27 / 47
四章 ジョンソン男爵家の三男坊
24-2、ジョン・ジョンソン③
しおりを挟む◆
ビビアンが手を引いて前を走っていたが途中から前後が入れ替わった。
領地視察などの仕事を自ら行なっているデューイは結構持久力がついていたのだ。一方ビビアンは既にへろへろとしていた。
飛び出したジョンがどこに向かったのか、道ゆく人に尋ねながら捜索する。
ジョンの特徴を挙げて聞くと、領民たちは快く教えてくれた。ウォード邸を出たジョンはなんと、アークライト邸に向かっていた。
「あいつ、結局俺の家に行ってるのか……」
「あっ! デューイ様!」
ビビアンが指さす。アークライト邸の使用人用出入口。
外から出入り口を目隠しするための植え込みの前で、長身を折りたたんで青年がしゃがみ込んでいた。
「ジョン!」
デューイが叫ぶ。ジョンは弾かれて顔を上げ、逃げ出そうと立ち上がる。しかし走り回って既に疲れていたのだろう、足がもつれてそのまま倒れこんだ。
デューイが駆け付ける。青褪めたジョンが彼を見上げた。
怯える眼差しに、デューイは大きく息をついた。
「まったく……砂まみれだな」
そう言って自身も屈みこんだ。ジョンの膝や胸についた砂を払う。ジョンは怯えながらもデューイを見つめた。
「逃げたのにどうして結局俺の家に来たんだ?」
「それは……他の道、知らないし。迷子になりそうだったから。……最悪馬車を呼んでもらえるかなって……」
デューイは噴き出した。
衝動的に飛び出した割に妙な所で冷静な男である。
デューイなら意地が邪魔してできないだろう。呆れもある。だがデューイは、ジョンのこの打算的だが柔軟な、なんとなく憎めない所を結構気に入っていた。
「まあビビアンの家から徒歩でここまで来たんだから頑張った方だよな」
怯えたジョンの表情を眺めながらしみじみと独り言ちる。
「あのな、とりあえず言っておくが、俺と一緒に居たのはやくざじゃなくて秘書だ」
「えっ秘書?! あんな怖い顔だったのに?」
「顔は関係ない。……気にしているみたいだからあんまり言ってやるな」
「えぇ~~……」
ジョンは気の抜けた声を漏らした。
相手の力が抜けたのを感じたのか、デューイは本題に入ることにした。
「借金するほど賭博するなんて、前に話を聞いた時にちゃんと止めておけばよかった」
てっきりデューイが咎めに来たのだと思っていたジョンは、その語調に瞬きをした。まるでデューイ自身の懺悔のように話すので、ジョンはかえってきまりが悪くなった。思わず顔を背ける。
「……別に。デューイに止められても変わんなかったと思うしぃ」
「それでも言っておけばよかった。贈り物よりもお前の人となりを知ってもらった方が、相手の令嬢にも魅力が伝わると思っていたのに」
「へ?」
デューイの言葉にジョンが固まる。風向きが変わってきた話に嫌な予感がする。
「お前は話すと面白いやつだし、気が使える。周りが見えてるし、こういう時でも現実的に考えて行動できるだろ? そういう良いところを見せた方が良いって言えばよかった」
「わーーッ!! なに?! なにこれ褒め殺し?! 恥ずかしい!」
「そもそも物で相手の気を引いても、経済的にいつまでも続けられないんだから、全然現実的なアプローチではないな。……今思うと、お前恋愛に関しては本当に冷静じゃなかったな」
「あっ、普通に説教だった!」
懺悔らしく話しておきながらバッサリ切り捨てられた。
頑張ってジョン様! 素直になったデューイ様は厄介よ!
