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雪原の覇者

憎しみの報酬は

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魔術師部隊の障壁は決壊し、復讐術式の凄まじい炎の大瀑布ランページブラストにかなりの兵士たちが飲み込まれる。

「うぅっ・・・神の祝福を受け・・・た、この私をここまで愚弄するか」

それでもなお生き残った将成とて、起き上がれぬほどに傷めつけられていた。焦熱により呼吸もままならない状況だが、押さえきれない憤りを吐き出さずにはいられない。

「も、もうおしまいだー!うわー!」

「待て、逃げるな!お、おい・・・」

おびただしい死者の只中に倒れ伏した将成を見つけた兵士の心が折れる。一人、また一人と逃げ出す者の数が増えていく。

「マサナリさまっ!」

動けない将成のもとに駆け寄ったのは副官の男だった。

「何故退くのか?誰がそ・・・のような命令を」

「このままではここで全滅してしまいます。御身の負傷も」

「黙・・・りなさい。崇高なる我がカルザール聖・・・教国は進軍あるのみ」

勇ましい言葉とは裏腹に、将成は息も絶え絶え言葉をつぐ。話すたびノドが痛むのは呼吸器にまで火傷を負っているのだろう。受けた被害は甚大だった。

「無茶をおっしゃいますな。聖鎧の防御ももはや限界を越えております、早急に治療を施さねば・・・」

「聖下より・・・賜りしエリク・・・サーがある。あれを」

「なりませぬ、あれは対アルベリヒの切り札にて。小者相手に用いるなど」

「アルベリヒなど必・・・ずやこの手で・・・ひねりつぶして見せる。エリクサーを私に」

「おい、マサナリさまを安全な場所にお連れする。手伝え!」

「待ちなさい、エリクサーを」

「お許しを」

それ以上取り合うことなく将成を後方へと運ぶ。まだ化け物がこちらに気づいていない今しかチャンスはないだろう。

同じく炎に巻き込まれたドルイドであったが、驚くことにこちらは何の被害も受けていないようだった。ただし復讐術式の広範囲攻撃直前に負った腕の火傷は癒えていないようだ。

「まさか虎の子の魔道具を使うハメになろうとは。」

魔道具で復讐術式ウィッカーマンの業火を何とかやり過ごしたドルイドは辺りを見渡すと死屍累々たる光景が広がっている。

「ヘルファイアに吹き飛ばされたあのタイミングで、あの火力の奔流に飲み込まれては自称勇者と言えど防御などできまいて。ククク、このどこかに勇者も転がっているかもしれぬな。」

間違いなくランページブラストにより、復讐術式ウィッカーマンに残された活動時間はごくわずかになったはずだ。だが自称勇者を行動不能に追い込んだことで、敵を殲滅する目処はついた。奇しくもあのゴブリンの転移魔術のおかげで、厄介極まる自称勇者の不意を突くことができたという皮肉な結果に思わず苦笑いする。

「ククク、荒ぶる魂の焔ランページブラストで直に焼かれたのだ。もはや立ち上がることもできまい。ここでトドメを」

「待ちんしゃい、ド腐れエルフ」

厄介なのはコイツも同じだったな。さて、どうしたものか。

「もう二度と不意打ちは通じん。邪魔だてとあらばお前から消し炭にしてやろう。」

「ヤダ怖~い、ザマル~」

エルフからの恫喝に対し、両手を顔の近くに持っていきつつ可愛い子ぶって大げさに怖がって見せた。ゴブリンがそれをするとなるとなかなかに気持ち悪い。

「アンテペンディウム!」

勇騎の合図によってザマルは復讐術式ウィッカーマンに向けて魔術を展開する。光のヴェールが炎の人型を包んだ。

<ズゴッ!>

次の瞬間、広範囲に爆発的な水蒸気が立ちのぼった。ザマルの光魔術によりフレームを喪失したウィッカーマンが、溶けた雪でできたぬかるみへと倒れ込んだのだ。

だがウィッカーマンは人型を喪失しただけで、その身にまとう炎自体に変化は無かった。どうやらドルイドの言葉通り、光魔術だけで消し去れるものではないようだ。

当のドルイドが苦々しく口を開く。

「やってくれたな・・・」

「もうそのくらいにしとけよ。十分にぶちのめしただろ?」

「よそ者ごときが知ったような口をきくな。ヘルファイア!」

エルフの放つ猛烈な炎から逃れるために勇騎はホバーで全力疾走する。

「うひょー、アチアチチチ。やめれー!」

「ぐわっ!」

勇騎が丸焼きにされる寸前、死角から飛びかかったハヤテがエルフを叩きつけるように押さえこんだ。

「ったく、頭に血がのぼって周りが見えてねーのか?あぶねーあぶねー」

「くっ・・・復讐術式っ!」

「そうは行くかよ」

勇騎が地面に両手を叩きつけると、冗談のようにウィッカーマンの巨体が地面に飲み込まれていく。

「土魔術だと!?ドワーフでもあるまいにあれほど大規模に展開すると言うのか!」

「がーっはっはー!足腰立たねえウィッカーマンは果たしてあの大穴を這い上がって来れるかな?」

「おのれ、ぐふぅっ!」

再び魔術を放とうとしたド腐れエルフをハヤテが容赦なく体重を載せて踏みつける。

下手なことしようとしても魔力の流れを読めるハヤテさんが黙っちゃいないんだな~これが。

勇騎はハヤテに惜しみなくグッジョブのハンドサインを送った。

「もう終わりなんだってば。往生際悪いよ?」

そう言いながら勇騎は雪の地面に押さえ込まれたドルイドの首に手を回す。

<カチャリ>

「貴様、この私に拘束具を」

ドルイドの顔が恥辱にゆがむ。これまでの仕打ちに対する仕返しとしては申し分ないだろう。ゴブリンに拘束されるなど夢にも思うまい。

「あっ、ユーキがいつもの悪い顔をしてる。それでこそユーキだ、我も嬉しいぞ。」

ハヤテが喜んでくれるのは俺も嬉しいが、ハヤテの俺に対する認識がおかしい。とーっても心外だから、後で矯正しておかないと。

「ゆ・・・ユーキさん。」

「ザマル、お疲れ」

ド腐れエルフに先ほどまで俺の魔力を封印していた拘束具をつけてやったんだが、ザマルが青い顔をして飛んできた。

「なにも拘束具をつけなくたって」

いや、つけるだろ普通。どう考えたって危ねーものコイツ。

「ザマル」

「何でしょう?」

「このド腐れエルフには不当に拘束された者の悲しみを理解させなきゃならんのよ。なんせ俺はこのド腐れエルフから拷問されたんだ。ミッ☆ミクにしてやんよ」

「ミック☆ク?聞いたことが無い・・・一体それはどれほど苛烈なことを表しているのでしょうか。何と恐ろしい」
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