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071◇代官屋敷(0)
しおりを挟む「祈願っ! 怪力っっ!!」
いくら気合を入れても、ダメなものはダメらしい。
「……ダメみたい」
ミーヨが、『魔法』の発動に失敗した。
『丘』から出ると、太陽は西に傾いていて、『魔法停止現象』が起きていたのだ。
俺はどっちにしろ『魔法』を使えないから、忘れがちだけど、『この世界』では、今日みたいな、よく晴れた日の夕方には『魔法』が使えなくなるのだ。
ついでに言うと、こんな日は深夜に強風が吹く。
双方に、何らかの因果関係があるかどうかは知らないけれども。
「姫ちゃん、寝ちゃってる」
手押し車の上。『お宝』の入った「古い衣装箱」の上にまたがっていたラウラ姫が、またまた寝落ちしちゃってるのだ。
「いいよ。俺が押してくから」
一国の王女様を、「荷物扱い」なのもどーかとは思うけれども。
「うん、お願い。あー……でも、5ツンしか持たないんだった」
「何の持続時間だよ? 5ツン(約5分)って? 『魔法』のか?」
『魔法』によって、効果持続時間が短いのもあるらしいのだ。
ただ、この俺様の初回の攻撃はもっと……なんでもないです。すみません。
「……(微笑)」
すぐ傍に、「清き乙女」の『巫女見習い』シンシアさんがいらっしゃいました。
彼女が被る白く長いヴェールも、オレンジ色だ。
なんとなく、真冬の冠雪した富士山が夕陽を浴びてるみたいなシルエットだ。
「これが起きてる間は、女性に悪さしちゃイカンぞ」
プリムローズさんから、おっさん臭く注意された。
「しませんよ。んなこと」
でも、女性専用の『護身魔法』も使えなくなるらしくて、みんな俺から微妙に遠ざかってるし……。
「と言うか、なんなんスか? コレって」
「『夕焼け空の魔法停止現象』かい? この光の波長のせいだね」
プリムローズさんの赤い頭髪も、夕陽に照らされて金色に輝いて見える。
てか、そんな名前がついてたのか。
『夕焼け空の魔法停止現象』って……そのまんまだ。
「……光の波長っスか?」
時間帯は関係ないらしく、曇りの日にはフツーに『魔法』を発動出来るそうなので、ある特定の波長の光(電磁波)が大気に満ちてるとダメらしい。
『終末のイ○ッタ』みたいに「地理的条件」とかじゃなくて、一定の気象条件で『魔法』が停止するのかな?
なんなんだろう?
この『夕焼け空の魔法停止現象』って?
◇
『全能神神殿』に着くと、ラウラ姫がお世話になっているという貴賓室がある一角で、不意に声をかけられた。
「あ、プロペラ小僧君!」
誰が『プロペラ小僧』やねん!
黒い服と白いヴェールのコントラストが、どことなくパトカーみたいな女性だ。
見知らぬ『神官女』さんに不名誉な「二つ名」で呼ばれて、ちょっと複雑。
イヤ、この人「取り調べ」の時に会ってるな。初対面じゃねーな。
「君、食堂にパンツ忘れていかなかった?」
「食堂にパンツ忘れてくバカはいませんよ」
あり得ないよ。
「えいっ!」
「きゃっ!」
『旅人のマントル』をめくられて、「確認」された。
ちなみに、「きゃっ!」が俺だ(笑)。
「穿いてないようだけど? ブラブラしてたけど?」
「そりゃそうですよ。俺を誰だと思ってるんですか?」
「プロペラ小僧君だ。……なるほど」
彼女は納得して去っていった。
「「「「「…………」」」」」
みんな、生ぬるい目だ。
「『神殿』に仕えてる女性って、そのー、『ブラブラしてるもの』を見てもいいんですか?」
『巫女』さまには見せるな、って怒られて、わざわざパンツ買わされたのに……って、そのパンツだよ。さっきの話は。
「『神官女』さんは、『正式な結婚』をした元『巫女見習い』なんだよ」
ミーヨが教えてくれた。
「へー、独身じゃないのか? あの人たちって」
既婚者だったのか。
だから「清き乙女」的なタブーは無くて、ち○こ見てもいいのか。
……イヤ、だからって無関係な他人のはダメだろ。
そして、どうやら俺の「パンツ地雷作戦」は不発に終わったらしいな。
……どうせなら「清き乙女」に見つけて欲しかったのに。
◇
「今日はお世話になりました」
ドロレスちゃんが、しっかりと挨拶する。
実は、これから俺とミーヨが付き添って、彼女の保護者であるお祖父さんに面会し、細かい経緯を説明する事になっている。
何というか、「犯罪」らしき問題点もあるので……ちょっと憂鬱だ。
「帰り道、お気をつけて」
シンシアさんが気遣ってくれる。
「うむ。また明日」
ラウラ姫も、励ますような口調だ。
「これから先の事だが、酷いことにはならないから大丈夫さ、ジンが君を守るだろう」
最後に、プリムローズさんが安心させるように言った。
……てか、俺に丸投げやん。
「はい。では、みなさん、おやすみなさい」
12歳だけど、本当に大人びた子だ。
陰では、いろいろ苦労してるだろうから、責められないよな。
◇
「ドロレスちゃん、何か食べてこうか?」
歩きながらミーヨが誘うと、彼女は俺をちらっと見た。
「いいんですか?」
遠慮気味だ。
確かに、いいんだろうか? この子も、相当食うよ?
「うん、何食べようか?」
でも、こう言うしかないのであった。
で、夕陽の残照の中、適当な屋台を探して、「円形広場」をぶらぶらしてると、子供の声がした。
「おにさ!」
振り向くと、肩で切りそろえた綺麗な黒髪に、ピンと立った黒い猫耳をつけた女の子がいた。
「おお、セシリア!」
先日、俺たちが助けて、名前を付けてあげた獣耳奴隷の女の子だった。
「あい!」
可愛い返事だ。
誰かのお古っぽいけど、きちんと清潔な服を着てる。
もし、スウさんのお古なら、地球感覚で「四半世紀前のシロモノ」になるのかな?
「綺麗にしてもらって良かったねー」
両手を広げて近寄ったミーヨが、そのままセシリアをハグした。
「……あい」
セシリアはくすぐったそうだ。
照れくさいのかもしれない。
ミーヨは「獣耳奴隷」に対して、差別的なところがまったくない。
セシリアを抱きしめて可愛がっている。よし、俺も後でたっぷり(以下略)。
「セシリア、このお方は『ご主人様』でごんす。おにさ、ではないのでごんす」
ケンタロウ氏の娘さんだ。
そして……おおっ、馬耳だ! 親子二代の馬耳キタ――――ッ!!
目指せ! 『牝馬三冠』……とか、言っちゃダメか。
「…………」
最後の無口なこの子は、競馬好きな田中さん(※違うってば)の娘だ。
犬耳をつけてる。頼りなさそうなタレ耳が可愛かった。この子に似合っている。
「……ごし、ごし、ごし」
何を擦っている?
「ごしゅ……ご主人、様」
そう言えば、そうなのだ。
俺が、彼女たちの「ご主人様」なのだった。忘れてた。
三人とも、成り行きから、カタチだけは俺個人所有の『獣耳奴隷』となった子たちだったよ。
ちなみに、もう一人いた金髪の「ヒサヤ」は、『この世界』の「ヒーラー」である『癒し手』として『覚醒』したので、奴隷身分から解放されて『全能神神殿』に保護されてるのだ。シンシアさんと同じく『巫女見習い』になってるはずだ。でも、『覚醒』とか……ちよっとおもろい。
「ふた、なか、よし」
何の中身の確認だ?
