三分で読める一話完結型ショートホラー小説

神の食材

見て見ぬ振りをしていた大問題、食糧難が遂に訪れてからもう5年、この生活にもすっかり慣れてしまった。当初は牛を育てていても、牛を育てている人間の方が多くなる、という訳のわからない状況に陥っていたわけだが、とある生き物に焦点が当てられてからは、食糧問題は一気に収束していった。
ずばりそれは虫である。えぇ、気持ちはわかります。最初に政府が昆虫食を強制してきた時は世界のあちこちでデモや暴動が起きていました。しかしそんなデモ活動もすぐになくなっていきました。理由は簡単、虫の栄養素、養殖の簡単さ、コスパの良さ、どれをとっても今までの家畜や植物よりも勝っているからです。まさに神の食材。見た目以外は人間に食べられるために生まれてきたと言っても過言ではない神の食材。えぇ、見たい目以外は。
でもそこは流石人間様、直ぐに見た目が気にならないように品種改良されていきました。
今ではすっかり人間の主食です。みんな美味しそうに、感謝しながら、かつてあれほどまでに嫌っていたゴキブリやゲジゲジ、バッタやイナゴ等をもりもりと食べています。どうして早く虫を食べようと思わなかったのだろう。今やすっかり食べ物の悩みは世界から消えています。悩みがひとつへったおかげで、他のことにも集中できるのか、世界の戦争や格差、貧困、言うまでもなく飢えに苦しむ国もなくなりました。虫を食べることによって、アバウトにいえば世界は平和になったのです。その事に感謝しながら、私を含め人類は、ゴキブリやゲジゲジ、ムカデやバッタ、クモやアリ等を感謝しながらもりもりと食べています。あぁ、ありがとう虫さん。感謝感激虫さん。