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番外編
ピクニック①
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ぬいとノルは穏やかな草原の中を歩いていた。お互いに片方の手を繋ぎ、空いた手には荷物を持っている。やがて大きな木のふもとにたどり着くと、停止する。
ノルが荷物の中から敷物を取り出すと、ぬいも端をもって敷くのを手伝った。くつろぐための準備が整うと、そこへ腰を下ろす。
「ねえ、見てみて!今日という日のためにね、厨房の人たちに教わって、ご飯を作ってきたんだ」
鞄の中から包まれたものを取り出すと、同時にノルも同じ形の入れ物を見せてきた。
「あれ?今わたしたちが滞在してるのって、同じ家だよね?」
混乱しながらぬいは質問する。ノルがなにかを作ってくれるのは、スヴァトプルク家という存在があるからこそだ。それ以外の家で厨房を借りたことなど、一度もない。
「当たり前だろう。寝る時も起きる時も、常に一緒だったのを忘れたのか?」
今二人が居るのは国境付近の草原地帯であり、その近くにある叔母の家へと滞在している。ノルが言う通り、二人の部屋はもちろん同室である。
「忘れるわけないよ!けど、ご飯作れるところは一か所しかないし……一度も鉢合わせなかったから、なんでかなと思って」
「……入れ物が同じということは、気を使われたんだろう」
「あー、確かに。よく見たらお互いに一人分しか作ってないしね」
以前のノルはぬいの食事量を正確に把握しておらず、二人分用意することが多かった。しかしそろそろ把握してきたらしい。そのことに気づいたぬいはほほ笑むと、互いの食事を交換しようと入れ物を差し出した。
だがノルはそれを受け取ると、悩まし気に二つの入れ物を見つめている。
「どうしたの?」
「ヌイに食べてほしい気持ちと、食べさせたい気持ちと葛藤している」
「わたしはノルのを食べたいよ。だから、迷う必要ないよね」
ぬいはすぐに返事をすると手を伸ばす。しかしその手は空を切る。
「確かに、迷う必要はなかったな。両方を選べばいい」
ノルは自分のものを開封すると、ぬいの口元に差し出した。拒否することはなく、少しだけ不満気に口を開く。一旦食べてしまえば、ぬいが話をすることはない。そのことをわかっているがゆえの行動である。
一つ食べ終わり、口を開こうとするとまた差し出される。そのことを何度か繰り返したあと、ついにぬいは手を突き出して拒否した。
「ねえ、今日はなにをしにここに来たのか、知ってるよね?このままだと、介護されてる絵みたいになると思うんだけど」
ぬいはちらりと後ろを向いた。少し離れた先には、一人の中年女性が筆を走らせていた。燃えるような赤毛から、ノルの叔母であることがすぐにわかる。
「それは困るな。なにがいけない?」
「さりげなく距離を詰めてもだめだからね」
たしなめるとノルは動きを止めた。どうやら無意識の行動だったらしい。
「少し考えればわかると思うけど、一方的にご飯を詰め込まれてたら、そりゃあそう見えるでしょ」
ぬいの指摘を受け、ノルは少し考えるとパンを半分にちぎった。そのまま渡すと思いきや、蜂蜜を限界まで塗りたくってから差し出してくる。
こぼれてしまわないように、あわてて受け取るが少しだけ反応は遅かった。あふれた蜂蜜はぬいの手をつたっていく。急な行動の意味を考えることなく、片手で拭くものを探そうとすると、ノルに手を重ねられ、止められる。
ぬいが顔を上げると腕を捕まれ、べたついた手をなめられた。目を瞬いて呆然としていると、なおも除去されていく。
「ひゃっ、えっ……ちょっと、ノ、ノルくん!?」
現実を認識したぬいは顔を赤くすると、後ずさった。特に止められることもなく、手も離される。敷物の端まで移動するとようやくぬいは停止した。
「名前」
物言いたげな視線を向けられるが、返事をすることはできなかった。そもそもノルが公衆の面前でこのような行動をすることはあまりない。あるとしても自宅か意図あってのことである。偶に耐えられないこともあるが、概ねぬいのことを思って我慢できるようになってきている。
