83 / 139
本編
82:積もる話①
しおりを挟む***
次の日、無断欠勤した宮本のスマホに江藤が電話した。いつもなら秒で繋がるのに、残念ながらそれがまったく繋がらないのである。LINEをしても、既読にもならないことを不審に思い、兄である雅輝に連絡を入れた。
「もしもし、雅輝。今大丈夫か?」
「おはよ、江藤ちん。朝からどうした?」
「それがよ、宮本のヤツが無断欠勤していてな。今までそんなことをしたことがないから、なにか知ってるかと思ってさ」
「俺はアイツから、なにも聞いてない。具合が悪くなったとかそういうのも、一切知らないが」
「わかった。ちょっと上にかけ合って、アイツの家にこれから行ってみる。なにかわかったら、また連絡するから」
江藤は気落ちしながらスマホをオフにし、重たい腰をあげて、宮本の自宅に行くことの許可を得にいく。ダメだと言われたら、有給を使ってでも行こうと考えていたのに、あっさり認められたことにより、大手を振って宮本が住むマンションに向かった。
恋人から渡されている合鍵を、不安な気持ちで使うことになろうとは、夢にも思わなかった。
「部屋でぶっ倒れて、冷たくなっていたらどうする……」
震える手でなんとか開錠して、見慣れた扉を勇気を出して開け、奥歯を噛みしめながら中に入ったのだが。
「宮本がいない。どういうことだよ?」
想像していたことが杞憂になったのはいいが、本人がいないことにふたたびぞわっとするものが、江藤の中に沸き起こった。
どこかに連れ去られて拉致監禁、身代金の請求。それとも外で誰かと逢ってトラブルに巻き込まれて、怪我をして病院に搬送されている。それとも――。
悪いことばかりが頭に浮かんでは消えていく現状を打破すべく頭を振って、散らばっているメモ帳をテーブルの上にかき集めた。なにか証拠が残っている可能性を、すべて潰していくために。
真っ白なメモ帳の中に、ひとつだけ筆圧で凹んだものを見つけた。それを探るために、テーブルに置きっぱなしになっている鉛筆を使って、メモ紙の表面を薄く塗ってみる。
「パワースポット・みかさ山入口ちゅうしゃ場のわき水・ドジを直すべし・湧き水向かって左・ありがた系の恋愛長寿……。なんで恋愛成就じゃねぇんだ、あのバカ!」
江藤は黒く塗ったメモ紙を破り、その場にへたり込んだ。宮本が行方不明の原因がわかってほっとして、力が一気に抜けてしまった。
恋愛長寿――自分との恋愛を末永いものにしたい。そんな宮本の気持ちを察してしまい、涙が滲みそうになった。
「みずからの努力を怠り、パワースポットを使って、俺様との恋愛を長続きさせようなんてするから、山の神様に魅入られてしまうんだ」
震える手でスマホを握りしめ、もう一度雅輝に連絡した。
「雅輝、何度も悪い。宮本の行方がわかったんだが――」
江藤の説明を聞いた雅輝は、自分の仕事を中断して山に入ると言い出すが、それを断った。
「俺様は一度自宅に帰って、入山できる準備をする。だから迎えに来てほしいんだ。雅輝は三笠山のことについて詳しいんだろ? 行く道中にいろいろ聞きたいこともある」
そうして一緒に、三笠山へ向かうことになった。
次の日、無断欠勤した宮本のスマホに江藤が電話した。いつもなら秒で繋がるのに、残念ながらそれがまったく繋がらないのである。LINEをしても、既読にもならないことを不審に思い、兄である雅輝に連絡を入れた。
「もしもし、雅輝。今大丈夫か?」
「おはよ、江藤ちん。朝からどうした?」
「それがよ、宮本のヤツが無断欠勤していてな。今までそんなことをしたことがないから、なにか知ってるかと思ってさ」
「俺はアイツから、なにも聞いてない。具合が悪くなったとかそういうのも、一切知らないが」
「わかった。ちょっと上にかけ合って、アイツの家にこれから行ってみる。なにかわかったら、また連絡するから」
江藤は気落ちしながらスマホをオフにし、重たい腰をあげて、宮本の自宅に行くことの許可を得にいく。ダメだと言われたら、有給を使ってでも行こうと考えていたのに、あっさり認められたことにより、大手を振って宮本が住むマンションに向かった。
恋人から渡されている合鍵を、不安な気持ちで使うことになろうとは、夢にも思わなかった。
「部屋でぶっ倒れて、冷たくなっていたらどうする……」
震える手でなんとか開錠して、見慣れた扉を勇気を出して開け、奥歯を噛みしめながら中に入ったのだが。
「宮本がいない。どういうことだよ?」
想像していたことが杞憂になったのはいいが、本人がいないことにふたたびぞわっとするものが、江藤の中に沸き起こった。
どこかに連れ去られて拉致監禁、身代金の請求。それとも外で誰かと逢ってトラブルに巻き込まれて、怪我をして病院に搬送されている。それとも――。
悪いことばかりが頭に浮かんでは消えていく現状を打破すべく頭を振って、散らばっているメモ帳をテーブルの上にかき集めた。なにか証拠が残っている可能性を、すべて潰していくために。
真っ白なメモ帳の中に、ひとつだけ筆圧で凹んだものを見つけた。それを探るために、テーブルに置きっぱなしになっている鉛筆を使って、メモ紙の表面を薄く塗ってみる。
「パワースポット・みかさ山入口ちゅうしゃ場のわき水・ドジを直すべし・湧き水向かって左・ありがた系の恋愛長寿……。なんで恋愛成就じゃねぇんだ、あのバカ!」
江藤は黒く塗ったメモ紙を破り、その場にへたり込んだ。宮本が行方不明の原因がわかってほっとして、力が一気に抜けてしまった。
恋愛長寿――自分との恋愛を末永いものにしたい。そんな宮本の気持ちを察してしまい、涙が滲みそうになった。
「みずからの努力を怠り、パワースポットを使って、俺様との恋愛を長続きさせようなんてするから、山の神様に魅入られてしまうんだ」
震える手でスマホを握りしめ、もう一度雅輝に連絡した。
「雅輝、何度も悪い。宮本の行方がわかったんだが――」
江藤の説明を聞いた雅輝は、自分の仕事を中断して山に入ると言い出すが、それを断った。
「俺様は一度自宅に帰って、入山できる準備をする。だから迎えに来てほしいんだ。雅輝は三笠山のことについて詳しいんだろ? 行く道中にいろいろ聞きたいこともある」
そうして一緒に、三笠山へ向かうことになった。
0
お気に入りに追加
15
あなたにおすすめの小説
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。
婚約破棄してくださって結構です
二位関りをん
恋愛
伯爵家の令嬢イヴには同じく伯爵家令息のバトラーという婚約者がいる。しかしバトラーにはユミアという子爵令嬢がいつもべったりくっついており、イヴよりもユミアを優先している。そんなイヴを公爵家次期当主のコーディが優しく包み込む……。
※表紙にはAIピクターズで生成した画像を使用しています

覚悟はありますか?
翔王(とわ)
恋愛
私は王太子の婚約者として10年以上すぎ、王太子妃教育も終わり、学園卒業後に結婚し王妃教育が始まる間近に1人の令嬢が発した言葉で王族貴族社会が荒れた……。
「あたし、王太子妃になりたいんですぅ。」
ご都合主義な創作作品です。
異世界版ギャル風な感じの話し方も混じりますのでご了承ください。
恋愛カテゴリーにしてますが、恋愛要素は薄めです。
断る――――前にもそう言ったはずだ
鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」
結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。
周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。
けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。
他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。
(わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)
そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。
ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。
そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?
旦那様、前世の記憶を取り戻したので離縁させて頂きます
結城芙由奈@2/28コミカライズ発売
恋愛
【前世の記憶が戻ったので、貴方はもう用済みです】
ある日突然私は前世の記憶を取り戻し、今自分が置かれている結婚生活がとても理不尽な事に気が付いた。こんな夫ならもういらない。前世の知識を活用すれば、この世界でもきっと女1人で生きていけるはず。そして私はクズ夫に離婚届を突きつけた―。
いつか彼女を手に入れる日まで
月山 歩
恋愛
伯爵令嬢の私は、婚約者の邸に馬車で向かっている途中で、馬車が転倒する事故に遭い、治療院に運ばれる。医師に良くなったとしても、足を引きずるようになると言われてしまい、傷物になったからと、格下の私は一方的に婚約破棄される。私はこの先誰かと結婚できるのだろうか?

雪解けの白い結婚 〜触れることもないし触れないでほしい……からの純愛!?〜
川奈あさ
恋愛
セレンは前世で夫と友人から酷い裏切りを受けたレスられ・不倫サレ妻だった。
前世の深い傷は、転生先の心にも残ったまま。
恋人も友人も一人もいないけれど、大好きな魔法具の開発をしながらそれなりに楽しい仕事人生を送っていたセレンは、祖父のために結婚相手を探すことになる。
だけど凍り付いた表情は、舞踏会で恐れられるだけで……。
そんな時に出会った壁の花仲間かつ高嶺の花でもあるレインに契約結婚を持ちかけられる。
「私は貴女に触れることもないし、私にも触れないでほしい」
レインの条件はひとつ、触らないこと、触ることを求めないこと。
実はレインは女性に触れられると、身体にひどいアレルギー症状が出てしまうのだった。
女性アレルギーのスノープリンス侯爵 × 誰かを愛することが怖いブリザード令嬢。
過去に深い傷を抱えて、人を愛することが怖い。
二人がゆっくり夫婦になっていくお話です。
廃妃の再婚
束原ミヤコ
恋愛
伯爵家の令嬢としてうまれたフィアナは、母を亡くしてからというもの
父にも第二夫人にも、そして腹違いの妹にも邪険に扱われていた。
ある日フィアナは、川で倒れている青年を助ける。
それから四年後、フィアナの元に国王から結婚の申し込みがくる。
身分差を気にしながらも断ることができず、フィアナは王妃となった。
あの時助けた青年は、国王になっていたのである。
「君を永遠に愛する」と約束をした国王カトル・エスタニアは
結婚してすぐに辺境にて部族の反乱が起こり、平定戦に向かう。
帰還したカトルは、族長の娘であり『精霊の愛し子』と呼ばれている美しい女性イルサナを連れていた。
カトルはイルサナを寵愛しはじめる。
王城にて居場所を失ったフィアナは、聖騎士ユリシアスに下賜されることになる。
ユリシアスは先の戦いで怪我を負い、顔の半分を包帯で覆っている寡黙な男だった。
引け目を感じながらフィアナはユリシアスと過ごすことになる。
ユリシアスと過ごすうち、フィアナは彼と惹かれ合っていく。
だがユリシアスは何かを隠しているようだ。
それはカトルの抱える、真実だった──。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる