31 / 47
五章 資産家令嬢に愛と執念の起死回生を
28、花市②
しおりを挟む
男に呼ばれるままデューイ達が駆け付けた先は、花市ということを差し引いても異様な光景だった。
人だかりができているのに、その中心からは距離を取っている。あれほど雑然としていた花市で、皆一様に声を失っていた。
デューイを呼んだ男は人だかりの中心を指さして言った。
「あの人! どう見ても坊ちゃんの側の人でしょう! 俺たちじゃ対応しきれやせん!」
ビビアンは眩暈がした。
男が指さした先では、美貌の貴公子、公爵家次男フレデリク・フォスターが興味深そうに露店を眺めていた。
フレデリクが銀糸の髪を耳に掛ける。
そこだけ宗教画を切り取ったかのような光景である。
妖精のごとき美貌の青年に、領民たちは言葉も出なかった。ただただ目が離せず、呆けているばかりだ。
あまりに浮世離れしたフレデリクの雰囲気に、とりあえず貴族だろうと判断してデューイを呼んだ次第である。
後ろに居るマリーとバートも初めて見るフレデリクの姿に息を呑んでいる。ビビアンはこっそりとデューイに耳打ちした。
「デューイ様、今なら見なかったことに」
「できるわけないだろ……」
デューイが強張った声を出す。
顔を上げたフレデリクがこちらに気付いた。デューイを認めると、目元を綻ばせる。
デューイは胸元に手を当て一礼した。ビビアンも倣う。
フレデリクは実に気さくに話しかけた。
「面を上げて。久しぶりだね」
「……こちらに御用がおありでしたら、お声掛け下さればおもてなし致しましたのに」
「この辺りの孤児院の慰問に来たついでに寄っただけだから、それには及ばないよ」
ビビアンは内心、どうかしら、と疑った。
セラ・ボイドの邸宅で彼に会った際、ビビアンは平民ということで相当嫌味を言われている。フレデリクの人間性を垣間見た立場からすると、言葉をそのまま受け取ることは難しかった。
フレデリクはちらりとデューイの後ろを見遣った。
「ところで、最近派手な行動をしているみたいだね。平民を秘書にしたり……」
デューイの後ろでバートが身を強張らせた。
「貴族の子息を働かせたり」
ビビアンは口元を引き結んだ。男爵家三男のジョンを商会で雇っていることを言っているのだ。
「やはり婚約者の影響なのかな?」
フレデリクの言葉に、ビビアンは思わず俯いてしまった。以前と同じように、彼の話が終わるまで耐えればよいだけだ。だがマリーやバート、領民たちが見ている前で誹りを受けるのは……。
フレデリクはビビアンの反応を見て続けた。
「君にあまりに悪影響を与えるのなら、僕から似合いの女性を紹介しても良いよ」
デューイが目を見開いた。瞳が揺れる。
一方でフレデリクは全く悪意の無いようだった。実に親切心、という表情をしている。
だからデューイは、自分がこれから話す言葉が彼に響かないだろう、ということを覚悟せねばならなかった。
「フレデリク様は……」
それでもデューイはゆっくりと口を開いた。
「フレデリク様は、私たちの良好な関係を買っていてくださっていると、以前仰っていましたよね?」
デューイは隣に立つビビアンの手を握った。ビビアンは弾かれたように彼を見上げる。
「デューイ様……!」
「私が未熟な為に、あなたが憂慮するのはもっともです。でも、……私の変化は、全てビビアンが私のことを考えてくれてもたらされたものです。私は愛する領地を彼女と守っていきたいと思っています」
デューイは大きく息をついて呼吸を整えた。
「どうか、あなたの寛容な心で見守っていてくださいませんか?」
フレデリクが表情を消す。
温度を感じさせない瞳でデューイを見据える。
「君の領地を守ろうとする意志と、君の軽率な行動が一致しているとは思えないな。とはいえ……」
フレデリクは周囲を見渡した。
「今日はせっかくの祭りだ。彼らのための日に水を差すのは、僕の望むところじゃない」
デューイはその言葉を受け、辺りに視線を遣る。領民たちが固唾をのんでこちらを見守っている。
「またゆっくりと話をしよう」
フレデリクは本当に去って行った。
静まり返っていた領民たちが一斉に盛り上がる。
「ヒューヒュー!」「よっ! 漢だね!」「かっこいいー!」
「うるさいわよッ!! お黙り!」
真っ青になったビビアンが一喝した。
盛り上がっている場合ではないのである。
ビビアンはデューイの手を引いた。フレデリクについて話すには領民たちが邪魔である。人気のない場所を求めてつかつかと歩を進める。
夕日が二人の表情に影を落とした。
「ビビアン……」
手を引かれながらデューイが声を掛ける。ビビアンは前を見据えたまま声を荒げた。
「馬鹿ではありませんか!? どうしてあんなこと仰ったの?!」
「あんなことを言われて黙っていろって言うのか? 他の女性を紹介するって言われたんだぞ!」
「ただの嫌味でしょう? 黙っていればよかったのです! 大人しくしておけば前みたいに終わったのに」
伯爵家での出来事だ。
「あの時だって嫌な思いをしただろう」
「嫌な思いで済めばよいではありませんか!」
ビビアンは叫んだ。足を止める。デューイから顔を逸らしたまま続ける。
「歯向かって、目を付けられでもしたら……」
唇が震える。ビビアンは歯を食い縛った。
「死んだらどうするんですか……!」
「は?」
あまりに予想していなかった言葉にデューイは面喰う。
「公爵家に嫌われて、こ、殺されたりでもしたら……」
「どうしてそんな極端な発想に……」
デューイは本気で当惑した。だがビビアンのただならぬ様相に口をつぐむ。
繋がれたままのビビアンの手を見つめ、一つの考えに思い当たった。
「もしかして、それを考えていたから、ビビアンは変わったのか?」
ビビアンが息を呑む。
顔を上げ、すがるようにデューイを見つめた。彼の瞳が燃えるように揺れるのを見て、『前回』の破局を迎えた日が蘇る。
彼と別れること以上に悲しいことなどないと思っていたのに、彼は理不尽に命を奪われた。
「そうです。わたし、──あなたが殺されてしまう未来から『戻って』きたの」
頭がおかしいと思われても良い。本当に怖いことは一つだけなのだ。
「これ以上一緒に居て、公爵家に目を付けられるなんて怖くて耐えられません」
ビビアンはデューイの手を解いた。
「……フレデリク様の言葉を受け入れるべきです」
人だかりができているのに、その中心からは距離を取っている。あれほど雑然としていた花市で、皆一様に声を失っていた。
デューイを呼んだ男は人だかりの中心を指さして言った。
「あの人! どう見ても坊ちゃんの側の人でしょう! 俺たちじゃ対応しきれやせん!」
ビビアンは眩暈がした。
男が指さした先では、美貌の貴公子、公爵家次男フレデリク・フォスターが興味深そうに露店を眺めていた。
フレデリクが銀糸の髪を耳に掛ける。
そこだけ宗教画を切り取ったかのような光景である。
妖精のごとき美貌の青年に、領民たちは言葉も出なかった。ただただ目が離せず、呆けているばかりだ。
あまりに浮世離れしたフレデリクの雰囲気に、とりあえず貴族だろうと判断してデューイを呼んだ次第である。
後ろに居るマリーとバートも初めて見るフレデリクの姿に息を呑んでいる。ビビアンはこっそりとデューイに耳打ちした。
「デューイ様、今なら見なかったことに」
「できるわけないだろ……」
デューイが強張った声を出す。
顔を上げたフレデリクがこちらに気付いた。デューイを認めると、目元を綻ばせる。
デューイは胸元に手を当て一礼した。ビビアンも倣う。
フレデリクは実に気さくに話しかけた。
「面を上げて。久しぶりだね」
「……こちらに御用がおありでしたら、お声掛け下さればおもてなし致しましたのに」
「この辺りの孤児院の慰問に来たついでに寄っただけだから、それには及ばないよ」
ビビアンは内心、どうかしら、と疑った。
セラ・ボイドの邸宅で彼に会った際、ビビアンは平民ということで相当嫌味を言われている。フレデリクの人間性を垣間見た立場からすると、言葉をそのまま受け取ることは難しかった。
フレデリクはちらりとデューイの後ろを見遣った。
「ところで、最近派手な行動をしているみたいだね。平民を秘書にしたり……」
デューイの後ろでバートが身を強張らせた。
「貴族の子息を働かせたり」
ビビアンは口元を引き結んだ。男爵家三男のジョンを商会で雇っていることを言っているのだ。
「やはり婚約者の影響なのかな?」
フレデリクの言葉に、ビビアンは思わず俯いてしまった。以前と同じように、彼の話が終わるまで耐えればよいだけだ。だがマリーやバート、領民たちが見ている前で誹りを受けるのは……。
フレデリクはビビアンの反応を見て続けた。
「君にあまりに悪影響を与えるのなら、僕から似合いの女性を紹介しても良いよ」
デューイが目を見開いた。瞳が揺れる。
一方でフレデリクは全く悪意の無いようだった。実に親切心、という表情をしている。
だからデューイは、自分がこれから話す言葉が彼に響かないだろう、ということを覚悟せねばならなかった。
「フレデリク様は……」
それでもデューイはゆっくりと口を開いた。
「フレデリク様は、私たちの良好な関係を買っていてくださっていると、以前仰っていましたよね?」
デューイは隣に立つビビアンの手を握った。ビビアンは弾かれたように彼を見上げる。
「デューイ様……!」
「私が未熟な為に、あなたが憂慮するのはもっともです。でも、……私の変化は、全てビビアンが私のことを考えてくれてもたらされたものです。私は愛する領地を彼女と守っていきたいと思っています」
デューイは大きく息をついて呼吸を整えた。
「どうか、あなたの寛容な心で見守っていてくださいませんか?」
フレデリクが表情を消す。
温度を感じさせない瞳でデューイを見据える。
「君の領地を守ろうとする意志と、君の軽率な行動が一致しているとは思えないな。とはいえ……」
フレデリクは周囲を見渡した。
「今日はせっかくの祭りだ。彼らのための日に水を差すのは、僕の望むところじゃない」
デューイはその言葉を受け、辺りに視線を遣る。領民たちが固唾をのんでこちらを見守っている。
「またゆっくりと話をしよう」
フレデリクは本当に去って行った。
静まり返っていた領民たちが一斉に盛り上がる。
「ヒューヒュー!」「よっ! 漢だね!」「かっこいいー!」
「うるさいわよッ!! お黙り!」
真っ青になったビビアンが一喝した。
盛り上がっている場合ではないのである。
ビビアンはデューイの手を引いた。フレデリクについて話すには領民たちが邪魔である。人気のない場所を求めてつかつかと歩を進める。
夕日が二人の表情に影を落とした。
「ビビアン……」
手を引かれながらデューイが声を掛ける。ビビアンは前を見据えたまま声を荒げた。
「馬鹿ではありませんか!? どうしてあんなこと仰ったの?!」
「あんなことを言われて黙っていろって言うのか? 他の女性を紹介するって言われたんだぞ!」
「ただの嫌味でしょう? 黙っていればよかったのです! 大人しくしておけば前みたいに終わったのに」
伯爵家での出来事だ。
「あの時だって嫌な思いをしただろう」
「嫌な思いで済めばよいではありませんか!」
ビビアンは叫んだ。足を止める。デューイから顔を逸らしたまま続ける。
「歯向かって、目を付けられでもしたら……」
唇が震える。ビビアンは歯を食い縛った。
「死んだらどうするんですか……!」
「は?」
あまりに予想していなかった言葉にデューイは面喰う。
「公爵家に嫌われて、こ、殺されたりでもしたら……」
「どうしてそんな極端な発想に……」
デューイは本気で当惑した。だがビビアンのただならぬ様相に口をつぐむ。
繋がれたままのビビアンの手を見つめ、一つの考えに思い当たった。
「もしかして、それを考えていたから、ビビアンは変わったのか?」
ビビアンが息を呑む。
顔を上げ、すがるようにデューイを見つめた。彼の瞳が燃えるように揺れるのを見て、『前回』の破局を迎えた日が蘇る。
彼と別れること以上に悲しいことなどないと思っていたのに、彼は理不尽に命を奪われた。
「そうです。わたし、──あなたが殺されてしまう未来から『戻って』きたの」
頭がおかしいと思われても良い。本当に怖いことは一つだけなのだ。
「これ以上一緒に居て、公爵家に目を付けられるなんて怖くて耐えられません」
ビビアンはデューイの手を解いた。
「……フレデリク様の言葉を受け入れるべきです」
0
お気に入りに追加
23
あなたにおすすめの小説
壊れた心はそのままで ~騙したのは貴方?それとも私?~
志波 連
恋愛
バージル王国の公爵令嬢として、優しい両親と兄に慈しまれ美しい淑女に育ったリリア・サザーランドは、貴族女子学園を卒業してすぐに、ジェラルド・パーシモン侯爵令息と結婚した。
政略結婚ではあったものの、二人はお互いを信頼し愛を深めていった。
社交界でも仲睦まじい夫婦として有名だった二人は、マーガレットという娘も授かり、順風満帆な生活を送っていた。
ある日、学生時代の友人と旅行に行った先でリリアは夫が自分でない女性と、夫にそっくりな男の子、そして娘のマーガレットと仲よく食事をしている場面に遭遇する。
ショックを受けて立ち去るリリアと、追いすがるジェラルド。
一緒にいた子供は確かにジェラルドの子供だったが、これには深い事情があるようで……。
リリアの心をなんとか取り戻そうと友人に相談していた時、リリアがバルコニーから転落したという知らせが飛び込んだ。
ジェラルドとマーガレットは、リリアの心を取り戻す決心をする。
そして関係者が頭を寄せ合って、ある破天荒な計画を遂行するのだった。
王家までも巻き込んだその作戦とは……。
他サイトでも掲載中です。
コメントありがとうございます。
タグのコメディに反対意見が多かったので修正しました。
必ず完結させますので、よろしくお願いします。
七年間の婚約は今日で終わりを迎えます
hana
恋愛
公爵令嬢エミリアが十歳の時、第三王子であるロイとの婚約が決まった。しかし婚約者としての生活に、エミリアは不満を覚える毎日を過ごしていた。そんな折、エミリアは夜会にて王子から婚約破棄を宣言される。
「あなたのことはもう忘れることにします。 探さないでください」〜 お飾りの妻だなんてまっぴらごめんです!
友坂 悠
恋愛
あなたのことはもう忘れることにします。
探さないでください。
そう置き手紙を残して妻セリーヌは姿を消した。
政略結婚で結ばれた公爵令嬢セリーヌと、公爵であるパトリック。
しかし婚姻の初夜で語られたのは「私は君を愛することができない」という夫パトリックの言葉。
それでも、いつかは穏やかな夫婦になれるとそう信じてきたのに。
よりにもよって妹マリアンネとの浮気現場を目撃してしまったセリーヌは。
泣き崩れ寝て転生前の記憶を夢に見た拍子に自分が生前日本人であったという意識が蘇り。
もう何もかも捨てて家出をする決意をするのです。
全てを捨てて家を出て、まったり自由に生きようと頑張るセリーヌ。
そんな彼女が新しい恋を見つけて幸せになるまでの物語。
今日も旦那は愛人に尽くしている~なら私もいいわよね?~
コトミ
恋愛
結婚した夫には愛人がいた。辺境伯の令嬢であったビオラには男兄弟がおらず、子爵家のカールを婿として屋敷に向かい入れた。半年の間は良かったが、それから事態は急速に悪化していく。伯爵であり、領地も統治している夫に平民の愛人がいて、屋敷の隣にその愛人のための別棟まで作って愛人に尽くす。こんなことを我慢できる夫人は私以外に何人いるのかしら。そんな考えを巡らせながら、ビオラは毎日夫の代わりに領地の仕事をこなしていた。毎晩夫のカールは愛人の元へ通っている。その間ビオラは休む暇なく仕事をこなした。ビオラがカールに反論してもカールは「君も愛人を作ればいいじゃないか」の一点張り。我慢の限界になったビオラはずっと大切にしてきた屋敷を飛び出した。
そしてその飛び出した先で出会った人とは?
(できる限り毎日投稿を頑張ります。誤字脱字、世界観、ストーリー構成、などなどはゆるゆるです)
hotランキング1位入りしました。ありがとうございます
側妃、で御座いますか?承知いたしました、ただし条件があります。
とうや
恋愛
「私はシャーロットを妻にしようと思う。君は側妃になってくれ」
成婚の儀を迎える半年前。王太子セオドアは、15年も婚約者だったエマにそう言った。微笑んだままのエマ・シーグローブ公爵令嬢と、驚きの余り硬直する近衛騎士ケイレブ・シェパード。幼馴染だった3人の関係は、シャーロットという少女によって崩れた。
「側妃、で御座いますか?承知いたしました、ただし条件があります」
********************************************
ATTENTION
********************************************
*世界軸は『側近候補を外されて覚醒したら〜』あたりの、なんちゃってヨーロッパ風。魔法はあるけれど魔王もいないし神様も遠い存在。そんなご都合主義で設定うすうすの世界です。
*いつものような残酷な表現はありませんが、倫理観に難ありで軽い胸糞です。タグを良くご覧ください。
*R-15は保険です。
好きな人に『その気持ちが迷惑だ』と言われたので、姿を消します【完結済み】
皇 翼
恋愛
「正直、貴女のその気持ちは迷惑なのですよ……この場だから言いますが、既に想い人が居るんです。諦めて頂けませんか?」
「っ――――!!」
「賢い貴女の事だ。地位も身分も財力も何もかもが貴女にとっては高嶺の花だと元々分かっていたのでしょう?そんな感情を持っているだけ時間が無駄だと思いませんか?」
クロエの気持ちなどお構いなしに、言葉は続けられる。既に想い人がいる。気持ちが迷惑。諦めろ。時間の無駄。彼は止まらず話し続ける。彼が口を開く度に、まるで弾丸のように心を抉っていった。
******
・執筆時間空けてしまった間に途中過程が気に食わなくなったので、設定などを少し変えて改稿しています。
私をもう愛していないなら。
水垣するめ
恋愛
その衝撃的な場面を見たのは、何気ない日の夕方だった。
空は赤く染まって、街の建物を照らしていた。
私は実家の伯爵家からの呼び出しを受けて、その帰路についている時だった。
街中を、私の夫であるアイクが歩いていた。
見知った女性と一緒に。
私の友人である、男爵家ジェーン・バーカーと。
「え?」
思わず私は声をあげた。
なぜ二人が一緒に歩いているのだろう。
二人に接点は無いはずだ。
会ったのだって、私がジェーンをお茶会で家に呼んだ時に、一度顔を合わせただけだ。
それが、何故?
ジェーンと歩くアイクは、どこかいつもよりも楽しげな表情を浮かべてながら、ジェーンと言葉を交わしていた。
結婚してから一年経って、次第に見なくなった顔だ。
私の胸の内に不安が湧いてくる。
(駄目よ。簡単に夫を疑うなんて。きっと二人はいつの間にか友人になっただけ──)
その瞬間。
二人は手を繋いで。
キスをした。
「──」
言葉にならない声が漏れた。
胸の中の不安は確かな形となって、目の前に現れた。
──アイクは浮気していた。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる