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020◇冶金の丘(3)
しおりを挟む「……いや、我々はあくまでも貨幣の両替が仕事でね。地金の買い取りはしていないのだが……それにしても、何だ、このカタチは?」
ふと我に返ると、そんな声が聞こえた。
俺がうだうだ考えている間に、ミーヨが黄金ウ○コを鷲掴みにして窓口に持って行っていたようだ。勇者のような行動力だ。
「純金の……置き物なのか? 見たことがあるような、無いような」
鑑定士が呻いてる。
ソレのカタチは、先端が丸くて、後ろの方が尖っている。
細長い涙滴状で、ところどころデコボコしている。
うん、これってウ○コに似ている――って当然か。
「出来ないんですか? 換金」
ミーヨが頑張ってるけど、無理そうだ。
「この街には『冶金組合』がある。我々はその領分を冒すようなことは出来ない、どうしてもお金に換えたければ『冶金組合』に持ち込むしかないだろうね」
「『冶金組合』ですか? それはどこにあるんですか?」
「『丘』だよ。丘全体がそうだ。しかし……出所を訊かれるだろうね。奇妙なカタチをしているし」
「はあ」
「で、どうするね? 両替する金貨が無いのであれば、もうお引き取り願いたいが」
鑑定士が俺たちを見る。
「おじさま、ちょっと隅をお借りしますね」
ミーヨは俺の手を引いて、店の端っこに連れ出した。
さっきの逆パターンだ。
「ジンくん。実は一枚だけ金貨が残ってるの」
ミーヨが俺に耳打ちする。
「え? ぜんぶ消えたんじゃないのか?」
「実はね、万が一のことを考えて、一枚だけ肌身離さず隠してたの」
――つまり、他の人が身に着けているものは『錬成』の材料には使われないってことか。
ふむ、いい情報だ。ミーヨ君。
「でね、パンツの中にあるんだけど……それ両替しようか?」
ミーヨが恥ずかしそうに、秘密を打ち明けた。
(パパパパパパパンツの中だとぉ!?)
「待て、ミーヨ。お願いだからそれは手放さないでくれ!」
「ああ、そうだよね。何かあったら困るもんね。蓄えは」
「イヤ、違う。俺の宝物にするから、俺にくれ!」
俺はミーヨの言葉を遮って言った。
「…………うん、あとでね」
ミーヨのペリドットの瞳には、輝きがなかった(笑)。
◇
俺は唐突に、まるでとってつけたかのように大事なことを思い出した。
「あ、そうだ。俺も一枚持ってたわ!」
前にミーヨに神様の絵姿を見せようとして、『金貨袋』から取り出して、なんとなくそのまま持っていたやつだ。
俺たちは窓口に戻って、『太陽金貨』一枚を差し出された黒い板のトレイの上に置いた。
実はニセモノでした――というオチはなく、きちんと鑑定されて両替してもらえた。
両替の手数料は約一割だった。鑑定料も込みらしいけど……けっこう取るのね。
で、俺たちは『明星金貨』3枚と『月面銀貨』4枚と『地球銅貨』16枚を手に入れた。
◇
店から広場に出て、『とんかち』を椅子代わりにして休憩中だ。
「ええと、金貨が銀貨8枚で、その銀貨が銅貨16枚で……つまり最初の『太陽金貨』が銅貨512枚? さらにその下にちっこい銅貨? だ――――っ、誰だこんなの考えたの? 殴ってやりたい!」
「大丈夫、いざとなったら、全部銅貨にしちゃえば――あれ? 両替の手数料で大損する気がする?」
俺たちは頭がこんがらがっていた。
ミーヨのいたボコ村とかいうところは辺境の小さな村で、村の中では物々交換の方が多かったそうで、彼女もなんか不慣れでよく知らない感じだ。
それはそれとして――
『太陽金貨』は『明星金貨』4枚。
『明星金貨』は『月面銀貨』8枚。
『月面銀貨』は『地球銅貨』16枚。
『地球銅貨』は『小惑星銅貨』32枚
――という通貨体系なのだ。
そんで、どうも両替レートは固定されてるみたいだ。
イヤ、そもそも「レート」なんて無いらしいけれど。
「だいたい何で、ぜんぶ4の倍数なんだ? 面倒くさい」
十進法でいいやん。
「それは、ほら、神様の指が4本だから?」
ミーヨが前にしてみせたみたいに、薬指を曲げて4本指をワキワキさせる。
「……そこで繋がるのか? 釈然としないなぁ」
異世界に転生した身だから、この世界に慣れるしかないんだろうけど。
『明星金貨』はその名の通り、キラキラした星の刻印だ。八芒星だ。それが両面にある。「明けの明星」と「宵の明星」って事かな? そんで表面に傷が多い。金の含有率が高くて柔らかいのかも? 金貨って噛んだら歯型がつくって言うしな。
ところで『月面銀貨』って何なんだろう?
昔はこの惑星にも月があったのかな?
でもって、空にいつも見えてる白い環『みなみのわっか』は、月のなれの果てなんだろうか?
そしてこの銀貨、丸い「わっか」が描かれてるだけで、ひっくり返してみると、裏はただ真っ黒だ。
硫化銀? 毒じゃないのか? 違ったっけ? 硫黄分で黒くなるんだっけ?
これって、地球の月みたいに「潮汐ロック」で裏側が絶対見えないって意味?
でも、ミーヨに訊いたら、月みたいにデカい衛星は無いらしいんだけどな。
とにかく、コレがいっぱいあったら『オ○●』で遊べそうだ。
頑張って64枚貯めて、後で必ずやったろ(笑)。
『地球銅貨』は、10円玉みたいな銅貨(合金だろうけど)だった。刻印は麦と鳩だ。実に平和的だ。でも『地球』だと、組み合わせはオリーブと鳩じゃなかった? そして裏にはまた八芒星だ。魔法を使うと見える虹色のキラキラ星は五芒星なんだけどな。
『小惑星銅貨』は『地球銅貨』と同じ材質らしいけど、二回りくらい小さい。ちなみにコレは、ミーヨが小銭入れに持ってたヤツだ。指先にちょこんと乗るくらいの大きさだ。
そしてコレには「X」。ローマ数字の「10」じゃないだろうから、ナニコレ?
あ、裏側は「○」だ。コイントス用? 何故に○×?
……とにかく、まだまだ知らないことばっかだ。
「お金も出来たし、ハンナさんのとこに行こっ」
ミーヨが前向きだ。おでこが輝いてる。
「ハンナさんってどこにいんの?」
『卵入り肉団子』+鍋の代金を置いてこなきゃならないのか。
「ハンナさんも『丘』で商売してるって言ってた。ちょうどよかったね、その……アレも売れるし」
「アレって何だ? 分かるように言ってみ」
ちょっといぢわるに言ってみた。
「もお、ジンくんのいぢわる。黄金の、おち○ちんだよ――あ、間違えた!」
「ぶっ」
俺は噴き出した。
「うううっっ」
本気で、素で間違えたらしい。
ミーヨの顔が茹で上がってる。おでこまで真っ赤だ。
「ミーヨのえっち」
「し、しかたないよ。ホントに1.5倍になっちゃったんだから!」
ミーヨはまだ赤い顔で、あらぬことを口走る。
「だから、それもうやめて……いつまで言うの?」
ちょっと恥ずかしいです。
そんな俺たちの、夫婦漫才みたいな様子を見ていた少女がいたことに――この時はまだ、気付かなかった。
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