1 / 167
今日から冒険者
しおりを挟む
「この役立たずがっ!」
私は親方に平手で頬をはたかれた。もう涙は流れない、何でもない日常の一コマ。
「・・・。」
「何だその目は?文句があるんなら言ってみろ。」
親方と言っても身寄りの無い子供たちを集めて盗みを働かせるチンケな小悪党、名前など口にしたくもない。無駄に話しても余計に殴られるだけだ。
「・・・。」
「誰が育ててやったと思ってるんだ?あぁ!お前に食わせるメシなんてねーからな。これっぽっちで帰って来やがって馬鹿が!」
明日で私も12歳、冒険者登録だってできる。こんなところ今日でおさらばだ。私は寝床に潜り、寝たふりをする。
このスラムではみんな生きることに必死だ。そのためなら誰だって踏み台にするのが当たり前の世界。明日も自分が生きていられる保証などどこにも無い。このままだと何もしなくたって死んでしまうのだ。だったら自分の才覚で生きてみようと思う。死ぬまでこんな奴にこき使われてゴミくずのように死んで行くなんてまっぴらだ。死ぬんだったらせめて力一杯爪痕を立ててやるんだ。
「リーファ姉さん。」
「ニコ、起きてたのか?」
「うん。姉さんは出ていくの?」
「ああ、ここに残っても先は見えてる。私が落ち着いたらお前も迎えに来てやるからな。」
「うん。待ってる。」
「おい、泣くなよ。別れるのは少しの間さ。」
「ごめんね、姉さん。頑張って!」
「殴られたってあのクソ野郎に稼ぎの全部は渡すなよ。ニコも元気でな。」
私は窓から外へ抜けだし、屋根から飛び降りる。一階の明かりがついているな。どうせ子供たちの稼ぎで酒でも飲んでいるのだろう、死ね。
私は雨の中、暗闇を走り抜けた。
私は橋の下で夜を明かすと、さっそく冒険者ギルドに向かった。勢いよく扉を開けると冒険者たちの目線が一斉に私に突き刺さる。怯むな、私。
「おいおい、ここは孤児院じゃないんだぜ。」
「・・・。」
「ははは、ビビって声も出せねえってよぅ。ガキは帰んな!」
あんな奴ら相手にしてても時間の無駄。私はぐんぐん受付に向けて足早に進んでいく。
「お姉さん、冒険者登録したいんだけど。」
私を見て受付のお姉さんは困ったような顔をしている。
「あのね、お嬢さん。冒険者って大人だって亡くなる人が多いの。あなたみたいな女の子ができる仕事ではないのよ。」
「知ってる。でも12歳になったら固有スキルだって発現する。登録できるはずでしょ。」
「あなた保護者は?」
「いないわ。私が死んだって悲しむ人なんていないの。だからもういいでしょ、登録して。」
「スカーレット。何やってるんだ。おい、何だこのガキ?」
受付の奥から男の声がする。また面倒なヤツだったら嫌だな。
「ギルドマスター、この子が登録したいって聞かないんですよ。」
「何だと?」
ギルドマスターと呼ばれた男が私を見下ろしてる。この筋肉ヒゲ親父も私が登録するのを反対するつもりか?でもこいつが反対したら登録できないってことだよな。
「お前が冒険者だと?ふざけてんのか。」
「ふざけてなんかないよ。」
「てめぇみてぇなガキが何できるってんだ!あぁ?ナメてっとぶっ飛ばすぞ。とっとと帰れ!」
「ぶっ飛ばされたって帰んないから。あんたたちの勝手な裁量で登録を邪魔しないで。要件はクリアしてるはずだよ。」
「このガキ・・・。」
私はヒゲ親父をにらみつける。殴られたって絶対に引くもんか。
「おいテメエ、そのクソ度胸気に入ったぜ。冒険者にゃ絶対に必要なもんだ。スカーレット、こいつ登録してやんな。」
おや、登録してくれるの?さっきは試されただけなのか。
「ちょっと待ってください!何でです。死んじゃうんですよ!」
「良いじゃねぇか。こいつは自分が死ぬことだって受け容れてるよ。こんだけ止めてもやめねーんだ。野たれ死のうと文句は言わねーだろうよ。」
「親父、良い事言う。」
「誰が親父だ!俺はグレン=イルギン。ギルドマスターをしている。ってか良い根性してるぜ。お前みたいなガキは俺が一喝したら一目散に逃げて行くのによお。」
私だって小悪党のクソ野郎に毎日のように殴られて来たんだ。いまさらこの程度で怯んだりするもんか。ここで舐められるわけには行かない、愛想笑いだってしてやんないから。
「私もガキじゃない。リーファ=クルーン。」
「けっ、可愛げのねー奴だ。ますます気にいったぜ、リーファ。よし、登録してやる。」
「ダメです。」
げっ、このお姉さんまだ反対するの?
「スカーレット、お前いまの俺たちのやりとり見てなかったのかよ。ここは感動してお前も協力する場面だろうが。」
私のために頑張れギルマス。お前のヒゲは伊達じゃないはずだ。失敗したら引っこ抜くぞ。
「馬鹿だ馬鹿だと思ってましたがここまで馬鹿だとは思いませんでした。目玉の代わりにクルミでも入ってんじゃないの?よく見てください、こんな子供に務まるわけないです。」
「誰が馬鹿だ!俺だってデビューは12歳だったんだぜ。お前だってコイツを毎日長々と相手したくねーだろーがよ。きっと今日追い返したって毎日来るぞこいつぁ。」
うんうん。スカーレットが拒んだってあきらめないからね。営業時間中張り付いてやるんだから。
「私は帰ってこない冒険者をいっぱい見てきたの。冒険者は常に危険と隣り合わせよ。何でもないことで命を落とすの。」
「うん、わかってる。」
「わかってないでしょ、もう。」
「何もやらなければすぐに飢えて死んでしまうもの。だったら足掻きたい。」
私が覚悟を告げるとスカーレットは大きなため息をついた。ここまで言ってもつっぱねられるのかなあ。
「そう、わかったわ。ただしあなたの手に余る依頼は絶対に許可しないわよ。」
「わかった。ありがとう、グレン、スカーレット。」
「ならさっそくステータスを確認しねえとなあ。ほれ、こっちに来い。」
「うん。」
私はグレンについて行くとグレンは透明な石版みたいなものを取り出した。
「これはステータスプレートって言ってお前の強さや適性が表示されるんだ。どれ、ここに手を置いて見ろ。」
私は言われた通りに手を置くとステータスプレートが白く光出す。しばらくすると光が消えて文字が現れた。
「どれ、見せてみな。・・・って、これは!」
「どうなの?」
何だろう、グレンの顔色が変わった気がする。
私は親方に平手で頬をはたかれた。もう涙は流れない、何でもない日常の一コマ。
「・・・。」
「何だその目は?文句があるんなら言ってみろ。」
親方と言っても身寄りの無い子供たちを集めて盗みを働かせるチンケな小悪党、名前など口にしたくもない。無駄に話しても余計に殴られるだけだ。
「・・・。」
「誰が育ててやったと思ってるんだ?あぁ!お前に食わせるメシなんてねーからな。これっぽっちで帰って来やがって馬鹿が!」
明日で私も12歳、冒険者登録だってできる。こんなところ今日でおさらばだ。私は寝床に潜り、寝たふりをする。
このスラムではみんな生きることに必死だ。そのためなら誰だって踏み台にするのが当たり前の世界。明日も自分が生きていられる保証などどこにも無い。このままだと何もしなくたって死んでしまうのだ。だったら自分の才覚で生きてみようと思う。死ぬまでこんな奴にこき使われてゴミくずのように死んで行くなんてまっぴらだ。死ぬんだったらせめて力一杯爪痕を立ててやるんだ。
「リーファ姉さん。」
「ニコ、起きてたのか?」
「うん。姉さんは出ていくの?」
「ああ、ここに残っても先は見えてる。私が落ち着いたらお前も迎えに来てやるからな。」
「うん。待ってる。」
「おい、泣くなよ。別れるのは少しの間さ。」
「ごめんね、姉さん。頑張って!」
「殴られたってあのクソ野郎に稼ぎの全部は渡すなよ。ニコも元気でな。」
私は窓から外へ抜けだし、屋根から飛び降りる。一階の明かりがついているな。どうせ子供たちの稼ぎで酒でも飲んでいるのだろう、死ね。
私は雨の中、暗闇を走り抜けた。
私は橋の下で夜を明かすと、さっそく冒険者ギルドに向かった。勢いよく扉を開けると冒険者たちの目線が一斉に私に突き刺さる。怯むな、私。
「おいおい、ここは孤児院じゃないんだぜ。」
「・・・。」
「ははは、ビビって声も出せねえってよぅ。ガキは帰んな!」
あんな奴ら相手にしてても時間の無駄。私はぐんぐん受付に向けて足早に進んでいく。
「お姉さん、冒険者登録したいんだけど。」
