呪いの指輪が外れないので、とりあえずこれで戦ってみた。

犬尾猫目

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野良ゴブリン血風録

森の狂戦士

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さて、今日の俺は何をしているのかというと異世界ラーメンを自作しております。何せ魚醤があり、小麦があり、牛肉、牛骨があるとなれば作ってみたくなるのが情ってもんじゃぁないですか。
野菜とかは不足しているけどそこはハーブなどで代用します。一方のハヤテさんはというと牛の大腿骨を頬張って終始ご機嫌なご様子。
寸胴を使って煮込むこと丸一日。牛肉チャーシューの方も最高の出来ですな。

さあ完成したぞ。

「いただきます。」

ずずずー。もぐもぐもぐ。

「美味~い!」

スープも・・・

「美味し!」

チャーシューは・・・

「まいう~!」

正直、麺はつるつるシコシコ食感とは行かなかったがそれでも十分に美味い。はい、ハヤテさんの視線が突き刺さりますね。非常に痛い。

「何を食ってるんだユーキ?我も食べたいんだぞ。」

やだわハヤテさんたら、お口からたれてますよ。

「うーん、ハヤテには塩辛いものなんだが。そうだ、ハヤテにはお肉を焼いてあげよう!」

「いやだ!ごまかされたりしないぞ、我はユーキが食べているものが食べたいんだ。我にもちょーだい。ちょーだいーっ!」

「うふふ、ハヤテさんってば、ちょ、重い。わかった、わかったからちょっと待って。」

ハヤテの前足が肩にズシりとのしかかってもう悠長に食べていられる状態じゃない。

「料理を作ったならちゃんと我の分も用意するのだぞユーキ。」

「うーん、まだ熱いからハヤテは舌を火傷しちゃうよ。でも冷めたら油ギトギトで絶対美味しくないんだよね。ハヤテは気に入らないと思うんだ。まあちょっとこの麺だけ食ってみるか?」

そういってハヤテ専用取り皿に俺のドンブリの麺と切り分けておいたチャーシューを載せてみる。

「何だか細長いな。これは小麦というやつか。ふむ。この肉はチャーシューと言ったな。ふむ。味付けは濃いがチャーシューは食えるな。すごく柔らかくて味が染み込んでいる。ところでそのスープとやらはどうなのだ。」

「これは熱いよ。それに味が濃い。まぁいいや。ほれ。」

取り皿に少しスープを垂らす。

「おお、牛の骨の旨味と匂いが溶け込んでいるな。骨にこんな使い方があるなんてしらなかった。これはすこし旨い気がする。」

「そうか、じゃあ魚醤と混ぜる前のスープを少し持ってこよう。」

「魚醤も混ぜて。」

「すこしだけな。」

***

今日も天気が良い。今回の遠征でかなりの収穫があったし、アレやっとくかー。

「ユーキは何をしてるんだ?」

「え、これか?この家の主のクロヴィウスにおそなえと報告をしているんだ。俺たちの命の恩人だからな。」

「それは我もやった方が良いのか?」

「いいや、お前の分も俺がやっておくよ。ただし、ここにある食べ物とかはクロヴィウスのものだから絶対に食べちゃダメだぞ。食べたくなったら俺に言えば代わりのものをやるから。あとこの区画を踏みつけるのも禁止な。」

「うむ、わかった。我らの主なのだな。」

ハヤテは良い子だな、理解が速くて助かる。

俺は死後の世界とか信じていないが、今こんな世界にいるってことは神も死後の世界なんかもあるのかもしれない。
ただ俺をこんなとんでもない状況に放り込んだ神とやらには業腹だ。俺に知識と力を授けてくれたクロヴィウスのみが俺にとっての神と言っても過言ではない。アンタから恩を受けた人間は最期までアンタの味方だったそうだよ。

「よし、じゃあ行こうかな。」

「今日はどこへいくのだ?」

「ジョセフさんとの約束もある。オオカミ草を採りに行かないとな。」

地図上では木でおおわれていて何もわからない深淵の森。何が潜んでいるかわからないが、ハヤテが知っている範囲ならば帰って来れるだろう。

「ハヤテがいるから心強いな。」

「うむ。しかし森には魔物が棲みついているからユーキも気をつけないといけないぞ。我もたまに襲われるからな。」

「でも大した魔物じゃないんだろ。」

「うんにゃ、攻撃が全く通らない奴もいるんだ。そいつからはひたすら逃げるしかない。」

「なっ、何だってー!」

薬草を採りに行くのが当たり前って雰囲気だしてたじゃん。え!?何。意外と本格的に命がけなの?こないだはよくハヤテを救出できたな。こればっかりは運が良かったのかも。

装備を整える必要性を日頃痛感していた勇騎は森の探索に備えて既に装備品を作っていた。
野盗から巻き上げたレザーアーマーは専用に胴回りを直し、余った部材で額当ても自作するなど随所に工夫を凝らした。
剣は使いづらいのでナイフを装備して動きやすさを重視した形だ。自作のサンダルは心許ないので、野盗のブーツを参考に自作してみた。道具が増えると作れるものが増えて良い。

***

午前中にも関わらず森の中は相変わらず薄暗い。いろんな生き物の鳴き声は聞こえて来るが姿を探そうにもなかなか見つからないものだ。本日はハヤテを移動手段にすることなく、風の魔術を使い自力で森の中をホバー移動している。
こういう障害物のある環境でコントロールする練習を積まないといざと言うときに役に立たないだろう。今でこそハヤテのスピードについて行けるほどに上達したが、ホバー移動の練習も当初は惨憺たる有様だった。
派手に転げまわったり、左右の調節が上手く行かずに独楽のように何度も高速スピンを繰り返したのはここだけの秘密だ。

「あんなにヘッポコだったのに我のスピードについて来れるなんてユーキはすごいな!」

「ヘッポコは余計じゃい!ふふふ、あれを実用レベルまで高めた俺の実力を、ふがっ!」

木の枝がデコにスマッシュヒット!歌って踊れるみんなのアイドル、相馬勇騎もこのヒットは嬉しくない。セカンドシングル『木の枝がデコ』 Coming soon!

「いてて、調子に乗ったぜ。」

「ははは、ユーキもまだまだだなー。」

「ハヤテパイセン、さーせん。」

ちっ、これが野性の身体能力ってやつか。ハヤテはよそ見しながらもスイスイ障害を避けていくぜチクショー。悔しいがハヤテに一日の長があるってこったな。
集中、集中。ふざけてるけど、よくよく考えると命がけだかんね。おや、あれは・・・。ヤシガニじゃねぇか?あれって食えるよな。

「ハヤテ、待ってくれ」

「ん?」

「ちょっとアレ取って来るから待ってて。」

「何だ、あんなもの食えるのか?」

おお。そこかしこにいるなぁ。美味しいものだったらまた採りに来よう。よし、すばしっこくないし楽勝。

今日の夕飯が楽しみだ。

道すがら木の実を採取したり意外に楽しい時間を過ごしながらも30分程で目的地に到着した。

「おお、きれいな風景だな。遠くに湖もある。」

「ユーキ、目的地はここだ。ようやくついたな。」

「え、オオカミ草ってどこ?」

「何言ってんだ?そこら一帯全部オオカミ草じゃないか。」

「え?これ全部!だとしたら雑草みたいなものじゃないか。」

「ああ、でもこれすごく傷に効くんだ。食べるも良し、貼るも良しだ。」

「本当かよ。試してみよう。痛て!」

俺はナイフで自分の指を切り、薬草を水洗いして一口食べて見た。

「ああ苦いなー不味いなー、でも染み渡る。疲れも取れる気がするー。」

しかしエラく苦い代物だった。良薬口に苦しということか。

「残りを貼り付けて見よう。あっ、傷に浸みる。そんでビリビリ痛むわー。でも不思議だな、傷が少し塞がり始めているぞ。」

なるほど、これを濃縮してポーションに生成するのか。それにしてもこれは質が良いんじゃないか?即効性がすごい。
ジョセフさんは樽三杯で町の一年分をまかなうに十分と言っていたが、これ何十年分あるんだよ。そんで採取しても気づいたらそこら中にまた生えるんだろ?この群生地すごいな。よし、自家用にも少しばかり持っておこう。

「じゃあ帰ろうか、ハヤテ。ん?どうした。」

「ユーキ・・・、湖の向こう岸を見てみろ。」

「んげっ!何だありゃぁ?」

見ると巨人を切り刻んでいる戦士の姿が見える。しかも腕が4本もあるではないか!

「黒騎士だ。あいつには魔法も攻撃も届かない。全て切り刻まれるんだ。見ろ、あのサイクロプスですら歯が立たないんだ。」

「水場に来た魔物を片っ端から切り刻んでいるのか。え、何で?」

「我にもわからない。わかるのは我が知る限りあいつが森で一番危険ってことだ。見つけたら即座に逃げることが重要なんだ。森で生きている奴はみんなそのようにして生き残っている。」

「わかった。すぐに転移するぞ。」

俺はハヤテに駆け寄り転移魔術を発動させた。ふう、あんなに離れていたのに生きた心地がしないな。
転移により一瞬にして見慣れた庭の景色に切り替わる。恐ろしい奴もいたものだ。・・・、いや待てよ。

「もしかしてこの家もヤバいのか?」

「いや、大丈夫だと思うぞ。我は今まで湖の周囲でしか黒騎士を見たことがない。ここまで来ることはないだろう。」

「常にあの周囲にいるってことか。おそろしいな。戦って勝つためのヴィジョンが何も浮かばない。」

むしろ俺が奴に切り刻まれる姿ばかりが目に浮かぶ。所詮は雑魚モンスターのゴブリン様だ、逃げるが勝ちだってことよ。黒騎士を前にしては俺の装備なんざ紙切れ同然じゃないか。絶対に戦わないようにしよう。
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