78 / 139
本編
77:過敏な感情
しおりを挟む
それからまた数日、やはりぬいはノルと会うことがなかった。いっそ直接屋敷に行こうと行動するが、前は連れられただけであり、道がまったくわからない。大きな邸宅がある付近をうろうろするが、一軒一軒の敷地が広すぎたため、断念した。
食事量が減ったからと言って、ぬいは週末の買い食いをやめることはなかった。収入源は絶たれたが、元々莫大な食費に賃金を持っていかれたため、しばらく心配するほどではない。
常識的な量を注文すると、本当にいいのかと何度も確認され、最終的におまけもつけてくれた。ぬいは一人ベンチに座って、ゆっくりかみしめていた。
日の光にあたり、街中をあちこち移動し、おいしいごはんを食べる。綠であったとき、叶わなかった夢。そんな何気ないことに幸せを覚える。
完食後、無防備にうとうとしていると急に息ができなくなった。さすがにこれはおかしい。目を見開くと目の前に不満げな顔をしたノルがいた。
「ようやく起きたか。僕がいなくても、ずいぶんと幸せそうだったな」
そう言うと、ノルはぬいの鼻から手を離した。どうやらつままれていたらしい。
「口も塞いでおけばよかったか」
「さすがに息できなくなるから、それは困るよ」
さらりと返すと、ノルは不機嫌になる。どこか刺々しい物言いに加えて、まるで前の関係に戻ったようである。
「ノルくん記憶なくしたとかじゃないよね?」
「なくしていたのはそっちの方だろう」
反論できないことを言われ、ぬいは言葉に詰まる。このことから、ノルは自分を助けてくれた時の記憶を持っている確証を得た。だが、今だ不安であった。
「……えっと、わたしの名前わかる?」
ぬいは胸に手を当てると、伺いながら首をかしげた。
「っは、バカにするな。ヌイの名を忘れてどうする」
どうやらきちんと認識しているらしい。厳しい目つきとはいえ、久しぶりに名を呼ばれたからか、ぬいはどことなく落ち着かない気持ちになる。
「そっ、そういえば。ノルくんいつの間にわたしのこと名前で呼んでたよね。前はずっと堕神呼ばわりだったのにさ」
照れを隠すように、少しだけ早口で質問する。
「手に入れたいと思った人の名を呼ぶのは、当然のことだろう?」
「………え?」
なんてことのないように、ノルは返答する。その表情は照れもせず、至って真面目である。ぬいは照れ隠しどころか、完全に赤面し顔を膝にうずめた。
「ヌイ、顔をあげてくれ」
真っ赤になった顔を見られていたのだろう。打って変わって、ノルは甘い声で呼びかける。
「いーやーだ!」
「そうか、可哀そうに。ヌイは腹痛で動けなくなったのか」
もし表情が見えていたならば、さぞニヤニヤしていたことだろう。ノルはぬいのすぐ横に腰を下ろすと、背中を優しくさすってきた。頬どころか全身があつくなる。
「それも、やめてー」
声に力が入らず、しまりのない物言いになる。
「だったら、顔をあげてくれ。本当に具合が悪くないのか、見てみないとわからない」
このままの状況を続ければ、ぬいは他者から見ても腹痛で悶える人になるだろう。横には買い食いのあとがあるので、言い逃れはできない。それはいくらなんでも恥ずかしかった。
「わかったよ!顔を上げるから、やめてね」
ノルの手が離れ、ぬいはそっと顔を上げる。思っていた以上にノルとの距離が近い。密着されていないからと、油断していたようだ。
「かわいいな、ヌイは」
心の底からそう思っているという表情を近距離で認識してしまう。その表情は柔らかく、どことなく甘さを含んでいる。
ぬいはまた顔を伏せた。
◇
「ところで、ノルくんはここになにしに来たの?」
未だ落ち着かない頬を戻そうと、ぬいは手を当てる。
「ヌイにただ会いに来ただけだ」
「うっ、そういうことじゃなくてね」
目を逸らすと、頬に当てた手に力を入れる。
「会いに来るだけなら、日が落ちたあと宿舎に行った方が確実だよね?そうせずに、わたしの行動範囲にあたりをつけて、わざわざ探してくれた」
