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外道の流儀

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「いかがしますか?」

「くそっ!直接乗り込むしかない。」

私は扉を開けて中に入る。本体の姿を消して分身の後をついて行く。一階の明かりはついていたが、やはりあのクソ野郎は酒を飲んでやがるな。

「あぁ?こんな時間に誰だ。何だ、てめぇか。今までどこ行ってやがった!」

「ニコはどうした?」

「何だと?おめぇにゃ関係ねぇ。そんなナメたこと言う前に俺に渡すもんがあるんじゃねぇのか?あぁっ!」

私はもう何もできない孤児じゃねぇんだよ。いつまでも大人しくてめぇに従っているとでも思ってんのか?

「質問に答えろクソ野郎。」

「あんだと?しばらく見ねぇ間にでけぇ口叩くようになったじゃねぇか?そこ動くんじゃねぇぞ。」

「早く答えろ。」

酒瓶を持って近づいて来た。そんなもんで殴りつけて人が死なないとでも思ってんのか?これはおしおきが必要だな。

「あぁ、俺からの答えだよっと!はぁっ?何だこりゃ。うぎゃぁ!」

「答えろ、何度も言わせるな。」

勢いよく振り下ろした酒瓶がリーファの幻影をすり抜けて男が驚愕の表情を浮かべている。てめぇは昼間ゴブリンどもをを葬って覚えたホーネット=スタンでも喰らっとけ。

「おい、てめぇ!俺に何しやがった?身体が・・・動かねぇ!」

「お前、いま私を酒瓶で殴りつけたよなぁ。もしかして言葉を交わすには酒瓶で殴りつける慣わしでもあるのか?じゃあ私も酒瓶でお前を殴りつければ気持ちよく話を聞けるのかな?」

「お、おい。へ、へへへへ。冗談だぜリーファ。こんな床に転がってちゃ覚えていることも思い出せねぇってもんさ。ちょっと何とかしてくれや。なぁ?」

態度を軟化させたのは後ろから私を取り押さえるために近づいている密告野郎のジェブを見つけたからだろう。お前らの悪だくみなんて姿を隠した私から丸見えだから。お前もホーネット=スタン喰らっとけよ。

「痛ぇっ!何だこりゃ、チクショー!」

「てめぇ何やってんだ、この役立たずがぁっ!」

「ジェブ、私が気がつかないとでも思っていたのか?そこに転がってるクズが答えないならお前でもいいや。ニコはどこだ?」

「はっ、知らねぇよバーカ。ぎゃぁ!やめろ、やめてくれぇっ!」

昔っからてめぇの密告でどんだけ私が嫌な思いをしたことか。事あるごとに金を巻き上げられたりもしたなぁ。よし、こいつは少し痛めつけておくことにしよう。

「そうか、お前は昔から何か見返りが無いと気が済まないやつだったなぁ。私としたことがすっかり忘れていたよ。重要なことだからよく聞け。つい先ほどお前に毒を打ち込んでやった。知っていることを答えればご褒美に解毒してやろう。」

「くそがぁ!」

「良いのか?お前も感じてる通り、早くしないと手遅れになるぞ。五分しか残されてないからよーく考えろ。」

「本当か?知っていることを話せば本当に解毒してくれるんだろうなぁ。」

「私の気が変わらない内にとっとと吐けよ。」

「へへへ、ニコは奴隷商に売り払われたぜ。」

「ジェブ!てめぇ何勝手に教えてんだぁっ。」

くそっ、やっぱりか。稼ぎが少なかったり怪我や下手をうった奴は軒並み姿を消したからなぁ。奴隷として売り飛ばしていたとは。

「黙ってろゴミくず野郎。おい、その奴隷商はどこのどいつだ?いつ売った?」

「昨日の午前中だ。奴隷商が何者かなんて俺は知らねぇよ。俺が知っているのはそれだけだ!早く解毒しろよっ・・・早くっ!」

ちっ、肝心なことは知らねぇのか。まぁ続きは後ろに転がっている奴に吐かせるしかないってことだな。じゃあ今日おぼえたてのハニービー=メディックで解毒してやるか。

「使えねぇ野郎だ。解毒はしてやった、失せろ。二度と私の前にその汚えツラ見せんな!」

「くそったれ!」

負け犬があわてて逃げ出した。まぁあんなの相手にしてる時間がもったいない。ん?あれは金か。

「なるほど、そのテーブル上の金はニコを売り飛ばして作った金ってことか。」

「触るなよ、俺の金だ。」

「お前が働いて稼いだ金ならお前のものだが、これはニコの作った金だ。お前のものじゃない。」

「誰が育ててやったと思ってるんだ!」

あぁ、一番言っちゃなんねぇこと言ってくれたよ。何かあるたびにこの中身の無いセリフを吐いてたよなぁ。

「てめぇが何してくれたってんだよ?あぁっ!孤児を集めて盗みをさせて、てめぇはその金を搾り取ってただけじゃねぇか!気に入らなきゃあ暴力振るって子供の稼ぎで酒飲んで。挙句奴隷商に売り飛ばす。育てた?どの口が言ってんだ。」

「このクソガキがぁ。」

「そういやさっきの続きがまだだったなぁ。」

私の幻影では酒瓶を持てないのでテーブルの上に残っている酒瓶を触る仕草をさせる。その様子を見てクソ野郎がわめいた。

「おぃ、やめろ!そんなもんで殴ったら死ぬかもしれねぇ。」

「忘れたのか?お前は私をこの酒瓶で殴ろうとしたじゃないか。」

「ま、待てよ。な?俺だってあいつがしっかり稼ぎがありゃあこんなことしなかったんだよ。」

ち、またかよ。だからお前らバレバレなんだって、見えてるから。この馬鹿は今度は斧なんて持ち出して来やがった。またスタンでも喰らっとけ。

「死ねやぁっ!あれ?ぎゃぁ!」

「クソ野郎、二度とツラ見せんなって言ったろ?まぁ良い。そこで転がってる奴に自分の立場わからせるにはジェブ、てめぇが必要だってことがわかったよ。」

私はここで幻影とバトンタッチして酒瓶を握り締める。

「避けられなかったはずだ、何で当たらねぇ!おい、その酒瓶で何をする気だ?待てよリーファ。」

「お前は背中から斧で打ちかかって私を殺そうとしたんだよなぁ。」

「ち、違うんだ。俺は別にお前を殺そうなんて・・・、うわっ!やめろぉっ!」

私はジェブの頭に思い切り酒瓶を振り下ろして叩き割った。派手な返り血もハニカムウォールが全て弾き返すのが見える。こんなやつ死んだかどうかはどうでも良いが、いずれにせよ自業自得というものだ。つつがなくデモンストレーションを済ませると、改めて私はニコを売り飛ばした外道に向き直る。

「さて、次はお前だ。」

「待て、俺が死んだら二度とニコに会えなくなるぞ。」

「・・・。」

私が不愉快な顔をすると、地面に這いつくばってるくせに勝ち誇ったような顔を見せている。いまさらだがこいつの性根は腐っている。見ていて不快極まりない。

「へ、へへへ。わかったら俺を動けるようにしろ。聞いてるのかって痛ぇ!おい、お前何をしてるのかわかってるのかっ!」

「時間の無駄だ。二分やる。生きるか死ぬかはてめぇが決めろ。」

「俺が死んだら」

「近隣の奴隷商をしらみ潰しに探してやるさ。もうお前が死のうと構わん。」

私を脅せば優位に立てるとでも思ったのだろう。ここで下らん駆け引きに応じる馬鹿じゃないってことを思い知らせてやる。それにしても余裕の笑みを浮かべていた馬鹿面がみるみる苦痛にゆがんでいくのは痛快だ。

「おい、苦しい。はぁはぁっがぁ!た、助けてくれ。」

「・・・。」

もうお前と言葉を交わす手間はかけない。どっちでもいいからさっさとしろ。

「アルバーン商会だ。」

「場所は?」

「キシレム市。は、早く助けてぐで。ぐる・・・じい。」

「嘘だったら殺すぞ。」

「う、うぞじゃだい・・・。はや・・・ぐ。」

「このグズが。」

「ぶはぁっ、はぁ、はぁ、うげほっ、ごほっごほっ。あー、はぁ。くそっ!」

まったく余計な手間をかけさせやがって。まだ遠くには行っていないはずだ。明日朝一番にキシレムに向かうことにしよう。
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