たまたまアルケミスト

門雪半蔵

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049◇工房めぐり(0)

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 ――そして。

(おっぱいだ)

 目を開けると、おっぱいがあった。
 というか、おっぱいに顔を挟まれてた。

 素敵な目覚めだ。

「姫さま、もっと左右に激しく。『びんた』ですから、強めでいいんです」
「む? そうか。こうか?」

 膨らみというよりも、とんがりが鼻に当たる。

「えー、何やってんの、君たち?」
「ジンくんの大好きな『往復ちちびんた』の伝授式」
「うむ。ぜひ覚えたいので、習っている」
「俺、まだ寝てていい?」

「「どうぞどうぞ」」

 寝ようっと。
 たぶん、これ夢だわ。

 だって、ありえないもん。

      ◇

「お目覚めですか? ご主人様」

 メイド服姿のプリムローズさんに、そう言われた。
 あの侍女の制服のような黒いドレスに白い小さなエプロンと頭には白いヘッドドレスを付けているので、メイド姿にしか見えない。

「奥様方はすでにお目覚めで、あちらで身だしなみを整えていらっしゃいます。そのあいだ私がご主人様にご奉仕を――って、誰がやるかっっ!」

 けっこう長目のノリツッコミだった。

 これも夢だな、うん。
 もう一度寝ようっと。

      ◇

「おはようございます。ジンさん。朝からお元気そうで」

 長い黒髪の美少女が俺に言う。

 ああ、やっと夢の世界から帰って来たか。

 ここは日本。

 そしてこの子は……あれ?
 シンシアさんじゃないですか?

 ぜんぜん異世界のままじゃないですか。

 そんで「朝からお元気そう」って、どこ見てナニ言ってるんですか?
 また大人のジョークなんですね?

 ん、もお。また寝ようっと。

      ◇

「ちょうど今上向いてるから……ほら、この右側。ちょっと触ってみて。あ、今明るくするね、祈願。★光球っ☆」

「ああ、確かに右側が丸くて大きいですね。これが『全知神』さまからの贈り物なんですね? そしてこっちが……はッ、私ったら、つい知的好奇心から戒律を破りそうになってしまいました! もう、ジンさんのえっち」

「ふむふむ。たしかにコリコリしてるな。これは『賢者の玉』というよりも『世界の理ことわりつかさ』に関わるモノのはずだが……しかし、何だってこんな処に、よりにもよって……おお、こっちもこんなに固いのか? あッ、わ、私までつい知的好奇心が」

「|(がっちりと握りながら)この下の方をよく見たのは初めてだが、こういうふうにつながっていたのか。ふむ」

 みんなのターンは終わったかな?

 もう色んな意味で起きてるけど(笑)……そろそろ起きるか。

「みんな、おはよう」

「「「「……お、おはよう」」」」

 いい朝だ。

 ……たぶん。

      ◇

 ――といった多段階のボケを経て、ようやく目覚めた我々5人の仲間(……)は、高級宿屋の最高級の一室に現在滞在中だ。

 『破瓜の儀』の詳述は控えるけど――血に弱い『癒し手』が興奮して鼻血を出したり、いざという時に吐き気を催して、歯を食いしばって耐えていたら、唇が切れて血が出たり――といった小さな悲喜劇をのぞいては、つつがなくおごそか(?)にとり行われた。
 あと、終了直後にミーヨが慌てて『おトイレ』に駆け込んだけど……ナニか我慢してたのかな? ちょっと心配だ。

 なお、右目の『光眼コウガン』のカメラ機能は封印している。これはあくまでもラッキースケベ専用なのだ――とか偉そうに言うことじゃないけど……。

 そんで『破瓜の儀』によって爆誕した激レアアイテム『処女おとめの印|(のついたシーツ)』は、王宮に永久保存される事になるらしい。
 ナニソレ? ちょっと理解できない感性だ。でも『地球』でも、歴史的人物のそーゆーのが残ってるケースがあるらしいよ。誰のかまでは知らないけれども、プリムローズさんが言ってたよ。

 で、俺がラウラ姫に危害を加えるつもりではないか? と睨んでいた第二侍女と第五侍女が、それを王宮に届ける急使として『王都』に一足早く帰還する事になった。

 どうも、第二侍女は長いあいだ『王都』から離れていた事が不満だったらしくて、プリムローズさんの指示に喜色満面だったそうだ。
 なんとなく信用出来ない人物なので、遠ざけた方が安全と言う判断かもしれない。

 まあ、俺ってラウラ姫の『いとびと』になっちゃったので、あの二人にもまた会う事になるだろう。

      ◇

「うむ。今日こそ、剣の柄を作りに行かなくてはな」

 すでにシンシアさんの『神聖術法』による癒しにより、男の子には分からない痛みは退《ひ》いているらしく、朝からラウラ姫は快調のようだった。

「ジンくん。スウさんのお兄さんたち昨日の午後に戻って来たんだって。だから、入れ違いみたいになるけど、わたしたち出て行かなきゃならなくなったみたい」

 ミーヨが……いつもと変わらないな。
 ミーヨが簡単にラウラ姫とのことを許したのは、何故だろう? ミーヨが拒めば、俺もきちんと線引き……というか自制したと思うし、みんなに見られて、激しく燃えたりしなかったのに(おい)。

「……」
「ん?」

 じっと見つめていたら、明るい緑色の宝石のような瞳で見つめ返された。
 濁りのない澄んだ目だった。嫉妬とか怒りとかいう感情がない。

「……ジンくん?」

 言おう。きちんと――

「ミーヨ。俺は」

「あー、ちょっといいかな? そろそろ宿を出ないと、追加料金が発生するそうだ。急いでくれ」

 プリちゃんのばかっっ!

