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本編
109:宣誓式
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「ヌイさま!お待ちしておりました」
いよいよ目的の場所へとたどり着くと、そこにはミレナが立っていた。
「今日ってミレナちゃんが執り行なってくれるの?」
「いいえ、わたくしはまだ半人前ですので」
残念そうに言うと、後ろから見知った顔が姿を覗かせた。
「甥と異邦者、揃ったか」
枢機卿が二人のことを見る。その目に喜びは見えないが、嫌悪も存在しない。
「その……神官貴族ともなれば、ある程度役職がある方ではいけないと」
申し訳なさそうにミレナが言う。
「ううん、ミレナちゃん。そんな顔する必要ないよ。枢機卿はわたしを対等な人として、認めてくれた。そうでしょう?」
ぬいが問いかけると、枢機卿は頷き扉の向こうへと去って行く。ミレナはホッと胸をなでおろしていた。
「それでは、中でお待ちしております」
◇
宣誓場は礼拝堂とは似て非なるものであった。礼拝堂のように、大勢の人たちが座る場所はない。その名の通り、ただ誓う場なのだろう。入ってすぐ正面に枢機卿、その横にミレナが立っていた。
目の前までたどり着くと、ぬいとノルはその場に跪く。互いに片手に持った錫杖を揺らし、口を開く。
「神々に宣誓の許しを」
「神々の代理として、許可を出そう」
枢機卿がそう言うと、ノルは空いた手を胸に当てる。
「この小さき者は、異邦者ヌイを生涯の伴侶として迎い入れることを望む」
次にぬいが同じポーズを取ると、一呼吸する。
「この小さき者は、ノルベルト・イザーク・スヴァトプルクを生涯の伴侶として、受け入れられることを望む」
無事に言い終え、ぬいは人心地つく。ノルの名前は長い、うっかり噛んでしまえば台無しになると、緊張していたからである。二人が口にし終えると、錫杖に飾られた水晶が柔らかな光を放つ。その光は眩しいものではなく、ただ暖かい。
「互いを慈しみ、報いると。神々の面前にて誓えるか」
枢機卿は教典らしきもののページをめくる。その背表紙には水晶がちりばめられているのか、淡く反射している。
「教義に則り、反故にすることはないと誓います」
「与えられるものに驕り、傲慢さを持たぬと誓います」
「神官貴族としての誇りと責任を持ち、今後も邁進するといい。この時をもって、両者は認められた」
「神々に感謝を」
二人がそう言い終わると、ぬいの持っている錫杖が一段と輝きを増す。なぜ自分のだけが、これほど眩しいのだろうと疑問に思う。
だが、ぬいは通常がどんなものであるかは知らない。気にならない振りをしながらノルを見ると、目を丸くしていた。
やはり何かが変なのだろうと、焦りを感じた時。光が弾け、部屋中に霧散する。日の光とステンドグラスの反射から、きらめくその光景は。ただ幻想的であった。
「これは……神々の気まぐれか」
その場にいた全員が枢機卿を見る。どうやらミレナも知らないようである。
「その名の通り、時折このような現象が起こる。人を選ばず、皇族貴族商人または孤児などにも。害も祝福もなにもなく、ただ輝かせる」
「わたくしの親族では見たことはありません」
「百年あったり、なかったり。皇族なれど、神々にとっては等しく人である」
「ええ、そうですね」
枢機卿とミレナが話しているのを聞いていると、ぬいはふと視線を感じた。その主はもちろん一人しかないない。
ノルはただまっすぐ、ぬいのことを見つめていた。
いよいよ目的の場所へとたどり着くと、そこにはミレナが立っていた。
「今日ってミレナちゃんが執り行なってくれるの?」
「いいえ、わたくしはまだ半人前ですので」
残念そうに言うと、後ろから見知った顔が姿を覗かせた。
「甥と異邦者、揃ったか」
枢機卿が二人のことを見る。その目に喜びは見えないが、嫌悪も存在しない。
「その……神官貴族ともなれば、ある程度役職がある方ではいけないと」
申し訳なさそうにミレナが言う。
「ううん、ミレナちゃん。そんな顔する必要ないよ。枢機卿はわたしを対等な人として、認めてくれた。そうでしょう?」
ぬいが問いかけると、枢機卿は頷き扉の向こうへと去って行く。ミレナはホッと胸をなでおろしていた。
「それでは、中でお待ちしております」
◇
宣誓場は礼拝堂とは似て非なるものであった。礼拝堂のように、大勢の人たちが座る場所はない。その名の通り、ただ誓う場なのだろう。入ってすぐ正面に枢機卿、その横にミレナが立っていた。
目の前までたどり着くと、ぬいとノルはその場に跪く。互いに片手に持った錫杖を揺らし、口を開く。
「神々に宣誓の許しを」
「神々の代理として、許可を出そう」
枢機卿がそう言うと、ノルは空いた手を胸に当てる。
「この小さき者は、異邦者ヌイを生涯の伴侶として迎い入れることを望む」
次にぬいが同じポーズを取ると、一呼吸する。
「この小さき者は、ノルベルト・イザーク・スヴァトプルクを生涯の伴侶として、受け入れられることを望む」
無事に言い終え、ぬいは人心地つく。ノルの名前は長い、うっかり噛んでしまえば台無しになると、緊張していたからである。二人が口にし終えると、錫杖に飾られた水晶が柔らかな光を放つ。その光は眩しいものではなく、ただ暖かい。
「互いを慈しみ、報いると。神々の面前にて誓えるか」
枢機卿は教典らしきもののページをめくる。その背表紙には水晶がちりばめられているのか、淡く反射している。
「教義に則り、反故にすることはないと誓います」
「与えられるものに驕り、傲慢さを持たぬと誓います」
「神官貴族としての誇りと責任を持ち、今後も邁進するといい。この時をもって、両者は認められた」
「神々に感謝を」
二人がそう言い終わると、ぬいの持っている錫杖が一段と輝きを増す。なぜ自分のだけが、これほど眩しいのだろうと疑問に思う。
だが、ぬいは通常がどんなものであるかは知らない。気にならない振りをしながらノルを見ると、目を丸くしていた。
やはり何かが変なのだろうと、焦りを感じた時。光が弾け、部屋中に霧散する。日の光とステンドグラスの反射から、きらめくその光景は。ただ幻想的であった。
「これは……神々の気まぐれか」
その場にいた全員が枢機卿を見る。どうやらミレナも知らないようである。
「その名の通り、時折このような現象が起こる。人を選ばず、皇族貴族商人または孤児などにも。害も祝福もなにもなく、ただ輝かせる」
「わたくしの親族では見たことはありません」
「百年あったり、なかったり。皇族なれど、神々にとっては等しく人である」
「ええ、そうですね」
枢機卿とミレナが話しているのを聞いていると、ぬいはふと視線を感じた。その主はもちろん一人しかないない。
ノルはただまっすぐ、ぬいのことを見つめていた。
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