世界一の別れを君に

book bear

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「ねえ、未来君。私達もう別れましょう」

華恋はまっすぐ僕を見て言った。
彼女の目からは力強い意志を感じる。

何を言っても華恋は自分の意見を曲げないのは5年の付き合いで分かっていた。

しかし、僕は彼女を諦めることができない。

彼女のいない世界で僕は生きていけない。
僕は華恋にすべてを捧げてもいいと思ってこの5年生きてきた、そして尽くしてきた。

「なんで?僕は最後まで華恋と居たい。それに今まで上手くやってきたじゃないか。何か僕が華恋を傷つけるような事をしてしまっているなら謝るから」

僕はできるだけ平静を装い、冷静になるように心がけたが、声は震えていた。

なぜ華恋が別れ話をしてきたのか検討はだいたいついていた。

それは華恋の優しさであり、最後の願いでもあるのだろう。

華恋は病室のベッドの上でいくつもの管に繋がれていた。

もう華恋の命は長くない。

「私がボロボロになるところを見られたくないの、それに未来君には私に縛られて生きてほしくないの。今別れてしまったほうがきっとお互いのためになるよ」

泣きたくなる僕に反して華恋の口調は穏やかだった。

「嫌だ!絶対に嫌だ!華恋は死なない!それに僕らはきっと幸せになれるはずだから!そんなこと言うなよ、頼むから最後まで華恋の側に居させてくれ」

僕の視界は滲む。
固く握りしめたれた拳に涙がポタ、ポタと落ちる。

"きっと幸せになれるはずだから"、この言葉は理想であり、裏を返せば華恋が居なくなることを認めてしまい、その事実から逃避するために出た言葉だ。

「ねぇ、未来君」

そう言ってそっと華恋は僕の手を両手で包み込むように握った。

僕より温かい華恋の手は本当にあと少しの命なのだろうかと疑うほどだ。

「私の最後のお願いなの、聞いてくれない?
未来君には幸せになってほしいの。私に縛られないで」

「ふざけるな!僕は、僕は華恋無しじゃ生きていけない・・・。
そんなこと・・・言うなよ」

嗚咽を漏らしながら僕は声を振り絞った。

本当に泣きたいのは華恋の方だと分かっているのだけれど、僕の心が言うことを聞かない。
華恋を失うのを受け入れることが出来なかった。

「ごめん」

そう言って華恋の手を振り払い僕はその場を後にした。

これが華恋との最後の会話だった。
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