幻術士って何ですか?〜世界で唯一の激レアスキルでのし上がります〜

犬尾猫目

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馬車を止めるな

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私は競売会場を後にし、バトラーの手引きで生き残った子たちを次々に回収していった。

「ニコ!」

「リーファ姉さん?何でこんなところに!」

「ニコを助けに来たに決まってるだろ。無事で良かったぁ。ごめんな、迎えに来るのが遅くなって。一人で心細かっただろ?」

私の顔を見たニコが嬉しそうな顔でかけよって来る。私も両手を開いてニコを抱きとめてやった。

「姉さん、姉さんっ!」

「おっと!ふふふ、もう安心していいぞ。」

「姉さん、うへへへ。くんくん、んはぁぁぁ。」

「に、ニコ?くすぐったいってば。」

一心不乱に顔をすりつけるニコには私もビックリしたが、今まで独りで耐えて来たことを思うと仕方のないことなのだろう。

「はっ、ごめんなさい。つい嬉しくって。」

「よし、じゃあさっそくキシレムから抜け出さないとな。」

さて、これで書類上の83人全員がそろったわけか。これで全員だよね?

「はい、全員でございます。リーファ様。」

「聞いてくれ!ここに集まってもらったのはみんなでキシレムから安全に脱出するためだ。このまま奴隷になりたくないなら私の指示に従ってほしい。」

「怖い人たちに捕まってひどい目にあうのは嫌だよう。」

「大丈夫だ、その怖いやつらは私が退治した。」

「私たちもその場にいたので、彼女の言っていることは本当です。」

「でもどうやって逃げるの?私たちだけじゃぁ城壁の門を抜けられないよ。」

「心配するな、私に手がある!お前たちは安心して私について来い。」

弱ったなぁ、どうにも反応が悪いぞ。提案に乗ってもらうにはまだ信用が足りないってことか。まぁ私も12歳だ、こればっかりはどうしようもない。10代ばかりだから年長者もいっしょに働きかけてほしいなぁ。

「ここに残ったって、また別の誰かに奴隷として売り飛ばされるだけだ。私はあんたについて行くよ。」

「そうだよ、ここに残ったって奴隷になるだけなんだ。一人前の人間として生きて行きたきゃ、おまえらも覚悟を決めろ。私も手伝うよ。」

おぉ、その意気だ。元気なやつもいるじゃないか。

「よし、着替えも持って来た。逃げたいやつはすぐに着替えるんだ。」

「姉さん、いまどうやってこんなにいっぱい服を出したの?」

「えーっと、後で説明してやるからお前も早く服を着な。いつまでもそんな格好じゃ風邪引いちゃうよ。」

まぁ、説明したからって納得いく話だとも思えないんだけどね。この惨状がバレる前にキシレムを脱出しないといけないから、とにかくできるかぎり急がないと。

「この中で馬車を扱える人はいるか?」

「私できるよ、リーファ。」

「すごいじゃないかロミア。おぉ、ほかにもいるようだな。よし、御者がこれだけいれば大丈夫だ。」

***

城門の監視台が暇つぶしにぼんやりと街を眺めていると、通りの向こうから豪華な馬車が近づいて来るのを確認した。衛士はあまりの一大事にたまらず目をひんむいてさけんだ。

「おい、あれを見ろ。アルバーン商会会頭の馬車だ。」

「何だと、何も聞かされてないぞ?」

通常はスムーズに通行をさせるために、アドルフの馬車が城門を通過する際には早馬を飛ばしてでも事前通告が来る暗黙の了解があった。以前、新人衛士が馬鹿正直にアドルフの馬車を停車させたことで城門責任者が大目玉をくらうことがあったのだ。下手をすると市参事会が乗り出してくる恐れもある。

「アドルフ会頭はきまぐれなお方だ。前にも一切の通告無しにいきなり馬車があらわれたことだってある。」

「すぐに衛士と通行者をどけろ。馬車を停車なんてさせたら一大事だぞ。」

「おら、そこをどけ!道を開けろ。」

「邪魔だ!どかないとブタ箱にぶち込むぞ。」

「やはりアドルフ会頭だ。窓から手をふってらっしゃる。」

「間一髪助かったぜ、今日は機嫌がいいらしいな。」

「まったく、俺が城門責任者の日に抜き打ちなんて勘弁してくれよ。やれやれ、ツイてるのかツイてねぇのか。」
「アルバーン商会の馬車だ、後続もそのまま通せよ。チェックは不要だ。」

馬車の中ではアドルフに化けたリーファが内心とてもひやひやしながら後続の馬車が無事に通過することを祈っていた。奴隷としてキシレムの城門を通過する際、事前通告のミスを下っ端がとがめられていたのを偶然耳にして、今回の顔パス作戦を思いついたのだ。

「後続の馬車もうまく通過できたみたいだなぁ。ふぅ、しばらくこのまま行っちゃおう。」

しばらく走りつづけて安全な場所まで行くと馬を休ませることができた。その休憩に合わせて川辺で料理を作ることになった。

「姉さん、何であの奴隷商に変身できるの?」

「私の身体を変化させているんじゃなくて、単に幻術を見せているだけだから。」

「そうか!だから他の人たちも奴隷商の手下に見せているってことなのね。」

「そのとおり。」

「ロミアがいきなりゴロツキの姿になって恐ろしかったよ。」

「あぁ、私も心臓が飛び出るかと思った。」

「ひどいよリーファ、ニコ。」

「ごめん、でもロミアは馬車の扱いが上手いね。」

「へへへ、お父さんに教えてもらったんだ。」

「ロミアはいいなぁ。」

「あっ、そうだった。ごめんねニコ。でも私も村全体が苦しい状況で売られたから帰る場所なんて無いんだ。」

「気にしてないよ、私にはリーファ姉さんがいるし。」

「帰る当てがある子たちは帰すとして、問題は帰る場所が無い子たちか。この大所帯だ、どうしたものかなぁ。」

奴隷の中では一番年長者である17歳のマルティナが料理の心得があるらしく、皆を取りまとめて料理を作っていた。食材も調理器具も食器も全部アルバーン商会から調達したものだ。すべてパントリーに放り込んで来たから何もかもそろっている。

「おーい、飯ができたぞ!トマトのスープパスタだ。」

「うまい!マルティナ、どこでこんなの覚えたんだ?」

「家は酒場だったんだ。私は厨房に入って父さんといろんな料理作ってたよ。最後は借金のカタに取り上げられちゃったけどねぇ。しかしリーファ、この香辛料ってお高いんじゃないの?」

「いいんだよ、アルバーン商会からの持ちだしだから気にするなって。見てみろ、アルバーンで出て来たメシがどうもうまくなかったからみんな喜んでる。」

「マルティナ、すごいよ。」

「みんなが手伝ってくれたからさ。私ひとりの力じゃない。」

そうか、協力してこの料理を作ったのか。おや・・・、もしかして行けるかも。

「なぁマルティナ、グラムスで料理屋をやってみないか?」

「え、でも店も無いし。そもそも明日からどうやって食って行けばいいんだ?」

「大丈夫だ、私にまかせろ。家も店も何とかしてやる。この味なら行けるぞ。とにかく身寄りの無いやつを路頭に迷わせたくないんだ。」

「わかった、やってみるよ。」

「よし、とにかく自分たちで食えるようにしないとな。住み込みで仕事は交代制だ。」
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