離れたところでずっと見守っていたビビアンが内心で応援する。デューイの言葉についていけていないジョンに構わず、それでも、とデューイは続けた。
「俺は何の力にもなれないかもしれないけど、それでも俺に相談してほしかった」
それは少し恨みがましい響きを伴っていた。恐らくこれがデューイの中で最も引っかかっていたことなのだろう。
ああ、とビビアンは理解した。
『前回』のビビアン達はこの事件がきっかけで決定的に決裂した。ビビアンとジョンが、デューイの身辺情報を売買するという事項が最大の原因ではあるだろう。
だがデューイの経済的な足元を見て彼を軽んじたという事実が、つまりは「デューイにはジョンの問題は解決できないだろう」というビビアンとジョンの判断が、彼を傷つけたのだ。
ビビアンは思わず胸を押さえる。ビビアンはデューイに決して相談できない秘密を抱えているからだった。
そんなビビアンに気付かず、ジョンが唇を震わせて零す。
「でもぉ、……デューイには絶対オレの気持ちなんて分からないじゃん」
0
お気に入りに追加
23
あなたにおすすめの小説
七年間の婚約は今日で終わりを迎えます
hana
恋愛
公爵令嬢エミリアが十歳の時、第三王子であるロイとの婚約が決まった。しかし婚約者としての生活に、エミリアは不満を覚える毎日を過ごしていた。そんな折、エミリアは夜会にて王子から婚約破棄を宣言される。
好きでした、さようなら
豆狸
恋愛
「……すまない」
初夜の床で、彼は言いました。
「君ではない。私が欲しかった辺境伯令嬢のアンリエット殿は君ではなかったんだ」
悲しげに俯く姿を見て、私の心は二度目の死を迎えたのです。
なろう様でも公開中です。
御機嫌ようそしてさようなら ~王太子妃の選んだ最悪の結末
Hinaki
恋愛
令嬢の名はエリザベス。
生まれた瞬間より両親達が創る公爵邸と言う名の箱庭の中で生きていた。
全てがその箱庭の中でなされ、そして彼女は箱庭より外へは出される事はなかった。
ただ一つ月に一度彼女を訪ねる5歳年上の少年を除いては……。
時は流れエリザベスが15歳の乙女へと成長し未来の王太子妃として半年後の結婚を控えたある日に彼女を包み込んでいた世界は崩壊していく。
ゆるふわ設定の短編です。
完結済みなので予約投稿しています。
政略結婚の約束すら守ってもらえませんでした。
克全
恋愛
「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。
「すまない、やっぱり君の事は抱けない」初夜のベットの中で、恋焦がれた初恋の人にそう言われてしまいました。私の心は砕け散ってしまいました。初恋の人が妹を愛していると知った時、妹が死んでしまって、政略結婚でいいから結婚して欲しいと言われた時、そして今。三度もの痛手に私の心は耐えられませんでした。
挙式後すぐに離婚届を手渡された私は、この結婚は予め捨てられることが確定していた事実を知らされました
結城芙由奈
恋愛
【結婚した日に、「君にこれを預けておく」と離婚届を手渡されました】
今日、私は子供の頃からずっと大好きだった人と結婚した。しかし、式の後に絶望的な事を彼に言われた。
「ごめん、本当は君とは結婚したくなかったんだ。これを預けておくから、その気になったら提出してくれ」
そう言って手渡されたのは何と離婚届けだった。
そしてどこまでも冷たい態度の夫の行動に傷つけられていく私。
けれどその裏には私の知らない、ある深い事情が隠されていた。
その真意を知った時、私は―。
※暫く鬱展開が続きます
※他サイトでも投稿中
好きな人に『その気持ちが迷惑だ』と言われたので、姿を消します【完結済み】
皇 翼
恋愛
「正直、貴女のその気持ちは迷惑なのですよ……この場だから言いますが、既に想い人が居るんです。諦めて頂けませんか?」
「っ――――!!」
「賢い貴女の事だ。地位も身分も財力も何もかもが貴女にとっては高嶺の花だと元々分かっていたのでしょう?そんな感情を持っているだけ時間が無駄だと思いませんか?」
クロエの気持ちなどお構いなしに、言葉は続けられる。既に想い人がいる。気持ちが迷惑。諦めろ。時間の無駄。彼は止まらず話し続ける。彼が口を開く度に、まるで弾丸のように心を抉っていった。
******
・執筆時間空けてしまった間に途中過程が気に食わなくなったので、設定などを少し変えて改稿しています。
私がいなくなった部屋を見て、あなた様はその心に何を思われるのでしょうね…?
新野乃花(大舟)
恋愛
貴族であるファーラ伯爵との婚約を結んでいたセイラ。しかし伯爵はセイラの事をほったらかしにして、幼馴染であるレリアの方にばかり愛情をかけていた。それは溺愛と呼んでもいいほどのもので、そんな行動の果てにファーラ伯爵は婚約破棄まで持ち出してしまう。しかしそれと時を同じくして、セイラはその姿を伯爵の前からこつぜんと消してしまう。弱気なセイラが自分に逆らう事など絶対に無いと思い上がっていた伯爵は、誰もいなくなってしまったセイラの部屋を見て…。
※カクヨム、小説家になろうにも投稿しています!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる