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お勉強の時間だ
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「おい、あいつらまだ屈服しないのか?どうなってるんだ。」
「そ、それがどういうわけかどこからか食材を手に入れておりまして。どうもグラムスで調達しているわけではないようです。」
「くそ、手段は選ぶな。必ず屈服させろ!」
あれからも嫌がらせが散発していたが、ことごとく撃退している。そのためなのかボーネランドの介入も手法が荒っぽくなり始めた。
「今日はもう手下を5人も行動不能にしたのか。一気に力づくで来るようになったなぁ。」
「おそらくボーネランドも焦っているということではないでしょうか。」
「そうだよな。誘拐するどころか、動ける手下がどんどん減っていくんだ。焦らない方がおかしいよ。バトラー、あいつらそろそろしびれを切らして乗り込んで来るんじゃないか?」
私がバトラーと話をしているちょうどその時にボーネランドが応接室に飛び込んで来た。どうでもいいけど勝手に入って来るなよ。
「おい、どうなってるんだ?」
「またお前かよ?もう来ないって言ってたじゃないか。」
「うるさいっ!お前ら、ワシの手下どもに何をしたんだ?アイツらはそろいもそろって全員寝込んじまったぞ!どうしてくれるんだ!」
「どうするも何も、おかしな言いがかりはやめてもらおうか。さぁ帰った帰った!」
自業自得って言葉知らないのか?お前らが嫌がらせに来なければ最初からそんなことにはならなかったんだよ。
「おのれぇ、このワシをコケにしてただで済むとでも思っているのか!」
「うちの従業員を襲おうとしているみたいだが、これ以上続けるとタダでは済まさないぞ。これは警告だ!」
もうとっくにイタズラで済まされる限度ってものを踏み越えているんだ。グラムスでは平和に過ごそうとしている私のガマンも限界に来てんだぞ。
「このトマソン様に警告だと?ガキめ、もう許さんからなぁ。」
「お目こぼしされてるのはどちらなのかわかってないようだなぁ。身上つぶしても知らんぞ。」
ボーネランドめ、捨て台詞を吐いて出て行きやがった。バトラー、偵察を出してくれ。
「配置いたしました、リーファ様。」
お、さっそく何やら聞こえて来たぞ。
「ボス、あのガキどもどうします?あの様子じゃ変わらないですぜ。」
「もう頭に来たぞ。今晩にでもあの店を焼いてやれ。その上で路頭に迷った従業員をまとめてかっさらえば良い。」
お前らの悪だくみは筒抜けだ。まさか私に聞かれているとは夢にも思うまい。
「ふふふ、なるほどなぁ。今晩までに破産しないといいんだが。」
***
「だ、旦那さま!いったい今までどちらに?」
「何だ、みっともなくあわておって。何かあったのか?」
「そ、それが・・・。」
屋敷に帰ったばかりのトマソンが執事のヨゼフにせかされて蔵へと向かうと、そこには驚きの光景が広がっていた。
「な、何じゃこりゃぁ。」
「蔵の中身がまるごと消えてしまいまして。」
「はぁ?盗むにも誰かが大勢中に侵入したんだろ?顔を見たやつはおらんのか!」
「誰も、人っ子ひとり近づいていないそうで。」
「馬鹿な!蔵ひとつをまるごとだぞ?そんなわけがあるか!見張りは何をしておったのだ。高い金も払っておるのに無くなったで済むか、大馬鹿ものがっ!」
「旦那さまぁぁっ!二の蔵がっ!」
すると怒鳴りつけたヨゼフ越しに別の使用人が不吉な言葉をさけびながらこちらに駆け寄って来るのが見える。
「おい、どういうことだ?今、となりの蔵がどうとか?やめろ、聞きたくない。言うな、言わないでくれぇ!」
トマソンは相次ぐ在庫商品の喪失報告に、とうとう寝込んでしまった。
「あぁぁ、大損だ。もう生きる気力が・・・。」
「パパぁ、しっかりしてよ。お願いだよ。」
「な、何でこんなことに・・・。はっ!」
あの小賢しいガキが言っておったな。お目こぼしだの身上つぶすだの・・・。あいつだ、あいつに違いない。
「ガノフ、馬車を用意してくれ。ワシを今すぐあの店に連れて行け。」
「ついにあの店をやっつけるんだね、わかったよパパ!よーし、これで僕がむふふん。」
何か店が騒がしいなぁと気づくや、応接室の扉が勢いよく開け放たれた。
「ん?また来たのか。せわしないやつらだなぁ。」
「ふん、そんな態度をとっていられるのも今の内だ。お前もすぐ僕にかしづかせてやるからなぁ。ねぇ、パパ!」
このヒョロっちいガキが原因で店をつぶすハメになるなんて大変だなぁ。まぁどうでもいいけど、さっさとお引き取り願おう。
「馬鹿を言っていないでお前らとっとと帰れよ。お前ら暇人とは違って、こっちは忙しいんだ。」
「今さらこんなことを言えた義理ではないが・・・」
「おら、パパのありがたい言葉だ。耳かっぽじって聞けよ、お前ら!」
「どうかワシらを許してはもらえんだろうか。」
「どうだ!僕らを許せよ・・・ってどういうことなの、パパっ!」
「頼む、このとおりだ!」
「パパ、何でひざをついてあんなヤツに頭を下げているの?み、見るな!おい、お前らも突っ立ってないで早く何とかしろ!」
「ふーん、今晩うちの店が火事になるそうだが?」
「そんなことまでっ!?・・・そうか、ワシも虫が良すぎるということだな。」
「わかったのならもう帰れよ。」
「身勝手なことは重々承知の上だ。どうかワシひとりの命で勘弁してはくれんか?」
「ぱ、パパ?」
「せめて息子にはいくばくかの財産を残してやりたいのだ。それさえできればワシはここで死んでも良い。」
「お前は今まで情け容赦なく他人をつぶして来たんだろ?今のお前と同じ思いをした人がどれだけいただろうなぁ。」
「そうだなぁ、ワシの罪もここで清算せねばなるまい。おいヨゼフ、短剣を持っているか?」
「旦那様?ございますが、どうかおやめください。」
「いいから早く。おねがいだヨゼフ、ワシに恥をかかせないでくれ。」
ヨゼフが短剣を手渡すと、取り乱すガノフをトマソンから引き離すよう手下に指示した。
「パパぁ!おい放せよ!パパが死んじゃうだろ?お前ら許さないぞぉっ!」
「止めやしないぞ。そんなんで許すともかぎらんからな。」
「このトマソン、曲がりなりにも一代で財を成した男だ。散り際も立派に咲いて見せよう。」
どうでもいいけど、お前ら勝手に盛り上がるなよ。こっちはお前の命なんて欲しいわけじゃないんだからさぁ。自作自演は嫌われるよ。
「犬死にだぞ?」
「承知の上よ。ガノフ、パパのようにはなるなよ!さらばだ!」
「パパぁぁっ!」
「あれ?では、さらばだ!んんっ?」
「応接室で死なれちゃたまらねぇっての。誰が掃除すると思ってるんだよ。」
私はハニカムウォールで短剣を無効化した。こんなところで首を切られたんじゃ後片付けが大変なんだよ。うちの従業員が怖がって逃げちゃうだろ?
「何だこれは?切れない?」
「おい、あんまり触るなよ。次やったら本当に切れるからな。」
「ワシらを許してくれるのか?」
「許しはしないが、処分は保留しよう。次にどこかでお前らの悪い風聞が聞こえて来たら遠慮なく消してやる。」
「ありがとう、肝に銘じておく。ところでお詫びとしてなんだが、蔵ひとつ分で勘弁してもらえないだろうか?」
「もらえるんなら受けとるが、それよりも息子を甘やかしすぎだろ?元はと言えばこいつが元凶らしいじゃないか?こいつをどこか徒弟にでも出して人並みの苦労をさせろ。あんたが死んだら絶対財産を食いつぶすぞこいつは!」
「そうか・・・そうだな。ワシも良い勉強をさせてもらった。妻が亡くなってからというものガノフを甘やかし過ぎたのかもしれん。必ずだ、約束する。」
「そ、それがどういうわけかどこからか食材を手に入れておりまして。どうもグラムスで調達しているわけではないようです。」
「くそ、手段は選ぶな。必ず屈服させろ!」
あれからも嫌がらせが散発していたが、ことごとく撃退している。そのためなのかボーネランドの介入も手法が荒っぽくなり始めた。
「今日はもう手下を5人も行動不能にしたのか。一気に力づくで来るようになったなぁ。」
「おそらくボーネランドも焦っているということではないでしょうか。」
「そうだよな。誘拐するどころか、動ける手下がどんどん減っていくんだ。焦らない方がおかしいよ。バトラー、あいつらそろそろしびれを切らして乗り込んで来るんじゃないか?」
私がバトラーと話をしているちょうどその時にボーネランドが応接室に飛び込んで来た。どうでもいいけど勝手に入って来るなよ。
「おい、どうなってるんだ?」
「またお前かよ?もう来ないって言ってたじゃないか。」
「うるさいっ!お前ら、ワシの手下どもに何をしたんだ?アイツらはそろいもそろって全員寝込んじまったぞ!どうしてくれるんだ!」
「どうするも何も、おかしな言いがかりはやめてもらおうか。さぁ帰った帰った!」
自業自得って言葉知らないのか?お前らが嫌がらせに来なければ最初からそんなことにはならなかったんだよ。
「おのれぇ、このワシをコケにしてただで済むとでも思っているのか!」
「うちの従業員を襲おうとしているみたいだが、これ以上続けるとタダでは済まさないぞ。これは警告だ!」
もうとっくにイタズラで済まされる限度ってものを踏み越えているんだ。グラムスでは平和に過ごそうとしている私のガマンも限界に来てんだぞ。
「このトマソン様に警告だと?ガキめ、もう許さんからなぁ。」
「お目こぼしされてるのはどちらなのかわかってないようだなぁ。身上つぶしても知らんぞ。」
ボーネランドめ、捨て台詞を吐いて出て行きやがった。バトラー、偵察を出してくれ。
「配置いたしました、リーファ様。」
お、さっそく何やら聞こえて来たぞ。
「ボス、あのガキどもどうします?あの様子じゃ変わらないですぜ。」
「もう頭に来たぞ。今晩にでもあの店を焼いてやれ。その上で路頭に迷った従業員をまとめてかっさらえば良い。」
お前らの悪だくみは筒抜けだ。まさか私に聞かれているとは夢にも思うまい。
「ふふふ、なるほどなぁ。今晩までに破産しないといいんだが。」
***
「だ、旦那さま!いったい今までどちらに?」
「何だ、みっともなくあわておって。何かあったのか?」
「そ、それが・・・。」
屋敷に帰ったばかりのトマソンが執事のヨゼフにせかされて蔵へと向かうと、そこには驚きの光景が広がっていた。
「な、何じゃこりゃぁ。」
「蔵の中身がまるごと消えてしまいまして。」
「はぁ?盗むにも誰かが大勢中に侵入したんだろ?顔を見たやつはおらんのか!」
「誰も、人っ子ひとり近づいていないそうで。」
「馬鹿な!蔵ひとつをまるごとだぞ?そんなわけがあるか!見張りは何をしておったのだ。高い金も払っておるのに無くなったで済むか、大馬鹿ものがっ!」
「旦那さまぁぁっ!二の蔵がっ!」
すると怒鳴りつけたヨゼフ越しに別の使用人が不吉な言葉をさけびながらこちらに駆け寄って来るのが見える。
「おい、どういうことだ?今、となりの蔵がどうとか?やめろ、聞きたくない。言うな、言わないでくれぇ!」
