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雪原の覇者

情に棹さして盛大に流される

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そう言えばスタンピードを鎮圧した時に民衆の間でマリーを讃える歌とかが流行ったんだっけ?そのうち尾ひれがつき始めて、いろいろ設定が盛られた挙句に伝説っぽくなったんだろう。

その功罪は別として、マリーを今さら厄介事に巻き込むなんざ断固許さんよ俺は。もちろん俺はザマルの抱いている幻想のことごとくをぶっ壊してやったわけだが・・・

「そうなのか・・・奇跡のほぼ全てが作り話だったとは。ユーキさんのおっしゃるとおり、ヴェラン伯爵は勇者さまを止めるに足る力までは無いのですね。」

「マリーだって強いっちゃ強いんだけど決して人間の域を出ないよ。さすがに都市国家の城壁をまるごとぶち抜く化け物の相手はさせられないなぁ。」

「・・・わかりました。伯爵と共に戦ったユーキさんがおっしゃるのなら疑いをはさむ余地がありません。」

マリーに対する期待が相当大きかったのだろう、ザマルが途方に暮れるかのようにうなだれている。気の毒だがこればかりはどうしようもない。

「でも、どうするつもりなの?シドグルブの次に犠牲になる都市国家がまだまだ出てくるのよね?」

「都市国家の防備は堅いので勇者さまの力が無ければ、厳しい気候も相まってカルザールの討伐軍も攻め落とし切れないのです。これまで数次の北方征伐が行われましたが、勇者さまが参加した今回を除いて全て失敗に終わっていましたから。勇者さまさえ何とかできれば・・・。もう一度私が説得するしかない。」

思いつめた表情でザマルがつぶやく。見ず知らずの他人の不幸を自らの力不足と考えているのだろう。だが一人の人間ができることには自ずと限界があるし、それでも敢行するならば行き着く先は破滅だ。

「そもそも説得できるような相手なら、ザマルが追われるハメにはならなかったはずだって。次は問答無用で殺されるぜ?」

「私とてそれなりに魔術の心得はあります。戒律に背くことになりましょうが、刺し違えてでも勇者さまをお諌めします。」

「物騒なこと言うなよ。ザマルがいなくなったら赤ん坊も悲しむって。」

「しかし私が体を張ってでも止めて見せねば・・・。あのような悲しみが繰り返されるのを見過ごすことはできません。」

この野郎、何でそんなに死に急ぐってんだよ?俺はなんとしても生きたくて無様に土下座して泣きついたことだってあるんだ。とにかく死にたくなくて今まで死にものぐるいで生存にしがみついたってのに!
お前みたいな徳の高い人間が自分を犠牲にしたって、それは大きな過ちが積み上がるだけなんだよ。何で理解しないんだ!

「せっかく助けたのに、助けたそばから生命をなげうつのか?ふざけんなよ?」

「ちょっとユーキ、ザマルだってワケもわからず巻き込まれただけなんだから。そんなキツい言い方じゃなくて、もうちょっと冷静に話してよ。」

「悪いな、俺は口が悪いんだ。口調に関わらず今の俺は冷静だよ。だって考えても見ろよ、刺し違える前に消し炭にされるのがオチじゃないのか?城壁が蒸発したって言ったのザマルだぜ?犬死だ。」

「ユーキさんのおっしゃるとおりです。犬死とそしられても反論の余地はありません。ですが」

「いいや、死にたがり野郎の言い訳なんて俺ぁ聞かないね。そんなのハナから聞く価値すらねーや。アンタは自分の罪悪感から逃げたくてそんなこと言ってるにすぎない。」

「そんなことありません!」

ザマルが珍しく大きな声で俺の指摘を否定した。ザマルの言葉に気圧された俺は呆れるとともに腹も立ったが、怒りにまかせてもの別れに終わるのもつまらない。ここは頭を冷やして話を変えよう。

「ザマル、何で赤ん坊を助けた?」

「何故ですって?問うまでもありません。生まれたばかりの無垢な赤子が私たちの勝手な都合で生命を奪われて良いはずがないではありませんか!」

「じゃあお前が死にものぐるいで助けた生命をあの子が粗末にして、お前は納得するかね?」

「それは・・・」

「俺はお前の生命を助けた以上、それを粗末にすることは断じて許さんね。」

「そもそも私とあの子では」

「違わないね!助けられたことをありがた迷惑だとあの子が言うかもしれないぞ?あの子の意思なんて確認しちゃいない、ザマルだって生きて欲しいという自分勝手な願望をあの子に押し付けたんだ。俺がザマルに同じ願望を押し付けて何が悪い?それになぁ、助けたのなら最後まであの子に責任持てよ。」

「くっ・・・何も言い返せません。私はどうすれば・・・」

ふぅ、最後は理屈抜きに情でねじ伏せてやった。この頑固な聖人はこうでもして止めてやらにゃあ自分を犠牲にしちまう。後味は悪いものの、せいぜい俺ができるのはこの程度さ。

「ねぇ、ユーキ?」

「ん?どうしたんだソフィア?」

「その理屈で行くと~、ユーキもザマルを助けたんだから最後まで責任持つってことよね?」

「あ!・・・あぁ、当然じゃないかソフィアくん。」

後先考えず自分の口が動くままにザマルを引き止めてやろうって頭しか無かったからなぁ・・・。そりゃあ第三者のソフィアは俺が何を口走ったのかよくわかってるよね。わかってくれよ~、だって仕方ないじゃん?

「いったいその間は何なの?というか、ここで重要になるのは責任の中身が何なのかってことよね?」

こりゃあ少し譲歩しとくべきかもなぁ。もともと俺だってマサナリに会いに行ってたんだ。

「まぁ、実は俺もそのマサナリってヤツに用事があって北方に向かってたんだよ。無茶をしないって約束してくれるんならザマルがマサナリと接触する協力くらいはできるかもしれない。決して刺し違えるだなんて考えるなよ?責任ってもそのくらいかなぁ・・・」

「お約束いたします、どうか機会をいただけませんか?」

ザマルの目を見ると力強い光が宿っているようにも見える。それは俺の気のせいなのかもしれない、だがザマルは誠実な男だ。そんなら俺もザマルを信じようじゃないか、決して約束を違えるようなヤツじゃない。

「確約できないけど全力は尽くそう。」

「ダメよ、責任持ちなさいなユーキ?」

どうやら俺が強引にザマルをねじ伏せたのをソフィアはこころよく思っていないらしい。いや、俺も本当はこんなの申し訳ないとは思うんだよ?

「いや・・・ソフィアちゃん、だからそれはね~。・・・やめだ、俺も筋の通らない話でザマルを責めたって心当たりはあるんだ。謝るからあんまりイジメないでください。」
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