たまたまアルケミスト

門雪半蔵

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069◇宝探し(9)

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「なにしろ『王家の秘宝』だからね。みんなで山分けってワケにはいかないよ」

 プリムローズさんはそう言ったあとで、ドロレスちゃんに向かった。

「ところで、いくつか聞きたいことがあるのだけれど……」
「あたしがやりました」

 ドロレスちゃんはあっさりと白状した……のか? え? なにを?

「そうか」
 プリムローズさんが、納得したように頷いた。

「いろいろと不自然な点があったからな……」
「…………」

 ドロレスちゃんが、見たことのないような深刻な表情で黙り込んでいる。

「なんの話でしょうか?」⇒シンシアさん。
「……さあ?」⇒ミーヨ。
「む?」⇒ラウラ姫。
「プリムローズさん?」⇒俺様。

 俺たち、置いてきぼりだよ。

「いや、君たち。この二つの箱を見比べたら判るだろう?」

 プリムローズさんが、両手で二つの箱を指し示す。

 年代物の、「衣装箱」のようなものが二つ。

 ひとつは、箱の底の方に『宝石』が敷き詰められていた。
 俺たちが、ぶちまけて遊んでた方だ。

 もうひとつは――重くて、簡単には動かせなかった。
 金貨か金塊かと思ったら、なんのことはない。銅貨がびっちり詰まっていた。
 『地球銅貨アアス』と『小惑星銅貨アスタ』ばっかり。『女王国』の「小銭」だ。

 で、こっちはみんなに無視されていた。

「えーっと、つまり?」
「元々あった『宝物』の中から、換金がラクなものを少しずつ持ち出して、お金にしてたんだろう。そして、『宝箱』を空っぽにしておくわけにもいかないから、こっちの箱には小銭を詰め込んでおいた。――剥き出しの『宝石』って換金しにくいだろうしね。それとも何かの金細工品から石を外したのかな?」

「はい。その通りです」
 ドロレスちゃんが神妙に答えた。

「言い訳になりますげど。お爺ちゃんのお金の使い方が雑すぎて、いろいろと穴埋めする必要があったんです」

「「……ああ」」

 会った事のある俺とミーヨは思い当たった。あの人じゃ、しょうがない気がする。

「……?」

 事情を知らないシンシアさんが不思議そうにしてる。
 でも、シンシアさんは会わない方がいいな。言葉遣い悪いもん、あの爺さん。

「私たちが『宝探し』の相談をしてたのは『全能神神殿』の中なんだけど……『神殿』の中に、君の言う『手下』がいて情報を流したのかい?」

 プリムローズさんが、冷たい水色の瞳でドロレスちゃんを見つめる。

「いえ、手下じゃないです。あたしです。たまたま『アレの日』だったので」

 ドロレスちゃんは、もう何も隠す気はないようだった。淡々と語っている。

「そうか、『アレの日』か」
「ああ、そうでしたね」

 プリムローズさんとシンシアさんが納得してるけど、『アレの日』ってなんだろう?
 二人の様子からは、特にいやらしい要素はなさそうだけど。

「で、みなさんの動向を掴んで、養老院の前で待ち伏せしてました」
 いつものさっくりした口調で、いろいろ話している。

「それで、今のこの状況があると? ところで、この部屋の仕掛けは君が用意したのか?」
 プリムローズさんが問いかけた。

「まさか! 違います。ここは10年くらい前に、作り変えられたそうです。元々ここにあった『たからもの』を持ち出して、『王都』から『代わり』を運び込んだ時に。その時お爺ちゃんが立ち会っていたそうで……それで、あたしもここの事を知ってるんです」

「……ほう」

 面白い事を聞いたとばかりに、プリムローズさんの瞳が紫に輝く。

「君、よくそんなこと知ってるな。ここから持ち出した『たからもの』って400年前の秘宝の事だろうけど、『代わり』ね。10年前か。すると……あの詩はいつ誰が?」

「「「「…………」」」」

 みんな黙り込んでしまう。

「……あたし、これからどうなるんですか?」

 ドロレスちゃんがポツンと言った。

「このままだと、犯罪奴隷という事になってしまいますよ」⇒シンシアさん。
「今度こそ本物の猫耳奴隷?」⇒ミーヨ。
「むう」⇒ラウラ姫。

 俺たちにも、多少は事情が分かったけれど……どうすりゃいいのやら?

「お兄さんに『扉を開ける仕掛け』を破られたり、『床下の仕掛け』を見つけられて……あの時点で覚悟は出来ていましたけど」
 ドロレスちゃんが言う。

「「「「……(じーっ)」」」」

 みんなが俺を見る。
 てか、俺なの?

「本来であれば、この街の代官とその孫娘が厳罰に処される――となるはずなんだが、この街の警察権を握っているのは、その代官閣下だし、なおかつ今上の女王陛下の父君だからな……あー、ややこしい。よし、匙を投げよう」
 プリムローズさんが面倒くさそうに、くるっと俺の方を向いた。

「ジン、君に丸投げする。なんとかしろ!」

(だが断る)

 こんな場合のお約束なので、言ってみた。
 ただし、声に出さず、心の中だけで。

「……(くかー、くかー)……」

 実際には、「寝たふり」しました(笑)。

「ジンくん。呼んでるよ。寝たふりしちゃダメだよ」⇒ミーヨ。
「ジンさん。格好いいところ見せてください」⇒シンシアさん。
「ジン」⇒ラウラ姫。

(やれやれ、俺の愛人どもがうるさくて、おちおち寝てもいられねーぜ)

 心の中で、こんなセリフを言ってみた。
 口に出しては、絶対に言えませんから。

「「「「おーい!」」」」

 しかし、俺は寝たふりを続行するぜっ。

「……(くかー、くかー)……」

「「「「…………」」」」

 呆れてるような気配がするけれど、気のせいだと信じたい。

「「「「起きて! 起きて!」」」」

「……(くかー、くかー)……」

 ここは異世界だから、「――目覚めよアウェイク」と言われれば目覚めるぜ。

「……ジン、本当に寝てるのか? ま、ここは『あま岩戸いわと』作戦といくか」

 『天の岩戸』ってなんだっけ? 聞いたことはあるな。

「おお、そう言えば、あの約束を忘れてた! ジンにおっぱいを見せるんだったな。今、脱ごう。すぐ、脱ごう」

 なん……だと?

 イ、イヤ、絶対ウソだ。
 ここで目を開けちゃあいけないぜ。寝たふりだッッ。


    ……しゅっ、しゅるっ……


 衣擦きぬずれの音がする。

 服を脱いでる音……と言われれば、そんな音だ。
 見えないだけに、いろいろと妄想してしまうぜ。

 某アニメの、理系な眼鏡っ子のニーナは、しゅるしゅると衣擦れの音させて、いったいナニしてたんだろうな?

 それはそれとして、これが「ワルキューレの……じゃなくて、『天の岩戸』作戦か?

 くうっ……!

 そう言えば、「天照大神アマテラスオオミカミ」って女神なのに、なんで「天宇受売命アメノウズメノミコト」の「おっぱい」に負けたんだろ?

 岩戸は岩戸で、投げ飛ばされて「戸隠山」になっちゃったし。
 あー、なんか蕎麦そば食いてー。薬味はネギとワサビで。

「わー……プリちゃん、意外と大きいねー」

 ――ミーヨめ。そんな棒読みセリフにひっかかるか。

「プリマ・ハンナさん。肌きれいですね」

 ――シンシアさん。……イヤ、彼女は意外と演技派かも。

「うむ、おっぱい」

 ――ラウラ姫。直球過ぎるだけに本当かも?

「ええーっ、もうしまっちゃうんですか?」

 ――ド、ドロレスちゃんまで、そんな小芝居を……。

「よし、これで約束は果たしたな。ん? 泣いてるのか?」

 ――プリムローズさんが、やたらと空々しく言う。

「……(くかー、くかー)……」

 ち、違わいっ。
 目に汗が入っただけだいっ。

「……ぼそぼそっ(やっぱり、ウソだってバレてたんじゃ?)」

「「「「し――――ッ!」」」」

 矢張りそうか。
 俺は絶対に、この「偽装鏡面」……イヤ、「偽装睡眠」を解除しないぜっ。

 ちなみに「ワル○ューレの岩戸」と「偽装鏡面」は、両方とも『蒼穹のファ○ナー』の話だ。「竜宮島」の『岩戸』から目覚めたのは「乙姫」だ。ただし、読み方は「りゅうぐう」でも「おとひめ」でもないから、要注意だ!

 それはそれとして、意地張り過ぎて、目を開けるタイミングを失いつつあるな。

「うむ。では、私が先日体得した『往復ちちびんた』を……」
「なりません、殿下。きやつの思う壺です」

 この主従は……。

「「「「……(ひそひそ)……」」」」

 なにやら、「打合せ」でもしているような気配がする。

「ジンさん。先刻さっき私たち4人を変な名前で呼んでましたけど、あれってどういう意味なんでしょう?」
「お兄さん、パンツ四姉妹とか言ってましたね。ひょっとして先日買った同じアレだったんですか?」
「ああ、あの工房巡りをした日に、ジンが着替えていた隙にみんなで買った白いアレか?」
「みんな、せーのっ、で服の裾めくりあげて確認してみようよ」

 なるほど、そうきましたか。

「じゃ、みんな行くよっ」

「「「「せーのっ」」」」

 俺は声のする方を向いて、カッと目を見開いた。

「「「「あ、起きた?」」」」

 みんな、スカートをめくりあげたりしてませんでした。
 そりゃそうですよね。

 ですが、
「……ぶっ!」
 ふと横を見ると、ラウラ姫がスカートをめくりあげてました。

「うむ。見るが良い」
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