13 / 80
013◇永遠の道(7)
しおりを挟む「『魔法』って、どこかで習うと上手くなるのか?」
よくある「魔法学校」みたいなのがあるのかな?
「ううん」
ふるふるっ、と首を振るミーヨ。
「『神殿学舎』では『言葉』は習うけど……あとは勝手に独学。だから個人差が出るんだけど……。わたし、『魔法』の力が他の人より弱いらしいから」
「え? なんで?」
「おっぱい」
「おっぱい?」
「おっぱい少なかったから」
「え?」
大きさ?
目覚めてすぐの『往復ちちびんた』で見せてもらったけど、そんな事なかったよ? ぜんぜん大丈夫だよ? てか、俺は「おっぱい博愛主義者」だよ(笑)。大きさは関係無いよ?
「赤ちゃんの頃にね。お母さんから初めて貰うおっぱいに『魔法』の素になる何かが含まれてるんだって。でも、わたしのお母さん、おっぱいが出なくって……」
なーんだ、「おっぱい」って「母乳」のコトか。
それって「初乳」に免疫力を高める力があるとかそう言う話かな?
でもって、俺がこの世界で目覚めてすぐの記憶が「母親からの授乳」だったっけ……。
ただ、アレは状況から考えて「初乳」じゃなかったハズだ。
イヤ、違うか。『魔法』の素って言ったし……この世界の人間の身体の中には、そんなものが入ってるのか?
そしたら、俺たちって厳密に言うと「ヒト」じゃないんじゃね?
それこそ、「成分無調整の牛乳」だと思ってたら「乳飲料」だった……みたいな。
俺がそんな事をぼんやり考えている間にも、ミーヨはミーヨなりに思考して、ひとつの結論に至ったらしい。
「ジンくんの言う『錬金術』が、ウン……ちがくて『体の中にあるもの』しか変えられないのって、『全知神』様の加護となにかぶつかり合うみたいになってて、そうなっちゃうじゃないのかなあ」
そんな推論を提示した。
途中、何か出かけ……イヤ、言いかけたようだけど、俺は突っ込まなかった。
実は●(固体)の『錬成』はまだ試してないから、ホントに出来るかどうか不明なのだ。
「そして、本当なら普通に使えるはずの『魔法』が使えない。でも、ジンくんの場合は、それが内向きに……体内での『錬成』っていうふうにだけ使えるんじゃないのかな?」
「…………」
ミーヨの言う通りなのかもしれない。
『★不可侵の被膜☆』とかいうよくワケのわかんないバリアによって、『魔法』に関係した何かの力が、俺の身体の外に出ないように「干渉」というか「阻止」されてるって事か? なくはないかもしれない。
と言っても、この世界に『魔法』があるらしいというは分かっても、どんな仕組みなのかはさっぱり不明だ。
ミーヨは『世界の理の司』へのお願い――って言ってたけど、『世界の理の司』とか『守護の星』とか……意味分かんないしな。
「ベクトルの違いだけで、働いてる力は同じってことか?」
俺がそう呟くと、
「『べくとる』? わたしにはよく分からない」
ミーヨがちょっと困っている。
でも、「キス」は「キス」で通じてたんだよな。
『地球』の言葉が、断片的に混ざりこんでるみたいな感じだ。
「ジンくんが本気で自分の能力のことが詳しく知りたいんだったら、きちんとしたところで調べてもらうしかないと思う。――ああ、プリちゃんがいればなぁ……」
ミーヨが残念そうに嘆く。
だから、『能力』に「ちから」とかルビふったら、雪ノ下雪○に怒られるってば!
てか、『俺』の知らない名前があったぞ。
……イヤ、2回目だな。聞いたの。
「プリちゃん?」
その人、何者?
「あー……忘れてるんだっけ? わたしたちの幼馴染。魔法の天才で12歳で『王都』に呼ばれて村を出ちゃった子。わたしもいろいろ『魔法』教えてもらってたの。あの子がいればいろいろ聞けたのになぁ」
小さい村っぽかったのに、そんな天才児がいたのか?
でも、現在は遠くにいるんじゃ……頼れないか。
「で、俺みたいなのって珍しいの?」
レアなの? 俺って。
「んー……どうだろ? 『癒し手』って言う人たちがいてね。その人たちは他人の身体の内側に働きかけて、怪我や病気を治したりするんだけど……それは『魔法』じゃなくて『神聖術法』って言うの」
「『癒し手』と『神聖術法』か」
ゲームで言うところの「回復役」だな。
でも、ミーヨを見てる限り、この世界には「レベル」とか「スキル」とか……そんな「ゲームみたいな要素」は、一切無さそうだ。
「うん。でも、『癒し手』の力って自分自身には使えないはずなの。でも、ジンくんは似た感じの力が自分自身に使える。そして、ふつうの『魔法』が使えない――その二つの事柄って……人に知られたらちょっと問題になる気がする」
だとしたら――
「捕まって、実験動物みたいな扱い受ける未来しか見えないんですけど」
そもそも、あの『全知神』に『実験体』って言われてるしな……。
全裸に剥かれて性的に解剖とかか? どうなるんだ、俺?
ちょうど魔法使えないし、『クロス○ンジュ』みたいな展開になるのか? あの空飛ぶバイクみたいな変形ロボ(パラメイル)には、ちょっと乗りたいけれども。
「『じっけんどうぶつ』?」
ミーヨが不思議そうに、きょとんとしてる。
良かった。そういう概念無いんだな。
「あー……でも自由に旅して回るとかは出来なくなりそう。『伝説のデカい樹』に行けなくなるんじゃ、村を飛び出した意味がなくなるもんね」
「だろ? ほかの人たちにはある程度隠さないと」
「ふたりの秘密ってやつだね」
ミーヨはちょっと嬉しそうだ。
「俺、ミーヨの秘密なんにも知らないけどな」
「じゃあ、わたしの秘密も教えてあげる。わたしの初恋の相手は――ジンくん。初めてのキスの相手も――ジンくん。初めてのえ、えっちの相手も――ジンくん」
三冠王か。MVP間違いなしだな。ヤッたな、俺(笑)。
――でも、残念ながら、その「ジンくん」は『俺』じゃないので、微妙な罪悪感とNTR気分を味わう。
「……」
深緑の宝石「ペリドット」のような瞳で、じーっと見つめられて、なんか照れくさくなってきた。なので、別な話をしようっと。
「なあ、ミーヨ。俺が起きたらすぐ隣にいたけど……どうやって見つけたんだ?」
気になっていた事を、ミーヨに訊いてみた。
「ん? 『魔法』だよ。迷子探しの」
あっさりと、そう言われた。
なるほどね。
俺って異世界で迷い子だったもんな。
「迷子じゃなくても、仲のいい知り合いとかなら探せるよ。握ったことあるなら」
「握る? どこを? ……ああ、そっかー、俺、麦畑の中で目覚めてすぐに、お前に握られたもんな」
思い当たりましたよ。
「ん? 握るって……『手』だよ」
「……ち○こじゃないのか!」
俺は思わず叫んだ。
「「…………」」
ち○……イヤ、沈黙の後で、
「と、ところで、ジンくん。その『錬成』って本当に何でも出来るの?」
ミーヨは雰囲気を切り替えて、俺にそんな事を訊いて来た。
「え? ああ、そう言えば……ちゃんと試してないけど、多分」
――この体にもう違和感なくなってるけど、もともとジンくんのだし、どういうペースで排●(固体)してたかまで知らんし。
「わたし、欲しいものがあるんだけど……」
ミーヨがちょっと上目遣いで、おねだりしてくる。
ちょっとドキドキする。
「な、なにかな? ただ断っておくけど、その元は俺のウ○コだぞ」
つい馬鹿正直に言っちゃいました。
「……」
無言だ。
聞こえてたけど気にしてないのか? 聞こえてなかったのかな?
はっきりしたリアクションが欲しいところだ。
「……もし出来るんなら、赤い石が欲しいの」
ミーヨは少し考え込みながら、そう言った。
「赤い石? 『宝石』かなんかか?」
とすると、なんだろう?
ルビーとかガーネットか?
「子供の頃ちらっと見たきりだから……よく憶えてないけど、卵くらいの大きな赤い石。うちの家宝みたいなのが、なんかのはずみで失くなっちゃったって聞いてるから」
ミーヨが記憶を探るように言う。
「うーん。見本があれば……同じようなの、錬成れると思うけど」
それにしても、卵大か……俺が知ってるニワトリとかウズラの「卵」くらいの大きさかな?
ニワトリの方なら……出すのタイヘンそうだな。
「見本? 同じ種類の石ってこと?」
この子に、どれくらい『宝石』についての知識があるんだろう?
俺はアニメ『宝石○国』が好きだったから、一時期いろいろとネットで調べてた事があるので「知識だけ」はある。
……実物を見たり、触ったりはした事ないけれども。
「うん、それを特定出来たらな」
「そっかー、じゃあ、また今度だね」
言うと、すんなり聞き入れてくれた。
「あ、でもどんなカタチになってもいいよな?」
「カタチ?」
ミーヨが訊き返してくる。
「たとえば、はっきりとウ○コの形でも」
「……それはヤダ」
ですよね。
「あ、ちょっとゴメンね。……そんな話してたら、わたし」
ミーヨは、少し恥ずかしそうに『永遠の道』の外側に広がる草っ原の中に入って行った。
ああ、トイレか……。
「……」
紳士な俺は、黙って見送った。
しばらくして――
「は、早く行こう! い、急がないと」
ミーヨが麦畑から飛び出して来て、俺をせっつく。
「な、なに? どうしたんだ?」
「早く!」
めっちゃ慌ててる。
「なんで、そんな急いでんの?」
急いで捕獲したゴロゴロダンゴムシを装着した『とんかち』に乗り込んでから、訊いてみる。
「だって、早く逃げないと、ダイオウフンコロガシが飛んでくるから」
ナニソレ? そんな生物いるんだ?
てか、「大」だったんですね?
◇
とりあえず、旅の相棒(※いまのところ)に隠すような秘密が無くなって、とても気が楽になった。
◆
秘密の共有は、互いにとって諸刃の剣。
0
お気に入りに追加
60
あなたにおすすめの小説
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
もう死んでしまった私へ
ツカノ
恋愛
私には前世の記憶がある。
幼い頃に母と死別すれば最愛の妻が短命になった原因だとして父から厭われ、婚約者には初対面から冷遇された挙げ句に彼の最愛の聖女を虐げたと断罪されて塵のように捨てられてしまった彼女の悲しい記憶。それなのに、今世の世界で聖女も元婚約者も存在が煙のように消えているのは、何故なのでしょうか?
今世で幸せに暮らしているのに、聖女のそっくりさんや謎の婚約者候補が現れて大変です!!
ゆるゆる設定です。
夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました
氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。
ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。
小説家になろう様にも掲載中です
アルバートの屈辱
プラネットプラント
恋愛
妻の姉に恋をして妻を蔑ろにするアルバートとそんな夫を愛するのを諦めてしまった妻の話。
『詰んでる不憫系悪役令嬢はチャラ男騎士として生活しています』の10年ほど前の話ですが、ほぼ無関係なので単体で読めます。
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
旦那の真実の愛の相手がやってきた。今まで邪魔をしてしまっていた妻はお祝いにリボンもおつけします
暖夢 由
恋愛
「キュリール様、私カダール様と心から愛し合っておりますの。
いつ子を身ごもってもおかしくはありません。いえ、お腹には既に育っているかもしれません。
子を身ごもってからでは遅いのです。
あんな素晴らしい男性、キュリール様が手放せないのも頷けますが、カダール様のことを想うならどうか潔く身を引いてカダール様の幸せを願ってあげてください」
伯爵家にいきなりやってきた女(ナリッタ)はそういった。
女は小説を読むかのように旦那とのなれそめから今までの話を話した。
妻であるキュリールは彼女の存在を今日まで知らなかった。
だから恥じた。
「こんなにもあの人のことを愛してくださる方がいるのにそれを阻んでいたなんて私はなんて野暮なのかしら。
本当に恥ずかしい…
私は潔く身を引くことにしますわ………」
そう言って女がサインした書類を神殿にもっていくことにする。
「私もあなたたちの真実の愛の前には敵いそうもないもの。
私は急ぎ神殿にこの書類を持っていくわ。
手続きが終わり次第、あの人にあなたの元へ向かうように伝えるわ。
そうだわ、私からお祝いとしていくつか宝石をプレゼントさせて頂きたいの。リボンもお付けしていいかしら。可愛らしいあなたととてもよく合うと思うの」
こうして一つの夫婦の姿が形を変えていく。
---------------------------------------------
※架空のお話です。
※設定が甘い部分があるかと思います。「仕方ないなぁ」とお赦しくださいませ。
※現実世界とは異なりますのでご理解ください。
冷たかった夫が別人のように豹変した
京佳
恋愛
常に無表情で表情を崩さない事で有名な公爵子息ジョゼフと政略結婚で結ばれた妻ケイティ。義務的に初夜を終わらせたジョゼフはその後ケイティに触れる事は無くなった。自分に無関心なジョゼフとの結婚生活に寂しさと不満を感じながらも簡単に離縁出来ないしがらみにケイティは全てを諦めていた。そんなある時、公爵家の裏庭に弱った雄猫が迷い込みケイティはその猫を保護して飼うことにした。
ざまぁ。ゆるゆる設定
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる