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1.魔導研究の魔導師

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レディーノ公爵家の末娘・アマリアは生まれた時から膨大な魔力を持っていた。
二人の兄、長男と次男もアマリアと同じくらい膨大な魔力を持っている。
その魔力量はレディーノ公爵家に代々受け継がれているものだ。
そのため、幼い頃から兄妹三人は魔力のコントロールを教えられた。
その中でもアマリアの魔力コントロールは王宮魔導師に引けを取らないものだった。
アマリアの才能を確信した父、レディーノ公爵は国一番の魔導師を彼女の教育係に指名したのだ。

その教育係の授業は厳しく、新しい知識を毎日頭に詰め込まれる。
幼いアマリアには辛い日々だったが、父親と家族の嬉しそうに期待する様子を見ると弱音は吐けなかった。
夜遅くまで魔導書と睨めっこする日々。休みの日でも魔法の練習をした。何度も何度も失敗をした。授業で怒られた回数も数えきれない。挑戦と失敗を繰り返した。

一年過ぎた頃には教育係を驚かせるほどの魔法を使えるようになった。
二年を過ぎた頃には逆に忙しい教育係の仕事を手伝うようにもなった。
そのお礼にあまり出回っていない珍しい魔導書を貸してもらう事も出来た。

どんなに魔法を使えるようになってもアマリアは毎日欠かさず練習をし、新しい知識を得るための勉強をした。

その甲斐あってか、国一番の魔導師教育機関、王立魔導学園に主席で合格を果たした。
授業自体は今までの復習にすぎなかったが、貴族や平民など関係なく学ぶことの出来る学園は楽しいものだった。友人と呼べる存在も少ないながらも出来た。

16歳になると、師弟関係を結べるようになる。
アマリアも16歳になったその日に、国一番の魔導師であり、元教育係でもあったレイケン魔導師団長に弟子入り宣言をした。朝一に馬車に乗って、彼の職場である王宮魔導師団へと押し掛けたのだ。
少し嫌そうな顔をしながらも、レイケン魔導師団長はアマリアを弟子にしてくれた。

弟子になってからもアマリアの生活に特に変化はない。
アマリアが弟子になって行った事といえば……
たまに王宮魔導師団へと出向いて手伝いをする。レイケン魔導師団長が所持しているレアな魔導書を貸してもらう。など、教育係だった頃とほとんど変わらないものだ。

大きな問題もなくアマリアの学生生活は三年経ち、18歳。
当然の如くアマリアは主席で卒業した。

そんな長いようで短い三年間は令嬢としてではなくアマリアとして過ごしたかけがえのないものだった。
アマリアも友人たちもそれぞれの道に進んでいく。

レイケン魔導師団長の弟子という事もあり、王宮魔導師団に入るかと思われていたアマリアはその期待を裏切った。
なんと、魔導師団の中でもパッとしない「魔導研究所」に入ったのだ。

魔導師団に令嬢が入る事自体が大分珍しい。さらには、新人が滅多に入らない魔導研究所に志願したのだ。友人や教師はもちろん、王城の中でも驚かれていた。考え直せとも言われた程だ。

しかし、一番にアマリアが王宮魔導師になる事を望んでいたであろう父は自分の好きに選べば良いと言ってくれた。
その言葉に背中を押されたアマリアは撤回する事なくそのまま魔導師研究所に入った。




そして、魔導研究所の魔導師になって二年が経った。
最初の頃は他の先輩魔導師と溝があったが、所長のおかげで今では普通に接してもらえている。
入ってから研究に明け暮れひどく疲れる日々だったが、最近その成果が出てきており研究も楽しく感じている。年内には完成するかもしれない。
湧き上がる興奮に顔がニヤけてしまう。

「アマリア、そろそろ休憩してきたらどうだ?」

一人、ニヤニヤと笑うアマリアに、「魔導研究所の魔導師」という意味を持つ深緑のローブを身につけた黒髪黒目の男が声をかける。
アマリアの不気味な様子も気になっていないようでそのまま言葉を続けた。

