上 下
15 / 167

ハンマープライス

しおりを挟む
「私、お風呂は初めてなんだ。」

「リーファちゃん、私はしょっちゅう温泉に入ってたから懐かしいよ。」

あぁぁぁ、何だろうこの気持ち。身体が喜んでいるのがわかる。川での沐浴なんかとは比べものにならないぞ。この世にはこんなものがあったのかぁ。

「こんなに気持ちいいものなのかぁ。あぁ、このままお湯に溶ける。」

「ふふふ、だよねぇ。このまま一緒にいられたらいいのに。」

「そうしよっか。」

「えっ?でも私たちすぐにどこかへ売られてしまうよ。」

「そうかなぁ。私はロミアには助けが現れると思うぜー。」

「そうだと良いんだけど・・・。」

すると待ちに待った報告が飛び込んで来た。

「リーファ様。ニコ様を見つけました。」

「やった!」

「いきなりどうしたの?」

「あっ、ごめん。気にしないで。」

いきなりバトラーへの応答を口に出したらロミアもそりゃあ驚くわ。目を閉じるとホーネットから転送されたニコの姿がはっきりと映し出されている。良かった、無事みたいだ。そのままニコの護衛も頼むよバトラー。

「ニコ様には既に護衛を配置しておりますのでご安心ください。」

さて、もはやここには用が無いので正面から脱出しても良いのだが。それでは芸が無いというもの、礼はたっぷりしていかないとなぁ。ふふふ、見てろよ。
私はそのまま二泊して三日目の朝を迎えた。風呂もちゃんとしたベッドもあるので設備は良いが、唯一飯が粗末なのは残念だった。ここにいる間、私はパントリーから料理を取り出してロミアと分け合った。パントリーに入れておけば腐らないのでしこたま料理を買い込んで正解だったよ。ニコにも分けてあげたかった。

「おら、起きろ。お前ら、これを着て外へ出てこい。」

「何じゃこりゃ、上着は?おいっ、ほとんど隠れてないじゃないか!ふざけんなっ。」

「うるせぇ、つべこべ言うな。お前らさっさと着てこい。」

「くそっ!何なんだ。妙にキラキラして、胸と尻しか隠れてねぇじゃんか。こりゃ誰の趣味なんだよ?」

きわどい衣装に身を包んだ奴隷たちが数人ずつどこかへ連れていかれる。しばらく待ちぼうけを食わされていたリーファも鏡と椅子が並ぶ部屋に連れていかれた。他の席を見ると顔に何かしているのが見える。

「ここに座れ。そのまま動くなよ。」

「ちっ!・・・ははは、何すんだよ。くすぐったいからやめろ!」

「動くな、メイクできねぇだろうが。我慢しろ!」

「メイク?」

リーファが自分勝手に動くものだからファンデーションを塗っている女が苛立たしげにわめいた。

「もう黙れっ!しゃべるな。」

「何だってんだよ。」

「メイクしたから顔をベタベタ触るなよ。ほら、笑え。・・・ニヤニヤ笑うな、そういうことじゃねぇよ馬鹿。にっこりと愛らしく微笑むんだよ。今から客の前に立つのに大丈夫なのか?」

うるっせぇババアだなぁ、マジぶっ飛ばすぞ!この私に変な格好させやがって。あぁ、顔がベタついて気持ち悪い。今すぐ風呂に入って落としたい。

「よし、良いだろう。部屋の前にいる奴にステージへ連れてってもらいな!」

「ステージでは指示に従え。勝手に声を出したりすんじゃねーぞ。お前たちは合図でステージに上がり、合図でステージを降りる。それだけだ。」

「おら、お前の番だ。行け!」

「44番。金貨80枚からスタートです。」

「81!」
「82!」

「90!」

「いきなり上がりました。91はいませんか?」

「・・・91!」
「100!」

女子供をさらって売り飛ばす、このイカれた商売が成り立つのも客がいるからだよ。お前ら豚野郎どもをここでまとめてぶっ潰してやる。既に敷地は完全包囲してあるからなぁ。

「お前らっ!私を買おうなんて良い度胸だ、高くつくぞ!」

「おい誰かあの馬鹿を黙らせろ。早くひきずり下ろせ!」

するとステージの脇から数人の男たちが私の方に歩いて来た。上等だ、死にたい奴からかかって来い。大掃除だ!

「うぎゃぁ!」
「痛ぇっ!」

「何だアレは・・・余興か?ますます気に入ったぞ、必ず競り落としてやる。お前はワシのものだ。110!」

派手なリップサービスと勘違いした仮面の変態紳士たちのコールに勢いが増す。値段があっと言う間につり上がって行った。ってか入札してる場合か!

「お代はお前らド変態貴族どもの命で我慢してやる。一網打尽だ!」

「どうしたドルム?おっ、おい!死んでる?うぎゃぁ!」
「死んでるぞ!逃げろーっ痛ぇ!」
「助けてくっ・・・れ。」

阿鼻叫喚の惨劇だが、全ての出入り口にはホーネット=ファントムが集まっている。あっと言う間に客席は静まり返って行った。すると一斉に私に向かって矢が飛んでくる。私は抜かりなくハニカムウォールで無力化し、ステージ上で頭を抱えてしゃがみ込んでいる子たちも守った。

「ん、虫でも飛んで来たのか?」

「てっ、てめぇ。何で無傷なんだ!」

「さぁな。これから死んじまうお前にゃ関係ないことだ。」

「うがぁっ!」
「うわっ!」

「おい、勝手に死ぬんじゃねぇ!俺を・・・、このアドルフ様を守れってんだよ。誰か」

「いないよ。もうここにはお前を守る部下なんていないんだ。」

私が同時多発的に全て始末させた。この建物で生き残っているのは連れて来られた子たちだけだ。

「お前は何者だ?」

「冒険者だが?」

「違う、そんなことじゃねぇ!いや、そんなことどうでもいい。頼む、俺を見逃してくれ!」

「私はお前に手持ちの金を全て奪われた上に、はだか同然で売り飛ばされようとしてたんだぜ。助けて欲しいなんて、あたま大丈夫か?」

「ああ、全部返す。倍額、いや10倍だ。」

「私むずかしいこと言われてもわからないんだ。何だよ倍って?」

「わかった、金貨180枚だ。どうだ?」

「うーん、どうしようか。私にはむずかしいし、もっとシンプルな方が。」

「金貨200枚。」

「私が財産も自由も全て奪われたんだから、私もあんたから全て奪わないと。」

「待てよ・・・、待ってくれ。そりゃあんまりだ!」

「ふふふ、地獄にはお金を持って行けないんだぜ。」

「うぎゃぁっ!」

「さてと、ニコはどこかな?」

「リーファ様、ご案内いたします。」
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

ハズレスキル【収納】のせいで実家を追放されたが、全てを収納できるチートスキルでした。今更土下座してももう遅い

平山和人
ファンタジー
侯爵家の三男であるカイトが成人の儀で授けられたスキルは【収納】であった。アイテムボックスの下位互換だと、家族からも見放され、カイトは家を追放されることになった。 ダンジョンをさまよい、魔物に襲われ死ぬと思われた時、カイトは【収納】の真の力に気づく。【収納】は魔物や魔法を吸収し、さらには異世界の飲食物を取り寄せることができるチートスキルであったのだ。 かくして自由になったカイトは世界中を自由気ままに旅することになった。一方、カイトの家族は彼の活躍を耳にしてカイトに戻ってくるように土下座してくるがもう遅い。

転生貴族のハーレムチート生活 【400万ポイント突破】

ゼクト
ファンタジー
ファンタジー大賞に応募中です。 ぜひ投票お願いします ある日、神崎優斗は川でおぼれているおばあちゃんを助けようとして川の中にある岩にあたりおばあちゃんは助けられたが死んでしまったそれをたまたま地球を見ていた創造神が転生をさせてくれることになりいろいろな神の加護をもらい今貴族の子として転生するのであった 【不定期になると思います まだはじめたばかりなのでアドバイスなどどんどんコメントしてください。ノベルバ、小説家になろう、カクヨムにも同じ作品を投稿しているので、気が向いたら、そちらもお願いします。 累計400万ポイント突破しました。 応援ありがとうございます。】 ツイッター始めました→ゼクト  @VEUu26CiB0OpjtL

ダンマス(異端者)

AN@RCHY
ファンタジー
 幼女女神に召喚で呼び出されたシュウ。  元の世界に戻れないことを知って自由気ままに過ごすことを決めた。  人の作ったレールなんかのってやらねえぞ!  地球での痕跡をすべて消されて、幼女女神に召喚された風間修。そこで突然、ダンジョンマスターになって他のダンジョンマスターたちと競えと言われた。  戻りたくても戻る事の出来ない現実を受け入れ、異世界へ旅立つ。  始めこそ異世界だとワクワクしていたが、すぐに碇石からズレおかしなことを始めた。  小説になろうで『AN@CHY』名義で投稿している、同タイトルをアルファポリスにも投稿させていただきます。  向こうの小説を多少修正して投稿しています。  修正をかけながらなので更新ペースは不明です。

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

フリーター転生。公爵家に転生したけど継承権が低い件。精霊の加護(チート)を得たので、努力と知識と根性で公爵家当主へと成り上がる 

SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
400倍の魔力ってマジ!?魔力が多すぎて範囲攻撃魔法だけとか縛りでしょ 25歳子供部屋在住。彼女なし=年齢のフリーター・バンドマンはある日理不尽にも、バンドリーダでボーカルからクビを宣告され、反論を述べる間もなくガッチャ切りされそんな失意のか、理不尽に言い渡された残業中に急死してしまう。  目が覚めると俺は広大な領地を有するノーフォーク公爵家の長男の息子ユーサー・フォン・ハワードに転生していた。 ユーサーは一度目の人生の漠然とした目標であった『有名になりたい』他人から好かれ、知られる何者かになりたかった。と言う目標を再認識し、二度目の生を悔いの無いように、全力で生きる事を誓うのであった。 しかし、俺が公爵になるためには父の兄弟である次男、三男の息子。つまり従妹達と争う事になってしまい。 ユーサーは富国強兵を掲げ、先ずは小さな事から始めるのであった。 そんな主人公のゆったり成長期!!

死んだのに異世界に転生しました!

drop
ファンタジー
友人が車に引かれそうになったところを助けて引かれ死んでしまった夜乃 凪(よるの なぎ)。死ぬはずの夜乃は神様により別の世界に転生することになった。 この物語は異世界テンプレ要素が多いです。 主人公最強&チートですね 主人公のキャラ崩壊具合はそうゆうものだと思ってください! 初めて書くので 読みづらい部分や誤字が沢山あると思います。 それでもいいという方はどうぞ! (本編は完結しました)

俺だけに効くエリクサー。飲んで戦って気が付けば異世界最強に⁉

まるせい
ファンタジー
異世界に召喚された熱海 湊(あたみ みなと)が得たのは(自分だけにしか効果のない)エリクサーを作り出す能力だった。『外れ異世界人』認定された湊は神殿から追放されてしまう。 貰った手切れ金を元手に装備を整え、湊はこの世界で生きることを決意する。

ド田舎からやってきた少年、初めての大都会で無双する~今まで遊び場にしていたダンジョンは、攻略不可能の規格外ダンジョンだったみたい〜

むらくも航
ファンタジー
ド田舎の村で育った『エアル』は、この日旅立つ。 幼少の頃、おじいちゃんから聞いた話に憧れ、大都会で立派な『探索者』になりたいと思ったからだ。 そんなエアルがこれまでにしてきたことは、たった一つ。 故郷にあるダンジョンで体を動かしてきたことだ。 自然と共に生き、魔物たちとも触れ合ってきた。 だが、エアルは知らない。 ただの“遊び場”と化していたダンジョンは、攻略不可能のSSSランクであることを。 遊び相手たちは、全て最低でもAランクオーバーの凶暴な魔物たちであることを。 これは、故郷のダンジョンで力をつけすぎた少年エアルが、大都会で無自覚に無双し、羽ばたいていく物語──。

処理中です...