寿命通貨

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寿命通貨

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「合計で3日分になります」
僕は手首を店員さんに差し出した、すると店員さんがスキャナーで手首を読み込むと僕の手首に表示されていた5の数字が2へと変わる。
僕の寿命はあと2日。

購入した商品を受け取り,コンビニをあとにした。
車に乗り込み手首を眺ながらため息まじりに

「あと2日か・・・・」

と呟いた。

この世界では寿命がお金として使われている。
仕事をして寿命を稼ぎ、寿命で買い物をする。

普通に働いていれば死ぬことなく生き続けれる社会になっていた。
しかしそれだと人口が増える一方なのでは?と思うかもしれない。
けれどそんな心配はいらない。

なぜなら僕のような無職はすぐに死んでしまうからだ、もちろんホームレスなんてあっという間にいなくなってしまう。
昔のように紙と硬貨の時代のほうが無職でも生活保護などで生きていけたから人口増加が問題になっていたらしい。
増加に伴い資源の奪い合いで戦争なんてよくある光景だったと祖父に聞いた。

今では闘う必要もない程度に資源は安定している。

豊かな世界でなぜ僕が残り2日の寿命なのか、それはうつ病になり仕事が続かないからだ。
人間関係に馴染めない人はストレス傾向が高く鬱になりやすいので必然的に淘汰されるのだ。

つまり僕は人類には必要ない人間なのだろう。

残り2日何をしようか考えても何も思いつかず、考えるのをやめて車を走らせ帰路についた。

家に着く頃には残りの2日の使い道を決めていた。今同居している妻にありったけの感謝とできるだけの恩返しをしようと決めていた。
もうあと数回しか握らないだろうドアノブに手をかけ、扉を開いた。定位置に鍵を置き、靴を脱いできれいに並べる。
リビングに繋がるドアを開けて僕は部屋の変わり果てた光景に思考が停止する。

妻の私物がきれいに無くなっていた、あわてて妻の部屋に向かって見ると蛻の殻だった。
僕は察した、きっと愛想つかせて家を出ていったのだろう。

そりゃそうだ、無職の僕といると妻の寿命まで削ってしまう。誰だって死にたくはないだろうし当然のことだ。
僕は一人でひっそりと死ぬのだろうと思うと惨めな気持ちになり思わず泣いてしまった。

誰も居ない部屋だから思う存分に声を出して泣いた。
やがて泣きつかれた僕は部屋に差し込む夕日に照らされる中眠りについた。


どれくらい寝ただろうか、目を覚まし頭が覚醒していくと妻が出ていったことを思い出し、じわじわと心が鬱に蝕まれていくのを感じた。

胸が締め付けられて息苦しくなり苦しい。もう嫌だ、こんな思いするなら生まれなきゃよかった、でもあと二日経てば苦しみからかいほうされる。
その事を思うと少しだけ楽にはなったが、また涙が出てきてしまう。
なんて惨めなんだろう。

2日待つくらいなら今楽になろうかな、それが最善策のように感じた。
さっそく実行するために立ち上がった時、玄関が開く音がした。

そしてリビングに妻が入ってきた。

「ただいま」

いつものようにニコニコとしながら妻は言う。
でも、なぜかえってきたのだろう?
妻の行動が理解できなかった。

「・・・なんで?家を出たんじゃ・・・・」

すると妻はキョトンとして少し間を開けて笑った。

「違うよ、私の荷物なくなってたから勘違いしたの?そんなことより手首出して」

そういって妻は僕の手首を掴み妻の手首を重ねる。
すると僕の寿命の数字がどんどん増えていく。
思わず僕は手首を引っ込めて聞いた。 

「ちょっとまってどういうこと?」

「なにが?」

「いや、こんなに寿命もらったら栞の寿命が・・・」

「減らないよ、私物を売った寿命を移してるだけだから」

そうか、妻は家を出るために私物を持ち出したのではなくて僕の為に・・・。
妻の優しさが痛かった。
こんな僕のために妻の優しさを使うなんてもったいないと、申し訳ないと思った。

「ねぇ、どんな事があっても私を一人にしないでね、約束して」

「こんな僕でいいなら、約束するよ。ありがとう」

僕は思った。

命は僕だけのためにあるのではなく僕を想ってくれている人のためでもあるのだと。

僕は人に支えられて生きている。

僕もまた、妻を支えて生きていたのだ。
 

fin
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