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商売人の心得
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「リーファ、ワシだ。ワシが来てやったぞ!」
「おい、またかよ。お前、自分の仕事は無いのか?グラムスで最も大きい商会のトップなんだろ?」
「リーファ、常連客相手にそんな邪険にせんでも良かろう?ワシが四六時中張り付いておらねば回らぬ商会なぞ今日明日つぶれるわ。心配せんでも優秀なスタッフをそろえておるから、ワシは重要案件のみを選別しておるよ。それより今日は良い話を持ってきたんだ。」
トマソンは溺愛していた一人息子のガノフを帝国の旧都セントクーンズの大商会に奉公人として送りだして以来、毎日のように私たちの店に顔を出すようになっていた。遠くへ行ってしまった息子の代わりに同年代の私たちの相手をしているのかもしれない。
「ん?何だ、その良い話ってのは。」
「そうかそうか、気になるだろ?実はな、お前たちがこのグラムスで商売するにも商業ギルドに加盟しておくのが都合が良いはずだ。もぐりの料理屋なんて市当局から足下を見られるに決まっているからな。」
「何かまずいことでもあるのか?」
「そりゃぁあるに決まっておろう。お前ら商売するにも税金を取られるんだぞ?」
「げっ、税金?」
「何だ?そんなことも考えてなかったのか。それにワシが調べたところ、この土地も無許可で占有しているのだろ?」
いざとなれば建物まるごと収納して別の場所に移動させることはできる。だが、どこに行こうと税金が取られるとなればどうしようもない。しかも今までビタ一文払っていないじゃないか、下手すりゃ逮捕案件だ。
「はわわわわ・・・。」
「わっはっはっは。お前もそんな顔するのだなぁ、いやぁ愉快愉快。」
「どどっど、どうすれば良いんだ?」
「奴らの餌食になる前にワシが気づいて良かった。税金を払うにしても、ギルドを経由すればどうとでもなる。」
「税金は何とかなっても土地はどうにもならないなぁ。」
「ここら一帯の土地なんぞワシが買い占めてやったわ。今のところ利用計画の無い土地だったから、市当局から安く買いたたいてやったのだ。ワシが地主だから安心して使って良いぞ。」
ここで借りを作ってしまうと後がこわいなぁ。トマソンの目論見は何だろう?もうガノフはいないから、店をよこせなんて言わないのだろうが。う~ん、気になる。
「私にとっては申し分ないけど、それじゃぁあんたに旨味が無いじゃないか。」
「まぁ普通はそう思うよなぁ。だが、こんな何も無いところに人の流れができているってことはだ。」
「どういうことだ?」
「その流れに便乗して商売ができる可能性があるってことだ。」
「な、なんだって!」
正気なのか?店の周囲は何もないぞ。まったく手つかずの荒地と言ってもいい。商売?そんな馬鹿な。
「考えてもみろ、客はわざわざこんなところまで足を運ぶんだ。うまい料理を食べるついでに何かできたら、それこそ一石二鳥だと思わないか?」
「そう言われると、そんな気もするなぁ。」
たしかに客もここまで来るのは不便だって言っていたっけ?でも店の周囲が便利になれば、食事の他にもここまで足を運ぶ理由ができるのか。
「ワシはこれから料理屋以外でいろんな店を出そうと思っている。ここに目をつけた他の商人に土地や店舗を売ることだってできるわなぁ。もっと便利になれば近所にこぞって家が建つことだってあり得る。人が増えれば当然の流れだ。」
「そこまで考えているのか。」
「商人は人に先んじて動くものだ。買い入れた額よりも高値で売れれば大もうけだぞ。ところで、お前の店の食材も仕入れを我が商会に任せてみないか?下手に市街で購入して量や品質をごまかされる心配も無い。もちろん品質はワシが保証しよう。いろいろ安くしとくぞ?」
たしかに粗悪な混ぜものが無いのはありがたい。こりゃぁ願っても無い良い話じゃないか?今すぐ飛びつきたいのは山々なんだが。
「何でそんなに面倒を見てくれるんだ?」