 ……と思ったけど、5人分の宿泊費『太陽金貨ソル』5枚|(……ひゃくまんえんだ)は、『王都』というか王宮に請求してもらうように取り計らってくれたらしい。

      ◇

「昨晩はお楽しみでしたね」
「どこの宿屋だよ!」

 まあ、ここは高級宿屋だけれども。それ、モトネタは『ド○クエ』だろ?
 なんで、この受付の人知ってんだろ?

「「「「またのお越しを!」」」」

 だから従業員一同の挨拶はいいですってば。

      ◇

「では、のちほど広場で」
「むぅ」

 ラウラ姫は、名残惜しそうだった。
 すぐ後に会うんだけどな。

 俺たちは二手に別れ、俺とミーヨがスウさんの工房に挨拶と荷物を取りに行き、ラウラ姫とプリムローズさんとシンシアさんは滞在先の『全能神神殿』にいったん戻って昨夜の事を報告するそうだ。

 ……って誰に何を報告する気だ?

「私のことです。『巫女見習い』なのに男性の居る部屋で一泊しちゃいましたから。その理由を」

 黒髪の美少女シンシアさんは『巫女見習い』なので、現在絶賛「恋愛禁止」中なのだそうだ。
 アイドルやん、まるで。

「シンシアさん。昨夜は……」
「あ、私にはお気遣いなく。父や叔父があけっぴろげな人でしたので、見慣れているといえば、見慣れてますし」

 にこやかにそう言われた。

「……はあ?」

 それはそれでショックだ。

「それでは、ごきげんよう」
 シンシアさんは『神殿』に戻っていった。

      ◇

「「…………」」

 ミーヨと二人きりだと、ちょっとぎこちなくなる。

 俺が気にしている気配が伝わったのか、

「ジンくんは何も悪い事してないよ。わたしと姫様との間で、話はついてるから」

 なにやら、ちょっと恐ろしい事を言われた。

「……それに、わたし……だし」

 聞こえなかった。
 何て言ったんだろう?

「ミーヨ?」
「それでね。そういう場合は……」

 歩きながら、ミーヨから『この世界』というか俺たちが住んでいる『女王国』での恋愛観や結婚観について説明された。

 『女王国』では、代々「家」を継ぐのは女性で、いわゆる「母系社会」らしい。

 それで、家長となる「長女」が、次代の家長の父親となる相手を、自由に恋愛して選択出来るらしい。
 『地球』でよくある無理強いの政略結婚とかが無くて、女性が好きな相手をパートナーに選んで、子供を作れるらしい。

 でも、それだけだと「お姉ちゃんばっかりズルい」という事になるで、次女以下にも、自由に恋愛する権利が認められるようになっていったらしい。

 別に悪い事じゃない、と俺も思う。
 繁殖相手を大勢のオスの中からメスが選択するのは自然界ではよくある事だし、優れた遺伝子を獲たいと思うのは生き物の本能だろうから。

 といっても、モテる男はどこでも同じようにモテるらしく、複数の女性と付き合うらしいけど、その場合のもろもろの問題を、当の女性同士が話し合いで決定するらしい。

 ミーヨの言った「わたしと姫様との間で、話はついてるから」というのは、そう言う事で、つまり俺がミーヨとラウラ姫に二股かけてるように見えて、実は俺の方が二人に「シェア」されているらしいのだ。

 俺の方が、立場的に弱いような気がする。
 ミーヨの弱点は耳と立ちバ……イヤ、それは今はいいか。

 で、『巫女』あるいは『巫女見習い』のような特殊な人たちをのぞいて、16歳で「成人」と認められた後は、特定の相手を選ばずに、『自由な恋愛』を楽しむのが普通らしい。

 『自由な恋愛』の対極に『結婚』があって、いったん『正式な結婚』をすると、今度は逆に「浮気」はまったく許されなくなるらしい。
 『結婚』には、財産や相続がらみの「いろいろ」があるらしいけど、ミーヨはよく知らないらしく、細かい事はあっさりとスルーした。

 そして、遅くまで独身のまま『自由な恋愛』を楽しもうとすると、そういった人には良い結婚相手が見つからず、「不幸な老後」を送ることになるそうな……。

 また逆に、多数の愛人を抱えたい場合には、あえて独身のまま生涯通して結婚しないらしい。

 で、恐ろしいことに、この『女王国』の女王様や王女様たち(※ラウラ姫の母親と二人の姉君だ)が、そのパターンらしい。

「女王様……ね」

 なんとなく、黒いボンテージを着た「SMの女王様」を思い浮かべてしまう。

 で、何か言いかけていた事は、それっきり聞けなかった。
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