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064◇宝探し(4)
しおりを挟む(♪おっぱい。♪おっぱい)
俺は即興で自作した『おっぱいのうた』を心の中で歌いながら、プリムローズさんに訊いてみた。
「おっ……ところで、あの詩はどこで見つけたんスか? 本当に信憑性があるものなんスか?」
「あれは王宮の『秘書庫』で見つけたのよ。殿下のお付きになってすぐに」
「え? どこで?」
なんか、やらしー響きだ。
「王宮の『秘書庫』よ」
プリムローズさんは赤毛だけど……某料理アニメの「秘書子ちゃん」とは無関係なはずだが?
「秘書庫ですか……そんなところによく入れましたね?」
シンシアさんまで、そんなやらしー言葉を……って考えすぎか。
「殿下の付き添いという形でね。本当は逆だったけど」
プリムローズさんの現在の「肩書」は、第三王女の筆頭侍女だもんな。
「まあ、ちょっと口には出せないけど、この国の秘密、ってやつを色々と見つけたわ」
プリムローズさんが、俺の背中のラウラ姫が寝てる事を確認した後で、俺にだけ聞こえるような声で言った。
その立場を利用して、陰でいろいろやってるっぽいな。
困ったひとだ。
「――ところで、シンシア。私たちに着いて来ていいの? 『神殿』の仕事の方は?」
プリムローズさんの問いに、
「外出先を届け出ましたところ、そこで二打点(約3時間)ほど『癒し手』として務めよ、と言われましたので」
シンシアさんはそんな事を言って、微笑んだ。
「「「……へー」」」
なんとなく、幾分かの同情が混じってる感じの「へー」だ。
いちいち外出先届けないと自由に動けないのか? 『巫女見習い』って。
シンシアさんもなんだかんだで、完全に他人のやることに巻き込まれてしまう人生を送ってる気がする。
でも、俺もミーヨとラウラ姫に「シェア」されてるような身だし、なんとなく他人事とは思えない。
「それに、今から向かう『養老院』は、『神殿』から何度も慰問や炊き出しに行ったことがあるのです」
シンシアさんは俺とミーヨに向かって、にっこりと笑って言った。
以前、そこにパンを配達に行った時、彼女と会った事があるのだ。
「実はそこ、俺たちも知ってる場所なんです。な、ミーヨ」
「うんっ、スウさんのお祖母ちゃん、元気かな?」
ミーヨが呑気に言う。
そう、あの詩(?)にあった『高き尖塔に登りて 闇を見つめよ 闇の先にあるは すなわち光』とは、円形広場の真ん中に聳える『物見の塔』が夏至の朝日で照らされた影の先の事で――プリムローズさんが確認したところによると、街の西にある大きな建物『養老院』を指していたらしいのだ。
パン工房でお世話になったスウさんの祖母ちゃんがいる養老院。
そこは、俺が神技を披露した『柔らか白パン』の納入先でもあった。
そして、昨日使った大技『人間大砲』のキーになった重要な部品、ミーヨ専用装備『なべのふた』だけど……実は養老院であったある出来事がきっかけで生まれたのだ。
そんないわくつきの場所に『王家の秘宝』が眠っていたとは!
「たぶん、あのお婆ちゃんだよね?」
ミーヨ。
「ああ、あのお婆ちゃんだな」
俺。
「なるほど、あのお婆さんですか」
シンシアさん。
「……(しょぼーん)」
イヤ、みんなしてお婆ちゃんお婆ちゃん言うから、頭の中からプリムローズさんの想像上のおっぱいが消え去って、別の萎びた垂れさがりが脳裏に浮かんでしまう。
いかん。もう一度歌おう、あの歌を!
(♪おっぱい。♪おっぱい)
「おっ……あれ? シンシアさんもあのお婆ちゃん知ってるんですか?」
不意に浮かんだ疑問を、シンシアさんに向ける。
「ええ、『開かずの扉』の前で安楽椅子に揺られているお婆ちゃんの事ですよね?」
シンシアさんはあっさりと言う。
「待て! そんなのがあるのか? というか、君らは知ってるのか?」
プリムローズさんが興奮している。
水色の瞳に血の気がさして、紫の輝きを帯びている。
「うん、養老院の大広間の端に『開かずの扉』があって、自分で『あたしゃ、この扉の守り人さ』ってうそぶいてるお婆ちゃんがいるの。ボケちゃってるのかなーって思って、そっとしておいてあげてたんだけど……」
ミーヨが、なにげに酷い言いぐさだ。
「なんてこった……。本当にあるのか……本当に見せないといけないのか」
一方のプリムローズさんは愕然としている。
「――プリちゃん、まさか信じてなかったの?」
ミーヨが幼馴染の親友を咎めるように見つめる。
「まあ、正直なところ、別に本物じゃなくても暇潰しの笑い話ですむだろう――とは思ってた」
そんなノリで俺らを動かそうとしていたのか?
「ひどっ! 俺ら、本当に金ないのに!」
「……ぼそぼそ(という事は他の場所のも本物かしら?)」
筆頭侍女が、また何かぶつぶつ言ってる。
てか、俺には聞こえてるけどな。
◇
とかやってる間に、養老院に到着。
「うむ。では中に入ろうか」
ラウラ姫が言った?
あれ? ラウラ姫は俺の背中で寝てるのに、この声は?
「みなさん、お疲れです」
養老院の門前で、いちばんこの場所が似つかわしくない12歳のドロレスちゃんが、さくっと言った。
「「「ドロレスちゃん!」」」
まあ、そんな気はしてたけどね。
「……まさか、どうやって嗅ぎつけた?」
プリムローズさんが驚愕している。
◇
『扉に挑みし者よ それは開けてはならぬ』
つまり、それはこういう事だろう。
「扉の守り人よ! 我らは扉に挑む者なり!」
俺は『開かずの扉』の前でアームチェアに座ってるお婆ちゃんに向かって、高らかに宣言した。
「………はあ? なんじゃって?」
あれ? 本当にボケちゃったのか?
「あ、ジンくん。いつものお婆ちゃんって、この人じゃないよ」
ミーヨが顔を憶えていたらしい。
「すみません、いつもこちらの椅子に座っていらした方はどちらに?」
シンシアさんが丁寧に訊ねる。
「腰が痛いゆーて、部屋で寝とるよ」
どうやら、そういう事らしいです。
◇
「扉の守り人よ! 我らは扉に挑む者なり!」
部屋を訊き出した俺たちは、挨拶もそこそこに本題に突入した。
「剣は?」
寝台で寝てるお婆ちゃんから、しっかりとした声で、そう問われた。
「王に!」ラウラ姫。
「金は?」
「銀に?」俺。
「木は?」
「森に?」俺。
「赤は?」
「紅に」プリムローズさん。
「星は?」
「海に!」ミーヨ。
「月は?」
「死に」シンシアさん。
「ふむ。今のところ全問正解じゃ、次がいよいよドキドキの最終問題じゃぞ?」
そういうのはいいから、早くして。
「石は?」
「丘に!」ドロレスちゃん。
てか、なんで知ってる?
「……ふっふっふっふっふ」
お婆ちゃん……イヤ、『扉の守り人』は満足げに笑った。
「まさか、このあたしが、生きてるうちに、『扉に挑む者』があらわれるとは……これで、もう、思い残すことは……(かくっ)」
それきり、お婆ちゃんは動かなくなった。
「…………ウソだろ?」
「「「「「わ――っ! お婆ちゃ――――ん!!」」」」」
――その時だった。
シンシアさんが縋るように俺の手を握って、
「惜しまれしこの人に、いまひとたび生命の輝きを! ☆魂結びッ☆」
『神聖術法』を発動させた。
室内が、神々しいまでの眩い光に包まれた。
そして光がおさまると、
「……お?」
お婆ちゃんが、あっさりと蘇生していた。
「「「「「おおおっ!」」」」」
お婆ちゃんの魂は、『この世界』に踏みとどまったようだった。
あぶねー、お宝のヒント貰い損なうとこだったよ。
◇
「さすが俺の聖女!」
「すごいよ、シンシアちゃん! って、え? 今、ジンくんなんて?」
「うむ。でかした」
「よくやった。凄いな、シンシア」
「…………」
みんなの賛辞を受けたシンシアさん本人は、何故か浮かない表情だった。
そして一度俺を見つめてから、ゆっくりと握っていた手を放した。
「『巫女見習い』に過ぎない私が……こんな……」
何かに怯えているような感じだった。
なんだろう?
「いや、お嬢ちゃん。あんたのお陰で本当に助かった。礼を言うぞ。あのまま『義務』を果たさずに死んではならんのじゃったわ」
お婆ちゃんが立ち上がって、シンシアさんに感謝している。
なんか蘇生したついでに、腰の痛みも吹き飛んだらしい。
てか、『この世界』では死んで生き返ったら、前世の記憶を取り戻すらしいのに、このお婆ちゃんにそんな感じはないな。
これも……なんなんだろう?
「んー、体が軽い。あと50年は生きられそうじゃ」
「「「「…………」」」」
それはどうだろう? と思っている沈黙だった。
「お婆ちゃん……イヤ、『扉の守り人』よ。我らに……」
「ん、『太陽金貨』一枚」
お婆ちゃんがしわくちゃの手を伸ばしてきた。
「皺だらけで、どれが生命線やら?」
俺がボケると、お婆ちゃんがしっかりした声で、
「手相は見んでいいわい。金じゃ」
とまた手を突き出す。
へー、『この世界』にも『手相』あるんだ?
「お待ちを。王家の秘宝に関わる『扉の守り人』が金銭を要求するなど、あってはならない事!」
プリムローズさんが、俺に代わって抗議してくれた。
「あんた誰じゃい?」
「こちらにおわします『女王国』第三王女。ライラウラ・ド・ラ・エルドラド殿下が筆頭侍女に御座います」
プリムローズさんがラウラ姫を示す。
ちなみに、「ラウラ」は「ライラウラ」の愛称なのだ。なんで「ライラ」じゃないんだろ? って気もするけど。でも、「ラ○ラ・ミラ・○イラ」ってアニメキャラがいたな……作品は何だっけ? 『Z』だったかな?
「うむ。ラララ・ド・ラ・ド・ラ・エルドラドだ」
またまた本名を噛んでるし。
姫、成長してないぞ。
「なんか、名前が違うぞい。本物かえ? まあ、ええ。あんたらが謎解きに成功としたとなると、わしら一家の使命も終わり。『守り人』のあとを継がせようと考えておった孫が寂しがるじゃろーなぁ」
なんか語り出してるし。
てか、養老院にある『扉』の『守り人』の役目を、その孫に何十年後に継がすつもりだったんだ?
「要するに孫に小遣いあげたいと? ミーヨ。『小惑星銅貨』いっぱい余ってるだろ、アレ出して」
「あー……うん」
俺が持ち込んだズタ袋をさぐり出したミーヨが、
「今時の子がそんな小銭で喜ぶかい? あるじゃろ、もっと大振りで、ピカピカした硬貨が」
お婆ちゃんの声に動きを止めた。
「えー……でも『太陽金貨』はダメですよ。彼の宝物ですから」
ミーヨが俺を見て、頬を染める。
……イヤ、そういうのはいいから。みんな怪訝な顔してるから。みんな、お前がパンツの中に金貨隠してる事知らないから。
「『明星金貨』でいいですか?」
「おお、うん。それでいい。特別にまけてやろう!」
お婆ちゃんの食いつきが凄かった。
「あ、ミーヨ」
俺が止める間もなく、
「はい」
ミーヨはあっさりと『明星金貨』をお婆ちゃんに渡してしまった。
「おお、お嬢ちゃんはいい子じゃのう」
喜色満面のお婆ちゃんはちょっと妖怪っぽかった。
「……あーあ」
俺は嘆いた。嘆くしかできなかった。
「ならば、これを持って『丘』に行くがよい」
お婆ちゃんは相好を崩したまま、ミーヨに何かを手渡した。
お?
「あたしゃ、ちょいと孫に会って来るわい」
使命を終えた『扉の守り人』が、部屋から去っていった。
「あ、お婆ちゃん、走ると危ないですよ」
シンシアさんに忠告されてる。
もう、取り戻そうとは思わないから、走って逃げなくても……。
ま、あっちはいいか。
「ミーヨ。さっき何か……」
「ジンくん、これ……なんだろう?」
ミーヨの手のひらに乗っていたのは、黒くて丸い石ころだった。
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