トマソンは相次ぐ在庫商品の喪失報告に、とうとう寝込んでしまった。
「あぁぁ、大損だ。もう生きる気力が・・・。」
「パパぁ、しっかりしてよ。お願いだよ。」
「な、何でこんなことに・・・。はっ!」
あの小賢しいガキが言っておったな。お目こぼしだの身上つぶすだの・・・。あいつだ、あいつに違いない。
「ガノフ、馬車を用意してくれ。ワシを今すぐあの店に連れて行け。」
「ついにあの店をやっつけるんだね、わかったよパパ!よーし、これで僕がむふふん。」
何か店が騒がしいなぁと気づくや、応接室の扉が勢いよく開け放たれた。
「ん?また来たのか。せわしないやつらだなぁ。」
「ふん、そんな態度をとっていられるのも今の内だ。お前もすぐ僕にかしづかせてやるからなぁ。ねぇ、パパ!」
このヒョロっちいガキが原因で店をつぶすハメになるなんて大変だなぁ。まぁどうでもいいけど、さっさとお引き取り願おう。
「馬鹿を言っていないでお前らとっとと帰れよ。お前ら暇人とは違って、こっちは忙しいんだ。」
「今さらこんなことを言えた義理ではないが・・・」
「おら、パパのありがたい言葉だ。耳かっぽじって聞けよ、お前ら!」
「どうかワシらを許してはもらえんだろうか。」
「どうだ!僕らを許せよ・・・ってどういうことなの、パパっ!」
「頼む、このとおりだ!」
「パパ、何でひざをついてあんなヤツに頭を下げているの?み、見るな!おい、お前らも突っ立ってないで早く何とかしろ!」
「ふーん、今晩うちの店が火事になるそうだが?」
「そんなことまでっ!?・・・そうか、ワシも虫が良すぎるということだな。」
「わかったのならもう帰れよ。」
「身勝手なことは重々承知の上だ。どうかワシひとりの命で勘弁してはくれんか?」
「ぱ、パパ?」
「せめて息子にはいくばくかの財産を残してやりたいのだ。それさえできればワシはここで死んでも良い。」
「お前は今まで情け容赦なく他人をつぶして来たんだろ?今のお前と同じ思いをした人がどれだけいただろうなぁ。」
「そうだなぁ、ワシの罪もここで清算せねばなるまい。おいヨゼフ、短剣を持っているか?」
「旦那様?ございますが、どうかおやめください。」
「いいから早く。おねがいだヨゼフ、ワシに恥をかかせないでくれ。」
ヨゼフが短剣を手渡すと、取り乱すガノフをトマソンから引き離すよう手下に指示した。
「パパぁ!おい放せよ!パパが死んじゃうだろ?お前ら許さないぞぉっ!」
「止めやしないぞ。そんなんで許すともかぎらんからな。」
「このトマソン、曲がりなりにも一代で財を成した男だ。散り際も立派に咲いて見せよう。」
どうでもいいけど、お前ら勝手に盛り上がるなよ。こっちはお前の命なんて欲しいわけじゃないんだからさぁ。自作自演は嫌われるよ。
「犬死にだぞ?」
「承知の上よ。ガノフ、パパのようにはなるなよ!さらばだ!」
「パパぁぁっ!」
「あれ?では、さらばだ!んんっ?」
「応接室で死なれちゃたまらねぇっての。誰が掃除すると思ってるんだよ。」
私はハニカムウォールで短剣を無効化した。こんなところで首を切られたんじゃ後片付けが大変なんだよ。うちの従業員が怖がって逃げちゃうだろ?
「何だこれは?切れない?」
「おい、あんまり触るなよ。次やったら本当に切れるからな。」
「ワシらを許してくれるのか?」
「許しはしないが、処分は保留しよう。次にどこかでお前らの悪い風聞が聞こえて来たら遠慮なく消してやる。」
「ありがとう、肝に銘じておく。ところでお詫びとしてなんだが、蔵ひとつ分で勘弁してもらえないだろうか?」
「もらえるんなら受けとるが、それよりも息子を甘やかしすぎだろ?元はと言えばこいつが元凶らしいじゃないか?こいつをどこか徒弟にでも出して人並みの苦労をさせろ。あんたが死んだら絶対財産を食いつぶすぞこいつは!」
「そうか・・・そうだな。ワシも良い勉強をさせてもらった。妻が亡くなってからというものガノフを甘やかし過ぎたのかもしれん。必ずだ、約束する。」
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