「おいおい忘れたのか?ワシはお前から蔵ひとつをぶんどられたんだぞ!この店をうーんとデカくして、そこからタンマリもうけてやろうという話だ。この店が繁盛すればするほど取引先のワシももうかる。とても良い話じゃないか。」
なるほど。打算がこれ以上なく明解で、どうも裏は無さそうだね。結びつく動機は唯一お互いの利益というわけだ。これが商人というものなんだろう。
「タダでは転ばないってことか。オッサンもやり手だなぁ。」
「オッサンと呼ぶな!そうだなぁ、おじさまーとかパパーとかいろいろあるだろうが。いや待てよ、ガノフと結婚してもらうならパパの方が良いか?ではさっそく商業ギルドに行くぞ。ワシが将来わが娘になるリーファの保証人になってやるのだ。」
何を言ってるんだトマソンは?どうも思い込みの激しいやつだ。勢いのある商人ってやつはみんなこんな感じなのかなぁ。でも商売に関して抜け目が無いのはビンビン伝わってくる。いろいろ教わることにしよう。
「結婚はしないけど登録しに行くよ。ちょっと外に出てくる。ニコ、みんなに伝えといて。」
「嫌です。私も姉さんといっしょに行きます。」
あんなヒョロいガキに姉さんを渡すなんてあり得ない。それ以外にも悪い虫がつく前に私が追い払わないと。
「ありゃぁ、ニコ?」
「馬車を店の前に待たせてある。腕に抱きついている小っこい猫耳娘を連れて行くのはかまわんから早く行くぞ。」
私たちはトマソンの馬車に乗り込むとギルドへと向かった。以前接収したアルバーンの馬車も立派なあつらえだが、トマソンの馬車も負けてはいない。こんな馬車を所有しているんだから、やはりボーネランド商会ってすごいんだなぁ。
「市の中心部って、実は今まで来たこと無いんだよね。はぁ、立派な建物ばかりだ。見てみろよニコ。」
「あのカテドラルは聖教会の司教様がおわす場所だ。あちらは市庁舎だな。市の最高権力者が集う二十三人会があるんだ。もうそろそろギルドに到着するぞ。」
「私たちが中心部に来ようとしても警ら隊に追い回されるから近づけないんだよね。まだ何にもしてないのに。でも内部はこうなっていたのか。姉さん、これって絶対みんなに自慢できるよ!」
「おい、またかよ。お前、自分の仕事は無いのか?グラムスで最も大きい商会のトップなんだろ?」
「リーファ、常連客相手にそんな邪険にせんでも良かろう?ワシが四六時中張り付いておらねば回らぬ商会なぞ今日明日つぶれるわ。心配せんでも優秀なスタッフをそろえておるから、ワシは重要案件のみを選別しておるよ。それより今日は良い話を持ってきたんだ。」
トマソンは溺愛していた一人息子のガノフを帝国の旧都セントクーンズの大商会に奉公人として送りだして以来、毎日のように私たちの店に顔を出すようになっていた。遠くへ行ってしまった息子の代わりに同年代の私たちの相手をしているのかもしれない。
「ん?何だ、その良い話ってのは。」
「そうかそうか、気になるだろ?実はな、お前たちがこのグラムスで商売するにも商業ギルドに加盟しておくのが都合が良いはずだ。もぐりの料理屋なんて市当局から足下を見られるに決まっているからな。」
「何かまずいことでもあるのか?」
「そりゃぁあるに決まっておろう。お前ら商売するにも税金を取られるんだぞ?」
「げっ、税金?」
「何だ?そんなことも考えてなかったのか。それにワシが調べたところ、この土地も無許可で占有しているのだろ?」
いざとなれば建物まるごと収納して別の場所に移動させることはできる。だが、どこに行こうと税金が取られるとなればどうしようもない。しかも今までビタ一文払っていないじゃないか、下手すりゃ逮捕案件だ。
「はわわわわ・・・。」
「わっはっはっは。お前もそんな顔するのだなぁ、いやぁ愉快愉快。」
「どどっど、どうすれば良いんだ?」
「奴らの餌食になる前にワシが気づいて良かった。税金を払うにしても、ギルドを経由すればどうとでもなる。」
「税金は何とかなっても土地はどうにもならないなぁ。」
「ここら一帯の土地なんぞワシが買い占めてやったわ。今のところ利用計画の無い土地だったから、市当局から安く買いたたいてやったのだ。ワシが地主だから安心して使って良いぞ。」
ここで借りを作ってしまうと後がこわいなぁ。トマソンの目論見は何だろう?もうガノフはいないから、店をよこせなんて言わないのだろうが。う~ん、気になる。
「私にとっては申し分ないけど、それじゃぁあんたに旨味が無いじゃないか。」
「まぁ普通はそう思うよなぁ。だが、こんな何も無いところに人の流れができているってことはだ。」
「どういうことだ?」
「その流れに便乗して商売ができる可能性があるってことだ。」
「な、なんだって!」
正気なのか?店の周囲は何もないぞ。まったく手つかずの荒地と言ってもいい。商売?そんな馬鹿な。
「考えてもみろ、客はわざわざこんなところまで足を運ぶんだ。うまい料理を食べるついでに何かできたら、それこそ一石二鳥だと思わないか?」
「そう言われると、そんな気もするなぁ。」
たしかに客もここまで来るのは不便だって言っていたっけ?でも店の周囲が便利になれば、食事の他にもここまで足を運ぶ理由ができるのか。
「ワシはこれから料理屋以外でいろんな店を出そうと思っている。ここに目をつけた他の商人に土地や店舗を売ることだってできるわなぁ。もっと便利になれば近所にこぞって家が建つことだってあり得る。人が増えれば当然の流れだ。」
「そこまで考えているのか。」
「商人は人に先んじて動くものだ。買い入れた額よりも高値で売れれば大もうけだぞ。ところで、お前の店の食材も仕入れを我が商会に任せてみないか?下手に市街で購入して量や品質をごまかされる心配も無い。もちろん品質はワシが保証しよう。いろいろ安くしとくぞ?」
たしかに粗悪な混ぜものが無いのはありがたい。こりゃぁ願っても無い良い話じゃないか?今すぐ飛びつきたいのは山々なんだが。
「何でそんなに面倒を見てくれるんだ?」
「おいおい忘れたのか?ワシはお前から蔵ひとつをぶんどられたんだぞ!この店をうーんとデカくして、そこからタンマリもうけてやろうという話だ。この店が繁盛すればするほど取引先のワシももうかる。とても良い話じゃないか。」
なるほど。打算がこれ以上なく明解で、どうも裏は無さそうだね。結びつく動機は唯一お互いの利益というわけだ。これが商人というものなんだろう。
「タダでは転ばないってことか。オッサンもやり手だなぁ。」
「オッサンと呼ぶな!そうだなぁ、おじさまーとかパパーとかいろいろあるだろうが。いや待てよ、ガノフと結婚してもらうならパパの方が良いか?ではさっそく商業ギルドに行くぞ。ワシが将来わが娘になるリーファの保証人になってやるのだ。」
何を言ってるんだトマソンは?どうも思い込みの激しいやつだ。勢いのある商人ってやつはみんなこんな感じなのかなぁ。でも商売に関して抜け目が無いのはビンビン伝わってくる。いろいろ教わることにしよう。
「結婚はしないけど登録しに行くよ。ちょっと外に出てくる。ニコ、みんなに伝えといて。」
「嫌です。私も姉さんといっしょに行きます。」
あんなヒョロいガキに姉さんを渡すなんてあり得ない。それ以外にも悪い虫がつく前に私が追い払わないと。
「ありゃぁ、ニコ?」
「馬車を店の前に待たせてある。腕に抱きついている小っこい猫耳娘を連れて行くのはかまわんから早く行くぞ。」
私たちはトマソンの馬車に乗り込むとギルドへと向かった。以前接収したアルバーンの馬車も立派なあつらえだが、トマソンの馬車も負けてはいない。こんな馬車を所有しているんだから、やはりボーネランド商会ってすごいんだなぁ。
「市の中心部って、実は今まで来たこと無いんだよね。はぁ、立派な建物ばかりだ。見てみろよニコ。」
「あのカテドラルは聖教会の司教様がおわす場所だ。あちらは市庁舎だな。市の最高権力者が集う二十三人会があるんだ。もうそろそろギルドに到着するぞ。」
「私たちが中心部に来ようとしても警ら隊に追い回されるから近づけないんだよね。まだ何にもしてないのに。でも内部はこうなっていたのか。姉さん、これって絶対みんなに自慢できるよ!」
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