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草原の戴冠式

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「お前、本当に冒険者やるか?」

さっきまで冒険者登録に前向きだったグレンが急に正反対のことを言い出した。あまりのことに私も気が動転する。

「え?どういうこと。」

「お前はステータスは高い方だが、適性が良くない。お前は幻術士だ。」

「幻術士?聞いたことない。何ができるの?」

「あぁ、幻術士なんてレア中のレアだぜ。俺が聞いた中では、お前で二人目だ。要は幻を見せる能力なんだが・・・」

おい、もったいぶるなよヒゲ!早く言え。

「それだけだ。」

「それだけ?」

「それだけ。」

ガーン。冒険者になって派手にモンスターを討伐していっぱいお金を稼ぐつもりだったのに。グレンが形容しがたい残念そうな顔をしている。そんなにやばいのか?お願いだからそんな目で私を見ないで。

「どうする?冒険者・・・、はじめる?」

「・・・うん。」

いいもん。とにかく今日の仕事を始めるっきゃないよ。貧民窟みたいに馬鹿みたいにピンハネされないからやりがいもあるよね。・・・あるよね?

「じゃあ薬草採取ね。危険も少ないし失敗することはないだろうけど、失敗したら違約金が発生するから無理に多くの依頼を受けすぎないこと。いいわね。」

「わかった。ありがとう、スカーレット。行ってきまーす。」

「行ってらっしゃい。ふふふ、行ってきますですってあの子ったら。ちゃんと帰ってくるのよ。」

私は幻術士、幻術士・・・。この国の歴史上二人目って、既に史上初の幻術士は死んでるし。誰にも教えてもらえない私はどうすりゃいいの?てか結局、何ができるのよ。
考えれば考えるほどため息ばかりだ。でもウジウジしてる場合じゃない。気を取り直して私は地図を元に薬草の採取地へ向かう。あまりモンスターは出ないそうだが、出ても弱いモンスターとのことだ。でも幻術士だからなぁ。いくらモンスターが弱くても、私が倒せるのかなぁ。

「地図だとこのあたりだけど。あんまり生えてないなぁ。こりゃ探すだけでも大変だ。」

しばらく私は薬草を探しながら採取していく。でも目標量までは全然足りてない。こんな地味な仕事で違約金なんて洒落になんないよ。まずいなぁ。ん、何だこの音は・・・。辺りを見ると何かが飛んでいる。

「うわっ、蜂だ!」

何の因果か私の周りをブンブン飛んで離れないよ。

「お願い、こっちに来ないで。」

私は頭を抱えて地面にうずくまる。怖くなって暴れたりすると蜂を刺激して逆効果だ。とにかくどっか行ってくれ。

「お願い、刺さないで。」

今もブーンと音がしている。私が恐る恐る目を開けると私の目の前でピタリと止まったように飛んでいた。あぁ、終わった。私は蜂に刺されるのか。

「助けて。」

「かしこまりました。皇帝陛下。」

変な声が聞こえた。近くに皇帝がいるのか?とにかく誰でもいいから私を助けろ!

「大丈夫です。ここは安全です。私が御身を守っております。」

「うう。」

「もしかしてどこかお身体の具合が悪いので?」

「え?」

何?私のことを気づかう人が側にいるのか。でも周りには私以外誰もいないぞ?

「大丈夫でしょうか?」

「もしかして蜂がしゃべってるのか?」

「皇帝陛下。お加減はいかがですか?」

「皇帝?私のことか?」

「はい。」

「やっぱり蜂としゃべってる。何で?」

ここで私はひらめいた。もしかしてこれってスキルなんじゃないか。あわててカバンの中から身分証にもなっている簡易ボードを取り出して確認する。

「精神感応Lv.1?これかなぁ。他には幻術だけか。あ、何か表示が増えてる。ハニービー?」

「はい。」

「ねぇ、あんた何ができるの?」

「よくぞ聞いてくださいました。私の特技は蜜の採集なのです。」

だよねぇ、ミツバチだもんね。知ってた。ん?ちょっと待てよ。ハニービーLv.1?

「もしかしてあんたは強くなるの?」

「はい、もちろんです。レベルが上がればハニービー=キュアやハニービー=ディフェンダーなどになります。必ずや陛下のお役に立ちますよ。」

「何それ、聞いたこと無い。で、皇帝って何?」

「あなた様は女王蜂の更に上位にあらせられる皇帝でございます。全ての蜂の頂点に君臨される偉大なお方なのです。」

「そ、そうだったのか!知らなかった!どうして今のいままで誰も私に教えてくれなかったんだぁ。」

「本日はどういたしましょう陛下?」

「うーん、陛下ってしっくり来ないよね。私の名前はリーファ。名前で呼んで。あんたの名前は?」

「リーファ様、私どもに名はありません。名を区別することにそれほど意味もございませんので。」

「そうなの?まぁいいか。私は今この薬草を探しているの。でもあんまり生えてないんだなぁこれが。困ったわ。」

「何と?植物探しであれば私におまかせあれ!では少しばかり拝見させていただきますね。」

「どうかな。見つかりそう?」

「もちろんですとも!この薬草とやらの群生地までご案内いたしましょう。」

おお、この子使える!ラッキー。あ、でもそこってそもそも私が行ける場所なのかな?

「私は弱いからそこで強い魔物に出くわしたら死んじゃうんだけど。」

「それは参りましたな。ではリーファ様には兵隊を準備いたしましょう。」

「兵隊?何それ。」

「私がご案内いたします。」

ん~、ついて来ちゃったけど。でも薬草は手に入れないとダメだし。

「本当に大丈夫なの?あんまり森の奥深くには入るなって言われてるんだけどなぁ。」

「到着しました。こちらです。」

「な、何これ。」

見ると馬鹿でかい蜂の巣が目の前にあった。こんな巣の近くまで連れてくるなんてコイツ実は私を殺す気なんじゃないのか。

「私どもの天敵ではありますが、実力は折り紙付きです。さあリーファ様、号令を。」

「号令ってどうすりゃいいの?あんなのに刺されたら私死んじゃうんだけど。」

「私を信じてください。奴らに御命令を。」

え?つい数分前に出会ったばかりのしゃべる蜂を信じろとか難易度高めのこと平然とぶちこむなよ。そもそも号令って・・・ほら見ろ、でかい蜂が巣から出てきたじゃないか!

「何か大きいのが飛んで来たよ。わぁぁぁ、止まれぇ!」

怖くなって大きな声で叫ぶと飛んできた蜂が空中で止まっているじゃないか。

「あれ?止まってる。」

「大丈夫です。」

「本当にあんたも私の言うことわかるの?もう少し近くに来て。」

こんなことあるのか?命令を聞いているみたいだ。でも偶然そう見えるだけかもしれない。私は手を前にかざし、ゆっくり近づいて来た蜂に対してこれ以上近づくなと確かめるようにジェスチャーしてみた。すると、先ほどと同様に空中で停止している。

「おお?本当に言うことを聞いてる。じゃあこの棒に止まって。」

半信半疑で命令すると、それを理解したかのように木の棒の先に止まった。さすがにこんな偶然の一致がここまで連続するなんて考えられない。この子の言っていることは本当だぞ!
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