幻術士って何ですか?〜世界で唯一の激レアスキルでのし上がります〜

犬尾猫目

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今日から冒険者

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「この役立たずがっ!」

私は親方に平手でほおをはたかれた。もう涙は流れない、何でもない日常の一コマ。

「・・・。」

「何だその目は?文句があるんなら言ってみろ。」

親方と言っても身寄りの無い子供たちを集めて盗みを働かせるチンケな小悪党、名前など口にしたくもない。無駄に話しても余計に殴られるだけだ。

「・・・。」

「誰が育ててやったと思ってるんだ?あぁ!お前に食わせるメシなんてねーからな。これっぽっちで帰って来やがって馬鹿が!」

明日で私も12歳、冒険者登録だってできる。こんなところ今日でおさらばだ。私は寝床に潜り、寝たふりをする。
このスラムではみんな生きることに必死だ。そのためなら誰だって踏み台にするのが当たり前の世界。明日も自分が生きていられる保証などどこにも無い。このままだと何もしなくたって死んでしまうのだ。だったら自分の才覚で生きてみようと思う。死ぬまでこんな奴にこき使われてゴミくずのように死んで行くなんてまっぴらだ。死ぬんだったらせめて力一杯爪痕つめあとを立ててやるんだ。

「リーファ姉さん。」

「ニコ、起きてたのか?」

「うん。姉さんは出ていくの?」

「ああ、ここに残っても先は見えてる。私が落ち着いたらお前も迎えに来てやるからな。」

「うん。待ってる。」

「おい、泣くなよ。別れるのは少しの間さ。」

「ごめんね、姉さん。頑張って!」

「殴られたってあのクソ野郎に稼ぎの全部は渡すなよ。ニコも元気でな。」

私は窓から外へ抜けだし、屋根から飛び降りる。一階の明かりがついているな。どうせ子供たちの稼ぎで酒でも飲んでいるのだろう、死ね。
私は雨の中、暗闇を走り抜けた。
私は橋の下で夜を明かすと、さっそく冒険者ギルドに向かった。勢いよく扉を開けると冒険者たちの目線が一斉に私に突き刺さる。ひるむな、私。

「おいおい、ここは孤児院じゃないんだぜ。」

「・・・。」

「ははは、ビビって声も出せねえってよぅ。ガキは帰んな!」

あんな奴ら相手にしてても時間の無駄。私はぐんぐん受付に向けて足早に進んでいく。

「お姉さん、冒険者登録したいんだけど。」

私を見て受付のお姉さんは困ったような顔をしている。

「あのね、お嬢さん。冒険者って大人だって亡くなる人が多いの。あなたみたいな女の子ができる仕事ではないのよ。」

「知ってる。でも12歳になったら固有スキルだって発現する。登録できるはずでしょ。」

「あなた保護者は?」

「いないわ。私が死んだって悲しむ人なんていないの。だからもういいでしょ、登録して。」

「スカーレット。何やってるんだ。おい、何だこのガキ?」

受付の奥から男の声がする。また面倒なヤツだったら嫌だな。

「ギルドマスター、この子が登録したいって聞かないんですよ。」

「何だと?」

ギルドマスターと呼ばれた男が私を見下ろしてる。この筋肉ヒゲ親父も私が登録するのを反対するつもりか?でもこいつが反対したら登録できないってことだよな。

「お前が冒険者だと?ふざけてんのか。」

「ふざけてなんかないよ。」

「てめぇみてぇなガキが何できるってんだ!あぁ?ナメてっとぶっ飛ばすぞ。とっとと帰れ!」

「ぶっ飛ばされたって帰んないから。あんたたちの勝手な裁量で登録を邪魔しないで。要件はクリアしてるはずだよ。」

「このガキ・・・。」

私はヒゲ親父をにらみつける。殴られたって絶対に引くもんか。

「おいテメエ、そのクソ度胸気に入ったぜ。冒険者にゃ絶対に必要なもんだ。スカーレット、こいつ登録してやんな。」

おや、登録してくれるの?さっきは試されただけなのか。

「ちょっと待ってください!何でです。死んじゃうんですよ!」

「良いじゃねぇか。こいつは自分が死ぬことだって受け容れてるよ。こんだけ止めてもやめねーんだ。野たれ死のうと文句は言わねーだろうよ。」

「親父、良い事言う。」

「誰が親父だ!俺はグレン=イルギン。ギルドマスターをしている。ってか良い根性してるぜ。お前みたいなガキは俺が一喝したら一目散に逃げて行くのによお。」

私だって小悪党のクソ野郎に毎日のように殴られて来たんだ。いまさらこの程度で怯んだりするもんか。ここで舐められるわけには行かない、愛想笑いだってしてやんないから。

「私もガキじゃない。リーファ=クルーン。」

「けっ、可愛げのねー奴だ。ますます気にいったぜ、リーファ。よし、登録してやる。」

「ダメです。」

げっ、このお姉さんまだ反対するの?

「スカーレット、お前いまの俺たちのやりとり見てなかったのかよ。ここは感動してお前も協力する場面だろうが。」

私のために頑張れギルマス。お前のヒゲは伊達じゃないはずだ。失敗したら引っこ抜くぞ。

「馬鹿だ馬鹿だと思ってましたがここまで馬鹿だとは思いませんでした。目玉の代わりにクルミでも入ってんじゃないの?よく見てください、こんな子供に務まるわけないです。」

「誰が馬鹿だ!俺だってデビューは12歳だったんだぜ。お前だってコイツを毎日長々と相手したくねーだろーがよ。きっと今日追い返したって毎日来るぞこいつぁ。」

うんうん。スカーレットが拒んだってあきらめないからね。営業時間中張り付いてやるんだから。

「私は帰ってこない冒険者をいっぱい見てきたの。冒険者は常に危険ととなり合わせよ。何でもないことで命を落とすの。」

「うん、わかってる。」

「わかってないでしょ、もう。」

「何もやらなければすぐに飢えて死んでしまうもの。だったら足掻あがきたい。」

私が覚悟を告げるとスカーレットは大きなため息をついた。ここまで言ってもつっぱねられるのかなあ。

「そう、わかったわ。ただしあなたの手に余る依頼は絶対に許可しないわよ。」

「わかった。ありがとう、グレン、スカーレット。」

「ならさっそくステータスを確認しねえとなあ。ほれ、こっちに来い。」

「うん。」

私はグレンについて行くとグレンは透明な石版みたいなものを取り出した。

「これはステータスプレートって言ってお前の強さや適性が表示されるんだ。どれ、ここに手を置いて見ろ。」

私は言われた通りに手を置くとステータスプレートが白く光出す。しばらくすると光が消えて文字が現れた。

「どれ、見せてみな。・・・って、これは!」

「どうなの?」

何だろう、グレンの顔色が変わった気がする。
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