上 下
66 / 79
雪原の覇者

雪原に散る

しおりを挟む
この野郎、俺には強欲の淵があるんだよ。そんなヘンテコ武器をいくらぶん回したところで当たらなきゃ意味がねーんだぜ?
だけどよぉ・・・その七支刀から意味不明なレーザーとか出したりするのだけは禁止な?

「勇者に聖剣とかいよいよ中二病の王道じゃあないの~。さぁさぁ盛り上がって参りました。」

「私をバカにできるのも今の内さ。君はすぐに許しを請うことになる。」

いいや、お前は相手がゴブリンだからって油断してるのが丸わかりなんだ。今まで俺はそんなヤツらを軒並み叩きのめして来たんだよ。勇者だろうが油断してると足をすくわれるってことを骨の髄まで思い知らせてやる。

「へっへっへ、どうかな?そうなるのはマサナリの方だと思うぜ。」

「ちなみにこれは聖なる剣ではなく征する剣だ。そろそろ行くけど良いかな?」

「そんなのどっちだって、うわぁっ!」

警戒してわざわざ距離をとっていたのに一瞬で距離を詰めて来やがった。やっぱ化け物じみたステータスだぜチクショー!だがそれだってしっかり計算に入ってる、強欲の淵を展開するにゃぁ十分な時間だ!

勇騎が驚きながらも冷静に将成の一撃に対処する素振りを見せたことに、将成もわずかな懸念を覚えた。

ユウキは転生者、それ故に何らかのギフトを隠しているはず。イソノカミの一撃に対抗する手段があるとでも言うのか?だが・・・勇者である私に匹敵するはずがない!

「な、何だとっ!」

将成が振り下ろしたはずのイソノカミは最後まで振り切られることなく、中途半端な位置でピタリと静止しているではないか。同時に将成は奇妙な時間の断絶を感じていた。

おかしい・・・どうやってイソノカミを止めた?いや、それよりもいま一瞬だけ世界が静止していなかったか!?何をした・・・これは絶対にギフトの正体は吐かせなければならない。

「はっ!そうだ、ゴブリンは・・・」

「ぐぅぅぅ・・・な、何で?」

将成がうめき声のする方向に目線を下げたところ、白銀の世界に似つかわしくない赤が目に飛び込んで来た。そこにはところどころ切りつけられて血を流す鎧姿がうずくまっている。

「そうだ・・・そうだとも。神の手によって導かれた私がそもそも膝を屈するなどあり得ない。正義とは常に垂直的に行使されるのだ、神の意志に刃向かう者は地に崩れ落ちる運命にある。」

将成が征剣イソノカミを天に掲げて勝利を宣言すると神兵たちから歓声がわき起こった。それもそのはず、勇者が自らのギフトを行使する奇跡のような瞬間をその目で確認できたのだ。

だがそれは冷たい雪の上でうずくまる勇騎にとって万雷の呪言に等しかった。

「ハァ、ハァ・・・チクショー」

俺の身体は今どうなってるんだ・・・あちこちから激痛が襲ってきててわけがわからねえ。一番の重症は腹部だ、スゲー痛え。アイツは剣を振り下ろしただけだったのに・・・何で?

「君があの短い時間で何かしようとしたから私もつい力が入ってしまったよ。軽く撫でるつもりが危うくユウキを殺してしまうところだった。だが結果的には君が受けるべき懲罰として丁度良かったのだろう。」

「何を・・・した」

「あぁ、コレかい?イソノカミは一度の剣撃を7倍にして行くんだ。初撃は7つの剣撃、二撃目は49の剣撃といった具合にね。どんな敵であろうと三撃目を繰り出す前に斃れてしまうよ。」

「く・・・」

「く?」

「・・・そった・・・れ」

「もう言葉もまともに話せないようだね。ガルノー読師、この者に死なない程度の回復処置を施したのち拘束しておきなさい。仮眠をとってから私がこの者を尋問します。」

***

遠くメドゥーヴィラが炎上している。数万のカルザール聖教国の軍隊が城壁内になだれ込んで今も止まない殺戮を続けているのだろう。そして都市国家を臨む聖教国軍の本陣から先ほど巨大な熱線が放出されたのをソフィアたちは確認していた。