「一刻も早くヌイの顔を見たかった。それではだめか?」
「もー!思考を乱さないでよ!」
ぬいは首をブンブン振る。その様子を見て、ノルは楽しそうに笑う。
「なんか随分押しが強くない?こんなにぐいぐい来なかったよね?以前の可愛げのあるノルくんは、いったいどこに行ったの?」
「一度君を失いかけたんだ。けど、こうして今は戻ってきた。照れたり物怖じしている場合ではないからな」
「うっ……いくら感情が戻ったっていっても、ここまで過敏なのは直後だからであって。元はこんなんじゃないからね。本当はもっと年相応に落ち着いてるから!」
頬から手を離すと、膝にあて目を閉じ深呼吸する。一旦落ち着こうとの行動だったが、そうさせてはくれない。
「ひゃっ、なに!?」
頬をつつかれる感覚に目を開けると、ぬいは飛び上がる。まるではじめて会った時のようだと、思い出す。ただ大きく違うのは、そこに好意があるというところである。
「以前僕を落ち着かせようと、頬を触っただろう。それを返そうとしただけだ。確かに敏感だな」
悪びれもせず、ノルは言う。ぬいはじりじりと後ろに下がり、距離を取った。警戒する猫のような姿にノルはまた笑う。
「と、とにかく!別の用があるのは確実。言ってごらん。助けがいるなら、わたしはなんだろうと付き合うよ」
ノルには返しきれない恩がある。浄化だろうとも、なんでもするつもりでいた。
「なら僕と二人で旅に出てもらおうか」
「え、無理」
即否定すると、ノルの顔色が悪くなる。まるでこの世の終わりかのようだ。
「そうか、嫌ではなく無理か……」
「そういう意味じゃなくて、あー落ち込まないでって」
ノルにに近づくと、頭を撫でる。だが、それでも元に戻らない。
「ごめんね。言い方が悪かったよ。さっきも言った通り、今はすべての刺激が強すぎて」
背中に腕を回すと、軽く叩く。よしよしと、子供をあやすようなことをしていると、不意に腕を捕まれた。
「ノルくん?」
上げた顔はとても悪そうな表情をしていた。
「捕まえた」
両腕を押さえられる。痛くはないが、その力は強い。非力なぬいが抵抗しても、びくともしないだろう。
「やっと、正面から見てくれた。照れる顔がずっと見たかったが、目を合わせてくれないのは……少し寂しかった」
正直な感情の吐露に、ぬいの胸は痛くなる。それが申し訳なさなのか、好意なのかはまだ不明である。
「わたしもあれから会えなかったのは、なんだか不安だったし、つまらなかったよ」
正直さにはそのまま返そうと、素直な気持ちを告げた。
「あんなに幸せそうに昼寝をしていたのに、か?」
「ノルくん……意外と根に持つね」
「いくらなんでも、無防備すぎだ」
どうやら過保護でもあるらしい。ぬいはこれから、外で寝ることは控えようと決心した。
「……契約の魔法を覚えているか?」
急にずいぶん前のことを問われ、思い出すのに時間がかかった。
「う、うん」
「あれをすぐ解くように神から申し付けられた」
複数ではなく、たった一人のことを指す。そのことから、ぬいの弟であることが分かる。
「なんで、急に」
あの契約に時間制限はついていない。それゆえ、旅立つのはずっと先だろうと考えていた。
アイシェから聞いた様子では、そう簡単に生きていける甘い国ではない。丹念に準備をしなければ、よくてすぐ帰国。悪ければ死ぬに違いない。
「身内の足の骨が折れる。そんな可能性がずっと残るのは嫌だからだろう」
「……確かに、それは嫌だね」
ぬいだけではなく、ノルにもその可能性はある。早いうちに何とかしておいたほうがいい。
「ここから数日ほどで国境に着く。魔法を解いて、すぐに戻ろう」
「そうだね。わたしにまだ旅は無理そうだ」
世界を見て回りたい。その気持ちはまだある。だが、綠のときのように簡単にできることではない。
「そう残念そうな顔をするな。今回も次も、僕が連れて行こう」
「えっ、ノルくん本当に着いてきてくれるの?」
契約内容はあくまで旅の援助をするだけである。
「貴族で当主なんだから、忙しいよね?そんなに家を空けて大丈夫なの?」
「そのための準備だ。ヌイに会えない間、不在時の手配、親族への通達、見合いの返事、浄化の代役。全てを終わらせてきた」
あれこれ言っていたが、ぬいは見合いの返事という言葉しか頭に入ってこなかった。
ノルがぬいに好意を持っているのは、もはや言われずともわかる。だからと言って、アイシェやミレナの言うような関係になるわけではない。鍋島の時のように想いを伝えて終わることもあるだろう。
ぬいはこの世界で生まれたわけではなく、完全な人間ですらなかった。戸籍が存在するかは不明だが、書類にぬいという名はないだろうし、どうあがいても異分子である。
そんな存在が貴族とどうにかなるなど、あり得るのだろうか。そもそも自分がそれを望んでいるかも、まだはっきりしない。
鍋島との決闘で勝利し、今のノルに寿命に関する問題はない。若く力があり、見た目も整っている。そうなると、本人の意思がどうであれ、周りが放っておかない。ぬいは愛人になるくらいだったら潔くこの国を出るだろう。
「ヌイはなにも準備をする必要はない。明日、ついて来て欲しい」
この先どうなるかは、なにもわからない。今無駄に考えていても仕方がないと、ぬいは頷いた。
食事量が減ったからと言って、ぬいは週末の買い食いをやめることはなかった。収入源は絶たれたが、元々莫大な食費に賃金を持っていかれたため、しばらく心配するほどではない。
常識的な量を注文すると、本当にいいのかと何度も確認され、最終的におまけもつけてくれた。ぬいは一人ベンチに座って、ゆっくりかみしめていた。
日の光にあたり、街中をあちこち移動し、おいしいごはんを食べる。綠であったとき、叶わなかった夢。そんな何気ないことに幸せを覚える。
完食後、無防備にうとうとしていると急に息ができなくなった。さすがにこれはおかしい。目を見開くと目の前に不満げな顔をしたノルがいた。
「ようやく起きたか。僕がいなくても、ずいぶんと幸せそうだったな」
そう言うと、ノルはぬいの鼻から手を離した。どうやらつままれていたらしい。
「口も塞いでおけばよかったか」
「さすがに息できなくなるから、それは困るよ」
さらりと返すと、ノルは不機嫌になる。どこか刺々しい物言いに加えて、まるで前の関係に戻ったようである。
「ノルくん記憶なくしたとかじゃないよね?」
「なくしていたのはそっちの方だろう」
反論できないことを言われ、ぬいは言葉に詰まる。このことから、ノルは自分を助けてくれた時の記憶を持っている確証を得た。だが、今だ不安であった。
「……えっと、わたしの名前わかる?」
ぬいは胸に手を当てると、伺いながら首をかしげた。
「っは、バカにするな。ヌイの名を忘れてどうする」
どうやらきちんと認識しているらしい。厳しい目つきとはいえ、久しぶりに名を呼ばれたからか、ぬいはどことなく落ち着かない気持ちになる。
「そっ、そういえば。ノルくんいつの間にわたしのこと名前で呼んでたよね。前はずっと堕神呼ばわりだったのにさ」
照れを隠すように、少しだけ早口で質問する。
「手に入れたいと思った人の名を呼ぶのは、当然のことだろう?」
「………え?」
なんてことのないように、ノルは返答する。その表情は照れもせず、至って真面目である。ぬいは照れ隠しどころか、完全に赤面し顔を膝にうずめた。
「ヌイ、顔をあげてくれ」
真っ赤になった顔を見られていたのだろう。打って変わって、ノルは甘い声で呼びかける。
「いーやーだ!」
「そうか、可哀そうに。ヌイは腹痛で動けなくなったのか」
もし表情が見えていたならば、さぞニヤニヤしていたことだろう。ノルはぬいのすぐ横に腰を下ろすと、背中を優しくさすってきた。頬どころか全身があつくなる。
「それも、やめてー」
声に力が入らず、しまりのない物言いになる。
「だったら、顔をあげてくれ。本当に具合が悪くないのか、見てみないとわからない」
