123 / 139
本編
122:お仕置き
しおりを挟む
大事な人のにおいとぬくもりに包まれながら、頬に柔らかいものが押し当てられる。その幸福感に顔を緩ませながら、まどろみ続ける。すると反対の頬にも移動し、次は額、そして唇にも押し当てられた。何度か優しく食むようにされたあと、一旦離れていく。
その寂しさに口角を下げると、次は唇を軽くなぞられた。そのあとで、軽く指先でノックするようにつつかれる。さすがのぬいも意識が覚醒すると、目を開ける。そこには指を押し付けているノルの姿があった。
「ようやく起きたか。おはよう、ヌイ」
ノルは指を離すとそのまま自分の唇に押し当てた。起床早々艶っぽい姿を見せられ、恥ずかしさから目を伏せる。
「なんでそういうことするかな」
「肩や頬では目覚めがよくないだろう?君にはできるだけ優しくしたい」
「いや、そっちでいいんだけど」
「口付けで起きない君が悪い。あきらめて受け入れるんだな」
悪そうにノルは笑う。
「だって、なんかあまりにも幸せすぎて。夢かと勘違いしちゃうから。さっきのだとだめなんだよ……」
「っう……ヌイ……」
ぬいの言葉を受けて、ノルはうめき声をもらす。余裕そうに大人ぶっていた態度が崩れ、顔を赤くすると手で押さえた。
「うん、やっぱりそういうノルくんの方がかわいいや」
微笑まし気に言うと、ノルは顔から手を離しぬいの両腕を掴む。
「ん?どうしたの?」
なにかを決心したのか、口が堅く結ばれている。
「お仕置きの時間だ」
予想もしていない言葉を吐かれ、衣擦れの音が聞こえる。腕に何かひも状の布を結ばれたらしい。その拘束は強くないが、非力なぬいに解けるわけがない。
そのまま抱き起されると、立てかけた枕にもたれかからせる。言葉とは裏腹にその行動は丁寧で気を使ったものである。まとめられた腕を頭の上にあげられると、顎を掴まれた。
「君は何度か間違いを犯した。そのことについて追及しても?」
「いいけど、なんでこんなことするの?わたしは逃げたりしないよ。その……前もそうだったよね?」
「それは……っく、そうだが」
以前のことを思い出したのか、早々にノルの態度は崩れていく。だがそれを振り払うように歯を食いしばり、無理やりまなじりを吊り上げる。
「いいか、僕は君に弱い。なにかされればすぐに折れてしまう。恋に落ちたのも大分早かったと思う。好意を告げるのは遅くなったが……はあ、なんで僕はあの堕神と君を同一視しようとしていたのか。両親が見ていたら呆れていたに違いない。なぜもっと早く迫らず、押し倒さず、誘惑もしなかったのかと」
一方的にノルは話し続ける。言っていることに対し、恥ずかしさはないのか次々とまくし立てていく。
「随分積極的な人たちだったんだね。そのさ、用はなにが言いたいの?」
ぬいが声をかけると、元に戻ったらしい。ハッとした顔で顎を掴み直すと軽く口付けてきた。そのままうっとりとした表情で頬を撫でる。
「わたしの話聞いてる?」
不満げな声を上げると、ノルは手を止めた。
「すまない。急に君を慈しめという切迫感があふれてきて……って、そうではない。僕を誘惑するのはやめてもらおうか」
「誘惑って、なにもしてない……あ、だったらこの布取ってよ」
このままの状態では、胸を突き出すような姿勢になってしまう。おまけに薄着である。ノルの言葉を完全に否定することはできない。
「それになんで腕を上げられてるの?」
「ヌイは照れるとすぐに隠そうとする。それを見たいからだ」
「ノルくんも同じことしてると思うんだけど」
少し前のことを指摘すると、しぶしぶ腕を押さえつけることはやめてくれた。しかし拘束を外すことはしない。
「話しが逸れたな。さあ、君の罪を認めてもらおうか」
「うー……わかったよ。ちゃんと考えるって。はぁ、これなんなんだろう。リボンみたいなやつ、どこから持って来たんだか」
後半部分を独り言のようにつぶやくと、ノルは引き出しの方へと目配せした。探られた跡があるその横には机が置かれていた。
寝る前にはなかったはずの物品を見て、ぬいは衝撃に目を見開く。ロープに鞭、そしてろうそく。おまけに丸いボールのようなものがついたベルト。外見からして目を引くものはそれらが主であるが、なにに使うか分からない薬や入れ物も、その異様さを引きだたせていた。
「この部屋って、水晶宮の時と同じようなところだよね?わたしが家探ししたとき、あんな類のものなかったと思うんだけど」
ぬいが指摘する通り、引き出しの奥には以前使ったようなシャツが見えていた。場所は違えど用途は同じはずである。
「知っていた方が困る。それでは二重底になっている意味がない」
気弱なお嬢様がうっかり見てしまえば、卒倒してしまうだろう。そのために、知る人しか見つけられないようになっているらしい。
「そうなんだ。えっと、そんな中から普通のものを持ってきたのは、偉いね」
「あんな武骨な縄など使って、ヌイを傷つけるなどもってのほかだ。それよりも……」
なにかを取り出すと、ぬいの頬に撫でつける。
「ひゃっ、なに?」
くすぐったさに声をもらすと、ノルは意地悪気な顔で笑う。
「それ、鳥の羽かなにかだよね……って、ちょっとやめてって。くすぐったいから!」
手が拘束されたいるため、押しのけることもできない。顔を赤くしながらむくれると、満足そうに見つめてくる。
「さあ、嫌だったらすぐに思い出すんだな」
再びノルが手を動かす前に、ぬいは自分のしたことを振り返りはじめた。
その寂しさに口角を下げると、次は唇を軽くなぞられた。そのあとで、軽く指先でノックするようにつつかれる。さすがのぬいも意識が覚醒すると、目を開ける。そこには指を押し付けているノルの姿があった。
「ようやく起きたか。おはよう、ヌイ」
ノルは指を離すとそのまま自分の唇に押し当てた。起床早々艶っぽい姿を見せられ、恥ずかしさから目を伏せる。
「なんでそういうことするかな」
「肩や頬では目覚めがよくないだろう?君にはできるだけ優しくしたい」
「いや、そっちでいいんだけど」
「口付けで起きない君が悪い。あきらめて受け入れるんだな」
悪そうにノルは笑う。
「だって、なんかあまりにも幸せすぎて。夢かと勘違いしちゃうから。さっきのだとだめなんだよ……」
「っう……ヌイ……」
ぬいの言葉を受けて、ノルはうめき声をもらす。余裕そうに大人ぶっていた態度が崩れ、顔を赤くすると手で押さえた。
「うん、やっぱりそういうノルくんの方がかわいいや」
微笑まし気に言うと、ノルは顔から手を離しぬいの両腕を掴む。
「ん?どうしたの?」
なにかを決心したのか、口が堅く結ばれている。
「お仕置きの時間だ」
予想もしていない言葉を吐かれ、衣擦れの音が聞こえる。腕に何かひも状の布を結ばれたらしい。その拘束は強くないが、非力なぬいに解けるわけがない。
そのまま抱き起されると、立てかけた枕にもたれかからせる。言葉とは裏腹にその行動は丁寧で気を使ったものである。まとめられた腕を頭の上にあげられると、顎を掴まれた。
「君は何度か間違いを犯した。そのことについて追及しても?」
「いいけど、なんでこんなことするの?わたしは逃げたりしないよ。その……前もそうだったよね?」
「それは……っく、そうだが」
以前のことを思い出したのか、早々にノルの態度は崩れていく。だがそれを振り払うように歯を食いしばり、無理やりまなじりを吊り上げる。
「いいか、僕は君に弱い。なにかされればすぐに折れてしまう。恋に落ちたのも大分早かったと思う。好意を告げるのは遅くなったが……はあ、なんで僕はあの堕神と君を同一視しようとしていたのか。両親が見ていたら呆れていたに違いない。なぜもっと早く迫らず、押し倒さず、誘惑もしなかったのかと」
一方的にノルは話し続ける。言っていることに対し、恥ずかしさはないのか次々とまくし立てていく。
「随分積極的な人たちだったんだね。そのさ、用はなにが言いたいの?」
ぬいが声をかけると、元に戻ったらしい。ハッとした顔で顎を掴み直すと軽く口付けてきた。そのままうっとりとした表情で頬を撫でる。
「わたしの話聞いてる?」
不満げな声を上げると、ノルは手を止めた。
「すまない。急に君を慈しめという切迫感があふれてきて……って、そうではない。僕を誘惑するのはやめてもらおうか」
「誘惑って、なにもしてない……あ、だったらこの布取ってよ」
このままの状態では、胸を突き出すような姿勢になってしまう。おまけに薄着である。ノルの言葉を完全に否定することはできない。
「それになんで腕を上げられてるの?」
「ヌイは照れるとすぐに隠そうとする。それを見たいからだ」
「ノルくんも同じことしてると思うんだけど」
少し前のことを指摘すると、しぶしぶ腕を押さえつけることはやめてくれた。しかし拘束を外すことはしない。
「話しが逸れたな。さあ、君の罪を認めてもらおうか」
「うー……わかったよ。ちゃんと考えるって。はぁ、これなんなんだろう。リボンみたいなやつ、どこから持って来たんだか」
後半部分を独り言のようにつぶやくと、ノルは引き出しの方へと目配せした。探られた跡があるその横には机が置かれていた。
寝る前にはなかったはずの物品を見て、ぬいは衝撃に目を見開く。ロープに鞭、そしてろうそく。おまけに丸いボールのようなものがついたベルト。外見からして目を引くものはそれらが主であるが、なにに使うか分からない薬や入れ物も、その異様さを引きだたせていた。
「この部屋って、水晶宮の時と同じようなところだよね?わたしが家探ししたとき、あんな類のものなかったと思うんだけど」
ぬいが指摘する通り、引き出しの奥には以前使ったようなシャツが見えていた。場所は違えど用途は同じはずである。
「知っていた方が困る。それでは二重底になっている意味がない」
気弱なお嬢様がうっかり見てしまえば、卒倒してしまうだろう。そのために、知る人しか見つけられないようになっているらしい。
「そうなんだ。えっと、そんな中から普通のものを持ってきたのは、偉いね」
「あんな武骨な縄など使って、ヌイを傷つけるなどもってのほかだ。それよりも……」
なにかを取り出すと、ぬいの頬に撫でつける。
「ひゃっ、なに?」
くすぐったさに声をもらすと、ノルは意地悪気な顔で笑う。
「それ、鳥の羽かなにかだよね……って、ちょっとやめてって。くすぐったいから!」
手が拘束されたいるため、押しのけることもできない。顔を赤くしながらむくれると、満足そうに見つめてくる。
「さあ、嫌だったらすぐに思い出すんだな」
再びノルが手を動かす前に、ぬいは自分のしたことを振り返りはじめた。
0
お気に入りに追加
15
あなたにおすすめの小説
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。
実は家事万能な伯爵令嬢、婚約破棄されても全く問題ありません ~追放された先で洗濯した男は、伝説の天使様でした~
空色蜻蛉
恋愛
「令嬢であるお前は、身の周りのことは従者なしに何もできまい」
氷薔薇姫の異名で知られるネーヴェは、王子に婚約破棄され、辺境の地モンタルチーノに追放された。
「私が何も出来ない箱入り娘だと、勘違いしているのね。私から見れば、聖女様の方がよっぽど箱入りだけど」
ネーヴェは自分で屋敷を掃除したり美味しい料理を作ったり、自由な生活を満喫する。
成り行きで、葡萄畑作りで泥だらけになっている男と仲良くなるが、実は彼の正体は伝説の・・であった。
勘当された悪役令嬢は平民になって幸せに暮らしていたのになぜか人生をやり直しさせられる
千環
恋愛
第三王子の婚約者であった侯爵令嬢アドリアーナだが、第三王子が想いを寄せる男爵令嬢を害した罪で婚約破棄を言い渡されたことによりスタングロム侯爵家から勘当され、平民アニーとして生きることとなった。
なんとか日々を過ごす内に12年の歳月が流れ、ある時出会った10歳年上の平民アレクと結ばれて、可愛い娘チェルシーを授かり、とても幸せに暮らしていたのだが……道に飛び出して馬車に轢かれそうになった娘を助けようとしたアニーは気付けば6歳のアドリアーナに戻っていた。

モブ転生とはこんなもの
詩森さよ(さよ吉)
恋愛
あたしはナナ。貧乏伯爵令嬢で転生者です。
乙女ゲームのプロローグで死んじゃうモブに転生したけど、奇跡的に助かったおかげで現在元気で幸せです。
今ゲームのラスト近くの婚約破棄の現場にいるんだけど、なんだか様子がおかしいの。
いったいどうしたらいいのかしら……。
現在筆者の時間的かつ体力的に感想などを受け付けない設定にしております。
どうぞよろしくお願いいたします。
他サイトでも公開しています。

逃げたい悪役令嬢と、逃がさない王子
ねむたん
恋愛
セレスティーナ・エヴァンジェリンは今日も王宮の廊下を静かに歩きながら、ちらりと視線を横に流した。白いドレスを揺らし、愛らしく微笑むアリシア・ローゼンベルクの姿を目にするたび、彼女の胸はわずかに弾む。
(その調子よ、アリシア。もっと頑張って! あなたがしっかり王子を誘惑してくれれば、私は自由になれるのだから!)
期待に満ちた瞳で、影からこっそり彼女の奮闘を見守る。今日こそレオナルトがアリシアの魅力に落ちるかもしれない——いや、落ちてほしい。
私を幽閉した王子がこちらを気にしているのはなぜですか?
水谷繭
恋愛
婚約者である王太子リュシアンから日々疎まれながら過ごしてきたジスレーヌ。ある日のお茶会で、リュシアンが何者かに毒を盛られ倒れてしまう。
日ごろからジスレーヌをよく思っていなかった令嬢たちは、揃ってジスレーヌが毒を入れるところを見たと証言。令嬢たちの嘘を信じたリュシアンは、ジスレーヌを「裁きの家」というお屋敷に幽閉するよう指示する。
そこは二十年前に魔女と呼ばれた女が幽閉されて死んだ、いわくつきの屋敷だった。何とか幽閉期間を耐えようと怯えながら過ごすジスレーヌ。
一方、ジスレーヌを閉じ込めた張本人の王子はジスレーヌを気にしているようで……。
◇小説家になろうにも掲載中です!
◆表紙はGilry Drop様からお借りした画像を加工して使用しています

婚約破棄ですか。ゲームみたいに上手くはいきませんよ?
ゆるり
恋愛
公爵令嬢スカーレットは婚約者を紹介された時に前世を思い出した。そして、この世界が前世での乙女ゲームの世界に似ていることに気付く。シナリオなんて気にせず生きていくことを決めたが、学園にヒロイン気取りの少女が入学してきたことで、スカーレットの運命が変わっていく。全6話予定
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる