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雪原の覇者

人を呪わば穴二つ

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「お前は、もしやそれの飼い主とでも言うまいな。」

この野郎、俺のことなんざ眼中にねえってか。いくらなんでもペット扱いってどうよ?ヒドいっていちいち嘆くのも面倒くさくなってきた。清々しいほど外道エルフで草。

「私は聖教会の僧侶、ザマル=アディド=カラハンにございます。」

あのー・・・ザマルさん、ボキのペット扱いを華麗にスル~しないでいただきたいニャン。

「そんなものは見ればわかる。何をしに来たのかを言え。お前は我が復讐術式ウィッカーマンの埒外ゆえ、話だけは聞いてやる。」

「此度の戦を止めに参った次第にて。」

「何の冗談だ?」

俺も面食らったが、ザマルの場合本気と書いて卍と読むのよコレが。気合入ってるんでそこんとこメカドック。

「彼らもこれだけの暴威を目の当たりにしてさぞ頭も肝も冷えたことでしょう。必ずや説得して」

「力無き者のたわ言よ、そんなことで止まるものか。」

「既に甚大な損耗が生じているのです、継続も困難となりま」

「実にくだらん。それはお前たちの都合にすぎぬと言っておるのだ。我らは既に被害をこうむっている。しかるにヤツらはその報いを受けねばならぬのだ。仮にヤツらが止まろうとも、私が止まる理由になどならんな。」

「お怒りは至極ごもっともにございます。ですが」

「どうしてもと言うならば、せめて勇者とやらの首を差し出すのだな。」

そんな力がありゃザマルだって最初からマサナリの首根っこ捕まえて戦争を止めてらぁ。無茶言いやがって。

「おい、何でだよド腐れエルフ。ザマルはそもそもこの殺戮には関係ないんだ。それでも生命張って助力を申し出てるってのに、何でテメェはそんな上からモノを言えるってんだ。」

「ユーキさん、良いのです。これは聖教会のしでかしたこと、なれば私に無関係とばかりは言えないのです。」

「だ・・・そうだが?」

んもー、何でザマルはあんなどうしようもないヤツらの罪まで背負いこもうとすんのさ。

「おいド腐れエルフ、ケツまくって大人しく帰るんならケツを一発蹴り上げるだけで見逃してやる。今だけのミラクルチャンス、逃す手は無いぞ。お得だね。」

「くどい!」

くそ、手詰まった。コイツも引き下がる気なんて無いな。メドゥーヴィラの市民すらモノ扱い、弔い合戦なんて殊勝な思いもさらさらねえくせによぉ・・・ん?そう言やぁ、ここメドゥーヴィラはたしか・・・

「ハヤテ、どうやってここまでたどり着いたんだ?」

「ん、そんなことがどうかしたのか?」

「だってほら、あの妙な植物に妨害されただろう?侵入しようにもアレに塞がれてたはずだ。むしろどうやって来たんだよ?」

「そういうことか。アレならザマルが消してくれたのだ。我も手を焼いたからな。」

「け・・・消した?んなバナナ。いや、待てよ・・・それひょっとして使えんじゃね?」

「変なうめき声を上げるのはやめろ。非常に耳障りだ。」

まさかファーウルフと会話しているとは夢にも思わないドルイドが顔をゆがめる。所詮は魔物と言わんばかりだ。

「はいはい、そりゃすんませんでしたー、ほんでザマル?」

「何でしょう、ユーキさん?」

「アンタひょっとしてあのバケモノごと消し去れるんじゃないか?」

「チッ!」

お、いま舌打ちが聞こえた。気づいてほしくないってことだろう。

「一体どういうことでしょう?」

「あれは一見、炎のバケモノだがその核はあの妙な植物なんだ。ということは・・・」

「あれは顕現した精霊ではなく、闇属性魔術だとおっしゃるのですか!」

「うん?まぁ何言ってるか俺にゃわからんけど、あの植物を消滅させることができるならバケモノごと消せるんじゃね?」

「ザマルとやら、そのようなことをしでかせばお前もまた我らに仇なす者となろう。」

「へっへっへ、さては図星だなエルフ野郎。」

「ふん、たとえできるとしても消し去るのは容易ではない」

「ハッハッハ、負け惜しみ言ってんじゃねえ!その澄まし顔にしっかり困ると書いてあんだよ。わかったらとっとと雪にまみれて土下寝しろぃ!フルボッコで勘弁してやんよ、お得だね。」

「図に乗るな下等生物。復讐術式ウィッカーマンの魔術核の実体は既に闇属性魔術ではなく、内部へと取り込んだヒュームだ。」

「何ですって!」

「え、どうしたんだザマル?」

「あれに人が取り込まれているのですか?」

「あ・・・あぁ。手当り次第に兵士が飲み込まれちまったよ。あっという間の出来事で誰にも手がつけられなかった。」

「闇属性魔術で作り上げたフレームを消滅させたとて、なおも自律的に動くということです。私の光属性魔術で弱体化しても消滅させるのは不可能かと。」

「さぁ、どうする。優位に立ったとも言えぬようだが?」

どうする?どうするも何も、うっとおしい植物はザマルの光魔術に通用しないことだけは確定してんだ。それだけありゃ十分なんだよ。

「はい。じゃあここからは人道的介入のお時間です。」

「人道的介入?・・・それは一体何なのですか?」

「まぁ、俺の勝手な造語さ。もう殺し合いしたい者同士だけで、心ゆくまで殺し合うと良い。平然と民間人を殺して恥じない奴らも、民間人に犠牲を強いて高みの見物を決め込むような奴らも安息が与えられると思うなよ。」

「介入だと?ふっ、下等生物に何ができると言うのだ?」

「うっせー!お前もこの地獄で喘ぐに相応しい亡者だって言ってんだ。」

勇騎は忌々しげに言葉を吐き捨てるやドルイドに突進した。

すると敵対的行動を見越していたドルイドが小規模の火炎魔術を放とうと構える。しかし高速で接近するゴブリンは何と視界から消え去ったではないか。

「返り討ちにしてくれ・・・消えただと!」

「どこ狙ってんの~?ねぇ今どんな気持ち~?」

背中にのしかかる重みとともにゴブリンの声が聞こえた。

「何っ?」

仰天したドルイドは背中にまとわりつく敵を振り払うように大きく身体を動かす。
すぐに身体は軽くなったものの、今度は肌を突き刺す熱風がドルイドを襲った。

「いったい何だ?・・・ちっ!してやられた」

辺りを見回すドルイドの目に飛び込んで来たのは復讐術式ウィッカーマンと激しい応酬を繰り広げるマサナリの姿だ。どうやら謎の魔術で強制的に激戦の中心へと投げ込まれたらしい。

「この化け物がぁっ!・・・ん、何故ユウキがここに?今どこから現れた?」

「よぉ、マサナリ。俺からプレゼントだ。あばよ!」

謎の言葉とともに勇騎は将成の前から忽然と姿を消す。いぶかしむ将成の目線の先にはこの惨劇の元凶であるドルイドの姿があった。

「貴様ぁドルイドーっ!」

「ヘルファイア!」

「ぐぅおぉぉっ!」

雄叫びを上げて突進する勇者を高速詠唱による大規模火炎魔術で遠くへと吹き飛ばす。あまりに突然のことで魔力の制御に失敗したドルイドの腕はひどい火傷を負っていた。

「マサナリ様ーっ!おのれ、憎きドルイドはあそこだ。かかれー」

「いったい何が起こった?くっ、私もろとも燃やして構わん。蹴散らせ、復讐術式ウィッカーマン!」

ドルイドは懐から魔術具を取り出すと次の瞬間、復讐術式ウィッカーマンの大爆炎に飲み込まれてしまった。

「ユーキさん!」

「う~ん・・・言いたいことはわかる。だがアイツらは今のままじゃあどうにも聞く耳持たんのよ。」

「ですがアレでは」

「そんな顔ヤメてくれって、手頃にくたびれたところで回収してやるさ。あのド腐れエルフはアルベリヒとやらに会わせてくれるんだとよ。」

「ユーキさんはやることが極端なんです。この無意味な戦闘をー・・・ん?いま何と言いました?」

「え?だからくたびれたら回収」

「いえ、その後です」

「えーと・・・アルベリヒとかいう」

「あ・・・アルベリヒ!?本当にそんなことを述べたのですか?」
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