幻術士って何ですか?〜世界で唯一の激レアスキルでのし上がります〜

犬尾猫目

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酒場の逆恨み

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「よし、いいだろう。獲物は二匹だ。一匹分の手数料はいただくが、もう一匹はお前が捌け。一緒にやってやるからお前も覚えろよ。いいか?」

私が途方に暮れているとグレンが助け舟を出してくれた。見た目は怖いヒゲ親父だけど何かと頼もしい。こういうカリスマを見せるからギルドマスターやってられるんだろうなあ。

「おお、グレンは意外に優しい。」

「意外は余計だバカヤロー。」

私はギルドの内部にある解体専用の部屋に案内された。見たことの無い道具がいっぱい並んでいる。貧民窟では死体やら何やら見慣れているので解体自体は別に苦にならなかった。私はグレンの手本と説明を見聞きしてスイスイ獲物を捌いて行った。

「初めてにしては上手いじゃねーか。革と肉の分離はまだ修行が必要なレベルだが筋は悪くねえ。何回かやりゃあ上手くなるだろうよ。駆け出しにゃ手数料だって馬鹿にできねー額だからな。しっかりやんな。」

「ありがとうグレン。」

「おう!おめえ見てると昔の俺を思い出すよ。」

「グレンも12歳で冒険者になったんでしょ。」

「ああ、あん時は無我夢中だった。とにかく周りは敵だらけで、少ねえ稼ぎを力づくで分捕られたりしたのもしょっちゅうだ。俺が強くなってからたっぷり落とし前は付けさせてやったがよお。」

今の私よりも過酷な世界で苦労を重ねてのし上がって来たんだろう。だからこそ私みたいな右も左もわからないど素人に対しても面倒見がいいのかな。

「すごいよ。下から始めてギルドマスターだもんね。」

「とにかく頑張った、だから今がある。ここではならず者の狼藉なんざギルドマスターの俺が力づくで排除してるがよお、本質は何も変わっちゃいねえ。今も弱肉強食がこの世界の掟だ。リーファ、お前も諦めたりすんじゃねーぞ。いいな!」

「うん!わかった。」

「リーファ、あなた獲物を獲るのはいいけど無茶してはダメよ。はい、今日の報酬ね。大事に使うのよ。」

「ありがとうスカーレット。」

私は礼を言うとお金の入った革袋を手に握りしめてギルドを後にした。町外れの安い宿屋を見つけたので今夜はそこに泊まることにした。朝から口にしたものは石のように硬いパン一つだけ。宿屋の一階で料理を注文すると暖かくていい匂いのするパスタが出てきた。

「うわぁ、こんな料理が食えるなんて幸せ。」

もっと贅沢はできたが、節約しなければ路頭に迷うのがオチだ。欲望のままに貪り食うような愚かな真似は慎もう。しかし美味いなぁ。

「はぁ、ベッドもふかふか。もう最高だよ。」

「リーファ様。もうこちらから出てもよろしいですか?」

あ、宿屋に入る時に帽子に隠れてもらったんだった。

「そうだった。ごめん、出てきていいよ。」

「ここがリーファ様の居城ですな。」

「居城って、ただの宿屋だよ。でもいいところだし、しばらくここを拠点にしよう。」

「あの、私どももこちらに営巣してもよろしいでしょうか。」

「ダメだよ。ここに蜂の巣ができたら私追い出されちゃうもん。」

「無念。」

寝返りを打って仰向けになると壁に黒い場所があるのに気づいた。何だあれは?

「ん?天井の近くの壁に穴が開いてる。そこは外とつながってたりする?」

「ちょっと見て参ります。」

この蜜蜂、何か従者みたいな雰囲気だからバトラーって呼ぶことにした。そのバトラーが壁の穴を通り抜けてしばらくするとまたその穴から戻ってきた。

「どう?」

「リーファ様。外につながる穴もありますし、壁と壁の間の空間は巣作りにちょうど良い具合です。あぁ、もったいない。」

「良いよ。作りなよ。」

「何と!よろしいのですか。」

「ただし、宿の人に見つかったらダメだよ。」

「かしこまりました。よし、そうと決まればさっそく移転するぞ。」

どうやらハニービーだけでなく、ホーネットまで巣を作ったようだ。あんたたち天敵じゃなかったの?

***

翌朝私はギルドに一番乗りした。それというのも、なるべく他の冒険者と顔を会わせたくないからだ。どうせロクなことにならないだろう。依頼が貼り出されたらとっとと仕事に出るのだ。

「早いわね、感心感心。」

「スカーレット、おはよう。」

「おはよう。今日もあなた向けの依頼が来てるわよ。」

依頼の掲示が終わったスカーレットが指し示すのは・・・。むぅ、やっぱり今日も薬草採取か。蜂たちを使えば狩りはできそうなんだよなぁ。昨日の今日でモンスター退治をしたいと言ってもスカーレットのお小言が待っているに違いない。少しずつ実力を認めてもらうしかない。

「まぁいいや。依頼が終われば時間はあるんだ。」

「おいどけや、クソチビ。」

私はガラの悪い男に突き飛ばされてバランスを崩してしまう。この手の輩は自分より弱いと見るや、何でもやっていいと勘違いする奴らばかりだ。見慣れた光景だ、いまさら何てこともない。私は床から立ち上がるとホコリを払う。ニヤニヤ笑いを浮かべている男たちを無視してカウンターにむかった。

「・・・。」

「あぁ?てめえ、あいさつも無しかよ。」

「はっはっは。フラれたなぁ、ゴメス。わかってるだろうがここでもめごとはご法度だからな。」

「ちっ、わかってる。ちょっとあのチビに礼儀作法について教えてやってただけだぜグレン。」

私を突き飛ばしたゴメスとかいう冒険者の肩をギルドマスターのグレンがつかんでいるのが見えた。何やら言い含められているのか男たちが苦々しい顔をしている。グレンは笑いながら奥へ消えてしまった。

「くそっ!気に入らねぇ。」

「やめとけ。あいつはグレンのお気に入りだ。ここでもめごと起こしてもつまんねぇことになるぜ。」

「お前聞いてなかったのか?」

「何のことだ、エルダン。」

「ここでもめごとを起こさなきゃいいんだろ。」

「そうか。へっへっへっへ、冒険者にゃ事故はつきもんってなぁ。おい、行くぞ。」

私は蜂と城壁の外で落ち合い、薬草採取場所へと向かう。何分自分しか知らない穴場だからバレないようにしないとならない。尾行に注意しながら進んでいるとさっそく探知の網にかかった愚か者がいるようだ。

「リーファ様。我々をつけている不届きものがおりますようで。いかがいたしましょう?」

「ん?駆け出しの私の後をつけるなんて。」

「どうやら酒場で絡んで来た者どものようです。」

あいつらか。今朝の出来事の詫びに来るような殊勝なやつらじゃないことは確かだ。おおかた逆恨みでもして嫌がらせしに来たんだろう。ほんと暇なやつらだなぁ。

「このままじゃ薬草を採りに行けない。やってやる。バトラー!」

「かしこまりました。リーファ様。」

私は人目につかない場所におびき寄せるために駆け出した。もうこんなやつらに虐げられる生き方なんてまっぴらだ。私は絶対におまえたちみたいなクズから逃げたりしないぞ。おまえたちがその気だというならとことんやってやる。

「おい、ガキが逃げたぞ。」

「ちっ、気づかれたか。勘の良いガキだ。」

「クソガキを追い詰めるぞ。狩りの時間だ。」
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