このままの状況を続ければ、ぬいは他者から見ても腹痛で悶える人になるだろう。横には買い食いのあとがあるので、言い逃れはできない。それはいくらなんでも恥ずかしかった。
「わかったよ!顔を上げるから、やめてね」
ノルの手が離れ、ぬいはそっと顔を上げる。思っていた以上にノルとの距離が近い。密着されていないからと、油断していたようだ。
「かわいいな、ヌイは」
心の底からそう思っているという表情を近距離で認識してしまう。その表情は柔らかく、どことなく甘さを含んでいる。
ぬいはまた顔を伏せた。
◇
「ところで、ノルくんはここになにしに来たの?」
未だ落ち着かない頬を戻そうと、ぬいは手を当てる。
「ヌイにただ会いに来ただけだ」
「うっ、そういうことじゃなくてね」
目を逸らすと、頬に当てた手に力を入れる。
「会いに来るだけなら、日が落ちたあと宿舎に行った方が確実だよね?そうせずに、わたしの行動範囲にあたりをつけて、わざわざ探してくれた」
「一刻も早くヌイの顔を見たかった。それではだめか?」
「もー!思考を乱さないでよ!」
ぬいは首をブンブン振る。その様子を見て、ノルは楽しそうに笑う。
「なんか随分押しが強くない?こんなにぐいぐい来なかったよね?以前の可愛げのあるノルくんは、いったいどこに行ったの?」
「一度君を失いかけたんだ。けど、こうして今は戻ってきた。照れたり物怖じしている場合ではないからな」
「うっ……いくら感情が戻ったっていっても、ここまで過敏なのは直後だからであって。元はこんなんじゃないからね。本当はもっと年相応に落ち着いてるから!」
頬から手を離すと、膝にあて目を閉じ深呼吸する。一旦落ち着こうとの行動だったが、そうさせてはくれない。
「ひゃっ、なに!?」
頬をつつかれる感覚に目を開けると、ぬいは飛び上がる。まるではじめて会った時のようだと、思い出す。ただ大きく違うのは、そこに好意があるというところである。
「以前僕を落ち着かせようと、頬を触っただろう。それを返そうとしただけだ。確かに敏感だな」
悪びれもせず、ノルは言う。ぬいはじりじりと後ろに下がり、距離を取った。警戒する猫のような姿にノルはまた笑う。
「と、とにかく!別の用があるのは確実。言ってごらん。助けがいるなら、わたしはなんだろうと付き合うよ」
ノルには返しきれない恩がある。浄化だろうとも、なんでもするつもりでいた。
「なら僕と二人で旅に出てもらおうか」
「え、無理」
即否定すると、ノルの顔色が悪くなる。まるでこの世の終わりかのようだ。
「そうか、嫌ではなく無理か……」
「そういう意味じゃなくて、あー落ち込まないでって」
ノルにに近づくと、頭を撫でる。だが、それでも元に戻らない。
「ごめんね。言い方が悪かったよ。さっきも言った通り、今はすべての刺激が強すぎて」
背中に腕を回すと、軽く叩く。よしよしと、子供をあやすようなことをしていると、不意に腕を捕まれた。
「ノルくん?」
上げた顔はとても悪そうな表情をしていた。
「捕まえた」
両腕を押さえられる。痛くはないが、その力は強い。非力なぬいが抵抗しても、びくともしないだろう。
「やっと、正面から見てくれた。照れる顔がずっと見たかったが、目を合わせてくれないのは……少し寂しかった」
正直な感情の吐露に、ぬいの胸は痛くなる。それが申し訳なさなのか、好意なのかはまだ不明である。
「わたしもあれから会えなかったのは、なんだか不安だったし、つまらなかったよ」
正直さにはそのまま返そうと、素直な気持ちを告げた。
「あんなに幸せそうに昼寝をしていたのに、か?」
「ノルくん……意外と根に持つね」
「いくらなんでも、無防備すぎだ」
どうやら過保護でもあるらしい。ぬいはこれから、外で寝ることは控えようと決心した。
「……契約の魔法を覚えているか?」
急にずいぶん前のことを問われ、思い出すのに時間がかかった。
「う、うん」
「あれをすぐ解くように神から申し付けられた」
