上 下
62 / 79
雪原の覇者

それ何者?

しおりを挟む
「ユーキ、腹が減ったぞ。」

さすがに我が家だけあって警戒心のカケラもないハヤテは気軽にザマルの前に姿を現した。

「あの狼は・・・」

やはり室内で大きい狼が闊歩していれば、気にならない方がオカシイよなぁ・・・。ハヤテさん、自分のペースを崩さないっスね。人馴れしすぎじゃない?

「あぁ、アイツは俺の相棒のハヤテ。ここで一緒に暮らしてるんだ。」

「なるほど、ユーキさんはゴブリンライダーということなのですね。そういえばココはどこの都市国家です?まだ安全なようですが・・・」

「えぇとー・・・」

ちょっと答えづらいなぁ、どうしたもんかね?・・・ん、何だろう?ソフィアのヤツ、何か思いついたのか?
勇騎が答えにくそうに生返事を返している横で、ソフィアが何か目を丸くして手を叩いたのが見えた。

「そう言えば私もココがどこなのか知らないわ。ねぇ、そろそろ教えなさいよ。」

「おや?ソフィアさんのお家ではないので?」

ちっ!ソフィアめ、余計なことを。前に理由は話しただろうがよ。

正直なところ隠れ家の場所だけは詳しいことを話したくない・・・。もちろん話を聞く限りザマルは悪いヤツじゃないのはわかるんだが、この所在地を知られてしまうと後々解放するのが不安になっちまう。俺にとっちゃ、この世界でたった一つのセーフハウスだもんなぁ。

「う~ん・・・ここは俺の隠れ家なんだ。つまり相手が誰であろうと場所は明かせない。ただ、ここは北方諸国じゃねーのよ。」

「は?まさか・・・」

ザマルは自らが横たわっていたベッドから起き上がるとヨロヨロと窓辺に歩いて行く。

「おい、まだ激しい動きは・・・どうした?」

「雪が・・・無い?」

「まぁ一度落ち着こう?・・・な?」

おぉ、混乱しとる。そらそうなるわな。

ちょっと話題を変えねぇと。それこそつじつまの合う理屈を考え始めたら、答えを聞かずにはいられなくなっちまうからなぁ。

「そんなに私は寝込んでいたのだろうか・・・」

「あれから6時間くらいじゃないかしら?」

「6時間?ご・・・ご冗談を。そんな時間で私をこのような雪の無い温暖な地域に?」

ヤバい・・・せっかくザマルが勝手に納得してくれそうな流れだったのに。ソフィアのヤツ、見事に流れをぶった切りやがった。ソフィアがいたらややこしくなるから遠ざけよう。うん、それがいい。

「まぁ、そこはあまり深く考えずにだなぁ・・・」

ユーキが面倒くさそうにソフィアにシッシと手を振ってジェスチャーするが、お構いなしにソフィアがまたもブッこむ。

「転移で跳んだのよ。驚いた?」

「あ・・・えぇ?」

信じらんねー、向こう行けっつってんのに更にかき混ぜやがったぜ。見てみろ、ザマルの混乱に拍車がかかってるじゃんよ。こんにゃろめ!

「痛っ!何すんのよユーキ?」

「わざわざ言わなくていいことまでバカ丁寧に教えるこたぁないだろうがよ?」

「何よ?ユーキがここは北方諸国じゃないって教えたんじゃない。だったらどうやって遠い北方からここまで来たのか教えてあげなきゃザマルが気の毒でしょ?」

ソフィアが口を尖らせて勇騎に文句を言う。

「なるほど、わざわざ教えなくていいことを教えてたのは俺も一緒だったか。そらぁ自分のマヌケさを棚に上げといてソフィアを責められんなぁ。てへっ、メンゴメンゴ!」

さっきソフィアをヒジで軽く小突いてやったけど短気はいかんね。

「んも~」

「転移?・・・本当に転移なのですか?」

「あぁ、そうだ。だけど秘密な?」

「ユーキったらさっきはあんなに大慌てしてたくせに、意外にノリが軽いのね?」

「だって今さら隠したって無駄じゃん?そしてこれからは転移って言葉使うの禁止な。」

「はぁ?言わなきゃいけない場面だってあるかもしれないわ。」

「う~ん、そんな場面なんてあるのかねえ?そんなら代わりに・・・デイトリッパーとでも言うか?」

「何それ?」

「どれほど遠くへと出かけようとも宿泊や野営することなく帰って来られるんだ。つまりはどんな冒険の旅だって俺は日帰り旅行にしちまえる。そんな具合で何となくこの隠語が思い浮かんだ。」

しかしながら今になってしみじみと思う。ありがとうクロヴィウス、すごく活用してるよ!