イヤ、猫耳のセシリアは、「ふたり仲良し」って言ったのかな? 俺とミーヨの事を。
「夫婦円満そうで、なによりでごんす」
馬耳の子だ。
てか、それ言っちゃダメなんだけど……ミーヨが調子に乗るから。
「よーし、じゃあ、みんな何食べるー?」
ミーヨが、ご機嫌な口調で言った。
マズい流れだ。
でも、三人は夕食前だったらしくて、お腹いっぱいになるわけにもいかないので、串焼き一本ずつでいいと言ってくれた。
「えー……育ち盛りなのにー」
「工房で、ゴハンが待ってるのでごんす」
ちょっと残念そうに言われたよ。
でも、内心はホッとしてます。所持金少ないんです。
◇
「行ってまいります!」
食べ物の探索と入手を依頼すると、快諾を得られたので、資金を渡して冒険者ドロレスちゃんを派遣した。
「ただいま戻りました!」
早っ!
ドロレスちゃんが発見・入手したのは『肉巻き串』だった。
薄くてやたらと細長い焼肉が串に巻き付けられた物だった。なんか変なの。
上手に食べないと、巻いてあるお肉が、はがれてきて、びろ――ん、となるよ。
一緒に食べながら、いろいろ話してみると三人は、俺とミーヨがパン工房だけにパンパンパン……イヤ、俺とミーヨが寝起きしてた部屋に、一緒に住んでいるらしい。
そして、空いた時間に、体力づくりとこの街の地理を覚えるための、毎日の「散歩」を義務付けられたらしい。
子供だけの「街歩き」って心配だけど……奴隷の身分証でもある『獣耳』を付けていれば、逆に犯罪に巻きこまれる危険も少ないらしい。
スウさんの事だから、この子たちに配達もやらせるつもりだろうな。
きちんと、「手に職つけさせてくれ」って頼んだのに。
「気をつけてな。スウさんの工房は、西の濠沿いのでっかい煙突が目印だぞ」
もう、日は沈んでしまっているので、ついつい心配になる。
「「「はいっ!」」」
いい返事だ。
「では」
ケンタロウ氏の娘の合図で、
「「「ご馳走様でした!」」」
ぺこりと頭を下げて、三人は工房に帰っていく。
――元気で、がんばれ。
三人の姿が見えなくなるまで見送ったあと、
「さて、ドロレスちゃん。今ので足りた?」
遠慮していたと思われるので訊いてみた。
「うむ。満ち足りた」
姉のラウラ姫の物真似が出た。そっくりだ。
「……と、言いたいところですが、ぜんぜん」
やっぱり、足りなかったのね?
◇
ドロレスちゃんが、足りない分の『肉巻き串』を買いに行ってるあいだ。
「ミーヨ。今日、いっぱい『宝石』見ただろ?」
「うん」
「前に言ってた『赤い石』って、同じ種類のあったか?」
「あの話、憶えててくれたんだ?」
ミーヨは嬉しそうだった。
「忘れてないよ。ただ『宝石』売ってる店って俺らは入れないだろ?」
「だよね。子供あつかいされて、相手にしてもらえないもんね。一応16歳で『成人』してるのに」
ミーヨがボヤいた。
そうなのだ。
何度となく、その手のお店に行ってはみたものの、邪魔者あつかいされて店から追い出されるのだ。まったく不当な扱いなのだ。
「うん、それで『赤い石』はあったか?」
「……なかった」
ミーヨはしょんぼりと言った。
「なかったのか……。あんなに色々あったのに」
よっぽどレアな『宝石』なのかな。
「うん、それでちらっと思い出したんだけどね。わたしの家にあったのは『紅い卵』って名前で、ホントに卵みたいにつるん、としてたの」
「ほお、つるん、としてるのか?」
ついついミーヨの広くて可愛いおでこを見てしまう。
そう言うからには、それってきっと、楕円形の「カボション・カット」だろう。宝石の種類によっては、特殊な光り方をするようになるはずだ。
「でね……」
「お兄さん! ちょっと来てください! お店の人が『値引き』に応じてくれないんです」
いきなり現れたドロレスちゃんが、俺の手を引っ張ってそこから連れ出したために、話は有耶無耶になってしまった。
「ち、ちょっと待って!」
「あ、いいよ。今度で」
ミーヨは笑ってるけど……間が悪いよ、ドロレスちゃん。
「ミーヨも一緒に行こう」
「うええっ」
手を取って連結。三両編成だ。
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