たまたまアルケミスト

門雪半蔵

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059◇宝探し(0)

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 またまた宿無しになってしまった俺たちを救ってくれたのは、またまた黒髪の美少女シンシアさんだった。
 『全能神神殿』の巡礼者用の宿泊房に、一部屋用意してくれたのだ。

「今日は本当にごめんなさい」

 シンシアさんが、深々と頭を下げて謝罪する。
 綺麗な黒髪が、しゃらりと肩からすべり落ちる。

「とんでもない。俺の方こそ『ケモノ』に○○ピーーされる寸前に助けてもらったんですよ。シンシアさんは俺の恩人です」

 俺は精一杯の感謝の気持ちを込めて、そう言った。

「……そうですか。そう言っていただけると、これから先、今日の事を思い出した時には、いつも笑顔になれると思います」
「イヤ、それはどういう意味ですか?」
「……(にっこり)」

 てか、今現在目元が笑ってます。三日月目です。

 ――やっぱり、おもしろ可笑しかったんですね?

「あんなことがあったことですし、今日は性交できませんね」

 そして、またまた大人のジョークですか?

「イヤ、俺、そんなとこ使わないですよ?」

 今のところは未開発の自然保護区なのだ。

「ミーヨさん、今夜も我慢してくださいね」
 シンシアさんの言葉に、ミーヨはむくれた。

「嫌です」

 ……らしくない。意地っ張りな子供みたいになってる。

「でも、わたしのジンくんを助けてくれて、ありがとうございました」
 丁寧に礼を言ったと思ったら、まだかたくななままだ。

「でも、嫌! です!」
「……おい、ミーヨ」

「あのー、ここは『神殿』の宿泊房ですよ? そういう意味で言ったのであってですね……」
 シンシアさんが困惑してる。

「シンシアさんもここに泊まればいいじゃないですか、わたしとジンくんがえっちしないように、見張りに」
 挑戦的な態度だった。

「……そうですか、分かりました。そうします。ええ、そうしますとも」

 受けて立つらしい。

「そうすればいいんです」

 なに? なんなの、この二人?

「でも、シンシアさんは『巫女見習い』だから、ホラ」

「「わたし(私)たちと寝るのがイヤなの?」」

「むしろ、ウェルカムです」

 って、どうせナニで出来ずに「生殺し」だろうし。

「「『うぇるかむ』?」」

 分かんないか。

「じゃあ、私はジンさんの左側でいいですか?」
「うん、わたしはいつも右側だから。えへへ」

 なんかちょっと仲良くなってるし。

「「おやすみ」」

「おやすみ」

「……」

「………………」

「…………………………」

 って、寝れるか―――――――っ!!

「……さて、冗談はこれくらいにして、私は部屋に戻りますね」

 むくっと起き上がって、シンシアさんが寝台から脱け出した。

 ……冗談だったんだ?

「おやすみ、シンシアちゃん。また、明日ね」
 親しみをこめて、ミーヨが言う。

「はい、また。ジンさんもおやすみなさい」

 向こう向きだったので判らなかったけど、どんな表情だったのやら。

「……お、おやすみなさい。シンシアさん」

      ◇

「――という事があったんスよ。どう思います? プリムローズさん?」

「良かったわね。おめでとう。三人目『げっと』だぜ!! って感じかしら?」
 彼女らしくない調子で茶化された上で、
「というか、違う話がしたかったんじゃないの?」
 しっかりと見透かされていた。

「ハイ。昨日の事もあって、所持金が激減してまして」
「まあ、そうよね」
 プリムローズさんが頷く。

 なんだかんだ行き当たりばったりの成り行きで、俺は4人の奴隷の女の子のご主人様になってしまったけど、もともと『この世界』の一般的な平均年収ぐらいのお金しかなかったのに、今回の件で壊滅的に減少してしまった。

 俺たちの所持金の残りは『明星金貨フォスファ』2枚と『月面銀貨ルナー』7枚と『地球銅貨アアス』8枚。あとは10円くらいの小銭『小惑星銅貨アスタ』がジャラジャラ――日本円に換算するとだいたい16万円くらいにまで減っている。

 もう、はっきり言って当初の目的である『伝説のデカい樹』を目指しての旅――とか、完全に無理な状況だ。

 パン工房に預けた3人の分の購入費(ヤな言い方だ)を、スウさん出してくれないかなー、と淡い期待を抱いていたけど……ダメだった。

 『奴隷期間』中に『癒し手』として覚醒したヒサヤの場合、本来であれば奴隷から解放されるはずなので、そもそも購入費なんて発生しないはずなのに……結局、払っちゃってるしな、俺。

 ヒサヤを保護している『全能神神殿』経由で、『奴隷の館』に返還を申し入れてもらえるように、シンシアさんに頼んで交渉してもらっているけど、あまりあてには出来ない感じだ。

 ああ、またなんか愚痴っぽくなってるな。

 ――でも、お金が足りない。切実だ。

「なんなら、『宝探し』でもしてみる?」

 プリムローズさんから、意外な話が飛び出して来た。

「ええっ! そんな話があるの? プリちゃん?」

 石造りの大きな室内に、大きな声が響く。

 昨日、危うくパンツを売りそうになったミーヨが、話を聞きつけて近寄って来た。
 
 ここは、『全能神神殿』に隣接された沐浴場(女湯)だ。
 女湯だけど……俺がいても問題はない。今は使用禁止の掃除中なのだ。

 前にミーヨがここに入ってシンシアさんのお胸を見た――という話を聞いてたので、誰でも入れる公衆浴場だと思ってたけど、『神殿』に参拝に来た人しか入れないらしい。参拝に来た人達が身を清めるためのものだったのだ。

 『神殿』の敷地は意外と広くて、他にも『神殿学舎』なんてものがあって、俺が『神殿』を小学校と勘違いしてたのはあながち間違ってなかったみたいだ。
 今も子供の声で、『地球』の聖歌とかコラールみたいな合唱が聞こえる。

 『神殿学舎』は一応、カタチだけは4歳からの幼年部。8歳からの初等部。12歳からの中等部に分かれてるらしい。
 なんでカタチだけかと言うと、家庭の都合で毎日通えない児童・生徒に配慮して「単位制」になっていて、必要な単位を取ると進級出来ちゃうらしい。
 そんで休日以外に毎日のように通うと、12歳くらいで全日程の単位が取れちゃうらしい。

 12歳のドロレスちゃんが、毎日暇そうなのが不思議だったので、聞いてみたらそう言う話で、もう「中等部卒業」扱いになってるらしい。

 そんで、中等部以上の教育は各種「職業訓練校|(みたいなところ)」で習うらしい。
 この街には「大学」にあたる部分が無い(『王都』にはあるらしい)ようで、「学びたい」という意思がある人は、有名な講師の『私塾』に通うらしい。

 俺は、『この世界』では16歳の「成人」した状態で、あの麦畑の中で、ミーヨの『往復ちちびんた』で目覚めたので「異世界学園生活」を完全にスルーしてしまってる。
 
 ちょっと淋しい。
 いろんなイベントがあっただろうに。
 ひょっとしたら「部活」とかもあったかもしれないのに。

 でも、「学びたい」という立派な意思は無いし、塾通いとかもヤだし……今更だしな。

 それはそれとして、俺とミーヨはまたまた『神殿』内にある宿泊房に泊めて貰ったので、またまた無料奉仕の清掃活動中なのだ。

 プリムローズさんは正規の滞在者なので、その必要はないけれど、ミーヨに巻き込まれるようにしてここにいる。

 その彼女が、『宝探し』なんてことを言い出してる。

「まあ、色々と予定は狂いっぱなしだけど、殿下の佩刀はいとうが仕上がるまで、あと8日。そしたら『王都』に出発だから、それまでに大きく稼ぎたいよね? 話だけでも聞く?」

