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野良ゴブリン血風録
The Rodeo with Monsters
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「さて荷物も全部回収したし、そろそろ帰らせてもらうよ。」
ほくほく顔で緩みきった調子で別れの言葉を告げると、ソフィアが待てといわんばかりに質問の続きをしようと声をかけて来た。
「まさかアンタたちわざわざ走ってここまで来たの?」
「ん?いいや。いくら何でも丸一日使ってこんなとこまで走って来たりしないさ。もちろん転移魔」
「転移魔術ですって!」
俺のセリフを喰い気味なんですけど、この子。ソフィアは気が立っているのか?もうちょっと落ち着いてくれないと少し怖いなー。
「え?どうしたのいきなり。」
「どうしたも何もアンタは賢者だとでも言うの?」
何を言っているんだ?ことごとく受験に失敗しちまった俺が賢者なわけねーだろ!嫌なこと思い出しちまった。
「やだなあソフィアさん、俺はただのゴブリンだよ。」
「ごまかしてもダメよ。さっきの魔術と言い、アンタはクロヴィウスと何か関係があるんでしょ。ねぇ、アンタどこに住んでいるの?」
「ソフィア、ユーキさんが困っていらっしゃる。やめなさい。」
見かねてジョセフさんが助け船を出してくれた。俺は苦手だなーソフィア。このグイグイ詮索して来る感じ。
「父さん、決めたわ。私ゴブリンについて行く。魔術を極めるには必要なの。」
「なっ!」
「え?」
「はぁ?」
俺たち男性陣は揃って素っとんきょうな声を上げる。
「そんなのダメに決まっているだろう。バカな事を言うんじゃないソフィア。」
「ジョセフの言う通りだぜソフィア。エレノアも許すはずがない。」
ソフィアはジョセフさんの娘だったのか。って、そんなことより急展開すぎる。
「俺たちは魔物だ。ひょこひょこついて来たのを良いことに、よってたかって殺しにかかるかもしれないんだぞ。」
心にも無い脅しを入れて見たが、慣れない事はするものではない。ソフィアはにべも無く言い放った。
「そのつもりがある奴ならそんな警告なんてしないわよ。少なくともアンタはそんなひどいことするつもりはない。」
しまった!思わず場違いな老婆心を出してしまった。
この手のタイプはしっかり本音で話さないと理解してくれないのだろうと勇騎は観念した。もともと搦め手など得意ではないのだから、そうならそうで構わないだろう。
「やめよう、本音を言うとだ。俺とハヤテの住処がバレてしまうと俺たちの身の安全が図れないんだ。ソフィアさんたちとは違って俺たちには守ってくれる城壁も権力による保護も何も無い。常に生命の憂慮をしなければならない俺たちの辛さは君にはわからないだろう。俺たちの生存を危険にさらしたくない。」
「そう、なら心配は要らないわ。私は決してあなたたちの住処をバラしたりしない。だから」
「やめなさいソフィア。そんな甘い考えで生き残れる世界じゃないんだ。」
「やめないわ。これは私にとって一生を左右するようなチャンスなの!私は」
パシンッ!!
ジョセフがソフィアの頬を平手打ちする。想定外の事態に勇騎は呆気に取られる。
え?もしかして俺がジョセフさんをたきつけたようなものか。いきなり重い話をしたのはまずかった。俺が泡食ってしまった。
ハンスもジョセフとソフィアを前にしてオロオロしている。
「いい加減になさい。」
ソフィアが頬を押さえて口をつぐむ。うつむいて表情がうかがえないのが少し気がかりだが。
「すみません、俺たちの都合を押し付けるような形になって。もう少し伝え方を考えていればジョセフさんにこんな役回りをさせることもなかったのに。」
「いえ、とんでもない。ソフィアを甘やかしていた私の落ち度です。そもそもこの場に連れてくるべきではなかったのでしょう。ご迷惑をおかけしました。」
俺たちは少し気まずい雰囲気で別れをすることになった。
「じゃあまた来月よろしく。」
「ええ、お待ちしております。」
さて転移魔術を発動して帰るか。ん?何だこの影は。
「どわっ!」
いきなり後ろから吹っ飛ばされるような形で転移してしまった。
「痛てて、ハヤテは無事か?」
「おのれ人間!貴様はこの場でバラバラにしてくれる。」
「え?人間・・・。げっ!」
後ろを振り向くとソフィアが俺に抱きついていた。マズい、ハヤテが攻撃態勢に入っている。
「待てハヤテ!ソフィアを攻撃するんじゃない。」
俺の心配をよそにソフィアは転移魔術に感動しているようだ。てか、お前いま殺されようとしてたんだぞ。
「何ここ?素敵なお家じゃない!」
「やってくれたなソフィア。ここを知った以上、お前を生かしておくわけにはいかない。」
興奮しているソフィアにたいして俺は手をかざした。俺のただならぬ雰囲気にさすがのソフィアも顔色が青ざめる。
「え!ウソでしょ?待って、お願い。ほんの出来心なの。助けて!」
ひざまづいて許しを請うソフィアに対して魔術を発動する。
「死ね。」
「きゃぁぁぁー!」
ソフィアが断末魔の叫びを上げた。もうおまえは助からない。後悔を胸に刻め。
「冷たーい!やめてー!あばばばば・・・」
思いっきり魔術で水をかぶせてやった。せいぜい頭を冷やせ。深く反省しろ!
「ず・・・、ずびばえんでじたー。」
ズブ濡れのソフィアを正座させて軽く説教してやった。
「お前さー、ジョセフさんたちからすれば連れ去られたに等しい状況なんだよ。最悪、俺たちに捜索討伐の部隊が差し向けられたっておかしくない。そんなのは勘弁してくれよ。」
「そんなことないわよ、大丈夫。大丈夫。」
「お前、ハンスさんのこと聞いていない?死ぬ間際で俺に助けられたって話。」
「聞いたわ!だからここまでついて来たんじゃない。」
はぁ、絶対何もわかってないな。何故俺がこんな話をしたのか。
「お前を死ぬ寸前まで切り刻んで回復させるってのを繰り返してやってもいいんだぞ。」
「し、しないわよ・・・ね。ね?」
俺は肯定も否定もしなかった。こいつは何を言っても自分に都合良くしか考えないんじゃないだろうか。
俺は先ほど仕入れたロープを虚空から取り出した。すかさず俺はハヤテに向けて待機のハンドサインを送る。
「動くなよ。動いたらハヤテがお前の頭を噛み砕くことになる。」
「ひぃぃっ!」
「ふん!今さら泣いても遅い。お前は俺を本気にさせたんだ。」
俺はソフィアを後ろ手に縛ってやった。ソフィアが不安気な眼差しを向ける。
「私をどうするつもりなの?」
「ハヤテ、こっちにおいで。」
「ソフィア、お前はこうしてやるのさ。」
今にも泣き出しそうなソフィアを尻目に俺たちは再びアーレンに転移した。
同じ場所に戻ると力なく肩を落としたジョセフにハンスが寄り添っていた。
「おい、ジョセフ!旦那が戻って来たぞ。ソフィアも一緒だ。」
「おお、ソフィア!ソフィアー!」
ジョセフが涙を流して駆け寄り、ソフィアを抱きしめる。年頃の娘さんをズブ濡れにしてしまったのはやり過ぎたかもしれないと今さら反省する。
あれから10分も経たない程だが、親御さんからすれば長い苦しみの時間だったんじゃないか。最悪そのまま連れ去られてそれっきりになる可能性だって否定できないんだからな。
「はっはっは、どうしたソフィア?後ろに手が回ってるうえにズブ濡れじゃねーか。」
あ、ハンスさんやめて。懲らしめすぎたっぽいから。ちょっとだけ怖い目にあわせようとしただけなの。
「うるさい!放っといて!」
顔を真っ赤にしてソフィアが怒る。まぁこれくらいで意気消沈するような奴じゃないか。
「ソフィア、お前がユーキさんのところに行くにしてもこんなやり方はあっちゃいけないよ。残された私やエレノア、ハンスだって悲しい思いをするってことはわかってほしいんだ。」
「・・・、ごめんなさい。」
ソフィアの目に余る暴挙に俺も頭に血が上ってたのは確かだ。少しばかりイジメてやった後ろめたさもある。わだかまりを残さないためにはどうすれば良いものかな。
「ユーキさん、うちの娘がご迷惑をおかけしました。何とお詫びしてよいやら。」
「いや、娘さんの行動力と胆力には脱帽だ。もし親御さんの許しが得られるようであればソフィアさんに限り我が家に招待しても構わないよ。飽くまで許しが得られたら・・・、ね。ただ最初に言っておくと、我が家にはソフィアさんが見て喜ぶようなものは恐らく何一つ無いよ。」
「本当に良いの?」
まだ気まずさが残るのかソフィアが伏目がちに聞き返す。あれだけひどい目に会わせた後だ。正直、半ば社交辞令のつもりだったがソフィアはまだあきらめていないご様子。見かけによらずタフだねー、この子。
「ああ。しかしこちらの流儀に従ってもらうぞ。先ほどみたいな勝手気ままは許されないと思ってくれ。何にせよ君はまずご両親の許可を得なければいけないことを忘れちゃあいけない。」
「わかった。必ず説得して見せるわ。」
「健闘を祈るよ。じゃあ俺たちは今度こそ帰るわ。」
「あ、あの!」
ん?まだ何かあるのか。
「急に押しかけて悪かったわ・・・、ユーキ。」
ん?何だこの違和感。・・・あ!そういえば、ずーっと「アンタ」だの「ゴブリン」だの言ってたソフィアがはじめて俺の名前を呼んだのか。
ソフィアはゴブリンに対してその者に固有の名を呼ぶことに抵抗を感じていたんだろうな。何せ相手は知能の低いゴブリンだ。言ってて悲しくなるが、逆の立場だったら俺もそうだったに違いない。
これはお互いに歩み寄るための一歩と言えるんじゃないか?
そう考えると勇騎の中にソフィアに対する親近感が芽生え始めた。
「ああ、ソフィアを招待できる日が来ることを心待ちにしているよ。」
「うん、ありがとう。」
照れが混じっているのだろう、少女らしくはにかんだ笑顔が眩しく感じた。
でも、どう見ても未成年なんだよなー。何で酒を飲んでいるんだろう?
ほくほく顔で緩みきった調子で別れの言葉を告げると、ソフィアが待てといわんばかりに質問の続きをしようと声をかけて来た。
「まさかアンタたちわざわざ走ってここまで来たの?」
「ん?いいや。いくら何でも丸一日使ってこんなとこまで走って来たりしないさ。もちろん転移魔」
「転移魔術ですって!」
俺のセリフを喰い気味なんですけど、この子。ソフィアは気が立っているのか?もうちょっと落ち着いてくれないと少し怖いなー。
「え?どうしたのいきなり。」
「どうしたも何もアンタは賢者だとでも言うの?」
何を言っているんだ?ことごとく受験に失敗しちまった俺が賢者なわけねーだろ!嫌なこと思い出しちまった。
「やだなあソフィアさん、俺はただのゴブリンだよ。」
「ごまかしてもダメよ。さっきの魔術と言い、アンタはクロヴィウスと何か関係があるんでしょ。ねぇ、アンタどこに住んでいるの?」
「ソフィア、ユーキさんが困っていらっしゃる。やめなさい。」
見かねてジョセフさんが助け船を出してくれた。俺は苦手だなーソフィア。このグイグイ詮索して来る感じ。
「父さん、決めたわ。私ゴブリンについて行く。魔術を極めるには必要なの。」
「なっ!」
「え?」
「はぁ?」
俺たち男性陣は揃って素っとんきょうな声を上げる。
「そんなのダメに決まっているだろう。バカな事を言うんじゃないソフィア。」
「ジョセフの言う通りだぜソフィア。エレノアも許すはずがない。」
ソフィアはジョセフさんの娘だったのか。って、そんなことより急展開すぎる。
「俺たちは魔物だ。ひょこひょこついて来たのを良いことに、よってたかって殺しにかかるかもしれないんだぞ。」
心にも無い脅しを入れて見たが、慣れない事はするものではない。ソフィアはにべも無く言い放った。
「そのつもりがある奴ならそんな警告なんてしないわよ。少なくともアンタはそんなひどいことするつもりはない。」
しまった!思わず場違いな老婆心を出してしまった。
この手のタイプはしっかり本音で話さないと理解してくれないのだろうと勇騎は観念した。もともと搦め手など得意ではないのだから、そうならそうで構わないだろう。
「やめよう、本音を言うとだ。俺とハヤテの住処がバレてしまうと俺たちの身の安全が図れないんだ。ソフィアさんたちとは違って俺たちには守ってくれる城壁も権力による保護も何も無い。常に生命の憂慮をしなければならない俺たちの辛さは君にはわからないだろう。俺たちの生存を危険にさらしたくない。」
「そう、なら心配は要らないわ。私は決してあなたたちの住処をバラしたりしない。だから」
「やめなさいソフィア。そんな甘い考えで生き残れる世界じゃないんだ。」
「やめないわ。これは私にとって一生を左右するようなチャンスなの!私は」
パシンッ!!
