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007◇永遠の道(1)
しおりを挟む「……もうヤだ」
その道のあまりの規模・長大さに、俺の心は折れた。
そこの上に居るのもイヤになって、脇の草地に戻って、膝から崩れ落ちて、地面に手をついた。
今の俺を横から見たら、見事なまでにorzだろう。
「…………」
カッコつけて飛び出して来たのに――なんというザマでしょう。
何を根拠に一人でもなんとかなる、と思ってたんだろう。
アホもいいことだ。
……あ、思い出した。
俺に埋め込まれたのが本当に『賢者の石』だとしたら、それでなんでも錬成れるじゃん――と簡単に考えてたんだわ。
じゃ、やってみるか。
「錬成。食い物」
うん、ちょっと恥ずかしい。
し――ん。
出ないよ?
俺、あのアニメ、ちゃんと観てないから、よく知らないんだけど……えーっと、たしか等価交換とかで、なんか代償とかいる感じ? それとも、やり方かな? たしか、こう両手を叩くんじゃなかっけ?
「錬成。食い物」
ポン!
し――ん。
出ないよ? 食い物。
死んじゃうよ?
◇
……結局、その後、何度試しても上手くいかず、ついにあたりが夕焼けに包まれた。
「うう……えぐっ、えぐっ……ひくっ」
俺は今、目に汗が入っている。
「うぐっ、ひくっ……うええっ」
見知らぬ異世界に生まれ変わって、思い出さなきゃいいのに『前世の記憶』を取り戻してしまって、その最初の夜が、コレか……。
そしてよくよく考えたら、俺の金○袋にインプラントされたアレの事を、『全知神』とか言う女神様は『賢者の石』じゃなくて『賢者の玉』って呼んでだっけ……なんなんだよ、ソレ。知らねーよ。トリセツくらい置いてけよ。
前世じゃ、マニュアルもチュートリアルも、華麗にスルーしてたけれども。
「うぐっ、うええーん」
日は完全に沈み、世界は完全な暗闇に包まれた。
……イヤ、そうでもないか。
白くて広大な『永遠の道』があるせいだろう。
星明りを反射してるらしくて「雪明かり」みたいに、ぼんやりと明るい。
地平線を見渡して、人工的な光を探したけど……何も無いなあ。
って、そう言えば――右目の『光眼』!
これが本当に光るんだったら、『賢者の玉(仮)』とやらも本物ってコトの証明になるんじゃ……。
「光れ、我が『光眼』よ! 闇を打ち払うのだ!!」
右目の前で、横ピースをキメながら、俺は叫んだ。
いろいろあって……ちょっと病みかけてるな。『リ○ロ』のヤバい司教様も同じポーズとってたな。
あれ? 点かない。
(ほら、光れよ)
カッ!!
……ホントに、光った。
「うあ。眩しッ」
左目が潰れそうなほどの光量だった。
本当に光ったとしても、せいぜい懐中電灯くらいかな――と思ってたら、強力な投光器なみの明るさだった。
自動車のハイビームみたいに、あの白い道を白く照らしてる。
消えろ――と念じると、消えた。
目に光の残像が残ってる。
「やべ、ホンモノだった。……俺、目からビーム出しちゃったよ」
ちょっと呆然とする。
ま、お尻からビーム出す人もいるけど……ってアニメの話だ。それは。
気を取り直して、いろいろ試してみると、光の強・弱や、収束・拡散が自分の「思ったとおり」に出来るようだった。
……と言うか、「声に出す」と失敗する。
頭の中で「念じる」と成功する。
光ってる間は、当然右目でモノは視れない。「発光」と「受光」の切り替えが必要だった。
ただし、今のところ判明した機能は完全に「照明器具」としてのそれなので、腹の足しにもならない。
でもまてよ。光眼を弱めに点けっぱなしにしとけば、そのうち走光性の虫とか寄ってくるんじゃ……。
「て、俺は自販機に貼り付いてるカエルかッ!?」
虫喰うのはイヤですう。
「……もう寝よ」
視界の隅に見えていた大き目の木の下に向かう。
