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本編
99:休ませたい①
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ノルに装飾具を渡す目処はついた。問題はサイズ測定である。正面切って言うのが楽であろうが、それをしては元も子もない。
人に聞くとしても、知っている人が誰か検討もつかないし、一番の理解者である彼の両親はもういない。
そもそもノルはどうやって、ぬいの指のサイズを測ったのだろうか。旅に出る前、ノルの前で熟睡した覚えもない。
ぬいはもらった指輪を触る。角度によって色が変わることはせず、同じ色を保っている。
「……あ、指か」
ノルはいつの間にか、自然にぬいの手を握るようになった。きっと、その時に目星をつけていたのだろう。大分前から、そんなことを目論んでいたらしい。ぬいは顔が赤くなる。
ぬいも同じことができるかと言えば、もちろん否である。触っただけでわかるはずもない。だとしたら、取れる行動は一つ。ノルを寝かせて、その隙に計るしかない。
◇
ここのところ、ノルは毎日ぬいの元へとやってくる。
日中共に過ごすこともあるが、忙しいのか夜にふらりとやってきて、一目見て帰ってくることもある。酒気を帯びていたのは以前の一回のみであり、それ以降は見ていない。
これだけ忙しい理由の検討はつく。一つは旅後の処理。もう一つは異邦者という、異分子を貴族の家へ迎い入れる準備だろう。
「ヌイ」
どう見てもノルは疲れている。だが、弱音を吐かないどころか嬉しそうにしている。今もぬいのことを見た瞬間、嬉しそうに微笑んだ。初対面の時と比べ随分柔らかくなっている。
それはぬい自身も同じで、時々鏡を見るとこんなにも表情が存在したのかと、自分で驚くことがある。
「こんにちは、ノルくん。この時間ってことは、日中一緒に過ごせるのかな?」
「……一緒?ああ、もちろんだ。家へ帰ろう」
疲弊したノルの耳は、一部の言葉しか聞き取れなかったらしい。ぬいの手を掴むと、連れて行こうとする。
「違うって、ちょっと……ノルくん!」
行先はどう考えてもノルの家だろう。ここの所、ぬいは何度も誘われている。訪問するくらいならいいと思ったが、ミレナに止められている。
一度入ってしまったら、きっと出してくれないからと。そうなってしまえば、ぬいの目論見が叶うことはないだろう。
体に力を入れて踏ん張ろうとするが、ノルの力は強い。いつもであれば、すぐに気づいてくれるが、今日は余程疲れているらしい。
「かみが……っと」
聖句を唱えようとするが、引っ張られた拍子に舌を噛みそうになる。長く唱えている暇はない。
「力を、体に」
簡略化した聖句を唱えると、重心が下に下がるのを感じた。自分の腕を引っ張り、ノルの足を止めることに成功する。
「ん?」
ノルは振り返ると不思議そうな顔をしていた。ぬいは体に力がみなぎるのを感じる。今ならば軽々とノルを持ち上げられるかもしれない。そう思い、正面に回ると抱き着いた。
「ヌイ?急にどうした?」
「ふんっ、むー……ううぅ」
おかしかった、持ち上げるどころかびくともしない。以前ミレナはぬいのことはもちろん、トゥーのことも軽々持ち上げていた。
不完全な御業とはいえ、少しくらい動くだろうと。だが、現実は残酷である。
彼女ほど御業がなっていないのか、ノルの方が重いのかはわからない。おそらく両方だろう。簡略化せず唱えたとしても、できる気はしない。ノルは背が高く筋肉量が多いからだ。
「だめか……」
ぬいが手を離し、落ち込んでいるとノルの手が頭を撫でる。
「御業を使っていたが、なにをしようとしていたんだ?」
「ノルくんを持ち上げようと思ったけど、無理だったみたいだね」
「僕を運んでどうする」
「だって、ノルくん話を聞いてくれなかったから」
いじけるぬいを見て、ノルは申し訳なさそうになる。
「すまなかった。ヌイにそんな気を配れないなんて……今日はもう帰ろう」
寂しそうに言うノルの手を掴むと、ぬいは首を振った。
「ううん、多分家に帰ってもノルくんは休まないでしょ?だから、わたしともう少し一緒に居てくれる?」
人に聞くとしても、知っている人が誰か検討もつかないし、一番の理解者である彼の両親はもういない。
そもそもノルはどうやって、ぬいの指のサイズを測ったのだろうか。旅に出る前、ノルの前で熟睡した覚えもない。
ぬいはもらった指輪を触る。角度によって色が変わることはせず、同じ色を保っている。
「……あ、指か」
ノルはいつの間にか、自然にぬいの手を握るようになった。きっと、その時に目星をつけていたのだろう。大分前から、そんなことを目論んでいたらしい。ぬいは顔が赤くなる。
ぬいも同じことができるかと言えば、もちろん否である。触っただけでわかるはずもない。だとしたら、取れる行動は一つ。ノルを寝かせて、その隙に計るしかない。
◇
ここのところ、ノルは毎日ぬいの元へとやってくる。
日中共に過ごすこともあるが、忙しいのか夜にふらりとやってきて、一目見て帰ってくることもある。酒気を帯びていたのは以前の一回のみであり、それ以降は見ていない。
これだけ忙しい理由の検討はつく。一つは旅後の処理。もう一つは異邦者という、異分子を貴族の家へ迎い入れる準備だろう。
「ヌイ」
どう見てもノルは疲れている。だが、弱音を吐かないどころか嬉しそうにしている。今もぬいのことを見た瞬間、嬉しそうに微笑んだ。初対面の時と比べ随分柔らかくなっている。
それはぬい自身も同じで、時々鏡を見るとこんなにも表情が存在したのかと、自分で驚くことがある。
「こんにちは、ノルくん。この時間ってことは、日中一緒に過ごせるのかな?」
「……一緒?ああ、もちろんだ。家へ帰ろう」
疲弊したノルの耳は、一部の言葉しか聞き取れなかったらしい。ぬいの手を掴むと、連れて行こうとする。
「違うって、ちょっと……ノルくん!」
行先はどう考えてもノルの家だろう。ここの所、ぬいは何度も誘われている。訪問するくらいならいいと思ったが、ミレナに止められている。
一度入ってしまったら、きっと出してくれないからと。そうなってしまえば、ぬいの目論見が叶うことはないだろう。
体に力を入れて踏ん張ろうとするが、ノルの力は強い。いつもであれば、すぐに気づいてくれるが、今日は余程疲れているらしい。
「かみが……っと」
聖句を唱えようとするが、引っ張られた拍子に舌を噛みそうになる。長く唱えている暇はない。
「力を、体に」
簡略化した聖句を唱えると、重心が下に下がるのを感じた。自分の腕を引っ張り、ノルの足を止めることに成功する。
「ん?」
ノルは振り返ると不思議そうな顔をしていた。ぬいは体に力がみなぎるのを感じる。今ならば軽々とノルを持ち上げられるかもしれない。そう思い、正面に回ると抱き着いた。
「ヌイ?急にどうした?」
「ふんっ、むー……ううぅ」
おかしかった、持ち上げるどころかびくともしない。以前ミレナはぬいのことはもちろん、トゥーのことも軽々持ち上げていた。
不完全な御業とはいえ、少しくらい動くだろうと。だが、現実は残酷である。
彼女ほど御業がなっていないのか、ノルの方が重いのかはわからない。おそらく両方だろう。簡略化せず唱えたとしても、できる気はしない。ノルは背が高く筋肉量が多いからだ。
「だめか……」
ぬいが手を離し、落ち込んでいるとノルの手が頭を撫でる。
「御業を使っていたが、なにをしようとしていたんだ?」
「ノルくんを持ち上げようと思ったけど、無理だったみたいだね」
「僕を運んでどうする」
「だって、ノルくん話を聞いてくれなかったから」
いじけるぬいを見て、ノルは申し訳なさそうになる。
「すまなかった。ヌイにそんな気を配れないなんて……今日はもう帰ろう」
寂しそうに言うノルの手を掴むと、ぬいは首を振った。
「ううん、多分家に帰ってもノルくんは休まないでしょ?だから、わたしともう少し一緒に居てくれる?」
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