たまたまアルケミスト

門雪半蔵

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066◇宝探し(6)

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 でも、『この世界』には夕焼け時の『魔法停止現象』なんてのも、あるんだよな。

 アレは何がどう停止してんだろ?
 太陽電池的なものでもなさそうだし、完全に陽が沈んだ暗闇の中では『魔法』は使えるらしいんだよな。

 それと、『機○戦士○ンダム』シリーズの「ミノ○スキー粒子」って、詳しい設定どんなんだっけ? あれは電磁波を阻害して、レーダーとかを無力化するんだったかな?

 俺が、ぼんやりとそんな事を考えていると――

「それと、目には見えないくらい小さいって言ったけど……実は目視出来るんだけどね。ね、シンシア」
「ええ、その通りです」

 気付いたら、シンシアさんがいた。

「『癒し手』がその手にまとう『白い光』は、目には見えないくらいにとても小さな『守護の星』の集まりなんだそうです。そして、とても小さいから、人間の身体の中にも入って行って、病んだり、傷付いた人体を、内側から癒せるんだそうです」

 その『癒し手』として、具合の良くないお年寄りを診ていたシンシアさんが「手が空いて」俺たちの話を聞いていたらしい。

 『この世界』で『魔法』を発現させている『守護の星』のキラキラ星にも、大小いろいろな大きさがあるのは、なんとなく経験的に知ってるけど……その中でもナノマシン的なヤツが集まると「白い光」に見えるわけか……イヤ、待って!

「だとしたら……『癒し手』は、自分の体内に常駐していて、自分の体を守ってる『守護の星』を、他人に譲り渡してる事になるんじゃないんですか?」
「そう言う事になりますね」
 シンシアさんが明快に言う。

 まるで他人事みたいだ。

 ……つい先刻さっき、ひと一人を生き返らせちゃったじゃないか?
 ゲームだったら『リザレクション』とか、膨大なMP喰いそうだし……。

「それって、自分の生命いのちを他人に奉げてるようなものじゃないんですか? シンシアさんの体内にある『守護の星』が無くなって……枯渇しちゃったら……どうなるんですか? まさか……」

 この美しい少女が……死んじゃうのか?

「あ、ご心配なく。確かに体内から失われますけど、食事で補充出来ますから」
 にっこり笑顔で言われた。
「……」
 そーなんだ。

「それと……『癒し手』じゃなくても、普通に生活していれば『おトイレ』で出ちゃいますから」
 にっこり笑顔で言われた。
「………………」
 ……そーなんだ。

 この美しい少女が……出しちゃうのか?

 聞きたくなかったな、今の話。

「ジンさんのおち……いえ、その、あのー、わ、私たちの『魂』が輪廻転生を繰り返すように、グルグルと回ってるんです」

 シンシアさんが、途中でナニかアタフタしながら言った。

「『守護の星』は『この世界』に満ちてるんだよ。空気や土や水の中にもある。それが生き物たちのいとなみを通して、循環を繰り返してるんだよ。『食物連鎖』に組み込まれているんだよ」

 プリムローズさんが、フォローするように言った。
 でも、「食物連鎖」を、わざわざ日本語で言ったので、シンシアさんがなんか驚いてる。

 とすると、その極小サイズの『守護の星』は、ウイルスみたいに人体内部で増殖してるってワケじゃなさそうだ。元々の由来はどこからなんだろ? 海かな?

 そんで、食べ物や排●物にカタチを変えながら、グルグル回ってるのか……。

 ……その話も、聞きたくなかったな。

      ◇

 シンシアさんが立ち去った後で、
「そう言えば、さっきの『錬成』の話だけど……いくらお年寄りでも食物繊維をぜんぜんらないと、今度は便秘になるわよ?」
 プリムローズさんにそんな事を言われた。

「…………」

 なんかの経験則っスか?

「……なるほど。でも毎日俺が来てやってるわけじゃないので」
「そうね。たまにならいいか。――ところで君、なんかもじもじしてるけど、『おトイレ』行きたいんじゃないの?」
「めっちゃ行きたいです」
「行ってきなよ」

「大丈夫です。もし漏らしても『セルロース水溶液』ですから、ぜんぜん汚物じゃないです」
「行ってきなさい」
「ハイ」

      ◇

(にしても、神さまである『全知神』に「知らない事」を教えなきゃならないっていうのは……)

 それって、どうなのよ?
 どうすりゃいいのよ?

 本当にまた怒らせて、『ご光臨』を願うしかないのか?

 ま、そっちは後回しにして……とりあえず、早く出したい。
 繊維質のせいか、なんか必要以上にムズムズするのだ。

 でも、『この世界』のトイレって全部『個室』になってる代わりに男女共用なので、ちょっと行き辛い。

 そんな事を考えながら、トイレに向かうと、
「あっ、ジンくん! お願い、助けて!」
 ミーヨが俺を見つけて泣きついて来た。
「ん? どうかしたのか?」

「さっきの黒い石ころ、落としちゃって」
「え? 中でか? まさか●器の中にか?」
「……うん。でもなんか変なの」

 何かを不気味がってるようだけど、なんだろう?

 ミーヨに手をひかれ、とある個室に案内される。

「まさか、穴に詰まってるのか?」

 さすがにそれは……ハードル高いな。

 他の街は知らないけれど、冶金の丘ここのトイレは、だいたい煉瓦組みの便座の中にでっかい金属製の漏斗状の●器があって、そこにした後で手動で水洗するタイプが多い。その●器は、四大魔法合金のひとつミスロリことステンレス鋼で出来ている。

 そして利用者は、終わった後で自分自身に『★後始末☆』という『魔法』を使うのだけれども……ミーヨさん、したか? そんな声しなかったけどな。

 もっとも俺も、無敵の『★不可侵の被膜☆』の副作用的に『魔法』が使えないから出来ないけれども。
 でも、『体内錬成』で●(固体)を「別な物質」に錬成つくり変えてから排●してるから、汚れはないよ?

「ここなんだけど」

 ミーヨに促されて●器を見てみると、漏斗の坂道の真ん中へんに、黒い石ころがくっついていた。なんかのイボみたいに見える。

「ああ、コレ、磁石だったのか……」
「『じしゃく』?」

 ミーヨは知らないのか?
 『この世界』で磁石って認知度低いの?

「まあ、とりあえず下まで落ちてなくて良かったな」
「あっ」

 ミーヨが恥ずかしそうだったけど、俺は気にしないでソレを手に取った。

 表面から剥がす時、強い抵抗があった。

 そこで、ふと気付いた。
 ステンレスって、磁石くっ付くんだっけ? たしか材質とかで磁性のあるヤツと非磁性のがあるハズだ。
 でも、普通の鉄よりもくっ付きにくいはずだけど……コレって、なんかガッチリと張り付いてたな。

 ――相当に強力な「永久磁石」ってことになるわけか。ふーん。

 俺はソレを目の前でじっくりと観察した。
 そんな俺に、ミーヨがあらぬ誤解をした。

「やーもう! ……匂いなんて嗅がないでー」

 ちげーよ!!

 しかし、これで俺は『ミーヨのお○っこ』を『液体錬成』で作り出せるようになったわけか……。

 よし、さっそく試して……みないよ?

 例え俺が『ミーヨのお○っこ』を体内で錬成出来たところで、俺様の俺様から排出されたらそれは『俺の●(液体)』であって、もはや『ミーヨのお○っこ』ではなくなるのだ。あくまでも最終的に排出した人物の属性を帯びるわけだから、『ミーヨのお○っこ』ではなく、俺が作り出した『ミーヨのお○っこ』は、俺の体内で……何がなんだかワケが分からなくなってきた。

 至高の堂々とスカートめくり……イヤ、思考の堂々巡りに陥ってしまったようだ。

 てか、俺もトイレに来たんだった。フツーに洩れそう。

「ミーヨ。俺これからするから、出て」
「まだ出てないから出さないで。きゃ――っ」
 悲鳴を上げながら、本気で嫌がってはいない。

 そんなタイミングで、シンシアさんとドロレスちゃんの声がした。

「……中だと思いますよ」
「ここですかね?」

 こっちに来るようだ。

 マズい、個室に二人じゃ変態だ。

「あのー、ジンさん」
「お兄さん」


    ガチャ。


「「……え?」」

「「……あ」」

 てか、居ると分かってて何故ノックもなしに開ける?

      ◇

「あのー、プリマ・ハンナ(プリムローズさんの事だ)さんが、そろそろ『丘』に行こうかって言ってまして」
 シンシアさんが、にっこりと笑顔で言う。

「で、あたしたちが迎えに来たんだよ」
 ドロレスちゃんも、いい笑顔だ。

「うん、そうだね。早く行こっ」
 着替え終わったミーヨも、爽やかにほほ笑む。

 三人とも、まるで何事もなかったかのような大人の対応だった。

「よし、じゃあ行こうか!」

 そんな中で、俺だけがぐずっていても、しょうがないので、前を向いて進もう。

 決めた。
 もう、泣かない。もう、振り向かない。挫けない。負けない。逃げない。人にかけない。

      ◆

 人に心配や迷惑をかけてはいけない。
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