「もう5時間もそのままだろ」
「そうですね。休憩も挟まないと効率が悪くなりますからね、食事にでも行ってきます」
「ああ、1時間たっぷり休んでこい」
「わかりました~それではルドー先輩、お先に休憩を頂きます」
「はい、いってらっしゃい」

アマリアは貴族の令嬢だが、ここではまだまだ新人だ。
令嬢らしい口調は控えている。

手を振るルドーに手を振りかえし、外に出る。

ルドーは二個上の先輩で、研究所内では一番仲良くしてもらっている。
最初会った時には十は上だと思っていたのだが、実際は二歳しか違っていなくてビックリしたものだ。
彼はアマリアが来るまで最年少だった。
目付きが鋭く、最初の頃は睨まれていると思っていた。
その目の下には二十代とは思えない深いクマがあり、それが実年齢よりも上に見えてしまう要因だろう。

しかし、その見た目とは裏腹にルドーはとても優しかった。

仕事の傍ら、個人で研究を行っている魔導研究所はいつも忙しい。
分からないことを聞こうにも、聞く耳を持ってもらえない。
そんな中でルドーは途方にくれるアマリアに自ら近づき、丁寧に教えてくれたのだ。
実質アマリアの教育係になってくれた。
二年も続けてこられたのはルドーのおかげだと思っている。

魔導研究所では依頼された新しい魔法や魔道具の開発をしている。
依頼の他にも個人で研究をしている者がほとんどだ。
アマリアも個人で研究をしている。魔物の研究だ。
令嬢にあるまじき研究内容でたいへん驚かれた。
魔物なんて令嬢には恐ろしくて研究なんて出来ないだろうと思われていたが、アマリアは普通の令嬢とは違う。
色んな本を読み漁り、魔物の形も知っていれば、実際に魔法の練習のために実験台とした事もあるのだ。
それを知らない者たちはアマリアが淡々とした様子で魔物の解剖をしているのを驚いた様子で見ていた。
今では日常風景と化している。

二年経つがアマリア以外に魔導研究所に入る者はいない。
未だに最年少だ。自分も後輩が欲しい。
だが、華のある王宮魔導師団と比べるとどうしても魔導研究所がパッとしないのもわかっている。研究に興味がなければ、入る意味もないだろう。

魔導研究所の建物は王宮魔導師団に比べると小さいが、人数に合ったちょうどいい大きさだ。
王宮魔導師団が中央に位置しているのに対して、魔導研究所は王宮の端にポツンと位置している。
食堂など、用事がある際は行くのに少し苦労するが、人通りが少ないのは落ち着くので魔導研究所内で文句を言う者はいない。もちろんアマリアも気にしたことはない。
それにアマリアは家の料理人が作ってくれたお弁当を持参しているので食堂に行く事はないのだ。

アマリアは家から持参したお弁当が入ったかごを片手に人通りのない通路を歩く。
目的地は東の庭園。そこは魔導研究所に入ったばかりの頃、一人になりたくて見つけた場所だ。
人気はない場所だが、さすが王宮。庭園に咲き誇る花々は小ぶりで少しばかり地味だけれども美しく整えられている。
春夏秋冬と四季によって、咲いている花がガラリと変わる庭園の花々はアマリアの目を楽しませてくれる。

アマリアが行く時には誰も居ないが、東の庭園にもしっかり整えてくれる庭師が居るのであろう。いつか会えれば、楽しませてくれたお礼が言いたい。

黙々と目的の場所へ進むと、澄んだ青色の花畑が見えてくる。
今の時期はネモフィラが咲いていた。まるで、海のようだ。
おもわず飛び込んでしまいたくなる。
何度見ても飽きない景色だ。アマリアは毎日ここに訪れては眺めている。

「やっぱり素敵だわ。うちにも植えてもらおうかしら」

うっとりと眺め、ひと通り堪能したら、アマリアはいつも使っている特等席へと向かう。






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