「私もそれが良いと思います。転移が使えることが下手に広まれば面倒事も増えるでしょうから。」

「あっ、理解が早くて助かりま~す。ほんじゃ~ここだけの秘密にしといてよ、ザマル。」

「もちろんです。」

「あぁ・・・普段あまりにもユーキの転移で移動することに慣れすぎてすっかり忘れてたわ。これから言葉にする時はデイトリッパーね。」

「我のこと忘れてない?大事なことだからもう一度言うぞ、ユーキ。腹が減った。」

ハヤテさんはそんじょそこらの狼とは一味違う。何つっても待てができる意識高い系だから、ちょっとやそっとじゃ俺のことお昼ゴハンにしたりしないんだぜ?スゴかとやろ?

でもあんまり焦らすと本気でスネるからそろそろ準備してやらんといかんな。

「ハヤテからメシの催促が来てるから、取り敢えず何か食べようぜ?」

***

「うかない顔してるけど、どうしたんだ?もしかして口に合わなかったか?」

美味しかったんだけどなぁ、もてなすって難しいもんだね。

「いいえ、とんでもない!こんなに美味しい食事にありつけるのも久しぶりです。」

「当然よ、私が食事当番だもの。ユーキ、アンタ私の料理にケチつける気?」

「いや、いつもの如くめっちゃ美味かった。」

自信たっぷりなだけあってソフィアの作る料理は美味い。いま食べた料理はサッと作ったものだったが、手間ヒマと時間をかけた料理はもっと美味い。
よほどエレノアさんから料理の腕を仕込まれているようだ。俺のなんちゃって料理とは全く次元が異なる。これまたソフィアの焼くパンも美味いんだ。今回のパンは強欲の淵に保管しておいた焼きたてのストックを引っ張り出したけどね。

「じゃあもっと幸せそうな顔をしてもらいたいわ。」

今度はソフィアがザマルに不満をぶつける。だがザマルの口から語られた理由はムリも無いと思えるものだった。

「す、すみません。今も戦火の中にあるであろう北方諸国の民を思うと、私だけがこのような幸せをのんびりと享受していて良いのだろうかと思いまして・・・」

「う~ん、でもコレだってアンタらが言うところの神の思し召しとやらじゃあないの?俺はよく知らんけどね。」

「今もこうしている間に多くの悲しみが生じているのです、ユーキさんのおっしゃるとおり神が私に何かをさせようと生かしたのかもしれませんね。せめて勇者さまをお止めすることができれば・・・はっ!」

「どうしたんだ、ザマル?」

「ヴァルキリーマリアならば勇者さまを」

名前だけ聞くとメチャメチャ強そうだよなぁ。

「なぁ、さっきっからチョイチョイ聞くヴァルキリーマリアって誰なんだ?」

「えっ!?」

「どうしたソフィア?心当たりでもあんの?」

「いや、ってか何でアンタが知らないのよ?とぼけてたんじゃなかったの?」

「自慢じゃないがそんなヤツ知らん!逆に何で俺が知ってるって前提なのよ?」

「ユーキさんはスタンピードを鎮圧したバシレウス王国の英雄をご存知ありませんか?」

「えっ!マリーのことだったの?」

「ん?ということはユーキさんがヴァルキリーマリアを支援したゴブリンなのですね?」

「そ、そういうことなのか?多分・・・というか絶対そうだな。マリーがマリア?あぁ、そういうことか。でもヴァルキリーって何だ?・・・まぁ今はどうでもいいや。」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く

ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。 5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。 夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…

目が覚めたら夫と子供がいました

青井陸
恋愛
とある公爵家の若い公爵夫人、シャルロットが毒の入ったのお茶を飲んで倒れた。 1週間寝たきりのシャルロットが目を覚ましたとき、幼い可愛い男の子がいた。 「…お母様?よかった…誰か!お母様が!!!!」 「…あなた誰?」 16歳で政略結婚によって公爵家に嫁いだ、元伯爵令嬢のシャルロット。 シャルロットは一目惚れであったが、夫のハロルドは結婚前からシャルロットには冷たい。 そんな関係の二人が、シャルロットが毒によって記憶をなくしたことにより少しずつ変わっていく。 なろう様でも同時掲載しています。

〈完結〉この女を家に入れたことが父にとっての致命傷でした。

江戸川ばた散歩
ファンタジー
「私」アリサは父の後妻の言葉により、家を追い出されることとなる。 だがそれは待ち望んでいた日がやってきたでもあった。横領の罪で連座蟄居されられていた祖父の復活する日だった。 十年前、八歳の時からアリサは父と後妻により使用人として扱われてきた。 ところが自分の代わりに可愛がられてきたはずの異母妹ミュゼットまでもが、義母によって使用人に落とされてしまった。義母は自分の周囲に年頃の女が居ること自体が気に食わなかったのだ。 元々それぞれ自体は仲が悪い訳ではなかった二人は、お互い使用人の立場で二年間共に過ごすが、ミュゼットへの義母の仕打ちの酷さに、アリサは彼女を乳母のもとへ逃がす。 そして更に二年、とうとうその日が来た…… 