複数ではなく、たった一人のことを指す。そのことから、ぬいの弟であることが分かる。
「なんで、急に」
あの契約に時間制限はついていない。それゆえ、旅立つのはずっと先だろうと考えていた。
アイシェから聞いた様子では、そう簡単に生きていける甘い国ではない。丹念に準備をしなければ、よくてすぐ帰国。悪ければ死ぬに違いない。
「身内の足の骨が折れる。そんな可能性がずっと残るのは嫌だからだろう」
「……確かに、それは嫌だね」
ぬいだけではなく、ノルにもその可能性はある。早いうちに何とかしておいたほうがいい。
「ここから数日ほどで国境に着く。魔法を解いて、すぐに戻ろう」
「そうだね。わたしにまだ旅は無理そうだ」
世界を見て回りたい。その気持ちはまだある。だが、綠のときのように簡単にできることではない。
「そう残念そうな顔をするな。今回も次も、僕が連れて行こう」
「えっ、ノルくん本当に着いてきてくれるの?」
契約内容はあくまで旅の援助をするだけである。
「貴族で当主なんだから、忙しいよね?そんなに家を空けて大丈夫なの?」
「そのための準備だ。ヌイに会えない間、不在時の手配、親族への通達、見合いの返事、浄化の代役。全てを終わらせてきた」
あれこれ言っていたが、ぬいは見合いの返事という言葉しか頭に入ってこなかった。
ノルがぬいに好意を持っているのは、もはや言われずともわかる。だからと言って、アイシェやミレナの言うような関係になるわけではない。鍋島の時のように想いを伝えて終わることもあるだろう。
ぬいはこの世界で生まれたわけではなく、完全な人間ですらなかった。戸籍が存在するかは不明だが、書類にぬいという名はないだろうし、どうあがいても異分子である。
そんな存在が貴族とどうにかなるなど、あり得るのだろうか。そもそも自分がそれを望んでいるかも、まだはっきりしない。
鍋島との決闘で勝利し、今のノルに寿命に関する問題はない。若く力があり、見た目も整っている。そうなると、本人の意思がどうであれ、周りが放っておかない。ぬいは愛人になるくらいだったら潔くこの国を出るだろう。
「ヌイはなにも準備をする必要はない。明日、ついて来て欲しい」
この先どうなるかは、なにもわからない。今無駄に考えていても仕方がないと、ぬいは頷いた。
0
お気に入りに追加
15
あなたにおすすめの小説
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。

侯爵令嬢は限界です
まる
恋愛
「グラツィア・レピエトラ侯爵令嬢この場をもって婚約を破棄する!!」
何言ってんだこの馬鹿。
いけない。心の中とはいえ、常に淑女たるに相応しく物事を考え…
「貴女の様な傲慢な女は私に相応しくない!」
はい無理でーす!
〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇
サラッと読み流して楽しんで頂けたなら幸いです。
※物語の背景はふんわりです。
読んで下さった方、しおり、お気に入り登録本当にありがとうございました!
拝啓、婚約者様。ごきげんよう。そしてさようなら
みおな
恋愛
子爵令嬢のクロエ・ルーベンスは今日も《おひとり様》で夜会に参加する。
公爵家を継ぐ予定の婚約者がいながら、だ。
クロエの婚約者、クライヴ・コンラッド公爵令息は、婚約が決まった時から一度も婚約者としての義務を果たしていない。
クライヴは、ずっと義妹のファンティーヌを優先するからだ。
「ファンティーヌが熱を出したから、出かけられない」
「ファンティーヌが行きたいと言っているから、エスコートは出来ない」
「ファンティーヌが」
「ファンティーヌが」
だからクロエは、学園卒業式のパーティーで顔を合わせたクライヴに、にっこりと微笑んで伝える。
「私のことはお気になさらず」
若奥様は緑の手 ~ お世話した花壇が聖域化してました。嫁入り先でめいっぱい役立てます!
古森真朝
恋愛
意地悪な遠縁のおばの邸で暮らすユーフェミアは、ある日いきなり『明後日に輿入れが決まったから荷物をまとめろ』と言い渡される。いろいろ思うところはありつつ、これは邸から出て自立するチャンス!と大急ぎで支度して出立することに。嫁入り道具兼手土産として、唯一の財産でもある裏庭の花壇(四畳サイズ)を『持参』したのだが――実はこのプチ庭園、長年手塩にかけた彼女の魔力によって、神域霊域レベルのレア植物生息地となっていた。
そうとは知らないまま、輿入れ初日にボロボロになって帰ってきた結婚相手・クライヴを救ったのを皮切りに、彼の実家エヴァンス邸、勤め先である王城、さらにお世話になっている賢者様が司る大神殿と、次々に起こる事件を『あ、それならありますよ!』とプチ庭園でしれっと解決していくユーフェミア。果たして嫁ぎ先で平穏を手に入れられるのか。そして根っから世話好きで、何くれとなく構ってくれるクライヴVS自立したい甘えベタの若奥様の勝負の行方は?
*カクヨム様で先行掲載しております

病弱設定されているようです
との
恋愛
『あのようにご立派な家門にお産まれになられたのに⋯⋯お可哀想なご令嬢だそうですのよ』
なんて噂が流れているけれど、誰も会ったことがないミリー・ミッドランド侯爵令嬢。
ネグレクトなんて言葉はない時代に生まれ落ちて、前世の記憶を取り戻したら⋯⋯。
前世の記憶と共に無双します!
ーーーーーー
大胆にも恋愛小説大賞にエントリー致しました。
ゆるふわの中世ヨーロッパ、幻の国の設定。
完結確定、R15は念の為・・

【完結】婚約者様、嫌気がさしたので逃げさせて頂きます
高瀬船
恋愛
ブリジット・アルテンバークとルーカス・ラスフィールドは幼い頃にお互いの婚約が決まり、まるで兄妹のように過ごして来た。
年頃になるとブリジットは婚約者であるルーカスを意識するようになる。
そしてルーカスに対して淡い恋心を抱いていたが、当の本人・ルーカスはブリジットを諌めるばかりで女性扱いをしてくれない。
顔を合わせれば少しは淑女らしくしたら、とか。この年頃の貴族令嬢とは…、とか小言ばかり。
ちっとも婚約者扱いをしてくれないルーカスに悶々と苛立ちを感じていたブリジットだったが、近衛騎士団に所属して騎士として働く事になったルーカスは王族警護にもあたるようになり、そこで面識を持つようになったこの国の王女殿下の事を頻繁に引き合いに出すようになり…
その日もいつものように「王女殿下を少しは見習って」と口にした婚約者・ルーカスの言葉にブリジットも我慢の限界が訪れた──。

平凡令嬢は婚約者を完璧な妹に譲ることにした
カレイ
恋愛
「平凡なお前ではなくカレンが姉だったらどんなに良かったか」
それが両親の口癖でした。
ええ、ええ、確かに私は容姿も学力も裁縫もダンスも全て人並み程度のただの凡人です。体は弱いが何でも器用にこなす美しい妹と比べるとその差は歴然。
ただ少しばかり先に生まれただけなのに、王太子の婚約者にもなってしまうし。彼も妹の方が良かったといつも嘆いております。
ですから私決めました!
王太子の婚約者という席を妹に譲ることを。

【完結】元妃は多くを望まない
つくも茄子
恋愛
シャーロット・カールストン侯爵令嬢は、元上級妃。
このたび、めでたく(?)国王陛下の信頼厚い側近に下賜された。
花嫁は下賜された翌日に一人の侍女を伴って郵便局に赴いたのだ。理由はお世話になった人達にある書類を郵送するために。
その足で実家に出戻ったシャーロット。
実はこの下賜、王命でのものだった。
それもシャーロットを公の場で断罪したうえでの下賜。
断罪理由は「寵妃の悪質な嫌がらせ」だった。
シャーロットには全く覚えのないモノ。当然、これは冤罪。
私は、あなたたちに「誠意」を求めます。
誠意ある対応。
彼女が求めるのは微々たるもの。
果たしてその結果は如何に!?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる