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湊音の過去
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先日実家での出来事で凛音は湊音の事が心配になっていた。
言い返すこともできない程に正論を突きつけられた湊音はなぜピアニストを辞めたのか、その理由を説明する事もできなかった。
湊音の過去に何があったのだろう、凛音の頭はその事でいっぱいになっていた。
そして仕事帰り、気分転換にフリーピアノの元へやってきた。
駅に置かれたピアノは誰にも見向きもされず、人混みの中、ただポツンと寂しそうに置かれていた。
そんなピアノの前に座る。
そして自分の今の気持ちを感じ、ピアノで表現をする。
誰かの心が泣いているような、そんな出だしで演奏が始まる。
最初は静かに悲しみを奏でる。
そして徐々に悲しみの感情が高ぶり、心にとどめきれなかった思いがはじけるように演奏が激しさを増す。
ひとしきり感情を出したあと、少し清々しいタッチの音色に変わる。
ピアノを通り過ぎていた人達も立ち止まり、凛音の演奏に耳を傾けはじめる。
そして最後は切なく、ゆっくりと終わる。
凛音はこの曲がとても好きだった。
悲しい曲調なのにどこか強い思いを感じることができる。
どんなに辛いことがあっても立ち向かっていくように聴こえるのだ。
けれど、自分の立場は変わることがない、結局悲しさに包まれ切なく曲は閉じていく。
凛音の中では救いようのないストーリーに聴こえるけど、何故か癒やされてしまう。
曲の名は「River Flows in you 」
そのまま2曲目への演奏をはじめる。
すばやく音が転がるように演奏がはじまる。
そして曲は激しくなっていく。
怒りなのか、それとも悲しみなのか、強い感情を表現されたような曲で進んでいく。
その感情が収まることはなく最後までつけ抜けていくような曲だ。
演奏が終わり、周りから拍手が沸き起こる。
ああ、この感じだ。
嫌なことを全て吹き飛ばしてくれる。
そしてその拍手は私の全てを包んでくれる。
私は自由に演奏できるピアノが大好きだ。
帰ろうとしたとき、また前回と同様声をかけられた。
「素晴らしい演奏でした、特に2曲目ベートーヴェンの「テンペスト」は最高でしたよ」
凛音は前にもこんなふうに声をかけられた事を思い出していた。
そして嬉しさから笑顔が溢れる。
振り向くと拍手をしながら湊音がやってきた。
また会えたことが凛音は嬉しかった。
「月城さん、また来てくれたんですね」
「気分転換にと思いまして」
先日の事でまだ気が重たいのだろうか、表情はどこか暗かった。
「そうなんですね、どうですか?癒やされました?」
凛音は笑顔で聞く。
「はい、おかけで少し元気になりましたよ」
凛音はそうだ、と思いついた表情になり湊音に提案する。
「湊音さん、何か弾いてみてくれませんか?
私湊音さんに憧れていたんですけど、間近での演奏聴いてみたいです!」
凛音は懇願したが、湊音はどこか浮かない表情だった。
「すいません、僕はもうピアノを弾けない
もう二度と弾くつもりはないんです」
少し躊躇ったあと凛音は気になっていたことを聞いてみた。
「もしかして、7年前の事と関係しているんですか?」
その台詞で湊音は7年前を思い出しているようだった。
そして俯き、深呼吸をした。
「そうです、僕は母の為にしかピアノは弾かないと誓ったんです」
言い返すこともできない程に正論を突きつけられた湊音はなぜピアニストを辞めたのか、その理由を説明する事もできなかった。
湊音の過去に何があったのだろう、凛音の頭はその事でいっぱいになっていた。
そして仕事帰り、気分転換にフリーピアノの元へやってきた。
駅に置かれたピアノは誰にも見向きもされず、人混みの中、ただポツンと寂しそうに置かれていた。
そんなピアノの前に座る。
そして自分の今の気持ちを感じ、ピアノで表現をする。
誰かの心が泣いているような、そんな出だしで演奏が始まる。
最初は静かに悲しみを奏でる。
そして徐々に悲しみの感情が高ぶり、心にとどめきれなかった思いがはじけるように演奏が激しさを増す。
ひとしきり感情を出したあと、少し清々しいタッチの音色に変わる。
ピアノを通り過ぎていた人達も立ち止まり、凛音の演奏に耳を傾けはじめる。
そして最後は切なく、ゆっくりと終わる。
凛音はこの曲がとても好きだった。
悲しい曲調なのにどこか強い思いを感じることができる。
どんなに辛いことがあっても立ち向かっていくように聴こえるのだ。
けれど、自分の立場は変わることがない、結局悲しさに包まれ切なく曲は閉じていく。
凛音の中では救いようのないストーリーに聴こえるけど、何故か癒やされてしまう。
曲の名は「River Flows in you 」
そのまま2曲目への演奏をはじめる。
すばやく音が転がるように演奏がはじまる。
そして曲は激しくなっていく。
怒りなのか、それとも悲しみなのか、強い感情を表現されたような曲で進んでいく。
その感情が収まることはなく最後までつけ抜けていくような曲だ。
演奏が終わり、周りから拍手が沸き起こる。
ああ、この感じだ。
嫌なことを全て吹き飛ばしてくれる。
そしてその拍手は私の全てを包んでくれる。
私は自由に演奏できるピアノが大好きだ。
帰ろうとしたとき、また前回と同様声をかけられた。
「素晴らしい演奏でした、特に2曲目ベートーヴェンの「テンペスト」は最高でしたよ」
凛音は前にもこんなふうに声をかけられた事を思い出していた。
そして嬉しさから笑顔が溢れる。
振り向くと拍手をしながら湊音がやってきた。
また会えたことが凛音は嬉しかった。
「月城さん、また来てくれたんですね」
「気分転換にと思いまして」
先日の事でまだ気が重たいのだろうか、表情はどこか暗かった。
「そうなんですね、どうですか?癒やされました?」
凛音は笑顔で聞く。
「はい、おかけで少し元気になりましたよ」
凛音はそうだ、と思いついた表情になり湊音に提案する。
「湊音さん、何か弾いてみてくれませんか?
私湊音さんに憧れていたんですけど、間近での演奏聴いてみたいです!」
凛音は懇願したが、湊音はどこか浮かない表情だった。
「すいません、僕はもうピアノを弾けない
もう二度と弾くつもりはないんです」
少し躊躇ったあと凛音は気になっていたことを聞いてみた。
「もしかして、7年前の事と関係しているんですか?」
その台詞で湊音は7年前を思い出しているようだった。
そして俯き、深呼吸をした。
「そうです、僕は母の為にしかピアノは弾かないと誓ったんです」
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