あり得ないことが生じたとなれば、勇騎たちの身に何かあったとしか思えない。すると後方から急峻な坂道を駆け上って来たハヤテが見えた。

「見て、ハヤテよ!」

「おぉ良かった、無事だったのですね。」

しかしハヤテの背に勇騎の姿は無かった。ハヤテの周囲にホバー走行の雪煙も上がっていない。

「ユーキがいないわ!ハヤテ、ユーキはどうしたの?」

「クゥーン」

ソフィアの問いかけにハヤテも力なく耳を垂れる。言葉こそ通じないものの、ソフィアが勇騎の安否を気遣う気持ちは否応なくハヤテにも伝わった。

「やっぱりさっきの巨大な熱線で蒸発したのかもしれない・・・」

バカな・・・勇者さま本人が数日のインターバルを要するとおっしゃっていたのだ。まさか私は騙されていたというのか?そうだとしてもあの時私にウソを伝えなければならない理由など無かったはずだ。
しかし起こった出来事からして私の聞いていた話とは正反対の出来事が生じたのも事実。もしユーキさんがやられていたら・・・いや、まだそう断定するには早い。

「まだそうと決まったワケではありません、ソフィアさん。」

「でもこんなの事前に取り決めてなかったじゃない!こういうのに無駄に細かいのがユーキよ?ハヤテだけ帰って来るなんて絶対にオカシイもの!」

「落ち着いてください、ソフィアさん。ユーキさんにはデイトリッパーだってあります。」

「ねぇ、ザマル。トランセンデンタル・プロミネンスって数日は撃てないんじゃなかったの?オカシイわ・・・そんなのオカシイじゃない・・・ひどいわ。こんなのあんまりよ・・・」

ソフィアの目から涙がボロボロとこぼれ落ちる。その場に力なくへたり込んだソフィアに寄り添ったザマルだったが、炎上する都市国家と本陣とをぼんやりと見つめることしかできなかった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

目が覚めたら夫と子供がいました

青井陸
恋愛
とある公爵家の若い公爵夫人、シャルロットが毒の入ったのお茶を飲んで倒れた。 1週間寝たきりのシャルロットが目を覚ましたとき、幼い可愛い男の子がいた。 「…お母様?よかった…誰か!お母様が!!!!」 「…あなた誰?」 16歳で政略結婚によって公爵家に嫁いだ、元伯爵令嬢のシャルロット。 シャルロットは一目惚れであったが、夫のハロルドは結婚前からシャルロットには冷たい。 そんな関係の二人が、シャルロットが毒によって記憶をなくしたことにより少しずつ変わっていく。 なろう様でも同時掲載しています。

〈完結〉この女を家に入れたことが父にとっての致命傷でした。

江戸川ばた散歩
ファンタジー
「私」アリサは父の後妻の言葉により、家を追い出されることとなる。 だがそれは待ち望んでいた日がやってきたでもあった。横領の罪で連座蟄居されられていた祖父の復活する日だった。 十年前、八歳の時からアリサは父と後妻により使用人として扱われてきた。 ところが自分の代わりに可愛がられてきたはずの異母妹ミュゼットまでもが、義母によって使用人に落とされてしまった。義母は自分の周囲に年頃の女が居ること自体が気に食わなかったのだ。 元々それぞれ自体は仲が悪い訳ではなかった二人は、お互い使用人の立場で二年間共に過ごすが、ミュゼットへの義母の仕打ちの酷さに、アリサは彼女を乳母のもとへ逃がす。 そして更に二年、とうとうその日が来た…… 

【完結】悪役だった令嬢の美味しい日記

蕪 リタ
ファンタジー
 前世の妹がやっていた乙女ゲームの世界に転生した主人公、実は悪役令嬢でした・・・・・・。え?そうなの?それなら破滅は避けたい!でも乙女ゲームなんてしたことない!妹には「悪役令嬢可愛い!!」と永遠聞かされただけ・・・・・・困った・・・・・・。  どれがフラグかなんてわかんないし、無視してもいいかなーって頭の片隅に仕舞い込み、あぁポテサラが食べたい・・・・・・と思考はどんどん食べ物へ。恋しい食べ物達を作っては食べ、作ってはあげて・・・・・・。あれ?いつのまにか、ヒロインともお友達になっちゃった。攻略対象達も設定とはなんだか違う?とヒロイン談。  なんだかんだで生きていける気がする?主人公が、豚汁騎士科生たちやダメダメ先生に懐かれたり。腹黒婚約者に赤面させられたと思ったら、自称ヒロインまで登場しちゃってうっかり魔王降臨しちゃったり・・・・・・。もうどうにでもなれ!とステキなお姉様方や本物の乙女ゲームヒロインたちとお菓子や食事楽しみながら、青春を謳歌するレティシアのお食事日記。 ※爵位や言葉遣いは、現実や他作者様の作品と異なります。 ※誤字脱字あるかもしれません。ごめんなさい。 ※戦闘シーンがあるので、R指定は念のためです。 ※カクヨムでも投稿してます。

【完結】義妹とやらが現れましたが認めません。〜断罪劇の次世代たち〜

福田 杜季
ファンタジー
侯爵令嬢のセシリアのもとに、ある日突然、義妹だという少女が現れた。 彼女はメリル。父親の友人であった彼女の父が不幸に見舞われ、親族に虐げられていたところを父が引き取ったらしい。 だがこの女、セシリアの父に欲しいものを買わせまくったり、人の婚約者に媚を打ったり、夜会で非常識な言動をくり返して顰蹙を買ったりと、どうしようもない。 「お義姉さま!」           . . 「姉などと呼ばないでください、メリルさん」 しかし、今はまだ辛抱のとき。 セシリアは来たるべき時へ向け、画策する。 ──これは、20年前の断罪劇の続き。 喜劇がくり返されたとき、いま一度鉄槌は振り下ろされるのだ。 ※ご指摘を受けて題名を変更しました。作者の見通しが甘くてご迷惑をおかけいたします。 旧題『義妹ができましたが大嫌いです。〜断罪劇の次世代たち〜』 ※初投稿です。話に粗やご都合主義的な部分があるかもしれません。生あたたかい目で見守ってください。 ※本編完結済みで、毎日1話ずつ投稿していきます。

【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?

みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。 ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる 色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く

僕の家族は母様と母様の子供の弟妹達と使い魔達だけだよ?

闇夜の現し人(ヤミヨノウツシビト)
ファンタジー
ー 母さんは、「絶世の美女」と呼ばれるほど美しく、国の中で最も権力の強い貴族と呼ばれる公爵様の寵姫だった。 しかし、それをよく思わない正妻やその親戚たちに毒を盛られてしまった。 幸い発熱だけですんだがお腹に子が出来てしまった以上ここにいては危険だと判断し、仲の良かった侍女数名に「ここを離れる」と言い残し公爵家を後にした。 お母さん大好きっ子な主人公は、毒を盛られるという失態をおかした父親や毒を盛った親戚たちを嫌悪するがお母さんが日々、「家族で暮らしたい」と話していたため、ある出来事をきっかけに一緒に暮らし始めた。 しかし、自分が家族だと認めた者がいれば初めて見た者は跪くと言われる程の華の顔(カンバセ)を綻ばせ笑うが、家族がいなければ心底どうでもいいというような表情をしていて、人形の方がまだ表情があると言われていた。 『無能で無価値の稚拙な愚父共が僕の家族を名乗る資格なんて無いんだよ?』 さぁ、ここに超絶チートを持つ自分が認めた家族以外の生き物全てを嫌う主人公の物語が始まる。 〈念の為〉 稚拙→ちせつ 愚父→ぐふ ⚠︎注意⚠︎ 不定期更新です。作者の妄想をつぎ込んだ作品です。

義母に毒を盛られて前世の記憶を取り戻し覚醒しました、貴男は義妹と仲良くすればいいわ。

克全
ファンタジー
「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。 11月9日「カクヨム」恋愛日間ランキング15位 11月11日「カクヨム」恋愛週間ランキング22位 11月11日「カクヨム」恋愛月間ランキング71位 11月4日「小説家になろう」恋愛異世界転生/転移恋愛日間78位

【完結】私だけが知らない

綾雅(りょうが)祝!コミカライズ
ファンタジー
目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。 優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。 やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。 記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。 【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ 2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位 2023/12/19……番外編完結 2023/12/11……本編完結(番外編、12/12) 2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位 2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」 2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位 2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位 2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位 2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位 2023/08/14……連載開始

処理中です...