見知らぬ世界でいきなり野宿とか……めっちゃ不安なので「寄らば大樹」だ。
幹が太くて真っすぐで、その上にこんもりとした丸い樹冠がある。
花澤……イヤ、花野菜のカリフラワーみたいな木だった。
あ、違うな。昼間明るい時に遠目で見た時には、幹も緑がかってた。
ブロッコリーみたいな木だ。
「……あの女神(?)が言ってた『伝説のデカい樹』ってコレじゃないよな?」
神秘的な感じはしないし、邪悪な瘴気も放ってない。
そもそも、そんな伝説級にデカいとは思えない大きさだし。
何故か幹まで緑色なのは異世界仕様だから、しょうがないとして……ただのフツーの木だな。
木の根元の草むらに寝転んだ。
見上げると、広がった枝と葉っぱに邪魔されて空は見えなかった。
鳴いて、止んで、鳴いて……断続的なリズムの虫の音が、「潮騒」みたいに聞こえる。本当に「虫」なのかは、まだ分かんないけど……。
もう、疲れた。
目を閉じると、今朝初めて会った異世界の恋人……ミーヨの顔が浮かんだ。
(ダマしてでも連れてくればよかった)
つい、そう思った。
◇
夜中に、お○っこがしたくなって目が覚めた。
そこで、地球では見られない星空が広がっているのに気が付いた。
(うわー、すげー)
真っ赤な薔薇だ。
物凄く目立つ赤い薔薇みたいなガス状星雲があったのだ。驚いた。
こんなの「天体写真」でしか見た事がない。
そして、どこかの「棒渦巻銀河」を真上(?)から見たような星の固まりが見えた。
回ってるプロペラを高速度撮影したみたいな感じだ。こんなものが肉眼が見えるなんてあり得ない。よほど近いのか、それともアレがデカいのか……ますます、ここって地球じゃないな、と思えてくる。
星は瞬いて、すごく綺麗だった。
なんかキラキラと虹色に瞬いてる。ふしぎな星空だ。
アレはどこだろう?
昼間うっすらと見えてた空の端から端まであった「白い弧」が……見えない。
……あ、アレだ。あの黒い線。
ぼやぼやっとした白いガス星雲みたいなのが、あちこちにあって、それを横切ったり、切り取るように「黒い線」が見える。全体的には、大きな大きなアーチだ。
昼間とは違って「黒い弧」になって見えてた。でも白い部分もある。
いま俺がいるこの場所は、惑星の自転で「夜側」にあるから……惑星の影が落ちて、暗くなってるのかな?
だとしたら、かなり高度低いんじゃないの? あの「わっか」。
隕石とかになって降って来ないのか?
でも、『月』だって『地球』の「影」で「満ち欠け」してるんだしな……距離までは推定出来そうにない。
ミーヨは『みなみのわっか』って名前で「星の輪」って言ってたから、それを信じるなら、木星や土星にある環みたいに、リング状になってて、この惑星を包んでるはずだ。
見ると、『わっか』の中にチカチカした明るい星が見える。
金星……イヤ、夜中に見えてるんだから、この惑星よりも外の軌道を回ってる星だろうな。火星とか木星みたいな。
地球の夜空とは違って……「天の川銀河」は見えない。
あれって、つまり「太陽系」が「渦巻き銀河」の端っこにあるから見えるはずのもの。
この惑星と言うか「この太陽系」だって、どっかしらの星団の中に存在してるはずだけど……少なくとも端っこの方じゃないのかな? 夜空が明るくて賑やかな感じだ。
「『天の川』って『ミルキーウェイ』って言うんだよな」
つい、声に出た。
細かい話は憶えてないけど『ギリシャ神話』から名付けられたはずだ。「乳の道」だ。
この世界で目覚めてすぐに見た「母親(?)」と、別れてしまった「恋人(?)のミーヨ」のおっぱいを思い出して、めっちゃ淋しくなって後悔した。特に後者(泣)。
そう言えば前世では、飲むとお腹がゴロゴロするので、牛乳はあまり飲まなかったな。
この異世界に、人間以外の哺乳類がいるのかどうかも……まだ分からないけれども。
とにかく腹減ってる。
(ああ、牛乳でもいいから飲みたい)
そう強く思った。
チン!
この音なんだ?
なんか、聞こえたぞ。
どこかで聞き覚えがあるような気がする音だった。
そんなことを思いながら、お○っこをすると――夜目にも分かるほどの真っ白い液体が出てきた。
イヤ、精○じゃないよ? 量がまるで違うし、さらさらしてるし。
「あー、これ牛乳ぽいなあ。……てか、この匂い、あっためた牛乳じゃん!」
……俺は愕然とした。
イヤ、俺の特定部位から出てるんだから、絶対に牛乳ではない。
しかし、限りなくホットミルクに近い液体が出てきている。
「これって…………もしかして、これが『錬成』?」
そんな呟きが漏れる。
なんというか、あまりの衝撃に完全に目が覚めた。
あたりに、ほんのり甘いミルクの匂いが漂っている。
いつの間にか、お○っこも止まっていた。
まだ、残ってる感覚があるので、試してみる。
(錬成。真水)
チン!
この音、錬成成功の音なのか?
てか、コレ、俺が『前世』で使ってた安物の電子レンジの加熱終了の音だ。
これが出来上がりの音なのか?
レンチン術か? 錬金術じゃないのか?
とりあえず、出してみる。
「おお、透明だ。匂いも……ぜんぜんない」
星明りで、キラキラ光ってる。
――ただ、本当に真水かどうか、飲んで確かめる気にはなれない。
俺は、謎の宇宙生物と戦うどっかの騎士(※当時訓練生)じゃないのだ。
てか、自分のだし、飲みたくねーわ!
☆白の? 飲むよ! 当然だろ!!
上野さんの? 田中に任せるよ!
……それはそれとして、えーっと、つまりアレだ。
自分の体内にあるモノなら『錬成』で、別の物に作り替えられるってコトか?
ちょっとお腹に膨張感があるので、もう一度試す。
(錬成。毒ガス)
チン!
怖っ、毒ガス作れるのか? ――って、死ぬわ!
(錬成。花の香り)
チン!
今度は安全だろう――放ってみる。
うん。フローラルなフレグランスだ。
いちど錬成したものも、再錬成が可能か。
ふむふむ。
物質には三態がある。
液体・気体・固体だ(※順不同)。
●(液体)・●(気体)と成功した。
つまり、アレだ。
最後の、●(固体)も錬成可能ということになるけど……今のところ、●(固体)意は無いし、脱●(固体)出来そうにないから、あとで忘れずに試してみよう。
あとは、液体と固体の中間的なコロイド状態もあるだろうけど……人間で言ったらソレって吐●物とか軟●だしな。それは無視しよう。
ただ――それで、食べ物を錬成れたとしても、当然のことながら、そんなもの食いたくない。
心理的な障壁が高すぎる。
ぜんぶ、もともとが排泄物っていうのが、ヒドすぎる。
俺は宇宙船に乗ってるわけでもなければ、雪山で獲物を追ってるわけでもないのだ。
食えるか、そんなもん! と大声で言いたい。
食っていいウ○コなんて無いのだ。俺は不死身じゃないのだ。
でも、ここは異世界のようだし、味噌食べたくなったらどーしよう?
『ゴール○ンカムイ』みたいに「オ○マ美味ー!」とかシャレになんないしな。
イヤ、待てよ。
すると俺って、「ゴールデンオソマ」なら錬成れると言うのか?
……でも、やっぱりシャレになんねー。
……それはそれとして、やっぱりあの女神、ろくでもねーわ。
スゴイことはスゴイけど、いま現在の空腹を満たすという点では、まったくの無駄スキルってことだよ。
あー、腹へった。
ごろん、と「ふて寝」する。
そして何故か風が強くなって来た。
ざわざわざわざわ――と枝葉の擦れる音が凄い。
上空の黒い雲が、かなりの速さで流れていく。
地表の熱まで奪われてくような、すごい肌寒さだ。
俺は、寒いのが嫌いだ。
なので、木の幹の風下になる部分に移動して、猫みたいに丸まって寝た。
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