私を見て受付のお姉さんは困ったような顔をしている。
「あのね、お嬢さん。冒険者って大人だって亡くなる人が多いの。あなたみたいな女の子ができる仕事ではないのよ。」
「知ってる。でも12歳になったら固有スキルだって発現する。登録できるはずでしょ。」
「あなた保護者は?」
「いないわ。私が死んだって悲しむ人なんていないの。だからもういいでしょ、登録して。」
「スカーレット。何やってるんだ。おい、何だこのガキ?」
受付の奥から男の声がする。また面倒なヤツだったら嫌だな。
「ギルドマスター、この子が登録したいって聞かないんですよ。」
「何だと?」
ギルドマスターと呼ばれた男が私を見下ろしてる。この筋肉ヒゲ親父も私が登録するのを反対するつもりか?でもこいつが反対したら登録できないってことだよな。
「お前が冒険者だと?ふざけてんのか。」
「ふざけてなんかないよ。」
「てめぇみてぇなガキが何できるってんだ!あぁ?ナメてっとぶっ飛ばすぞ。とっとと帰れ!」
「ぶっ飛ばされたって帰んないから。あんたたちの勝手な裁量で登録を邪魔しないで。要件はクリアしてるはずだよ。」
「このガキ・・・。」
私はヒゲ親父をにらみつける。殴られたって絶対に引くもんか。
「おいテメエ、そのクソ度胸気に入ったぜ。冒険者にゃ絶対に必要なもんだ。スカーレット、こいつ登録してやんな。」
おや、登録してくれるの?さっきは試されただけなのか。
「ちょっと待ってください!何でです。死んじゃうんですよ!」
「良いじゃねぇか。こいつは自分が死ぬことだって受け容れてるよ。こんだけ止めてもやめねーんだ。野たれ死のうと文句は言わねーだろうよ。」
「親父、良い事言う。」
「誰が親父だ!俺はグレン=イルギン。ギルドマスターをしている。ってか良い根性してるぜ。お前みたいなガキは俺が一喝したら一目散に逃げて行くのによお。」
私だって小悪党のクソ野郎に毎日のように殴られて来たんだ。いまさらこの程度で怯んだりするもんか。ここで舐められるわけには行かない、愛想笑いだってしてやんないから。
「私もガキじゃない。リーファ=クルーン。」
「けっ、可愛げのねー奴だ。ますます気にいったぜ、リーファ。よし、登録してやる。」
「ダメです。」
げっ、このお姉さんまだ反対するの?
「スカーレット、お前いまの俺たちのやりとり見てなかったのかよ。ここは感動してお前も協力する場面だろうが。」
私のために頑張れギルマス。お前のヒゲは伊達じゃないはずだ。失敗したら引っこ抜くぞ。
「馬鹿だ馬鹿だと思ってましたがここまで馬鹿だとは思いませんでした。目玉の代わりにクルミでも入ってんじゃないの?よく見てください、こんな子供に務まるわけないです。」
「誰が馬鹿だ!俺だってデビューは12歳だったんだぜ。お前だってコイツを毎日長々と相手したくねーだろーがよ。きっと今日追い返したって毎日来るぞこいつぁ。」
うんうん。スカーレットが拒んだってあきらめないからね。営業時間中張り付いてやるんだから。
「私は帰ってこない冒険者をいっぱい見てきたの。冒険者は常に危険と隣り合わせよ。何でもないことで命を落とすの。」
「うん、わかってる。」
「わかってないでしょ、もう。」
「何もやらなければすぐに飢えて死んでしまうもの。だったら足掻きたい。」
私が覚悟を告げるとスカーレットは大きなため息をついた。ここまで言ってもつっぱねられるのかなあ。
「そう、わかったわ。ただしあなたの手に余る依頼は絶対に許可しないわよ。」
「わかった。ありがとう、グレン、スカーレット。」
「ならさっそくステータスを確認しねえとなあ。ほれ、こっちに来い。」
「うん。」
私はグレンについて行くとグレンは透明な石版みたいなものを取り出した。
「これはステータスプレートって言ってお前の強さや適性が表示されるんだ。どれ、ここに手を置いて見ろ。」
私は言われた通りに手を置くとステータスプレートが白く光出す。しばらくすると光が消えて文字が現れた。
「どれ、見せてみな。・・・って、これは!」
「どうなの?」
何だろう、グレンの顔色が変わった気がする。
0
お気に入りに追加
81
あなたにおすすめの小説

八百長試合を引き受けていたが、もう必要ないと言われたので圧勝させてもらいます
海夏世もみじ
ファンタジー
月一に開催されるリーヴェ王国最強決定大会。そこに毎回登場するアッシュという少年は、金をもらう代わりに対戦相手にわざと負けるという、いわゆる「八百長試合」をしていた。
だが次の大会が目前となったある日、もうお前は必要ないと言われてしまう。八百長が必要ないなら本気を出してもいい。
彼は手加減をやめ、“本当の力”を解放する。


【完結】あなたに知られたくなかった
ここ
ファンタジー
セレナの幸せな生活はあっという間に消え去った。新しい継母と異母妹によって。
5歳まで令嬢として生きてきたセレナは6歳の今は、小さな手足で必死に下女見習いをしている。もう自分が令嬢だということは忘れていた。
そんなセレナに起きた奇跡とは?

神様との賭けに勝ったので、スキルを沢山貰えた件。
猫丸
ファンタジー
ある日の放課後。突然足元に魔法陣が現れると、気付けば目の前には神を名乗る存在が居た。
そこで神は異世界に送るからスキルを1つ選べと言ってくる。
あれ?これもしかして頑張ったらもっと貰えるパターンでは?
そこで彼は思った――もっと欲しい!
欲をかいた少年は神様に賭けをしないかと提案した。
神様とゲームをすることになった悠斗はその結果――
※過去に投稿していたものを大きく加筆修正したものになります。

フリーター転生。公爵家に転生したけど継承権が低い件。精霊の加護(チート)を得たので、努力と知識と根性で公爵家当主へと成り上がる
SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
400倍の魔力ってマジ!?魔力が多すぎて範囲攻撃魔法だけとか縛りでしょ
25歳子供部屋在住。彼女なし=年齢のフリーター・バンドマンはある日理不尽にも、バンドリーダでボーカルからクビを宣告され、反論を述べる間もなくガッチャ切りされそんな失意のか、理不尽に言い渡された残業中に急死してしまう。
目が覚めると俺は広大な領地を有するノーフォーク公爵家の長男の息子ユーサー・フォン・ハワードに転生していた。
ユーサーは一度目の人生の漠然とした目標であった『有名になりたい』他人から好かれ、知られる何者かになりたかった。と言う目標を再認識し、二度目の生を悔いの無いように、全力で生きる事を誓うのであった。
しかし、俺が公爵になるためには父の兄弟である次男、三男の息子。つまり従妹達と争う事になってしまい。
ユーサーは富国強兵を掲げ、先ずは小さな事から始めるのであった。
そんな主人公のゆったり成長期!!

契約結婚のはずが、気づけば王族すら跪いていました
言諮 アイ
ファンタジー
――名ばかりの妻のはずだった。
貧乏貴族の娘であるリリアは、家の借金を返すため、冷酷と名高い辺境伯アレクシスと契約結婚を結ぶことに。
「ただの形式だけの結婚だ。お互い干渉せず、適当にやってくれ」
それが彼の第一声だった。愛の欠片もない契約。そう、リリアはただの「飾り」のはずだった。
だが、彼女には誰もが知らぬ “ある力” があった。
それは、神代より伝わる失われた魔法【王威の審判】。
それは“本来、王にのみ宿る力”であり、王族すら彼女の前に跪く絶対的な力――。
気づけばリリアは貴族社会を塗り替え、辺境伯すら翻弄し、王すら頭を垂れる存在へ。
「これは……一体どういうことだ?」
「さあ? ただの契約結婚のはずでしたけど?」
いつしか契約は意味を失い、冷酷な辺境伯は彼女を「真の妻」として求め始める。
――これは、一人の少女が世界を変え、気づけばすべてを手に入れていた物語。

錬金術師が不遇なのってお前らだけの常識じゃん。
いいたか
ファンタジー
小説家になろうにて130万PVを達成!
この世界『アレスディア』には天職と呼ばれる物がある。
戦闘に秀でていて他を寄せ付けない程の力を持つ剣士や戦士などの戦闘系の天職や、鑑定士や聖女など様々な助けを担ってくれる補助系の天職、様々な天職の中にはこの『アストレア王国』をはじめ、いくつもの国では不遇とされ虐げられてきた鍛冶師や錬金術師などと言った生産系天職がある。
これは、そんな『アストレア王国』で不遇な天職を賜ってしまった違う世界『地球』の前世の記憶を蘇らせてしまった一人の少年の物語である。
彼の行く先は天国か?それとも...?
誤字報告は訂正後削除させていただきます。ありがとうございます。
小説家になろう、カクヨム、アルファポリスで連載中!
現在アルファポリス版は5話まで改稿中です。

母親に家を追い出されたので、勝手に生きる!!(泣きついて来ても、助けてやらない)
いくみ
ファンタジー
実母に家を追い出された。
全く親父の奴!勝手に消えやがって!
親父が帰ってこなくなったから、実母が再婚したが……。その再婚相手は働きもせずに好き勝手する男だった。
俺は消えた親父から母と頼むと、言われて。
母を守ったつもりだったが……出て行けと言われた……。
なんだこれ!俺よりもその男とできた子供の味方なんだな?
なら、出ていくよ!
俺が居なくても食って行けるなら勝手にしろよ!
これは、のんびり気ままに冒険をする男の話です。
カクヨム様にて先行掲載中です。
不定期更新です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる