まわる相思に幸いあれ~悪人面の神官貴族と異邦者の彼女~

三加屋 炉寸

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本編

14:償いの開始②

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二人が到着すると、アンナはちょうど取込み中だったらしくシモンが出迎えた。

「これ、だれ?」

シモンはノルを見ると警戒心をあらわにする。初対面のぬいを家に招き入れるような人柄であっても、彼のことは怪しむらしい。

ぬいは感心して、うんうんと頷くとシモンの頭を撫でた。

「これはね、ど……」

泥棒と言おうとして、さすがに口をつぐんだ。これ以上警戒されては、面倒なことになってしまうからだ。

「ど……どこかの、その……少年くんだよ」

無理やりひねり出した言葉に、ノルとシモンは怪訝な顔をする。

「ヌイ、こいつ、おなじくらい?」

「少年と呼ばれる年ではない。バカにするな」

「シモンくんは九才だっけ。少年くんは何歳?」

ノルの方を見て首をかしげる。

「二十二だ」

「うわっ……まあ、青年くんくらいか。わたしは……何歳か忘れたけど、たぶん絶対上だから」

「はっ、虚勢はやめろ。よくて僕と同じくらいだろうに」

ノルはどう見ても信じていなかった。ぬいは小さく「ほんとなんだけど」とつぶやき、シモンに水晶を取ってくるように頼んだ。

少しだけ気まずい沈黙をノルと共に過ごした後、シモンが水晶を持って戻ってきた。ノルのことを疑わし気に見ながら、シモンはぬいにそれを渡す。

「はい、自分でやるって言ったからには、くれぐれもお願いね」

水晶を渡そうと手を差し出すと、ノルが置くように手のひらを差し出す。

「……なぜ置かない」

「そのまま渡すのはちょっと信用ならないかなって」

「この程度のものを盗むほど困っていない。あれは教皇さまの命であって」

「いいから、そのままやって」

「堕神に素手で触れと?」

「一回そっちから触ったくせに、なに言ってるの?」

「誤解を招く言い方はよせ」

シモンは最初こそおろおろしていたが、やがて納得した顔をするとこっそり家へと戻っていった。

二人はひとしきり言い合い、ようやくノルが折れた。懐から手袋を出し手にはめると、水晶をつかんだぬいの手の上にそっと重ねた。

ノルは心底不快そうな顔をするが、ぬいの表情は全く変わっていない。

「神々よ、日々の見守りに感謝を」

すると水晶が一瞬、目を開けてられないほど輝く。再び目を開くと、何事かと駆け付けたシモンが横に居た。

「すごい、水晶、かんぜん」

前にぬいは満タンになった状態を見たことがある。しかし、これは明らかに違っていた。ここまでキラキラと輝いていない。

ぬいは己との力量差にがっくりとうなだれた。きっとノルは偉そうにしているか、勝ち誇っているに違いない。

だが、当の本人も不思議そうな顔をしていた。



「おい、いつまで食っている」

ぬいの両手は手軽に食べられる軽食でうまっていた。週末はアンナの家ではなく、買い食いをするのが日課となっているからである。

予定が入ったからと言って、取りやめる彼女ではない。

「わたし朝ごはん食べてないんだよ?」

当然とばかりに答える。

「宿舎の食事をとればいいだろう」

「へぇー、青年くんはあれで満足するんだね」

ぬいは口の中のものを飲み込むと返事をした。

「味はともかく量はあれで充分だろう」

「え?全然足りないけど」

「どう見ても食べすぎだ……」

ノルはあきれたように言う。ぬい自身もそれは否定できなかった。

「ま、なにかをしたいときは、そうしたほうがいいと思うんだ」

別のどこかを見るように言う。すると、ノルが肩を掴んできた。

「堕神、その目はやめろ」

その行動にすぐ焦点が戻る。ぬいはきょとんとした顔でノルのことを見た。

どこか恐怖と侮蔑が伴った表情である。

「青年くんはさ、なんでわたしのことをそんなに嫌悪してるの?」

ぬいが元に戻ると、案の定手を払う。

「君には関係ない。さっさと向かうぞ」

ノルは突っぱねると、背を向けて先に歩きはじめた。
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