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グラムスに迫る吸血伯
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緩やかなティータイムで心もほぐれたリーファたちだったが、その横ではクラウスたちが何やら気になる話をしている。
「トマソン、この子たちを連れて来たということは」
「ええ、見どころはありますよ。厨房も見ましたが、いずれは単独で店を任せられそうな料理人も順調に育っていますね。ワシの商会でも面倒を見ますよ。」
「港湾都市セバルの橋頭堡としても送り込めそうかね?」
「ええ、もちろんです。海洋貿易を独占して同盟を破滅させようとしているユグルト伯の鼻を明かしてやりましょう。」
何だろう、難しい話をしているようだなぁ。私たちのいる前で話すようなことなんだろうか?
「それは何の話なんだ?」
「えーと、それは」
何やらトマソンが目をそらしたぞ。妙だな、後ろめたい話なのか?
リーファが勘ぐっていると、その様子を察したクラウスが口を開いた。
「それは私から話そう。いきなりですまないが、実は我々はいま窮地に立たされている。」
「商業ギルドの危機ってこと?」
「確かにその通りなんだが、広くグラムスの危機と言っても良い。」
「どういう事なんですか?」
「ここグラムスは商業で成り立つ自由都市なんだが、いかなる世俗権力からも独立した自治権を与えられているのは知っているね?」
「ごめんなさい、その辺りの事情はわからないんです。」
たしかに私たちはせいぜい目の前にある範囲のことしかわからないんだ。まして世の中の仕組みを知っているのを期待されてもねぇ。
「ああ、すまなかったねニコ君。ではもう少し丁寧に説明するとしよう。グラムスは皇帝陛下に税金を納めることで、都市の運営を自分たちの手で行っているんだ。そのため他の貴族の支配からは自由な都市として活動している。」
「だから自由都市なのか。初めて知ったよ。」
「そうか、それならば私も話し甲斐があるというものだよ。その税を納めるために最も重要な活動が商業なのだがね、グラムスを手に入れようと目論んでいる貴族から妨害されているんだ。このままではグラムスは自治権を失って、その貴族のものとなってしまうだろう。」
「それだとマズいのですか?」
ニコの言う通り、別に都市の支配者が変わるだけだったら何てことないだろう。本当のところはせいぜい都市の上層部の危機にすぎないんじゃないのか?だとすればそんな小競り合いなんて私たちのような一般人には関係無いからね。あんたたちで勝手にやってください。
「市民の暮らし向きが良くなるならば、それも良い話なのかもしれない。だが、そううまい話でもないんだ。相手はあの吸血伯だからね。」
「吸血?」
「何だかとんでもないあだ名ですね?」
「ユグルト伯爵は自らの領民にとんでもない重い税を課している。もちろん逃げ出す領民も多くてね、そういった逃散民が近隣の自由都市に流入することも多い。ここグラムスでも逃げてきた人々を労働力として受け容れている。だがそのことを良く思っていないユグルト伯は近隣の自由都市の経済活動を破壊して、自らの領土に併合し始めたんだ。そこで見つかった逃散民は元いた村に連れ戻された上に、見せしめで殺されているそうだよ。」
「元をただせば、領民が逃げ出すほど重い税を課しているのが原因じゃないか。」
「そのとおりだリーファ君。だが彼はそもそもそのような事を考える人ではないんだ。むしろユグルト伯は欲望のままに事を進め、自治権を潰されて隷属した都市は既に2つにのぼる。味をしめたユグルト伯が狙う次のターゲットは港湾都市セバルだ。セバルは自由都市の相互援助を取り決めたマルトリス同盟の最重要拠点で、海洋貿易の中心地と言っても過言ではない。そこが陥落すれば同盟は一挙に壊滅して、ユグルト伯に首根っこを押さえられてしまうことだろう。」
まさかそんな奴がグラムスの上に立ったら、私たちだって他の場所に逃げないといけなくなるぞ。決して今まで同様の生活なんてできなくなるよなぁ。
「それはマズいね。何か策はあるの?」
「都市を陥落させるに当たっては、経済活動の撹乱が彼らの常套手段だ。そのためにはあらゆる手段を使って来る。街道の封鎖・積荷の没収、都市に入り込んでからは別ギルドの設置と加入の強要など様々だ。」
「相手の出方はわかっているのか。」
「そうだとも、だからこそ手の打ちようはあるんだ。我々は吸血伯を迎え撃つために策を練ってきたのだよ。そこで今は妨害をはねのけるだけの強い足腰を持った同盟のメンバーを送り込みたいと考えている。表だって用心棒を送り込んだら角が立つからね。」
「今回はグラムスの存亡がかかっているから、ワシは天敵のアイツにも頭を下げて頼み込んだのだ。ここで押しとどめねば、ワシらも破滅するほかない。」
「天敵?そんなのがいるの?」
「ああ、リーファも知っているグレンとか言う跳ねっ返りだ。アイツのせいでワシは・・・。」
「おお、殊勝じゃないかトマソン。冒険者ギルドにも協力を要請しようと思っていたが、先回りして済ませているとは目端が利くことだ。つまりはグラムスの総力戦ということだよ。大きな利益の前には小さなプライドなど捨てるのが我々だ。」
「トマソン、この子たちを連れて来たということは」
「ええ、見どころはありますよ。厨房も見ましたが、いずれは単独で店を任せられそうな料理人も順調に育っていますね。ワシの商会でも面倒を見ますよ。」
「港湾都市セバルの橋頭堡としても送り込めそうかね?」
「ええ、もちろんです。海洋貿易を独占して同盟を破滅させようとしているユグルト伯の鼻を明かしてやりましょう。」
何だろう、難しい話をしているようだなぁ。私たちのいる前で話すようなことなんだろうか?
「それは何の話なんだ?」
「えーと、それは」
何やらトマソンが目をそらしたぞ。妙だな、後ろめたい話なのか?
リーファが勘ぐっていると、その様子を察したクラウスが口を開いた。
「それは私から話そう。いきなりですまないが、実は我々はいま窮地に立たされている。」
「商業ギルドの危機ってこと?」
「確かにその通りなんだが、広くグラムスの危機と言っても良い。」
「どういう事なんですか?」
「ここグラムスは商業で成り立つ自由都市なんだが、いかなる世俗権力からも独立した自治権を与えられているのは知っているね?」
「ごめんなさい、その辺りの事情はわからないんです。」
たしかに私たちはせいぜい目の前にある範囲のことしかわからないんだ。まして世の中の仕組みを知っているのを期待されてもねぇ。
「ああ、すまなかったねニコ君。ではもう少し丁寧に説明するとしよう。グラムスは皇帝陛下に税金を納めることで、都市の運営を自分たちの手で行っているんだ。そのため他の貴族の支配からは自由な都市として活動している。」
「だから自由都市なのか。初めて知ったよ。」
「そうか、それならば私も話し甲斐があるというものだよ。その税を納めるために最も重要な活動が商業なのだがね、グラムスを手に入れようと目論んでいる貴族から妨害されているんだ。このままではグラムスは自治権を失って、その貴族のものとなってしまうだろう。」
「それだとマズいのですか?」
ニコの言う通り、別に都市の支配者が変わるだけだったら何てことないだろう。本当のところはせいぜい都市の上層部の危機にすぎないんじゃないのか?だとすればそんな小競り合いなんて私たちのような一般人には関係無いからね。あんたたちで勝手にやってください。
「市民の暮らし向きが良くなるならば、それも良い話なのかもしれない。だが、そううまい話でもないんだ。相手はあの吸血伯だからね。」
「吸血?」
「何だかとんでもないあだ名ですね?」
「ユグルト伯爵は自らの領民にとんでもない重い税を課している。もちろん逃げ出す領民も多くてね、そういった逃散民が近隣の自由都市に流入することも多い。ここグラムスでも逃げてきた人々を労働力として受け容れている。だがそのことを良く思っていないユグルト伯は近隣の自由都市の経済活動を破壊して、自らの領土に併合し始めたんだ。そこで見つかった逃散民は元いた村に連れ戻された上に、見せしめで殺されているそうだよ。」
「元をただせば、領民が逃げ出すほど重い税を課しているのが原因じゃないか。」
「そのとおりだリーファ君。だが彼はそもそもそのような事を考える人ではないんだ。むしろユグルト伯は欲望のままに事を進め、自治権を潰されて隷属した都市は既に2つにのぼる。味をしめたユグルト伯が狙う次のターゲットは港湾都市セバルだ。セバルは自由都市の相互援助を取り決めたマルトリス同盟の最重要拠点で、海洋貿易の中心地と言っても過言ではない。そこが陥落すれば同盟は一挙に壊滅して、ユグルト伯に首根っこを押さえられてしまうことだろう。」
まさかそんな奴がグラムスの上に立ったら、私たちだって他の場所に逃げないといけなくなるぞ。決して今まで同様の生活なんてできなくなるよなぁ。
「それはマズいね。何か策はあるの?」
「都市を陥落させるに当たっては、経済活動の撹乱が彼らの常套手段だ。そのためにはあらゆる手段を使って来る。街道の封鎖・積荷の没収、都市に入り込んでからは別ギルドの設置と加入の強要など様々だ。」
「相手の出方はわかっているのか。」
「そうだとも、だからこそ手の打ちようはあるんだ。我々は吸血伯を迎え撃つために策を練ってきたのだよ。そこで今は妨害をはねのけるだけの強い足腰を持った同盟のメンバーを送り込みたいと考えている。表だって用心棒を送り込んだら角が立つからね。」
「今回はグラムスの存亡がかかっているから、ワシは天敵のアイツにも頭を下げて頼み込んだのだ。ここで押しとどめねば、ワシらも破滅するほかない。」
「天敵?そんなのがいるの?」
「ああ、リーファも知っているグレンとか言う跳ねっ返りだ。アイツのせいでワシは・・・。」
「おお、殊勝じゃないかトマソン。冒険者ギルドにも協力を要請しようと思っていたが、先回りして済ませているとは目端が利くことだ。つまりはグラムスの総力戦ということだよ。大きな利益の前には小さなプライドなど捨てるのが我々だ。」
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