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本編
133:とある弟の一区切り
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――もはや完了したと言っても過言ではない。これが最良の結末であると、ようやく認められることができた。
細やかな微調整を加えた後、もう手出しをする必要はない。ただ、自分以外の者に改変されないよう、厳重に鍵をかけるだけである。
できるならば、全て封印してしまいたかった。そうすれば何者にも邪魔されず、きれいな物語として、しまっておけるからだ。
この世界は多少問題はあれども、崩壊するような危機はない。管理すべき点もなく、実にうまく作られている。本当だったら、放置していても構わない。
しかし特別扱いはまずい。あまり目立つ行いをすれば、厄介な存在に目をつけられてしまう。好き放題にかき回され、こちらとあちらの人間の意思に関係なく、価値観を押し付けられてしまうだろう。
そうなってしまえば、終わりである。それを避けるためには、あくまで実験先の世界の一つのように見せるしかない。そのためにも堕神の降臨と、向こうで呼ばれている事象は必要不可欠である。
姉の伴侶の生命が、延々と危険にさらされる問題は、彼自身がなんとかしようと動いている。特に指示したわけではないが、望み通りの対応である。
未だ子供っぽさを残し、性格に難はある。だが、彼はまっすぐでいい男だ。なによりも姉のことを一番に考え、笑顔を良しとする。もういい加減、認めざるを得ないだろう。
姉の本質は光であるが、暗い環境がそうさせてくれなかった。陰々たる状況に引っ張られ、そこでもう一人の彼に出会った。
人柄としては悪くはない。変に力など与えなければごく普通の青年で、へまなどしなかっただろう。だが彼は姉に不適格だ。共に堕ちるのではなく、あがきながらも抵抗し、横に並び立つ者こそふさわしい。
ため息を一つつくと、原初に作られた者に伝言を送る。これでもう後戻りはできない。仕込んだものは実行され、完全なるあの世界の人間となる。彼はどう見ても手が早い。そう長くはもたないだろう。
だからと言って、これ以上小うるさい小舅のように文句を言うことはできない。なにより、姉を不本意な人しか見させないという、設定ミスを犯している。それは明らかにこちらが悪く、解決してくれたのは彼である。
席から立ち上がると、奥にある扉をくぐる。指紋、網膜、声帯。そして最後に原始的なパスワードを入力する。全てを潜り抜けた先に、管につながれた人が二人横たわっていた。
機械が示す数値は、ギリギリのところで生命が存在することを示している。だが別の数値はゼロを指し、生命がないことも示している。
手前で足を止めるとその様子を眺める。体はまさしく病的にやせ細っていて、風が吹いただけでも消え去ってしまいそうである。その手をそっと掴むと、壊れ物のように両手で包み込む。
「もう何者にも振り回されなくていい、我慢なんてしなくていい。この先は思う存分、自分の人生を自由に生きて……か」
姉の言ったセリフを反復する。その言葉をかみしめながら、しゃがみ込む。しばらくそうしていると、片方の数値が急激に下がっていき、やがてゼロになった。
細やかな微調整を加えた後、もう手出しをする必要はない。ただ、自分以外の者に改変されないよう、厳重に鍵をかけるだけである。
できるならば、全て封印してしまいたかった。そうすれば何者にも邪魔されず、きれいな物語として、しまっておけるからだ。
この世界は多少問題はあれども、崩壊するような危機はない。管理すべき点もなく、実にうまく作られている。本当だったら、放置していても構わない。
しかし特別扱いはまずい。あまり目立つ行いをすれば、厄介な存在に目をつけられてしまう。好き放題にかき回され、こちらとあちらの人間の意思に関係なく、価値観を押し付けられてしまうだろう。
そうなってしまえば、終わりである。それを避けるためには、あくまで実験先の世界の一つのように見せるしかない。そのためにも堕神の降臨と、向こうで呼ばれている事象は必要不可欠である。
姉の伴侶の生命が、延々と危険にさらされる問題は、彼自身がなんとかしようと動いている。特に指示したわけではないが、望み通りの対応である。
未だ子供っぽさを残し、性格に難はある。だが、彼はまっすぐでいい男だ。なによりも姉のことを一番に考え、笑顔を良しとする。もういい加減、認めざるを得ないだろう。
姉の本質は光であるが、暗い環境がそうさせてくれなかった。陰々たる状況に引っ張られ、そこでもう一人の彼に出会った。
人柄としては悪くはない。変に力など与えなければごく普通の青年で、へまなどしなかっただろう。だが彼は姉に不適格だ。共に堕ちるのではなく、あがきながらも抵抗し、横に並び立つ者こそふさわしい。
ため息を一つつくと、原初に作られた者に伝言を送る。これでもう後戻りはできない。仕込んだものは実行され、完全なるあの世界の人間となる。彼はどう見ても手が早い。そう長くはもたないだろう。
だからと言って、これ以上小うるさい小舅のように文句を言うことはできない。なにより、姉を不本意な人しか見させないという、設定ミスを犯している。それは明らかにこちらが悪く、解決してくれたのは彼である。
席から立ち上がると、奥にある扉をくぐる。指紋、網膜、声帯。そして最後に原始的なパスワードを入力する。全てを潜り抜けた先に、管につながれた人が二人横たわっていた。
機械が示す数値は、ギリギリのところで生命が存在することを示している。だが別の数値はゼロを指し、生命がないことも示している。
手前で足を止めるとその様子を眺める。体はまさしく病的にやせ細っていて、風が吹いただけでも消え去ってしまいそうである。その手をそっと掴むと、壊れ物のように両手で包み込む。
「もう何者にも振り回されなくていい、我慢なんてしなくていい。この先は思う存分、自分の人生を自由に生きて……か」
姉の言ったセリフを反復する。その言葉をかみしめながら、しゃがみ込む。しばらくそうしていると、片方の数値が急激に下がっていき、やがてゼロになった。
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