幻術士って何ですか?〜世界で唯一の激レアスキルでのし上がります〜

犬尾猫目

文字の大きさ
上 下
17 / 167

店をよこせ

しおりを挟む
秘密裏にグラムスへ入り込んだ私たちは開けた空き地にやって来た。

「37人で野宿か。人目はあまり気にしなくていいとは言え、よろしく無いな。」

「リーファ様。」

「もしかして何か良い方法でもあったりするの、バトラー?」

「新しく備わったホーネット=コンストラクターとハニービー=カーペンターを試してみてはいかがかと。」

「何ができるの?」

「シェルターを作りましょう。」

何ですと?そんなことまでできるのか。もう驚いてやるものかと腹をくくっていたのに毎度想像のななめ上を行くものだ。

「おお、さっそく地面に何か出来上がって行く。規則正しく六角形を積み上げて行くのか?それにしても複雑に組みあがるもんだなぁ。」

「それなりの強度があるんですよ。」

「何だこりゃ?どうなってるんだよリーファ。」

狐の亜人であるシンディーがいつの間にか私の側に来ていた。私と同じくかなり驚いた様子だが、興味津々で尻尾を大きく揺らしている。私もいつかモフり倒してやろうと思う。

「気にするな。今作っているのは私たちの仮住まいだ。少なくとも屋根と壁のある生活は保証するから安心してくれ。」

ほんの20分くらいで大きな建物ができてしまった。ご丁寧に扉までついている。中に入るとかなり広く、十分な生活空間が確保されていた。ん、あの扉は何だ?

「すごい、風呂まであるのか?」

「はい、今まで見てきた人間の建物とリーファ様の知識を参考に作って見ました。」

しっかり排水口まである。とすれば後はアルバーンから奪ってきた水まわりの魔石装置やら、家具やらを設置すれば生活出来るじゃないか。よし、じゃぁさっそく取り出しますか。

「おぉぉぉ、これってまさか。まるごと持ってきたのか、リーファ?」

「シンディー、驚いてないでみんなを呼んでくれ。さっさと配置を済ませてメシにしよう。」

***

「おい、あんなところに建物なんてあったか?」

「馬鹿言え、昨日まで何も・・・って?本当だなぁ。ちょっと見に行こう。」

二人の男は突如として地上に現れた謎の建物に向かって歩みを進めていく。よく見ると何やら看板らしきものまであるではないか。

「ヌイユ・エトランゼ?ここは料理屋なのか。どれ、入ってみよう。」

ここは街外れで立地も良くない。店として営業するには過酷な条件だが、アルバーン商会の財産をまるごと接収したからもうける必要など皆無だ。じっくり腰を据えて料理の腕を磨かせるのが良いとも思っている。
せめて行く当ての無い子のために手に職をと思って作った店舗兼住宅なわけだが、意外なことに安くてうまい料理を出す店として口コミでまたたく間に広まってしまった。

「トマトのパスタはまだ来ないのか?リモーネ水も頼む。」

「こっちはバージルだ。ローストボアも追加してくれ。」

「はいっ、ただいま!」

信じられないことに今ではあちこちで注文が飛び交うほど大忙しだ。厨房ではマルティナが指導して順調に調理師を育てている。仮にここを飛び出しても自立して生きていけるだけの経験はすぐに積み上がるはずだ。

「まさか、ここまで繁盛するとは思いもしなかったよ。市街地からかなり離れているのに、わざわざこんな街外れまで足を運ぶとはね。」

「魔道具できれいな水も使い放題だし、食材もリーファがいつでも新鮮なものを出してくれるからなぁ。腕をふるう甲斐があるってもんだよ。」

「えへへ、まかない料理がおいしくて毎日待ちきれないよ。夕飯はなんだろうねリーファ?」

「今日はエルマが担当だよな。あいつ休みの日はよその店の味を研究しに行ってるらしい。」

「最近めきめき腕が上がってるのはそういうことだったのか。」

「姉さん、それ本当?私も行こうかな。」

「そう言えば、ニコも最近は食材の下ごしらえを任されているんだって?やるじゃないか。」

「うん、料理を覚えて自分の店を持ちたいくらいだよ。」

将来に希望を持って生きる環境ができたのは喜ばしいかぎりだ。だが世の中それほど甘くもないらしい。良い評判を聞きつけて招かれざる客が寄ってくることもあるということだ。

「ここの責任者はどいつだ?」

「あんたらはどこの誰なんだい?」

「ふん、従業員の教育もなってないようだな。ワシはトマソン=ボーネランド、ボーネランド商会はワシが経営している。」

成金趣味がまるわかりの出で立ちだなぁ。どうやらこのおっさんは面倒なやつみたいだ。わざわざこんなやつをリーファに会わせたくないね。

「ボーネランド?うちのボスに何の用があるってんだ?」

「おい嬢ちゃん、そこまでにしとけ!ボーネランドに逆らったが最後、グラムスで商売なんてできなくなるぞ。」

ボーネランドを見て焦った常連客の一人があわてて給仕のシンディーに耳打ちしてくれた。その様子を見たボーネランドはシンディーを鼻で笑う。

「お前、グラムスでワシの商会も知らんとはどこの馬の骨だ?ワシの機嫌を損ねぬうちに、とっとと責任者を出せ。」

「私がこの店の経営者だ。何か用か?」

「何?お前は先ほどの無礼な小娘よりも年下ではないか。ガキがっ、ワシを愚弄するのも大概にしておけよ。」

「嘘なんか言うものか!ここにいるリーファがこの店の主だ。」

「お前ごときがこの店を?ふははは。」

「何がおかしい!」

「おかしくないわけがあるまい。評判の店と聞いて足を運んでやったらお前みたいなガキが店主だと言う。まぁその方が話が早い。単刀直入に言おう、この店をワシによこせ。」

「ふざけるな!何のつもりだ。」

「ふざけてなどおらん。なぁに、ワシに任せればこの店も安泰だという話だよ。お前ごときガキが経営するよりもはるかにな。それともワシに逆らうとでも言うのか?」

「逆らったらどうなると言うんだ?」

「さぁな、もしかするとお前ら小娘どもが一人ひとりいなくなってしまうかもしれんなぁ。店と従業員をまるごとワシに譲渡するならそのように奇妙な不幸も起こらんと思うが。」

さっきから嫌味ったらしい奴だが、そういうことか。できればグラムスでは大人しくしておきたいのに面倒だな。

「私たちを脅すつもりか?」

「人聞きの悪いことを言ってもらいたくはない。これはあくまでもたとえ話だ。二日だけ考える時間をやろう。お前らで話し合って決めると良い。ふはははは。」

「あーぁ、行っちゃったよ。どうする、リーファ?」

「あっはっはシンディー、どうするも何も話し合う価値すらないだろう。それこそ時間の無駄だよ。」

「そうだよなぁ、私ら力づくで抜け出して来たんだもんな。今さらボーネ何とかに屈服する道理がない。」

「その通り。何か仕掛けて来たら叩きつぶしてやれば良いだけさ。」

「シンプルだな。でもリーファのそういうところ愛してるぜっ!」
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

八百長試合を引き受けていたが、もう必要ないと言われたので圧勝させてもらいます

海夏世もみじ
ファンタジー
 月一に開催されるリーヴェ王国最強決定大会。そこに毎回登場するアッシュという少年は、金をもらう代わりに対戦相手にわざと負けるという、いわゆる「八百長試合」をしていた。  だが次の大会が目前となったある日、もうお前は必要ないと言われてしまう。八百長が必要ないなら本気を出してもいい。  彼は手加減をやめ、“本当の力”を解放する。

神様との賭けに勝ったので、スキルを沢山貰えた件。

猫丸
ファンタジー
ある日の放課後。突然足元に魔法陣が現れると、気付けば目の前には神を名乗る存在が居た。 そこで神は異世界に送るからスキルを1つ選べと言ってくる。 あれ?これもしかして頑張ったらもっと貰えるパターンでは? そこで彼は思った――もっと欲しい! 欲をかいた少年は神様に賭けをしないかと提案した。 神様とゲームをすることになった悠斗はその結果―― ※過去に投稿していたものを大きく加筆修正したものになります。

フリーター転生。公爵家に転生したけど継承権が低い件。精霊の加護(チート)を得たので、努力と知識と根性で公爵家当主へと成り上がる 

SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
400倍の魔力ってマジ!?魔力が多すぎて範囲攻撃魔法だけとか縛りでしょ 25歳子供部屋在住。彼女なし=年齢のフリーター・バンドマンはある日理不尽にも、バンドリーダでボーカルからクビを宣告され、反論を述べる間もなくガッチャ切りされそんな失意のか、理不尽に言い渡された残業中に急死してしまう。  目が覚めると俺は広大な領地を有するノーフォーク公爵家の長男の息子ユーサー・フォン・ハワードに転生していた。 ユーサーは一度目の人生の漠然とした目標であった『有名になりたい』他人から好かれ、知られる何者かになりたかった。と言う目標を再認識し、二度目の生を悔いの無いように、全力で生きる事を誓うのであった。 しかし、俺が公爵になるためには父の兄弟である次男、三男の息子。つまり従妹達と争う事になってしまい。 ユーサーは富国強兵を掲げ、先ずは小さな事から始めるのであった。 そんな主人公のゆったり成長期!!

契約結婚のはずが、気づけば王族すら跪いていました

言諮 アイ
ファンタジー
――名ばかりの妻のはずだった。 貧乏貴族の娘であるリリアは、家の借金を返すため、冷酷と名高い辺境伯アレクシスと契約結婚を結ぶことに。 「ただの形式だけの結婚だ。お互い干渉せず、適当にやってくれ」 それが彼の第一声だった。愛の欠片もない契約。そう、リリアはただの「飾り」のはずだった。 だが、彼女には誰もが知らぬ “ある力” があった。 それは、神代より伝わる失われた魔法【王威の審判】。 それは“本来、王にのみ宿る力”であり、王族すら彼女の前に跪く絶対的な力――。 気づけばリリアは貴族社会を塗り替え、辺境伯すら翻弄し、王すら頭を垂れる存在へ。 「これは……一体どういうことだ?」 「さあ? ただの契約結婚のはずでしたけど?」 いつしか契約は意味を失い、冷酷な辺境伯は彼女を「真の妻」として求め始める。 ――これは、一人の少女が世界を変え、気づけばすべてを手に入れていた物語。

錬金術師が不遇なのってお前らだけの常識じゃん。

いいたか
ファンタジー
小説家になろうにて130万PVを達成! この世界『アレスディア』には天職と呼ばれる物がある。 戦闘に秀でていて他を寄せ付けない程の力を持つ剣士や戦士などの戦闘系の天職や、鑑定士や聖女など様々な助けを担ってくれる補助系の天職、様々な天職の中にはこの『アストレア王国』をはじめ、いくつもの国では不遇とされ虐げられてきた鍛冶師や錬金術師などと言った生産系天職がある。 これは、そんな『アストレア王国』で不遇な天職を賜ってしまった違う世界『地球』の前世の記憶を蘇らせてしまった一人の少年の物語である。 彼の行く先は天国か?それとも...? 誤字報告は訂正後削除させていただきます。ありがとうございます。 小説家になろう、カクヨム、アルファポリスで連載中! 現在アルファポリス版は5話まで改稿中です。

世界最強で始める異世界生活〜最強とは頼んだけど、災害レベルまでとは言ってない!〜

ワキヤク
ファンタジー
 その日、春埼暁人は死んだ。トラックに轢かれかけた子供を庇ったのが原因だった。  そんな彼の自己犠牲精神は世界を創造し、見守る『創造神』の心を動かす。  創造神の力で剣と魔法の世界へと転生を果たした暁人。本人の『願い』と創造神の『粋な計らい』の影響で凄まじい力を手にしたが、彼の力は世界を救うどころか世界を滅ぼしかねないものだった。  普通に歩いても地割れが起き、彼が戦おうものなら瞬く間にその場所は更地と化す。  魔法もスキルも無効化吸収し、自分のものにもできる。  まさしく『最強』としての力を得た暁人だが、等の本人からすれば手に余る力だった。  制御の難しいその力のせいで、文字通り『歩く災害』となった暁人。彼は平穏な異世界生活を送ることができるのか……。  これは、やがてその世界で最強の英雄と呼ばれる男の物語。

婚約破棄された上に国外追放された聖女はチート級冒険者として生きていきます~私を追放した王国が大変なことになっている?へぇ、そうですか~

夏芽空
ファンタジー
無茶な仕事量を押し付けられる日々に、聖女マリアはすっかり嫌気が指していた。 「聖女なんてやってられないわよ!」 勢いで聖女の杖を叩きつけるが、跳ね返ってきた杖の先端がマリアの顎にクリーンヒット。 そのまま意識を失う。 意識を失ったマリアは、暗闇の中で前世の記憶を思い出した。 そのことがきっかけで、マリアは強い相手との戦いを望むようになる。 そしてさらには、チート級の力を手に入れる。 目を覚ましたマリアは、婚約者である第一王子から婚約破棄&国外追放を命じられた。 その言葉に、マリアは大歓喜。 (国外追放されれば、聖女という辛いだけの役目から解放されるわ!) そんな訳で、大はしゃぎで国を出ていくのだった。 外の世界で冒険者という存在を知ったマリアは、『強い相手と戦いたい』という前世の自分の願いを叶えるべく自らも冒険者となり、チート級の力を使って、順調にのし上がっていく。 一方、マリアを追放した王国は、その軽率な行いのせいで異常事態が発生していた……。

うっかり『野良犬』を手懐けてしまった底辺男の逆転人生

野良 乃人
ファンタジー
辺境の田舎街に住むエリオは落ちこぼれの底辺冒険者。 普段から無能だの底辺だのと馬鹿にされ、薬草拾いと揶揄されている。 そんなエリオだが、ふとした事がきっかけで『野良犬』を手懐けてしまう。 そこから始まる底辺落ちこぼれエリオの成り上がりストーリー。 そしてこの世界に存在する宝玉がエリオに力を与えてくれる。 うっかり野良犬を手懐けた底辺男。冒険者という枠を超え乱世での逆転人生が始まります。 いずれは王となるのも夢ではないかも!? ◇世界観的に命の価値は軽いです◇ カクヨムでも同タイトルで掲載しています。

処理中です...