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雪原の覇者

行き当たりポックリ

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結局あれから俺がすっとぼけまくった末に、マサナリも諦めて戻っちまった。

尋問の内容?そりゃあ俺がここに来たのはアンリ5世の差し金だろうって勘ぐりさ。その目論見は何なのか散々追及されたんだが、俺が何も吐かなかったから明日の同じ時間までメシ抜きを申し渡されたってなわけ。
まぁここに来たのは純粋に俺の独断で、最初っからアンリなんざ無関係だから吐きようがないじゃんよ。

でもその尋問によって明らかになったのは、意外なことに聖教側は俺のことを詳しく調べ上げているらしいんだ。それも恐ろしいことに、俺の知らないことまで知ってやがったよ。マサナリが言うには、バシレウス王国の貴族の中に俺が目障りでしょうがないって思ってるヤツらがいるらしい。

まぁ心当たりはメチャクチャある・・・ってかありすぎて困る。そいつらが寄り集まって俺をブチ殺す計画を進めているんだそうな・・・かかって来いやぁ~!ことごとくぶっ潰してやんよ~!対戦ヨロです、お願いしま~す。

チクショ~・・・俺が・・・俺がいったい何したって言うんだよぉ~、うわ~ん!あ、あんまりだぁ~・・・
うぉ~ん・・・とりま俺のス⭕ンド”ファビュラス・チンパンジー”で無駄無駄してやっからバンバン来いやっ!まったくス⭕ンド使いじゃないけどな、へへっ。

どうでも良い話に逸れちまった。しかし俺の他にもこの世界に転移だか転生だかを強いられたヤツはいるみたいなのが気がかりだぜ。俺は今のところ何とかそれなりに生きられているけど、他のヤツらは大丈夫なんだろうか・・・

<グウー>

「あ、そうだ。俺さっきから腹へってたんだ。」

たまりかねて腹の虫が叫び声を上げとるんじゃよ。さて、じゃあ早速サンドイッチでも取り出そうかなぁ・・・おぅ?

「・・・手が後ろに回っとるやん」

サンドイッチを取り出したとして、それをどうやって俺のお口へと運んだものか?・・・落ち着け俺、まずはフローチャートを組み立てるんだ。

最初に強欲の淵からサンドイッチを取り出します→手が使えないので重力に逆らえないサンドイッチは床に落ちます→手が使えないので床に顔を押し付けます→サンドイッチを美味しくいただきます・・・

オカシイ。

そもそも俺はキレイ好きだから床に落ちたモノなど口にしない。この牢獄にネズミが走っているの見えたから、そんなもん口にしたら俺の生命の危険が危ない危機なんだよ。それに犬食いなど俺の沽券に関わる・・・却下だ。

だがそんな時でも俺の”ファビュラス・チンパンジー”ならば或いは・・・ってアカン、だから使えんのよ。

「この拘束具がどうなってるのかよく見えないからなぁ。ぶっ壊すにしてもどういうもんかキッチリ把握しとかねえと危ねえ。」

う~ん、まずは大脱走するかぁ。ここじゃ外の様子が一切わからんけど、おそらく夜なんじゃなかろうか?ならば拙者は夜闇に乗じてドロンするでござるよ、ニンニン。

「たっだいま~・・・って寒!ココどこだ?」

ささささ寒過ぎる。装備が剥ぎ取られて薄着のままなのに、こんな雪の中に放り出されるなんてエグいて!何が起こったんだよ?うおーっ生命の危険を感じる寒さだぞコレ。後ろ手に拘束されてるから満足に服だって着られないんだ。

「何者だ貴様っ!」

うげっ!マズい。そうか、メドゥーヴィラの魔術障壁はまだ生きてたんだ。俺のデイトリッパーがメドゥーヴィラの城壁で遮られちまったってこった。
となると俺の真後ろから投げかけられた声の主はカルザール聖教国の兵士ってことだよなぁ・・・。マサナリが来る前にメドゥーヴィラを突破しないと、今度捕まったら殺されるかもしれねえ。

「貴様ぁっ!誰かと聞いている!」

「くそっ、出口がどこにあるのかわからねえ・・・」

そもそも今いる場所はどこなんだ?こちとら目の前の壁とにらめっこしてる場合じゃねーんだよ!後ろの兵士をブチのめしたらもっと兵士が集まってくるかなぁ・・・何で速攻で見つかってんだチクショー!

「止まれぇ!それ以上近づくと攻撃とみなすぞ!」

「止まれ?」

俺はさっきからずっと止まってるぜ?・・・あぁ、これもしかして俺に向けられた警告じゃないのか。

勇騎が振り返って辺りを見回すと、警告の聞こえる方向にいくつもの篝火が確認できた。どうやらそこは将成がぶち抜いた大穴のようだった。
警備兵の目を盗んで突破するのもそれほど難しくはないだろう。外からの侵入には注意してても、既に敵の殲滅が確認された内部からの脱出にはそれほど意識を向けていないはずだ。

「だけどこんな危険な場所にわざわざ一人で何しに来たんだ?誰かわかんねーけどコイツらマジで容赦ないからとっとと逃げろよ。本当に殺されちまうぞ?」

あぁ、警備兵がどんどん集まって来た。えっ何、まだ近づいて来てるの?おい何考えてんだ?俺が飛び込んでって助けた方が良いのかなぁ。いや、それよりあの場所に多くの兵士を集められるとメチャクチャ迷惑なんだが?

「止まれと言っているのがわからんのか!・・・あ、アァァァー」

「ん?何だ?」

警備兵が大声で叫びだしたぞ?何があったのかスゲー気になる~。ナニナニ~?

<ゴー>

「ウォォォー、何じゃありゃぁ!」

遠くに大爆炎・・・マサナリには及ばないが、それでもかなりデケーぞありゃ。単身で殴り込みするだけあってとんでもねえ腕利きみたいだ。

「敵襲ー!」

<ピピピー!ピピピー!>

「この私がこんな外周部の都市まで足を運ぶことになろうとはな。」

寒さをこらえて姿を隠す勇騎が固唾をのんで見守っていると、そこに姿を現したのはフードを目深にかぶった男だった。その男は何か言葉を発したようではあるが、勇騎には全く聞こえなかった。

「今の魔術攻撃は貴様だな!」

「既に貴様を包囲した、もう逃げられんぞ!」

あーあ、すっかり囲まれちまったぜアイツ。いくらなんでもこの数を一度に相手するのは骨が折れるぞ?何か奥の手でもあるのか?

「まぁ私の魔術で無駄に殺すのは最小限にとどめたい。まだ少ないが虫けらどもは直に集まって来るだろう。」

「何をブツブツ言っている?うつ伏せになって手を頭の後ろに・・・おい!勝手に動くな・・・ん?」

フードの男は懐から何かを取り出すとポイと放り捨てた。手のひらに乗るほどの小さなもののようだが?それに興味津々の勇騎も身を乗り出して目を凝らす。

「アイツ・・・何か投げ捨てたのか?アレ何だろう?」

「何だそれは?」

「フッ、気になるならば手に取るがいい」

「うつ伏せになれと言っている!」

余裕の笑みを浮かべる男に対してイラついた兵士が怒鳴り散らした。フードの男に近づき、雪の上に放り捨てたモノを拾い上げて確認する。

「うわー!」

おい、何だ?あの兵士が拾い上げたのが見えたんだが、絶叫し始めたぞ?・・・あ、あれは!

「何だコレは?た・・・助けてー」

「動けない!苦しい・・・何とかしてくれぇ」

「どうした?こ・・・コレは!何だ、植物のつるが身体にまとわりついて・・・ぐっ!」

よくわからんけど俺の位置からだと、手のひらサイズの何かが爆発的に大きくなったように見える。植物のつる?触手みたいに手当り次第に兵士に絡みついているみたいだ!やべえ、そのまま飲み込まれてる。救出しようと近づいた兵士も次から次へとあのオバケ植物に取り込まれてる・・・

「植物が人間を取り込んでやがる・・・何じゃありゃ?どんどんデカくなってんぞ!」
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