ジョセフがソフィアの頬を平手打ちする。想定外の事態に勇騎は呆気に取られる。
え?もしかして俺がジョセフさんをたきつけたようなものか。いきなり重い話をしたのはまずかった。俺が泡食ってしまった。
ハンスもジョセフとソフィアを前にしてオロオロしている。
「いい加減になさい。」
ソフィアが頬を押さえて口をつぐむ。うつむいて表情がうかがえないのが少し気がかりだが。
「すみません、俺たちの都合を押し付けるような形になって。もう少し伝え方を考えていればジョセフさんにこんな役回りをさせることもなかったのに。」
「いえ、とんでもない。ソフィアを甘やかしていた私の落ち度です。そもそもこの場に連れてくるべきではなかったのでしょう。ご迷惑をおかけしました。」
俺たちは少し気まずい雰囲気で別れをすることになった。
「じゃあまた来月よろしく。」
「ええ、お待ちしております。」
さて転移魔術を発動して帰るか。ん?何だこの影は。
「どわっ!」
いきなり後ろから吹っ飛ばされるような形で転移してしまった。
「痛てて、ハヤテは無事か?」
「おのれ人間!貴様はこの場でバラバラにしてくれる。」
「え?人間・・・。げっ!」
後ろを振り向くとソフィアが俺に抱きついていた。マズい、ハヤテが攻撃態勢に入っている。
「待てハヤテ!ソフィアを攻撃するんじゃない。」
俺の心配をよそにソフィアは転移魔術に感動しているようだ。てか、お前いま殺されようとしてたんだぞ。
「何ここ?素敵なお家じゃない!」
「やってくれたなソフィア。ここを知った以上、お前を生かしておくわけにはいかない。」
興奮しているソフィアにたいして俺は手をかざした。俺のただならぬ雰囲気にさすがのソフィアも顔色が青ざめる。
「え!ウソでしょ?待って、お願い。ほんの出来心なの。助けて!」
ひざまづいて許しを請うソフィアに対して魔術を発動する。
「死ね。」
「きゃぁぁぁー!」
ソフィアが断末魔の叫びを上げた。もうおまえは助からない。後悔を胸に刻め。
「冷たーい!やめてー!あばばばば・・・」
思いっきり魔術で水をかぶせてやった。せいぜい頭を冷やせ。深く反省しろ!
「ず・・・、ずびばえんでじたー。」
ズブ濡れのソフィアを正座させて軽く説教してやった。
「お前さー、ジョセフさんたちからすれば連れ去られたに等しい状況なんだよ。最悪、俺たちに捜索討伐の部隊が差し向けられたっておかしくない。そんなのは勘弁してくれよ。」
「そんなことないわよ、大丈夫。大丈夫。」
「お前、ハンスさんのこと聞いていない?死ぬ間際で俺に助けられたって話。」
「聞いたわ!だからここまでついて来たんじゃない。」
はぁ、絶対何もわかってないな。何故俺がこんな話をしたのか。
「お前を死ぬ寸前まで切り刻んで回復させるってのを繰り返してやってもいいんだぞ。」
「し、しないわよ・・・ね。ね?」
俺は肯定も否定もしなかった。こいつは何を言っても自分に都合良くしか考えないんじゃないだろうか。
俺は先ほど仕入れたロープを虚空から取り出した。すかさず俺はハヤテに向けて待機のハンドサインを送る。
「動くなよ。動いたらハヤテがお前の頭を噛み砕くことになる。」
「ひぃぃっ!」
「ふん!今さら泣いても遅い。お前は俺を本気にさせたんだ。」
俺はソフィアを後ろ手に縛ってやった。ソフィアが不安気な眼差しを向ける。
「私をどうするつもりなの?」
「ハヤテ、こっちにおいで。」
「ソフィア、お前はこうしてやるのさ。」
今にも泣き出しそうなソフィアを尻目に俺たちは再びアーレンに転移した。
同じ場所に戻ると力なく肩を落としたジョセフにハンスが寄り添っていた。
「おい、ジョセフ!旦那が戻って来たぞ。ソフィアも一緒だ。」
「おお、ソフィア!ソフィアー!」
ジョセフが涙を流して駆け寄り、ソフィアを抱きしめる。年頃の娘さんをズブ濡れにしてしまったのはやり過ぎたかもしれないと今さら反省する。
あれから10分も経たない程だが、親御さんからすれば長い苦しみの時間だったんじゃないか。最悪そのまま連れ去られてそれっきりになる可能性だって否定できないんだからな。
「はっはっは、どうしたソフィア?後ろに手が回ってるうえにズブ濡れじゃねーか。」
あ、ハンスさんやめて。懲らしめすぎたっぽいから。ちょっとだけ怖い目にあわせようとしただけなの。
「うるさい!放っといて!」
顔を真っ赤にしてソフィアが怒る。まぁこれくらいで意気消沈するような奴じゃないか。
「ソフィア、お前がユーキさんのところに行くにしてもこんなやり方はあっちゃいけないよ。残された私やエレノア、ハンスだって悲しい思いをするってことはわかってほしいんだ。」
「・・・、ごめんなさい。」
ソフィアの目に余る暴挙に俺も頭に血が上ってたのは確かだ。少しばかりイジメてやった後ろめたさもある。わだかまりを残さないためにはどうすれば良いものかな。
「ユーキさん、うちの娘がご迷惑をおかけしました。何とお詫びしてよいやら。」
「いや、娘さんの行動力と胆力には脱帽だ。もし親御さんの許しが得られるようであればソフィアさんに限り我が家に招待しても構わないよ。飽くまで許しが得られたら・・・、ね。ただ最初に言っておくと、我が家にはソフィアさんが見て喜ぶようなものは恐らく何一つ無いよ。」
「本当に良いの?」
まだ気まずさが残るのかソフィアが伏目がちに聞き返す。あれだけひどい目に会わせた後だ。正直、半ば社交辞令のつもりだったがソフィアはまだあきらめていないご様子。見かけによらずタフだねー、この子。
「ああ。しかしこちらの流儀に従ってもらうぞ。先ほどみたいな勝手気ままは許されないと思ってくれ。何にせよ君はまずご両親の許可を得なければいけないことを忘れちゃあいけない。」
「わかった。必ず説得して見せるわ。」
「健闘を祈るよ。じゃあ俺たちは今度こそ帰るわ。」
「あ、あの!」
ん?まだ何かあるのか。
「急に押しかけて悪かったわ・・・、ユーキ。」
ん?何だこの違和感。・・・あ!そういえば、ずーっと「アンタ」だの「ゴブリン」だの言ってたソフィアがはじめて俺の名前を呼んだのか。
ソフィアはゴブリンに対してその者に固有の名を呼ぶことに抵抗を感じていたんだろうな。何せ相手は知能の低いゴブリンだ。言ってて悲しくなるが、逆の立場だったら俺もそうだったに違いない。
これはお互いに歩み寄るための一歩と言えるんじゃないか?
そう考えると勇騎の中にソフィアに対する親近感が芽生え始めた。
「ああ、ソフィアを招待できる日が来ることを心待ちにしているよ。」
「うん、ありがとう。」
照れが混じっているのだろう、少女らしくはにかんだ笑顔が眩しく感じた。
でも、どう見ても未成年なんだよなー。何で酒を飲んでいるんだろう?
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