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二章 伯爵家の夜会

14、深夜会議

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「作戦会議よ!」



 その夜。ウォード邸、ビビアンの自室にて、ビビアンは宣言した。

 場にはメイドのマリーと護衛兼密偵のポール。二人はビビアンが『戻ってきている』ことを知っているので、堂々と協力を仰げる。長くなりそうなのでお茶と茶菓子も用意してある。

 ビビアンはとりあえず重要事項から伝えた。 



「公爵家と知り合いになっちゃったわ」



 マリーとポールがむせる。



「あ、お父様やアークライト家にはご報告しているからね。安心して頂戴」

「全く安心できませんが?! どうしてそうなっちゃったんですか!?」

「夜会でわたしとデューイ様がイチャイチャしすぎて、目に留まったんですって」



 ビビアンは過不足ある説明をした。マリーが呆ける。とりあえず拍手しておいた。



「おめでとうございます。いつの間にそこまで進展してらしたのかしら……」

「と、ともかくよ。わたしは将来的にデューイ様が不審死を遂げないようにしたいでしょ。でも『前回』と違って公爵家とか出てきちゃって、正直何をしたら良いのかさっぱり分からないのよ」



 ビビアンは自分の不安を説明した。う~ん、とマリーが唸る。



「そもそもデューイ様の不審死の原因が分かれば良いのですけど……お嬢様の記憶しか手掛かりがありませんものね」



 そうなのよね、とビビアンが頷く。それまでお茶を飲んでいたポールが口を開いた。



「お嬢さん、『デューイ氏の不審死』とは言っていますが、具体的な状況は分かりますか? 覚えている範囲だけでも改めて教えてください」

「えっと……」



 ビビアンはぽつぽつと語った。

 デューイの死後、密偵であるポールを使って調べさせたデューイの死の状況だ。









──【デューイ氏は数か月前から時折人が変わったようになったという。当日は、夕食の直後に眩暈を訴え出す。ふらつき、嘔吐などの症状がみられた。非常に興奮した様子で、心配する使用人たちに激高していた。夫人が寝室で看病したようだが、深夜に絶命。



 奇妙なことだが遺体は使用人すら確認していない。使用人達が主人の遺体に別れを告げたいと懇願するが、許されなかった。深夜、速やかに埋葬される。



 事件性は濃厚。他殺の可能性も否定できない】









 報告書にはそうまとめてあった。なるほど、とポールが呟く。



「確かに自分がまとめそうな報告ですね。未来から戻ってきたというのは本当なんですね」

「そこ!? 今までそこを疑っていたの!?」



 ビビアンは激昂した。詰め寄られてポールはちょっと身を引く。そして、改めてビビアンが述べた内容を吟味した。



「確かに遺体を深夜に埋葬するのは不自然ですね。他殺の可能性、と言っていますが、ほぼ他殺と仮定して話を進めて良いでしょう」



 ポールが淡々と続けた。



「自分が思うに、夕食後の様子が本当なら毒殺の線が高いですね。遺体の腹を解剖されたら困るからすぐに埋葬したってことはあり得ます。……まあ食中毒でぽっくり、と言う線もあり得なくはないですが……」



 食中毒の場合なら、アークライト邸の厨房環境を見直す必要がある。それらの見直しならビビアンにもできる範囲だ。

 ビビアンは頷いた。



「では、食中毒はともかく毒殺を防ぐためには何をしたら良いの? ……って言うか、仮に毒殺だとして、ただの男爵家で毒殺が行われるって変じゃないかしら。弱小すぎて政敵もいないし、デューイ様は怨みを買うような人じゃないわ」

「自分はデューイ氏の生真面目過ぎる性格は敵を作りやすいと思いますが……」



 ポールの所感にビビアンはギョッとした。他人にはそういう風に見えているのか。



「まあ万人に好かれても一人に殺したいほど憎まれたら、殺されてしまうんで」



 ポールがばっさりと切り捨てる。ウッ、とビビアンが呻く。

 ポールは暫く考え、対策を提示した。



「でもそうですね。お嬢さんはとりあえず、毒物に対して知識をつけていきましょう。臭いや色も覚えていけば、口にする前に対応できます。毒を呑んでしまった後の対処法も覚えておきましょう」

「なるほど」



 ビビアンはふむと頷いた。確かに人殺しをしようとする相手にはそれくらいの準備が必要かもしれない。



「分かったわ。早速明日から指導をお願い。もちろん特別手当は出すわよ」



 ビビアンの現実的な礼に、ポールは特徴のない顔を歪めて笑った。



「幸い事件は5年後ですよね? 犯人になりそうな人物、デューイ氏に怨みを持ちそうな人物を探しておくことも有用かと。それから、お嬢さんはできる限りデューイ氏と行動を一緒にしてください」



「わたしが隣で見張っているという訳ね」



 会話を聞いていたマリーが声を上げた。



「ですが、いくらお嬢様が警戒しても、根本的に狙われるのはデューイ様でしょう? お嬢様、ご本人に協力して頂くのが最も効果的なのでは?」

「協力ってどうしろって言うのよ。デューイ様に一から事情を説明すると言うの?」



 デューイが不審死を遂げた未来から戻ってきたから、周囲に警戒しろと伝える、と言うのか。ビビアンは『前回』デューイから向けられた軽蔑の眼差しを思い出して頭を振った。



「嫌よ! 絶ッ対頭がおかしくなったって思われるじゃない!」

「そうでしょうか……」

「そうよ! あのね、デューイ様の嫌悪感丸出しの視線ってめちゃくちゃ傷つくのよ。あんな顔されるのだけは絶対に嫌だわ!」



 未来を知っている、という突拍子の無い話をすることで精神を疑われるのも苦痛だが、ビビアンにはデューイに事情を話せない理由がもう一つあった。



 『前回』起こったことを説明するには、デューイがビビアンの与り知らぬところで死んだ理由、つまり破局の原因を語らねばならない。『前回』二人が破局したのは、ビビアンの常軌を逸した付きまとい行為が原因である。



 たとえ過去の所業だとしても、デューイに知られたくなかった。せっかく奇跡が起きて関係をやり直せているのだ。ビビアンはできるならデューイに好かれる部分だけを見せたかった。



「とにかく! デューイ様には言いたくないの! それ以外の方向で頑張りましょう?」



 ビビアンの言葉に、マリーはしぶしぶ頷く。



「必要なら格闘技だって覚えるし、鎖帷子だって着ても良いわ! なんだってするわ、デューイ様に嫌われない範囲で!」

「それで良いのかしら……?」



 主人の努力の方向性に首を捻りつつも、マリーも具体的な解決案は出せない。会議は続き夜は更けていった。
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