幻術士って何ですか?〜世界で唯一の激レアスキルでのし上がります〜

犬尾猫目

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店をよこせ

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秘密裏にグラムスへ入り込んだ私たちは開けた空き地にやって来た。

「37人で野宿か。人目はあまり気にしなくていいとは言え、よろしく無いな。」

「リーファ様。」

「もしかして何か良い方法でもあったりするの、バトラー?」

「新しく備わったホーネット=コンストラクターとハニービー=カーペンターを試してみてはいかがかと。」

「何ができるの?」

「シェルターを作りましょう。」

何ですと?そんなことまでできるのか。もう驚いてやるものかと腹をくくっていたのに毎度想像のななめ上を行くものだ。

「おお、さっそく地面に何か出来上がって行く。規則正しく六角形を積み上げて行くのか?それにしても複雑に組みあがるもんだなぁ。」

「それなりの強度があるんですよ。」

「何だこりゃ?どうなってるんだよリーファ。」

狐の亜人であるシンディーがいつの間にか私の側に来ていた。私と同じくかなり驚いた様子だが、興味津々で尻尾を大きく揺らしている。私もいつかモフり倒してやろうと思う。

「気にするな。今作っているのは私たちの仮住まいだ。少なくとも屋根と壁のある生活は保証するから安心してくれ。」

ほんの20分くらいで大きな建物ができてしまった。ご丁寧に扉までついている。中に入るとかなり広く、十分な生活空間が確保されていた。ん、あの扉は何だ?

「すごい、風呂まであるのか?」

「はい、今まで見てきた人間の建物とリーファ様の知識を参考に作って見ました。」

しっかり排水口まである。とすれば後はアルバーンから奪ってきた水まわりの魔石装置やら、家具やらを設置すれば生活出来るじゃないか。よし、じゃぁさっそく取り出しますか。

「おぉぉぉ、これってまさか。まるごと持ってきたのか、リーファ?」

「シンディー、驚いてないでみんなを呼んでくれ。さっさと配置を済ませてメシにしよう。」

***

「おい、あんなところに建物なんてあったか?」

「馬鹿言え、昨日まで何も・・・って?本当だなぁ。ちょっと見に行こう。」

二人の男は突如として地上に現れた謎の建物に向かって歩みを進めていく。よく見ると何やら看板らしきものまであるではないか。

「ヌイユ・エトランゼ?ここは料理屋なのか。どれ、入ってみよう。」

ここは街外れで立地も良くない。店として営業するには過酷な条件だが、アルバーン商会の財産をまるごと接収したからもうける必要など皆無だ。じっくり腰を据えて料理の腕を磨かせるのが良いとも思っている。
せめて行く当ての無い子のために手に職をと思って作った店舗兼住宅なわけだが、意外なことに安くてうまい料理を出す店として口コミでまたたく間に広まってしまった。

「トマトのパスタはまだ来ないのか?リモーネ水も頼む。」

「こっちはバージルだ。ローストボアも追加してくれ。」

「はいっ、ただいま!」

信じられないことに今ではあちこちで注文が飛び交うほど大忙しだ。厨房ではマルティナが指導して順調に調理師を育てている。仮にここを飛び出しても自立して生きていけるだけの経験はすぐに積み上がるはずだ。

「まさか、ここまで繁盛するとは思いもしなかったよ。市街地からかなり離れているのに、わざわざこんな街外れまで足を運ぶとはね。」

「魔道具できれいな水も使い放題だし、食材もリーファがいつでも新鮮なものを出してくれるからなぁ。腕をふるう甲斐があるってもんだよ。」

「えへへ、まかない料理がおいしくて毎日待ちきれないよ。夕飯はなんだろうねリーファ?」

「今日はエルマが担当だよな。あいつ休みの日はよその店の味を研究しに行ってるらしい。」

「最近めきめき腕が上がってるのはそういうことだったのか。」

「姉さん、それ本当?私も行こうかな。」

「そう言えば、ニコも最近は食材の下ごしらえを任されているんだって?やるじゃないか。」

「うん、料理を覚えて自分の店を持ちたいくらいだよ。」

将来に希望を持って生きる環境ができたのは喜ばしいかぎりだ。だが世の中それほど甘くもないらしい。良い評判を聞きつけて招かれざる客が寄ってくることもあるということだ。

「ここの責任者はどいつだ?」

「あんたらはどこの誰なんだい?」

「ふん、従業員の教育もなってないようだな。ワシはトマソン=ボーネランド、ボーネランド商会はワシが経営している。」

成金趣味がまるわかりの出で立ちだなぁ。どうやらこのおっさんは面倒なやつみたいだ。わざわざこんなやつをリーファに会わせたくないね。

「ボーネランド?うちのボスに何の用があるってんだ?」

「おい嬢ちゃん、そこまでにしとけ!ボーネランドに逆らったが最後、グラムスで商売なんてできなくなるぞ。」

ボーネランドを見て焦った常連客の一人があわてて給仕のシンディーに耳打ちしてくれた。その様子を見たボーネランドはシンディーを鼻で笑う。

「お前、グラムスでワシの商会も知らんとはどこの馬の骨だ?ワシの機嫌を損ねぬうちに、とっとと責任者を出せ。」

「私がこの店の経営者だ。何か用か?」

「何?お前は先ほどの無礼な小娘よりも年下ではないか。ガキがっ、ワシを愚弄するのも大概にしておけよ。」

「嘘なんか言うものか!ここにいるリーファがこの店の主だ。」

「お前ごときがこの店を?ふははは。」

「何がおかしい!」

「おかしくないわけがあるまい。評判の店と聞いて足を運んでやったらお前みたいなガキが店主だと言う。まぁその方が話が早い。単刀直入に言おう、この店をワシによこせ。」

「ふざけるな!何のつもりだ。」

「ふざけてなどおらん。なぁに、ワシに任せればこの店も安泰だという話だよ。お前ごときガキが経営するよりもはるかにな。それともワシに逆らうとでも言うのか?」

「逆らったらどうなると言うんだ?」

「さぁな、もしかするとお前ら小娘どもが一人ひとりいなくなってしまうかもしれんなぁ。店と従業員をまるごとワシに譲渡するならそのように奇妙な不幸も起こらんと思うが。」

さっきから嫌味ったらしい奴だが、そういうことか。できればグラムスでは大人しくしておきたいのに面倒だな。

「私たちを脅すつもりか?」

「人聞きの悪いことを言ってもらいたくはない。これはあくまでもたとえ話だ。二日だけ考える時間をやろう。お前らで話し合って決めると良い。ふはははは。」

「あーぁ、行っちゃったよ。どうする、リーファ?」

「あっはっはシンディー、どうするも何も話し合う価値すらないだろう。それこそ時間の無駄だよ。」

「そうだよなぁ、私ら力づくで抜け出して来たんだもんな。今さらボーネ何とかに屈服する道理がない。」

「その通り。何か仕掛けて来たら叩きつぶしてやれば良いだけさ。」

「シンプルだな。でもリーファのそういうところ愛してるぜっ!」
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