たまたまアルケミスト

門雪半蔵

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057◇獣耳奴隷たち(5)

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 『ケモノ』のたけり狂うビースト・モードのエン○リー・プラグが、俺の初号機に挿入されようとした――その刹那せつな

(★剛腕ごうわんっ☆)

 どこかで、そんな声がした。

「ぎャわン!」

 野良犬が蹴られたような鳴き声を立てて、シャクレオオカミが弾け飛んだ。

(なんだ? 助かったのか?)

 そう思って、力が抜けた次の瞬間だった。


    ブスリ。


 俺の初号機が、何者かによって侵食された。

(……うそん)

 赤く……視界が赤く染まる。

 ズキンズキン……という痛みが、心臓の鼓動にシンクロ率100%だ。

 ――気が遠く……な……る。

「ジンさん、ゴメンなさ――――い! 大丈夫でした……か?」

 シンシアさんが見たのは、自分が放った矢を、ミラクルな部位でミラクルに受け止めたミラクルな俺の姿だったらしい。

      ◇

 ――そして。

(ちっぱいだ)

 目を開けると、ちっぱいがあった。
 それも一人分ではなく、四人分。
 八つのちっぱいが、俺の新たな人生の幕開けを祝福していた?

(なぜに、全部ちっぱい? ひょっとしてアレか? 名前がロリばっかの四大魔法合金の呪いか?)

 しかし、そこで俺は平静を取り戻した。

(――イヤ、これってきっと俺が助けた奴隷の女の子たちだね)

 俺は、奇妙なほど冷静に、状況を分析していた。
 いい加減、このパターンも4回目なのだ。飽きたわ。

 でも、みんな可愛い。
 無事で良かった。『人間大砲』なんて無茶した甲斐があったよ。

 そう言えば、幼女とペアで戦う『ブラック・○レット』でも、ロリ○ンの主人公が「人間大砲」の砲弾になるエピソードがあったな……って、だからホントに俺ロリ○ンじゃないよ?

「おにさ、め、さめ?」
「お助けくだすって、ありがとでごんす」
「おねさん、の黒毛、おにさん、抜いて、倒れた、矢」
「血が苦手でお嫌いだそうで、卒倒してしまわれました」

「……」

 立て続けに色々とメチャクチャな事を言われて、ちょっと困る。

 でも、最後の子だけ、えらい流暢で大人びた口調だな。
 あの、勇敢で気高い少女だろうか?

 ――ところで血?

 俺、出血したのか?
 まさか「*(注・伏せ字です)」からか?

 無敵のバリアー『★不可侵の被膜☆』にも、ひょっとしたらアキレス腱みたいな「弱点あな」があるかもしれないと思った事はあったけど……それが「*」だったのか?

 『★不可侵の被膜☆』が発動しない「*」に、奇跡的なピンポイントでラッキース○ライクというか、「的の真ん中ブル」というか、出血したらしいのでレッド○ルというか。

 見るとかたわらには、俺の『旅人のマントル』を敷き毛布がわりにして、シンシアさんが横たわってた。

 青白い顔で、眉間にしわがよってる。
 美少女にはちょっと相応しくない寝顔だった。なにか悪い夢でも見ているのかもしれない。

 その脇には、白く美しい弓が置いてあった。
 その弓で、この俺を間一髪で助けくれた直後に、この俺の初めてを奪ってくれたらしい。

 でも、『ケモノ』じゃなくて良かった。

 シンシアさんならいいや。
 俺は自分を無理矢理納得させた。矢だけに。

「祈願! ★乾燥っ☆ ★乾燥っ☆ ★乾燥っ☆ ★乾燥っ☆ はふー、疲れた。はい、みんな服乾いたよー! あ、ジンくん気がついた?」

 ミーヨが、子供たちの服を洗って乾かしていたようだ。
 服を渡して、着せながら、他のみんなに呼びかけた。

「みんな、ジンくん、気がついたよ」

 見渡すと、まだ森の中だった。

 みんなは周囲を警戒しながら、俺とシンシアさんと子供たちを守っていてくれたらしい。
 あの茶色いトラ猫は……いないな。あの野郎、どこ行きやがった?

「ジン! 大丈夫か? 場所が場所だったからな、本当に笑……大丈夫か? *は平気か? みんな笑……心配したぞ」

 プリムローズさんことプリマ・ハンナ・ヂ・ロースさんが言った。

「ジン! *は痛まぬか? 私にはシンシアの『癒し手』があったゆえ、初めての時も苦痛は然程さほどでもなかったが、君はどうだ?」

 ……わざわざ、そんなこと訊かないで(泣)。

「そう言えば……俺も痛みはない。……シンシアさんが俺の*を癒してくれた、んじゃないのか?」

 ラウラ姫の言い方からすると、どうも違うような。
 誰かが「*から矢を抜いて、すぐ卒倒した」って言ってたか?

「この子がジンくんの*を治してくれたんだよ」
「この子?」

 ミーヨが肩を抱いて、前に進ませた女の子は、矢張やはりあの時の子だった。

 『ケモノ』に襲われそうになっていた女の子を、身をもって助けようとしていた子だった。
 『奴隷の印』である「蒙古斑」が出るようには思えない、コーカソイド系の少女だった。
 肩で切りそろえた淡い金髪と、明るいライトブラウンの瞳をしている。

「君の名は?」

 セーフだよね、これ?

「わたしは『印』のせいで捨てられ、名前がないんです」

 10歳かそれらの子供、それも捨て子とは思えない。堂々とした立派な態度だった。

「これも何かの縁。お兄様がわたしに名前をつけてくださいませんか?」

 そうか、この子が俺の「*」を治してくれたのか……。

「ヒサヤ・ダイ○クドー……というのはどうだろう?」

「やめとけ、バカモノ!」
 プリムローズさんに怒られた。

「ヒサヤ――いい響きです。それにします。わたし、今日からヒサヤと名乗ります。ありがとうございます、お兄様」

 めっちゃ感動されて、嬉しそうにその子に言われてしまった。

 本当に、それでいいんだろうか?
 確かに音だけなら、なんか涼し気な感じだけど……男の子の名前にありそうだ。

「……ぼそぼそ(なるほど。繁った森の中だけに)」
 プリムローズさんが、何やらぶつぶつ言ってる。また昭和ネタですか?

「イヤ、こちらこそ*を治してくれて、ありがとう。――君は『神聖術法』が使えるの?」
 俺は彼女にお礼を言った。

「『神聖術法』? いいえ。ただ、わたしたちを助けてくださったお兄様をなんとかお助けしたい――と、強く願っていましたら、白い光が右手に宿り……それをお兄様の*に――」

 ヒサヤは、自分でもよく判らないらしく、言葉を途切れさせた。

「私の時と同じです。私も姉を助けたいと必死で祈っていたら、『癒し手』として覚醒しました」
「シンシアさん? もう平気なんですか?」

 見ると、シンシアさんが上体を起こしていた。
 ……まだ顔が青白い。

「ごめんなさい。私のせいで、ジンさんの大事な*を……」
 シンシアさんは申し訳なさそうに言って、頭を下げた。

 ……どうでもいいけど、みんなして「*」とか言うの、もう止めようよ。

「私の方から見て、ちょうど『ケモノ』が弱点をさらしていたので、そこを狙って矢を放ったんです。ジンさんも同じような姿勢だったので、2頭いるのかと勘違いしてしまって、連射してしまいました。それが……あんなことに」

 前髪で表情が隠れてる。
 肩が、小刻みに震えている。

 ――まさかとは思うけど……笑ってませんよね?

「あなた、ヒサヤという名前を貰ったのですね、ジンさんに」

 顔を上げると、なんとなくにこやかだった……血の色が戻ってた。

「はい、名付け親になっていただきました」
「では、ヒサヤ。私達が証人となります。共に『神殿』に行き、『癒し手』として覚醒した事を承認してもらいなさい。そうすればあなたは奴隷の身分から解放されるでしょう。ただし、完全な自由を得られるわけではなく、『神殿』で『巫女見習い』としての修行を積む事になりますが……」

 シンシアさんがそう告げると、ヒサヤは――

「いいえ、わたしだけが奴隷でなくなるというのなら、わたしは行きません」
 気高い態度だった。

「ねー」
「姉さん」
「おね」

 ヒサヤは他の子に慕われているようだ。
 この子だけ、みんなよりちょっとだけ年上みたいだな。
 でも、ヒサヤねえか? あぶない。ギリだな。

「今は我慢してそうしな。近い将来、このお兄さんが『この世界』から『奴隷制度』なんてものをぜんぶ無くしてくれるよ!」
 プリムローズさんが、そんな宣言をした。

 はて?
 このお兄さんって、誰のことだろう?
 この場には、男は俺ひとりしか……。

「……俺!?」

 あっしのことですかい?

「うむ。ジンなら出来る」

 ラウラ姫、それってこの『女王国』の体制をくつがえすって意味もあるんですぜ。

「ジンさん。そんな立派なこころざしが……」

 シンシアさんに熱く潤んだ眼差しを向けられる。凄くいい気分だ。うん。

「ジンくん。わたしの『勇者』さま…………ぼそっ(あそこは『魔王』だけど)」

 ……ミーヨさんや。最後の呟きはナニかね?

 また俺の意にわない方向に追い込まれそうだ。

 みんなして、まるで狩りの「勢子せこ」のようだ。
 俺が『ガル○ン』で一番好きなのは『ヘッツァー(勢子)』だけど……それは今はいいか。

 とにかく、このままだと逃げ場がなくなる。

「ところでドロレスちゃんは? 居ないようだけど」

 俺はなんとか退避路を探る。
 窓でも非常階段でもいい、俺なら飛び降りれるから。

 そこへ、
「とうッ!」

 赤い影がシュタッ! と降り立った。

 すわ、忍者か? ――と思ったらドロレスちゃんだった。

「……(ニカッ☆)」
 赤い頭巾をつけてる。

 イヤ、忍者の頭巾じゃなくて、童話の『赤ずきん』の方だ。
 いくら森の中で狼に襲われたからって、そんなこだわりは――

 そこで、はッとなった。

「……ドロレスちゃんって――『前世の記憶』を持ってるの?」

 でなければ、こんな偶然は……。

「ん? なんのことです?」

 心当たりが無さそうだ。

「この暑いのに、なんでそんな赤い頭巾を……」

 この森の樹々は、例のこんもりとしたブロッコリーみたいなカタチで、葉っぱが楓みたいな樹ばかりなので、日差しを遮られた木陰は、実はかなり涼しいけれども……季節的に。いま夏だし。

「防寒具です」
 ドロレスちゃんはさくっと言う。

「防寒具?」

 ナニソレ? ますますワケが判らない。

「あたし冷気魔法が得意なんですけど、細かい制御が苦手で自爆気味に発動させちゃうんです」
「……そうなんだ」

 てか、知らんがな。

 まあ、童話の通りならドロレスちゃん、狼に丸呑みされないといけないしな。
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