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雪原の覇者

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映像伝送装置の存在を喝破された食いしん坊ちゃんが恨めしそうに俺を見ている。まあ俺としては同時代的発想で思いつくようなものよりも、もっとファンタジックなアーティファクトをキボンヌ。

「何じゃあ、もっともったいつけてGP01を引き出してやろうと思っとったのに・・・」

「人となりも含めて何もかも小っせえトロが小細工したところでモンブランの作り置きはもう無えよ。」

「何じゃとー貴様ぁ!死にたいんじゃな、そうじゃろー?そうと言えっ!」

俺に怒ったところで砂糖が大量に手に入るわけじゃないから仕方ないっちゃ仕方ない。
事実、アンリにおねだりして手に入れた砂糖や蜜なんかもすっからかんだ。みんな知らんかもしれんけど、卒倒するほど砂糖をぶっこんで作ってあんだ。
だからトロに振舞ったあのGP01だって俺にとっちゃあかなりのおもてなしだったんだぜ?ほんとわかってねえなあ、このぶっころエルフはよぉ~。

「まあその内作るかもな。」

「約束じゃからの。今日作ると良いぞ。」

「誰もそんなこと言っとらん。」

コイツもコイツでお調子者のニオイがするなあ。俺の周りにゃあこんなのしか集まらないのか?おうおう、お前何ちゅう顔しとんじゃトロ助。

「ケチじゃのう。ユーキはモテんじゃろ?」

「うるせえ、大きなお世話だ!」

「ゲフッ!どうしたんですかユーキさん?」

モテないと言われた俺は無意識にとなりのザマルの腹を軽くどついた。いや、どつかずにはいられんかった。反省はしていない。

「ザマルのような優男にゃこの苦しみは理解できまい。おすそ分けだ、コンニャロメぃっ!」

「それ八つ当たりって言うのよユーキ?」

「カッコ悪いのう」

これが若さゆえの過ちというものか・・・(キラッ)

俺もゴブリンでなければ・・・

いや、人間だった頃もそんなにモテてなかったかな・・・
とりあえず無礼者のソフィアとトロのおやつはしばらくお預けだと心に誓っておく。

「元はオメエが余計なこと言ったんだろうが。」

「へいへい、ほれもう着くぞい。」

何だかウヤムヤにされちまったが、ザマルのチベットスナギツネのような視線がザックザク刺さりまくるのでこの流れに乗っておくとしよう。

「この塔はまた高っけーなあ。」

トロに先導され着いた先は4~50階相当のビルに匹敵する高さの塔だ。塔を築くのは勝手だが、この世界にエレベーターなどあるまい。多分これ計画したヤツ、アホなんだろうな~

「そうなんじゃ、ほんに上るのも一苦労よ。まあワシはこのままハヤテに乗って行くがの。」

「俺はホバーで行くか。」

「私もそうするわ。」

「えーとー・・・私は」

長距離移動は別として、階段くらいは自分でのぼってもらわにゃあ。ハヤテは馬じゃないんだ。

「イケメンのザマルくんは爽やかな汗を流そうか?」

「うぅぅ・・・」

涙を流すザマルだったが、イケメンがゆえの試練と思って頑張れ。決してやっかみではない。

***

まあ例によって例のごとくきっついよね。ホバーで上った俺も若干引くレベルの階段だ。肩で息するザマルは酸欠でぶっ倒れそうになっているじゃないの。やりすぎたかなあ・・・だが反省はしていない。

「ハア、ハア・・・キツイ。」

「まあゴールが六階で良かったじゃん。」

「だらしがないのぅ。」

「疲労にムチ打つ鬼ばかり・・・まさに外道ね」

「まさか外道って俺のことじゃないよなソフィア?外道はあちらのじゃりン子だけにしておきたまえ。」

「誰がじゃりン子じゃ!生意気なゴブリンめ」

それはともかくイケメンザマル君もこうなっては形無しだ。・・・というか、コイツへばっててもカッコいいなあ。どうなってんだよ?

「私・・・運動・・・苦手・・・なんです・・・てば」

「あの扉の先にあるのじゃ。」

もはや疲労困憊のザマルには目もくれずトロが前を指し示している。すこしは相手してやれよ・・・

「へえ、ここが・・・」

見上げる扉はバシレウス城の謁見の間にある扉よりも大きいかもしれない。何にしてもこれ開けるのも一苦労だなあ。
俺が目線を戻すと、さっきまでハヤテにまたがっていたトロがいつの間にか降りている。

「もうよいぞハヤテ。ココじゃ。皆の者、心の準備は良いか?」

「え、もう会えるんかい?」

「そうじゃが?」

このじゃがいも、俺の疑問の意味するところが分からんかったらしい。トロがキョトンとした表情を返して来た。
アポなし訪問でいきなり北方の支配者と話ができるとはさすがの俺でも思ってなかったぜ?
何とも言葉が出てこなかった俺は思わずソフィアと目があう。

「ねえ、トロ?」

「何じゃね?」

「アルベリヒって暇なの?」

あー、言っちゃった。俺でさえ遠慮したのにさすがソフィアだね。

「たーけ!ワシじゃから都合がつけられるんじゃ。他のヤツではこうはいかん。そこに直ってよう見とれ。」

「・・・」

4人と一匹は大きな扉の前でしばし佇む。そしてその事態にしびれを切らしたのは意外な人物だった。

「おい」

「へ?」

「何をぼさっとしとるのじゃユーキ。はよ扉を開けぬか。」

「お前いま、そこに直って見てろっつったろが。理不尽か!」

コイツの理不尽さは今に始まったことでないとはいえ、この沸き立つ憤りはいつだって新鮮だな。

釈然としないながらも勇騎は重たい扉を押し開けて行くと、内部からは暖かくここちのよいい空気が流れ出て来たではないか。全く人の温もりを感じられない建造物にしてはなかなかのおもてなし空間に思えた。

「つくづく使えんヤツめ。ワシがおらんと何もできぬと見える。」

よし、決めた!コイツ後で雪の中にぶん投げてやろう。

「ワシじゃ、誰ぞおらぬか」

尊大なもの言いも北方の支配者一族ならば当然なのだろう。奥の方からこちらに近づいてくる人影が複数確認できた。エルフなのだが、何やら神官のような衣服をまとっている。

「おお、マーズロム。久しいのぉ」

「フォストロッカさま、このような外縁の砦にお越しくださいますとは」

「アルベリヒに会いたい、なかなか骨のある者たちを連れてきたのじゃ。アレを使わせてくれ、メドゥーヴィラの報告もしたい。」

挨拶もそこそこに用事を申し付けるフォストロッカだったが、マーズロムは後ろにいる勇騎たちに不愉快な視線を投げかけて嘆息した。

「申し訳ございませんが、師主さまへのお目通りは叶いませぬ。」

「何じゃと!ワシ、何かアルベリヒの勘気をこうむるようなことしたかのぅ?」

いや、これはアレだろ?明らかによそ者の俺たちが気に食わないってツラしてるぜ。気難しいね~エルフってヤツはよぉ~

「いいえ、決してそのようなことはございませぬ。」

「なら何ゆえ会えぬと言うのじゃ?何だかんだ言うていつも時間を融通してくれるではないか。」
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