この場合はもちろん後者であるが、その理由を考えられない程ぬいは動揺している。落ち着きを取り戻そうと手元のパンを口に入れるが、どうしてもノルのことを意識してしまう。
「ここに居るの、わたしたちだけじゃないんだよ?しかも、確実におばさんが見てるって言うのに」
「問題ない」
「いや、あるよね?大有りだよね?」
冷静に答えるノルに対し、ぬいはなおも赤面しながら首を振る。その様子が楽しくなってきたのか、ノルの顔は次第ににやけ始める。
「今更何を言っている。僕たちは付き合いたての恋人どころか、新婚間もない夫婦だ」
「関係性としては事実だけど……あれ?そうなのかな。結婚して数か月は経つから……あれ?新婚の定義って、そもそもどこまでを指すんだろう、ってそうじゃないよ!」
自分でずらしそうになった話を修正する。
「今までこんなこと、したことなかったよね。どういうことなんだろう。理由……原因、えっと」
ぬいは目を細めると、なんとか思考しようとする。しかし未だ受けた衝撃が多く、考えがまとまらずにいた。
「覚えていないのか?」
「なんのこと?」
「いや、ならいい。この場でする話ではない、また今度で」
すっぱりと言い切られたため、ぬいは特に追求しなかった。それよりもノルの行動の理由を考えたかったからだ。
「前にそういうことしてきたのって、お家で仲良しに見せたいから。でも今回のって、よりそう見えるようにするため、絵を描いてもらってるだけ……え、まさか。そんなこと、ないよね?」
「深読みする必要はない。正解だ」
ノルの頭は基本的に良い。だが愛情表現に関してはあまりにも真っすぐ過ぎ、浅慮な行動を取るときがある。
「そんなの即時禁止になるよ!大問題だって!」
怒りと羞恥でぬいは立ち上がってノルに詰め寄る。しかし反省する様子はなく、それどころか手を取ってきれいに拭き始めた。どうやら見つからないように隠していたらしい。その行動にお礼を言うが、またすぐに問い詰める。そんなことをしていたため、二人は忍び寄る気配に全く気付かなかった。
「見ていたわよ、あなたたち!」
唐突に横から声を投げかけられる。振り向いた先には、赤毛を束ねたノルの叔母が、腰に手をあて立っていた。
ノルが荷物の中から敷物を取り出すと、ぬいも端をもって敷くのを手伝った。くつろぐための準備が整うと、そこへ腰を下ろす。
「ねえ、見てみて!今日という日のためにね、厨房の人たちに教わって、ご飯を作ってきたんだ」
鞄の中から包まれたものを取り出すと、同時にノルも同じ形の入れ物を見せてきた。
「あれ?今わたしたちが滞在してるのって、同じ家だよね?」
混乱しながらぬいは質問する。ノルがなにかを作ってくれるのは、スヴァトプルク家という存在があるからこそだ。それ以外の家で厨房を借りたことなど、一度もない。
「当たり前だろう。寝る時も起きる時も、常に一緒だったのを忘れたのか?」
今二人が居るのは国境付近の草原地帯であり、その近くにある叔母の家へと滞在している。ノルが言う通り、二人の部屋はもちろん同室である。
「忘れるわけないよ!けど、ご飯作れるところは一か所しかないし……一度も鉢合わせなかったから、なんでかなと思って」
「……入れ物が同じということは、気を使われたんだろう」
「あー、確かに。よく見たらお互いに一人分しか作ってないしね」
以前のノルはぬいの食事量を正確に把握しておらず、二人分用意することが多かった。しかしそろそろ把握してきたらしい。そのことに気づいたぬいはほほ笑むと、互いの食事を交換しようと入れ物を差し出した。
だがノルはそれを受け取ると、悩まし気に二つの入れ物を見つめている。
「どうしたの?」
「ヌイに食べてほしい気持ちと、食べさせたい気持ちと葛藤している」
「わたしはノルのを食べたいよ。だから、迷う必要ないよね」
ぬいはすぐに返事をすると手を伸ばす。しかしその手は空を切る。
「確かに、迷う必要はなかったな。両方を選べばいい」
ノルは自分のものを開封すると、ぬいの口元に差し出した。拒否することはなく、少しだけ不満気に口を開く。一旦食べてしまえば、ぬいが話をすることはない。そのことをわかっているがゆえの行動である。
一つ食べ終わり、口を開こうとするとまた差し出される。そのことを何度か繰り返したあと、ついにぬいは手を突き出して拒否した。
「ねえ、今日はなにをしにここに来たのか、知ってるよね?このままだと、介護されてる絵みたいになると思うんだけど」
ぬいはちらりと後ろを向いた。少し離れた先には、一人の中年女性が筆を走らせていた。燃えるような赤毛から、ノルの叔母であることがすぐにわかる。
「それは困るな。なにがいけない?」
「さりげなく距離を詰めてもだめだからね」
たしなめるとノルは動きを止めた。どうやら無意識の行動だったらしい。
「少し考えればわかると思うけど、一方的にご飯を詰め込まれてたら、そりゃあそう見えるでしょ」
ぬいの指摘を受け、ノルは少し考えるとパンを半分にちぎった。そのまま渡すと思いきや、蜂蜜を限界まで塗りたくってから差し出してくる。
こぼれてしまわないように、あわてて受け取るが少しだけ反応は遅かった。あふれた蜂蜜はぬいの手をつたっていく。急な行動の意味を考えることなく、片手で拭くものを探そうとすると、ノルに手を重ねられ、止められる。
ぬいが顔を上げると腕を捕まれ、べたついた手をなめられた。目を瞬いて呆然としていると、なおも除去されていく。
「ひゃっ、えっ……ちょっと、ノ、ノルくん!?」
現実を認識したぬいは顔を赤くすると、後ずさった。特に止められることもなく、手も離される。敷物の端まで移動するとようやくぬいは停止した。
「名前」
物言いたげな視線を向けられるが、返事をすることはできなかった。そもそもノルが公衆の面前でこのような行動をすることはあまりない。あるとしても自宅か意図あってのことである。偶に耐えられないこともあるが、概ねぬいのことを思って我慢できるようになってきている。
この場合はもちろん後者であるが、その理由を考えられない程ぬいは動揺している。落ち着きを取り戻そうと手元のパンを口に入れるが、どうしてもノルのことを意識してしまう。
「ここに居るの、わたしたちだけじゃないんだよ?しかも、確実におばさんが見てるって言うのに」
「問題ない」
「いや、あるよね?大有りだよね?」
冷静に答えるノルに対し、ぬいはなおも赤面しながら首を振る。その様子が楽しくなってきたのか、ノルの顔は次第ににやけ始める。
「今更何を言っている。僕たちは付き合いたての恋人どころか、新婚間もない夫婦だ」
「関係性としては事実だけど……あれ?そうなのかな。結婚して数か月は経つから……あれ?新婚の定義って、そもそもどこまでを指すんだろう、ってそうじゃないよ!」
自分でずらしそうになった話を修正する。
「今までこんなこと、したことなかったよね。どういうことなんだろう。理由……原因、えっと」
ぬいは目を細めると、なんとか思考しようとする。しかし未だ受けた衝撃が多く、考えがまとまらずにいた。
「覚えていないのか?」
「なんのこと?」
「いや、ならいい。この場でする話ではない、また今度で」
すっぱりと言い切られたため、ぬいは特に追求しなかった。それよりもノルの行動の理由を考えたかったからだ。
「前にそういうことしてきたのって、お家で仲良しに見せたいから。でも今回のって、よりそう見えるようにするため、絵を描いてもらってるだけ……え、まさか。そんなこと、ないよね?」
「深読みする必要はない。正解だ」
ノルの頭は基本的に良い。だが愛情表現に関してはあまりにも真っすぐ過ぎ、浅慮な行動を取るときがある。
「そんなの即時禁止になるよ!大問題だって!」
怒りと羞恥でぬいは立ち上がってノルに詰め寄る。しかし反省する様子はなく、それどころか手を取ってきれいに拭き始めた。どうやら見つからないように隠していたらしい。その行動にお礼を言うが、またすぐに問い詰める。そんなことをしていたため、二人は忍び寄る気配に全く気付かなかった。
「見ていたわよ、あなたたち!」
唐突に横から声を投げかけられる。振り向いた先には、赤毛を束ねたノルの叔母が、腰に手をあて立っていた。
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