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伏魔殿で踊れ

お客様はゴブリン様です

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勇騎たちがそのまま衛士の言葉通りにしばらく進むとジョセフ・バーリン商会の看板を確認することができた。たぶんここで間違いはないだろう。
それにしても雑貨店なのだろうか、様々な商品が並べられているようだ。使い勝手の良さそうなモノもあるので、お金と時間に余裕があればゆっくりと買い物したいもんだね。
広い店内を覗くと奥に見知った顔を見つけて、フェイスガードの裏で密かに勇騎はニヤニヤする。

「いらっしゃいませ。」

ジョセフはこちらに気づいたようだ。人懐っこい笑顔で入店する客を迎えた。久しぶりだけどどんな顔するかなぁと勇騎は茶目っ気たっぷりにいろいろとアプローチを考えてみる。ワクワクしながらまっすぐに店主の前までぐんぐんと進んでいくと、客の用向きを慮った店主が声をかけた。

「おや、何かお探しでしょうか?」

「ジョセフさん、お久しぶり。ユーキです。」

「はて?」

ユーキという名前にジョセフは人間でそんな珍しい名前の知り合いいただろうかと一瞬考えた。しかし急にかぶりを振ると命の恩人の顔を思い浮かべて驚愕の声を上げた。

「な、何ですと!ユーキさん?どうしたんですか?こ、ここじゃ何ですのでどうぞ奥へ。」

するとジョセフの驚く声を聞いたソフィアが不思議そうな顔をして奥から現れた。

「父さん、どうかしたの?あら何よその子。」

「よう!ソフィア。」

「はぁ?その声もしかして。あんたユーキよね、ってかユーキだわ!どうやって入ったのよ?」

「ふふっ。その反応が見たかったんだ、素晴らしいよソフィア。堂々と正門から入ったんだが、手段はもうじき明らかになる。」

一通りドッキリ大作戦が成功し勇騎はフェイスガードの裏で満足げな表情を浮かべる。

「あら、ファーウルフも一緒だわ。あんた首輪ついてるじゃない。ふふふ、今度はユーキたちが我が家に来たのね。」

前回、全く関わらなかったハヤテがよろしくとばかりにソフィアの臭いを嗅いでいる。ソフィアはハヤテを優しく撫でまわした。

***

軽めのジャブで鮮やかな先制パンチを決めると、勇騎たちはそのまま店舗の二階に招かれた。ハヤテは流石に上げられないので裏手に停めた馬車で待機している。
招かれた先の応接室では、落ち着いた雰囲気の女性が飲み物を出すついでに挨拶に現れた。

「その節はジョセフを助けてくださり、ありがとうございました。ジョセフの妻のエレノアと申します。」

「エレノアさん、はじめまして。俺はユーキ。ジョセフさんには俺もすごーくお世話になってるんだ。むしろ感謝するのは俺の方さ。」

さすがにゴブリンが家の敷居を跨ぐなんて想像してなかったろう。伯爵邸では夫人が俺を見る目が半端なかったから覚悟していたんだが、案外すんなり受け容れてもらえたのかな?

「まさかユーキさんが今度は伯爵様の使いとしていらっしゃるとは。」

「はっはっは、ジョセフさんならずともあまりの急展開に俺自身が驚いているくらいさ。しかし想像してたよりもはるかに立派なお店だね、驚いたよ。」

「ユーキは知らないだろうけど前はもっと小さかったのよ。でもユーキと関わってから何度かまとまったお金が入って来て、あっという間に規模も大きくなったの。今じゃ私もてんてこ舞いよ。」

正直に褒めたところ店主のジョセフよりもソフィアの方がはるかに嬉しそうにしている。自分も手伝って店舗を運営していることが誇らしいのだろう。ソフィアは奔放な性格だが、こういう素直なところは人を惹きつける魅力でもあった。
ならばこの良い流れに乗って仕事の話を切り出すとしよう。

「そりゃあ良かった。じゃあついでにもう一つデカい商売やってみる気ないかい?せっかく太い客を引っ張って来たんだ。」

「何と!ぜひともお話をうかがってもよろしいですか?」

勇騎の提案に終始にこやかだったジョセフがにわかに商人の顔を見せる。

「トマスさん、マリーからの書状を。」

「ええ、こちらです。どうぞお目通しを。」

「お預かりします、熱っ!」

貴族からの用向きなど初めてなのか、落ち着かないジョセフが自分のお茶をひっくり返すアクシデントはあったものの、気を取り直して封蝋を解いて書状に目を通した。

「失礼いたします。ほう、なるほど。しかしこれだけの量をどうするおつもりで?」

「用途は明かせないけど、これって集まるかなぁ?」

「ええもちろん。この街だけではなく、すぐ近くの街や村からも用立てることはできますからな。今からですと・・・明日の夕方までには必ずかき集めて見せますとも。」

まだ時間はあるけれども他の場所の準備もあるので、手に入れるのが早ければ早いほどありがたいというのが本音だった。どうやら最優先でこちらの用件に力を振り向けてくれるようだ。

「予想よりも早いね。見積りってどの位。」

「この金額でどうですか?」

ジョセフがそろばんを弾くと妥当な提示額に勇騎も胸をなでおろす。あらかじめ大体の市価を調べてはいたが、よその商人だと一見さん相手なら相当な金額を吹っかけてきたことだろう。ヴェラン家出入りの商人も油断ならない人物らしいので持つべき者は信用できる友人だと痛感する。不足もあるといけないので多めに渡しておくことにしよう。

「わかった。じゃあひとまずこれ渡しておくよ。」

「これは・・・。十分どころか多すぎますよ。こんな大金お預かりできません。」

「そうかい?じゃあこれくらいかなあ。」

「そんなもんですな。これだけあれば十分でしょう、お釣りが出るくらいだと思いますよ。後でしっかり精算いたしましょう。」

今さら確認するまでもなく、商人ジョセフは信用を一番の売りにしているようだ。そういうところには顧客も集まるってもんだ。ジョセフ・バーリン商会はこれからも大きくなるだろう。
勇騎はジョセフとがっちり握手を交わして用件を終えると次の行き先へ向かうことにした。

「じゃあよろしく頼むよ。次はハンスさんにも話があるんだ。ソフィアー、案内してよー。」

「ええ、もちろんよ。ったく、ユーキったら今度は何やらかそうっての?私にも教えなさいよね。」
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