
「ダメだこりゃ。」
「海賊船だー!こちらに向かって来るぞー!
「各員戦闘態勢!」
「ついにお出ましか。リアン、マイク。暴れるぞ!」
「あぁ。」
「腕が鳴るぜ。」
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