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雪原の覇者

才能と階級

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「親の権威を振りかざしてやりたい放題じゃないか。あれではロクな大人にならないぞ。ん、どしたんな?」

「ユーキには恥ずかしいところ見せちゃったわね。」

「うん、慣れてる。」

「ちょっと、聞き捨てならないわ!今のどういうことよ?」

やばい、急にソフィアがしおらしくなったもんだからナチュラルに本音が出ちまった。こりゃぁ急いで話をそらさないと・・・。
よし、持ち上げちゃる。ちょいとホメ殺しじゃい。

「まぁまぁ、でも魔術学院の特待生ってすごいじゃないか。特待生なんてそんなにいないんだろ?」

「まぁね、王国に10人しかいないわ。魔術学院の学費を考えれば余程のことがない限り、平民出身者が入学するには特待制度を利用する以外にないわね。」

「10人?お前どんだけすごいんだよ!だからそんなに魔術に思い入れがあるのかぁ。」

こりゃぁたまげた。ソフィア自身が言うだけあって腕に自信があるのかもしれない。ちょいとホメ転がしてやろうと思ってたら、こいつマジもんのエリートだった・・・。でもそれなら何故アーレンで冒険者するなんて話になるんだ?たまにハンスさんのパーティーに入れてもらってたんだっけ?

「私だって将来は魔術師団に入るって夢があったのよ。もう途絶えた夢だけどね。」

「特待生になるのも大変だったんだろ?そんな簡単にあきらめちゃうのか?」

この世界じゃ目指したって届かないようなエリートの登竜門と言っても間違いないはずだ。特に上昇が極めて難しいクソ身分制社会ではなぁ。

「ユーキも見たでしょ?魔術学院ってとにかくくだらないのよ。」

「え?」

「平民の特待生は魔術学院のトップになることは許されないのよ。そんな学生だけの不文律があるって馬鹿みたいでしょ?だからそんな不文律、ぶっ飛ばしてやったのよ。自分を磨くために魔術学院に入ったのに、全力で切磋琢磨できないなんておかしいじゃない。貴族の子弟のメンツを守るために魔術学院があるわけじゃないのよ。」

王国全土から集まった10人の神童だものなぁ。特待生は皆ずば抜けて優秀だから、何も考えずに入学できる貴族のボンボンは歯が立たないのも考えりゃ当然だ。
なるほど・・・社会的権勢にしても学院内でのアタマ数にしても圧倒的優位にある貴族の子弟たちがこうやって神童たちに重い足かせをつけて沈めているわけか。つまらん社会の縮図ごときが時空を超えて来んなっての!

「ふふっ、はっはっは!」

「何よ!笑うことないじゃない。」

「ひぃーひっひ、ごめんよソフィア。俺はお前のそういう真っ直ぐなところ大好きなんだ。実にソフィアらしい。たしかにそんな不文律なんざクソくらえだ。絶対にお前が正しいよ。嫉妬に駆られたやつらがよってたかって嫌がらせってわけか?」

「そうなのよ、もう馬鹿馬鹿しくなっちゃった。こんなところこっちから願い下げだっての。頭に来て飛び出してやったわ。せいぜい名ばかりの首席にしがみ付いているといいのよ。」

ソフィアも強がってはいるが、そんなに簡単に割りきれるような話ではないはずだ。誰よりも悔しい思いをしているのは間違いない。
一時期ソフィアは酒に溺れていたが、なるほどこういうことか。生水よりもはるかに安全なビールやワインは未成年も飲めるんだよな、この世界って。

「それにしてもだ、こんなフザケたことは断じて許さんぞ!俺が何とかしてやる。あまりほめられた話ではないが、アンリに相談してみるか。」

「ちょっと、やめてよね。そんなことされたって、ちっとも嬉しくないわ。権力でやり返すなんてあいつらと一緒じゃないの。もう良いのよ、今さら気にしてないわ。」

「虎の威を借るキツネって点は俺もまったく一緒だな。浅はかだったよ。」

「ううん、私のために行動しようとしてくれる人がここにもいてくれたんだから嬉しいわ。」

「ん?ここにもってどういうことだ。」

「ルームメイトの子がね。その子は貴族なんだけど私を守ってくれたんだ。けど今度はその子までターゲットにされちゃって。」

もう俺は泣きそうだ。自分のせいで友達までツラい目に会うようになったら、俺だってガマンできないよ。

「なぁ、だったら他に何かできることって無いのか?」

「そうねぇ・・・、あるわよ。」

「何でも言ってよ。」

「いつも言ってるでしょ。魔術を究めるための手伝いをしてほしいって。」

「また際限のないこと言ってからに。」

そうか、ソフィアは魔術学院への失望を埋め合わせるほど大きな希望をクロヴィウスに見出したってことなのか。だったらそれにつき合ってやるのが心意気ってやつなのかもしれねぇなぁ。

「ふふふ。」

「はっはっは。」

***

あの貴族の子弟どもに告発されることは間違いなさそうなので、事前に話を通しておくのが無難だろう。せっかく王都にいるんだから国王に顔を見せるついでにそれとなくね。

「ありゃ?ミシェルだけか?」

勇騎がいつものように親衛隊士に案内された先には独りでポツンと椅子に腰かけているミシェルがいた。ほとんどの場合はこの部屋でアンリがご隠居さまよろしく王宮の人間を誰となくつかまえて談笑しているのに、今日は忙しいのだろうか?

「ユーキではないか!よく来てくれたなぁ。」

ミシェルはまるで主人の帰りを待ちわびた子犬のようにユーキを迎える。目をキラキラさせて全身で喜びを現しているかのようだ。だが次の瞬間、いきなり他人行儀になってしまった。
あぁ・・・そういやソフィアは初めて連れて来たんだった。大丈夫、大丈夫。そんな肩肘張るようなヤツじゃないからソフィアは。

「その者は連れか?」

「やあミシェル、この子はテリトワールの販売をお願いしている商人の娘なんだ。」

「お初にお目にかかります、ミシェル殿下。私はソフィア=バーリンと申します。なにとぞお見知りおきいただきますようお願い申し上げます。」

何だ?ソフィアもこんな社交マナーを身につけているのか。こんな立ち居振る舞いできるやつだったなんて知らなかったぞ。

一段腰を低くして整った礼をするソフィアを勇騎は思わずガン見してしまった。別人やんけ・・・誰がブリっ子ソフィアちゃんになれ言うたのよ?

「うむ、苦しゅうない。私も大いにテリトワールを楽しんでいるのだ。これからも競技の発展に尽くして欲しい。」

「過分なお言葉痛み入ります、殿下。」

「うーん、固いなぁ。やっぱり誰もいないからもっと楽に話そうよ。肩こっちゃうんだよね。ユーキと同じように私のことはミシェルって呼んで。かしこまらなくて良いからさぁ。」

「え?・・・えぇーっ!」

ガラリと言葉も態度も軟化した第二王子にさすがのソフィアも度肝を抜かれたようだ。言うてミシェルも12歳、比較的に歳の近いソフィア相手に公的振る舞いをするのも退屈でウンザリなんだろう。まぁここはプライヴェート空間だから俺もそれが良いと思うよ。

「はっはっは、自由だなぁ次男坊。ミシェルもこう言ってるし、そうしてやれよ。まだ若いのに5年も幽閉されていたから気安く笑いあえる友達もまだまだ少ないんだよな?」

「ユーキ、そんなことバラされたら私の立場が無いじゃないか。それに友はいるんだ、はるか年上の近衛兵ばかりだがなぁ。あっはっは。」

「あら、私もミシェル様のお友達になれるかしら?」

「もちろん歓迎だよソフィア。手始めにコレで勝負しよう、今日はみな忙しいらしくて相手がいなかったんだ。」

「そうか、アンリとシャルルが何やら難しい問題について話し込んでいるのか。そりゃぁ王国の一大事なのかもしれないなぁ。間が悪かったか?」
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