たまたまアルケミスト

門雪半蔵

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013◇永遠の道(7)

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「『魔法』って、どこかで習うと上手くなるのか?」

 よくある「魔法学校」みたいなのがあるのかな?

「ううん」
 ふるふるっ、と首を振るミーヨ。

「『神殿学舎』では『言葉』は習うけど……あとは勝手に独学。だから個人差が出るんだけど……。わたし、『魔法』の力が他の人より弱いらしいから」

「え? なんで?」
「おっぱい」
「おっぱい?」
「おっぱい少なかったから」

「え?」
 大きさ?
 目覚めてすぐの『往復ちちびんた』で見せてもらったけど、そんな事なかったよ? ぜんぜん大丈夫だよ? てか、俺は「おっぱい博愛主義者」だよ(笑)。大きさは関係無いよ?

「赤ちゃんの頃にね。お母さんから初めて貰うおっぱいに『魔法』のもとになる何かが含まれてるんだって。でも、わたしのお母さん、おっぱいが出なくって……」

 なーんだ、「おっぱい」って「母乳」のコトか。

 それって「初乳」に免疫力を高める力があるとかそう言う話かな?
 でもって、俺がこの世界で目覚めてすぐの記憶が「母親からの授乳」だったっけ……。

 ただ、アレは状況から考えて「初乳」じゃなかったハズだ。

 イヤ、違うか。『魔法』の素って言ったし……この世界の人間の身体の中には、そんなものが入ってるのか?

 そしたら、俺たちって厳密に言うと「ヒト」じゃないんじゃね?
 それこそ、「成分無調整の牛乳」だと思ってたら「乳飲料」だった……みたいな。

 俺がそんな事をぼんやり考えている間にも、ミーヨはミーヨなりに思考して、ひとつの結論に至ったらしい。

「ジンくんの言う『錬金術』が、ウン……ちがくて『体の中にあるもの』しか変えられないのって、『全知神』様の加護となにかぶつかり合うみたいになってて、そうなっちゃうじゃないのかなあ」

 そんな推論を提示した。
 途中、何か出かけ……イヤ、言いかけたようだけど、俺は突っ込まなかった。
 実は●(固体)の『錬成』はまだ試してないから、ホントに出来るかどうか不明なのだ。

「そして、本当なら普通に使えるはずの『魔法』が使えない。でも、ジンくんの場合は、それが内向きに……体内での『錬成』っていうふうにだけ使えるんじゃないのかな?」

「…………」

 ミーヨの言う通りなのかもしれない。

 『★不可侵の被膜☆』とかいうよくワケのわかんないバリアによって、『魔法』に関係した何かの力が、俺の身体の外に出ないように「干渉」というか「阻止」されてるって事か? なくはないかもしれない。

 と言っても、この世界に『魔法』があるらしいというは分かっても、どんな仕組みなのかはさっぱり不明だ。
 ミーヨは『世界の理の司』へのお願い――って言ってたけど、『世界の理の司』とか『守護の星』とか……意味分かんないしな。

「ベクトルの違いだけで、働いてる力は同じってことか?」
 俺がそう呟くと、
「『べくとる』? わたしにはよく分からない」
 ミーヨがちょっと困っている。

 でも、「キス」は「キス」で通じてたんだよな。
 『地球』の言葉が、断片的に混ざりこんでるみたいな感じだ。

「ジンくんが本気で自分の能力ちからのことが詳しく知りたいんだったら、きちんとしたところで調べてもらうしかないと思う。――ああ、プリちゃんがいればなぁ……」

 ミーヨが残念そうに嘆く。
 だから、『能力』に「ちから」とかルビふったら、雪ノ下雪○に怒られるってば!

 てか、『俺』の知らない名前があったぞ。
 ……イヤ、2回目だな。聞いたの。

「プリちゃん?」

 その人、何者?

「あー……忘れてるんだっけ? わたしたちの幼馴染。魔法の天才で12歳で『王都』に呼ばれて村を出ちゃった子。わたしもいろいろ『魔法』教えてもらってたの。あの子がいればいろいろ聞けたのになぁ」

 小さい村っぽかったのに、そんな天才児がいたのか?
 でも、現在は遠くにいるんじゃ……頼れないか。

「で、俺みたいなのって珍しいの?」

 レアなの? 俺って。

「んー……どうだろ? 『癒し手』って言う人たちがいてね。その人たちは他人の身体の内側に働きかけて、怪我や病気を治したりするんだけど……それは『魔法』じゃなくて『神聖術法』って言うの」

「『癒し手』と『神聖術法』か」

 ゲームで言うところの「回復役」だな。

 でも、ミーヨを見てる限り、この世界には「レベル」とか「スキル」とか……そんな「ゲームみたいな要素」は、一切無さそうだ。

「うん。でも、『癒し手』の力って自分自身には使えないはずなの。でも、ジンくんは似た感じの力が自分自身に使える。そして、ふつうの『魔法』が使えない――その二つの事柄って……人に知られたらちょっと問題になる気がする」

 だとしたら――

「捕まって、実験動物みたいな扱い受ける未来しか見えないんですけど」

 そもそも、あの『全知神』に『実験体』って言われてるしな……。

 全裸に剥かれて性的に解剖とかか? どうなるんだ、俺?
 ちょうど魔法使えないし、『クロス○ンジュ』みたいな展開になるのか? あの空飛ぶバイクみたいな変形ロボ(パラメイル)には、ちょっと乗りたいけれども。

「『じっけんどうぶつ』?」
 ミーヨが不思議そうに、きょとんとしてる。

 良かった。そういう概念無いんだな。

「あー……でも自由に旅して回るとかは出来なくなりそう。『伝説のデカい樹』に行けなくなるんじゃ、村を飛び出した意味がなくなるもんね」
「だろ? ほかの人たちにはある程度隠さないと」

「ふたりの秘密ってやつだね」
 ミーヨはちょっと嬉しそうだ。

「俺、ミーヨの秘密なんにも知らないけどな」
「じゃあ、わたしの秘密も教えてあげる。わたしの初恋の相手は――ジンくん。初めてのキスの相手も――ジンくん。初めてのえ、えっちの相手も――ジンくん」

 三冠王か。MVP間違いなしだな。ヤッたな、俺(笑)。

 ――でも、残念ながら、その「ジンくん」は『俺』じゃないので、微妙な罪悪感とNTR気分を味わう。

「……」

 深緑の宝石「ペリドット」のような瞳で、じーっと見つめられて、なんか照れくさくなってきた。なので、別な話をしようっと。

「なあ、ミーヨ。俺が起きたらすぐ隣にいたけど……どうやって見つけたんだ?」
 気になっていた事を、ミーヨに訊いてみた。

「ん? 『魔法』だよ。迷子探しの」

 あっさりと、そう言われた。

 なるほどね。
 俺って異世界で迷い子だったもんな。

「迷子じゃなくても、仲のいい知り合いとかなら探せるよ。握ったことあるなら」
「握る? どこを? ……ああ、そっかー、俺、麦畑の中で目覚めてすぐに、お前に握られたもんな」

 思い当たりましたよ。

「ん? 握るって……『手』だよ」
「……ち○こじゃないのか!」
 俺は思わず叫んだ。

「「…………」」

 ち○……イヤ、沈黙の後で、
「と、ところで、ジンくん。その『錬成』って本当に何でも出来るの?」
 ミーヨは雰囲気を切り替えて、俺にそんな事を訊いて来た。

「え? ああ、そう言えば……ちゃんと試してないけど、多分」

 ――この体にもう違和感なくなってるけど、もともとジンくんのだし、どういうペースで排●(固体)してたかまで知らんし。

「わたし、欲しいものがあるんだけど……」

 ミーヨがちょっと上目遣いで、おねだりしてくる。
 ちょっとドキドキする。

「な、なにかな? ただ断っておくけど、その元は俺のウ○コだぞ」
 つい馬鹿正直に言っちゃいました。

「……」
 無言だ。

 聞こえてたけど気にしてないのか? 聞こえてなかったのかな?
 はっきりしたリアクションが欲しいところだ。

「……もし出来るんなら、赤い石が欲しいの」
 ミーヨは少し考え込みながら、そう言った。
 
「赤い石? 『宝石』かなんかか?」

 とすると、なんだろう?
 ルビーとかガーネットか?

「子供の頃ちらっと見たきりだから……よく憶えてないけど、卵くらいの大きな赤い石。うちの家宝みたいなのが、なんかのはずみで失くなっちゃったって聞いてるから」
 ミーヨが記憶を探るように言う。

「うーん。見本があれば……同じようなの、錬成つくれると思うけど」

 それにしても、卵大か……俺が知ってるニワトリとかウズラの「卵」くらいの大きさかな?
 ニワトリの方なら……出すのタイヘンそうだな。

「見本? 同じ種類の石ってこと?」

 この子に、どれくらい『宝石』についての知識があるんだろう?
 俺はアニメ『宝石○国』が好きだったから、一時期いろいろとネットで調べてた事があるので「知識だけ」はある。

 ……実物を見たり、触ったりはした事ないけれども。

「うん、それを特定出来たらな」
「そっかー、じゃあ、また今度だね」
 言うと、すんなり聞き入れてくれた。

「あ、でもどんなカタチになってもいいよな?」
「カタチ?」
 ミーヨが訊き返してくる。

「たとえば、はっきりとウ○コの形でも」
「……それはヤダ」

 ですよね。

「あ、ちょっとゴメンね。……そんな話してたら、わたし」

 ミーヨは、少し恥ずかしそうに『永遠の道』の外側に広がる草っ原の中に入って行った。

 ああ、トイレか……。

「……」
 紳士な俺は、黙って見送った。

 しばらくして――

「は、早く行こう! い、急がないと」
 ミーヨが麦畑から飛び出して来て、俺をせっつく。

「な、なに? どうしたんだ?」
「早く!」
 めっちゃ慌ててる。

「なんで、そんな急いでんの?」

 急いで捕獲したゴロゴロダンゴムシを装着した『とんかち』に乗り込んでから、訊いてみる。

「だって、早く逃げないと、ダイオウフンコロガシが飛んでくるから」

 ナニソレ? そんな生物いるんだ?

 てか、「大」だったんですね?

      ◇

 とりあえず、旅の相棒(※いまのところ)に隠すような秘密が無くなって、とても気が楽になった。

      ◆

 秘密の共有は、互いにとって諸刃の剣。
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