【完結】悪役だった令嬢の美味しい日記

蕪 リタ
ファンタジー
 前世の妹がやっていた乙女ゲームの世界に転生した主人公、実は悪役令嬢でした・・・・・・。え?そうなの?それなら破滅は避けたい!でも乙女ゲームなんてしたことない!妹には「悪役令嬢可愛い!!」と永遠聞かされただけ・・・・・・困った・・・・・・。  どれがフラグかなんてわかんないし、無視してもいいかなーって頭の片隅に仕舞い込み、あぁポテサラが食べたい・・・・・・と思考はどんどん食べ物へ。恋しい食べ物達を作っては食べ、作ってはあげて・・・・・・。あれ?いつのまにか、ヒロインともお友達になっちゃった。攻略対象達も設定とはなんだか違う?とヒロイン談。  なんだかんだで生きていける気がする?主人公が、豚汁騎士科生たちやダメダメ先生に懐かれたり。腹黒婚約者に赤面させられたと思ったら、自称ヒロインまで登場しちゃってうっかり魔王降臨しちゃったり・・・・・・。もうどうにでもなれ!とステキなお姉様方や本物の乙女ゲームヒロインたちとお菓子や食事楽しみながら、青春を謳歌するレティシアのお食事日記。 ※爵位や言葉遣いは、現実や他作者様の作品と異なります。 ※誤字脱字あるかもしれません。ごめんなさい。 ※戦闘シーンがあるので、R指定は念のためです。 ※カクヨムでも投稿してます。

「おまえを愛することはない!」と言ってやったのに、なぜ無視するんだ!

七辻ゆゆ
ファンタジー
俺を見ない、俺の言葉を聞かない、そして触れられない。すり抜ける……なぜだ? 俺はいったい、どうなっているんだ。 真実の愛を取り戻したいだけなのに。

【完結】義妹とやらが現れましたが認めません。〜断罪劇の次世代たち〜

福田 杜季
ファンタジー
侯爵令嬢のセシリアのもとに、ある日突然、義妹だという少女が現れた。 彼女はメリル。父親の友人であった彼女の父が不幸に見舞われ、親族に虐げられていたところを父が引き取ったらしい。 だがこの女、セシリアの父に欲しいものを買わせまくったり、人の婚約者に媚を打ったり、夜会で非常識な言動をくり返して顰蹙を買ったりと、どうしようもない。 「お義姉さま!」           . . 「姉などと呼ばないでください、メリルさん」 しかし、今はまだ辛抱のとき。 セシリアは来たるべき時へ向け、画策する。 ──これは、20年前の断罪劇の続き。 喜劇がくり返されたとき、いま一度鉄槌は振り下ろされるのだ。 ※ご指摘を受けて題名を変更しました。作者の見通しが甘くてご迷惑をおかけいたします。 旧題『義妹ができましたが大嫌いです。〜断罪劇の次世代たち〜』 ※初投稿です。話に粗やご都合主義的な部分があるかもしれません。生あたたかい目で見守ってください。 ※本編完結済みで、毎日1話ずつ投稿していきます。

【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?

みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。 ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる 色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く

僕の家族は母様と母様の子供の弟妹達と使い魔達だけだよ?

闇夜の現し人(ヤミヨノウツシビト)
ファンタジー
ー 母さんは、「絶世の美女」と呼ばれるほど美しく、国の中で最も権力の強い貴族と呼ばれる公爵様の寵姫だった。 しかし、それをよく思わない正妻やその親戚たちに毒を盛られてしまった。 幸い発熱だけですんだがお腹に子が出来てしまった以上ここにいては危険だと判断し、仲の良かった侍女数名に「ここを離れる」と言い残し公爵家を後にした。 お母さん大好きっ子な主人公は、毒を盛られるという失態をおかした父親や毒を盛った親戚たちを嫌悪するがお母さんが日々、「家族で暮らしたい」と話していたため、ある出来事をきっかけに一緒に暮らし始めた。 しかし、自分が家族だと認めた者がいれば初めて見た者は跪くと言われる程の華の顔(カンバセ)を綻ばせ笑うが、家族がいなければ心底どうでもいいというような表情をしていて、人形の方がまだ表情があると言われていた。 『無能で無価値の稚拙な愚父共が僕の家族を名乗る資格なんて無いんだよ?』 さぁ、ここに超絶チートを持つ自分が認めた家族以外の生き物全てを嫌う主人公の物語が始まる。 〈念の為〉 稚拙→ちせつ 愚父→ぐふ ⚠︎注意⚠︎ 不定期更新です。作者の妄想をつぎ込んだ作品です。

処理中です...