 プリムローズさんは、珍しく上機嫌で言った。

「「うん、うん」」

 なんか凄そうな儲け話っぽい。

 俺たちは、一応「成人」なのだけれど……なぜか飲酒や賭け事や性風俗は18歳から、というズレた決まりがあるので、「酒場で情報収集」とか「賭場で一攫千金」とか「えっちなお店でエクスプロージョン(笑)」とかは出来ないのだった。

 それはそれとして、今はプリムローズさんの話が気になる。

「わたし、気になります!」

 俺は、瞳を輝かせながら言ってみた。
 でも、やっぱダメだな。千反ちたん○さん(※『氷○』)じゃないと可愛くない。

「そうだろう? いや、実はこの『女王国』には各地に『王家の秘宝』伝説があってね……」

 王女様の筆頭侍女がいいのかな?

 そんな事言ったら、評価が下がるんじゃ……。
 でも、『王家の秘宝』とか、古典的な展開だ。
 元素番号22は、チタンだ。まったく関係無いけど。
 そして……ラウラ姫の家、エルドラド家のお宝か。

 てか、「トレジャーハンティング」って言ったら「古典部」じゃなくて「美術部」を思い出してしまうな。そんで関係無いけど「シスト」って何語だろ?

 俺が、そんなアニメな回顧に浸っていると――

「うむ。やはり修練のあとは、湯に浸るに限る」
「姫殿下。足元お気をつけください。そこ、段になっております」

 ラウラ姫とシンシアさんが入って来た。

 二人とも、完全に入浴を前提とした姿だった。

 使用禁止の清掃中なのに。

「「…………」」

 あまりにもお約束通りの展開だったので、以下のドタバタは省略する。

      ◇

「確認しましたが、本当に『清掃中』の札が出てました。私の落ち度でもありますので、もう何も言いませんが……。ジンさん、とってもいい笑顔ですね?」

 一部の隙も無く完璧に着衣したシンシアさんに、そう言われた。
 『巫女見習い』の平服――というか雑務用の薄い白灰色のローブを着てる。初夏なのに長袖だ。

「ハイ、ありがとうございます。シンシアさん」
 俺はきちんと礼を言った。

 自分がいま笑顔かどうかは分からないが、なにかあった時に素直にお礼を言えるようになって来た事には満足している。成長したな、俺。後で一人で画像確認しようっと。ラッキーだったな、俺。

 なんというか、今すぐ街に飛び出して「イヤッホ――――ッ!」と叫びたい衝動を必死で抑えてます。

「――まあ、いいです……ぼそっ(私もいつも見てるし)」

 シンシアさんは、おっ……心のとても大きな女性ひとだ。
 人間として素晴らしいことだ。尊敬に値する。

 そして最後の呟きは――いったいナニをいつも見てるんだろう?

「シンシアちゃん、あんなにおっぱいおっきくて、弓矢射るのに邪魔じゃないの?」
「はい、そうなんですけど、最近なんですよね。おっぱい大きくなり始めたのって」

 昨夜からちょっと仲良くなったミーヨとシンシアさんが女子トーク中だ。

 てか、二人とも、俺が言わないように気をつけてるワードをあっさりと口に出してくれて、どうもありがとう。

 シンシアさんは弓矢が得意で、昨日はそれで俺も一度は助けられたからな。
 ま、その直後に俺の「*」を襲った悲喜劇は忘れるとして(泣)。

 とにかく彼女は『巫女見習い』になった後も、弓の修練を欠かさないらしい。
 そのせいか、胸もとの筋肉が発達していて、美しさと大きさを兼ね備えた理想の形状だったよ。でへへへ。

 そこに、姫とプリムローズさんが戻って来た。
 ラウラ姫がお風呂に入れず、残念そうだった。

「む。やはり『衛生魔法』は味気がない――あっ!」

 俺と目が合うと、真っ赤になってプリムローズさんの後ろに隠れた。
 ちっちゃいので、すっぽり隠れてる。

「……(じーっ)」

 そんな目で見ないで、いぢめないから出ておいで。

 てか、俺って姫の『いとびと』なのに。
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