74 / 74
第3章 亡国の王子を籠絡せよ
12.ノアの居場所(前編)
しおりを挟む翌朝、俺は朝日の差し込むダイニングで、すっかりいつも通りに戻ったユリシーズと朝食を囲んでいた。
ユリシーズが使用人全員に休暇を出したので給仕すらいない。本当に二人きりだ。
今朝のメニューは、誰が見ても焦げすぎのトーストとベーコン。それから形の崩れたオムレツに、ちぎっただけのレタスとカットしただけのトマト。あとは牛乳。
まぁ何と言うかシンプルなメニューだが、これでも俺たちにしてはかなり頑張った。何てったってお互い料理は初めてだったのだから。
「てゆーかお前、料理初めてなのによくあんなこと言えたよな。"朝食もいらない"、なんて。俺、てっきりお前に料理経験があるものかと」
ベーコンを咀嚼しながら、俺はキッチンでの一部始終を思い出す。
ベーコンを焼く際に火が大きくなりすぎて、危うく火事になりかけたことを。――ガラスを割るよりよっぽど大ごとになるところだった。
俺の言葉に、ユリシーズも先ほどのことを思い出したのだろう。「ほんとだね」と苦い顔をして、フォークを持った手を止める。
「思ってたよりずっと難しかった。セシルやグレンたちと野営したし、できると思ったんだけど。もっと使用人(みんな)に感謝しないとな」
「まぁそうだな。実際俺たち、使用人がいなかったら生活立ち行かなくなるからな。料理も掃除も洗濯も全部手作業だし……電気もガスもないもんな。正直不便すぎる」
「……でん……、何?」
「あー……いや、こっちの話」
「?」
当然のことながら、この世界には電気がない。ガスもない。
魔法がある世界ではどうしたって科学文明が発達しづらいのだ。魔法と科学はトレードオフの関係だということだろう。
俺はトマトにフォークを差して口に運び、数回咀嚼してごくんと呑み込む。
今って冬だけどトマトって夏野菜だったよな。温室か? ――などとどうでもいいことを考えながら、ユリシーズに問いかける。
「そう言えばお前、俺を部屋に閉じ込めてる間どうしてたんだ? ほんとにノ……、ンンッ、――あいつを探してたのか?」
――いかん。うっかりノアの名前を出すところだった。
俺は咳払いで誤魔化しながら、ユリシーズの三日間の行動を探る。
すると、ユリシーズはとんでもないことを口にした。
「ああ、ノア・クロウリー? まぁまだはっきりはわかってないけど、居場所の候補ならいくつかわかったよ」――と。
その言葉に、俺は目ん玉が飛び出るほど驚いた。
驚きすぎて、飲みかけていた牛乳を全部吹き出してしまう。
そんな俺に冷ややかな目を向けるユリシーズ。
「君のその、驚くと口の中のものを吹き出すのってクセなの?」
「いや、だって、お前……なんで……」
狼狽える俺を前に、ユリシーズは冷静な顔でポケットチーフを取り出し、汚れたテーブルを拭き始めた。
そしてテーブルがすっかり綺麗になると、今度は二つ折りになった手紙を俺に差し出す。
「何だよ、これ」
中を開くと、そこに書かれていたのは、数名の名前と年齢、外見、居所等。
いったい何の名簿だろうと上から追っていくと、下から二番目に「ノア・クロウリー:推定年齢20~30歳 容貌不明。傭兵七名の殺害容疑」の一文がある。
「――っ!? おい、これって……」
俺が顔を上げると、ユリシーズは俺の手から手紙をスッと奪い去り、黒い笑みを浮かべた。
「言っただろう? 君が答えないなら自分で探すって」
「それは確かに言ったけど、でも、どうやって……」
全く状況を理解できず、俺はただ困惑する。
そんな俺に、ユリシーズは目を細めた。
「昨夜、僕が二番目の兄の話をしたのを覚えてる? その兄は魔法省の法務行政局に務めていてね。犯罪歴のある風魔法師の中で、行方のわからない者を調べてもらうようお願いしておいたんだ」
「魔法……省……?」
「そう。もう少し時間がかかるかと思っていたけど、今朝早く返事が届いてね。このリストによると、顔がわからないのはノア・クロウリー一人だけ。先日のあの男の様子から、人に正体を知られたくないんだろうってことはわかっていたし、多分そうなんだろうなって」
平然と語るユリシーズに、俺は驚くのみ。
「たったそれだけの理由でわかるのか?」――と。
1
お気に入りに追加
176
この作品の感想を投稿する
あなたにおすすめの小説
家族内ランクE~とある乙女ゲー悪役令嬢、市民堕ちで逃亡します~
りう
ファンタジー
「国王から、正式に婚約を破棄する旨の連絡を受けた。
ユーフェミア、お前には二つの選択肢がある。
我が領地の中で、人の通わぬ屋敷にて静かに余生を送るか、我が一族と縁を切り、平民の身に堕ちるか。
――どちらにしろ、恥を晒して生き続けることには変わりないが」
乙女ゲーの悪役令嬢に転生したユーフェミア。
「はい、では平民になります」
虐待に気づかない最低ランクに格付けの家族から、逃げ出します。
乙女ゲームのモブ(雑に強い)の俺、悪役令嬢の恋路を全力でサポートする。惨劇の未来から王国を救うために奔走します!
夏芽空
ファンタジー
魔法学園に通う男子生徒、リヒト・シードランは、とあるきっかけで前世の記憶を取り戻した。
それによって気づいたことがある。
この世界が、前世の自分がプレイしていた乙女ゲーム『マジカルラブ・シンフォニック』の世界であること。
そしてそのゲームにおいて、リヒト・シードランは登場しないキャラクター――つまりはモブであること。
これらの驚きの事実が判明するが、群を抜いてヤバいのがある。
マジカルラブ・シンフォニックの後半、王国民の半分が死亡する、という惨劇イベントが発生してしまうのだ。
それはどのルートを通っても必ず発生してしまう、回避不可能なイベントである。
惨劇の原因となるのは、ゲームの悪役令嬢、リリーナ・イビルロータスの闇堕ち。
恋路が叶わなかった彼女は負の感情に囚われて闇堕ちしてしまい暴走、結果として大量虐殺を引き起こしてしまうのだ。
そんな未来を変える方法は一つ。
リリーナの恋路を叶えて、闇堕ちを防ぐことだ。
彼女の恋を叶えるため、リヒトは全力でサポートすることを決めた。
乙女ゲームの断罪イベントが終わった世界で転生したモブは何を思う
ひなクラゲ
ファンタジー
ここは乙女ゲームの世界
悪役令嬢の断罪イベントも終わり、無事にエンディングを迎えたのだろう…
主人公と王子の幸せそうな笑顔で…
でも転生者であるモブは思う
きっとこのまま幸福なまま終わる筈がないと…
セーブポイント転生 ~寿命が無い石なので千年修行したらレベル上限突破してしまった~
空色蜻蛉
ファンタジー
枢は目覚めるとクリスタルの中で魂だけの状態になっていた。どうやらダンジョンのセーブポイントに転生してしまったらしい。身動きできない状態に悲嘆に暮れた枢だが、やがて開き直ってレベルアップ作業に明け暮れることにした。百年経ち、二百年経ち……やがて国の礎である「聖なるクリスタル」として崇められるまでになる。
もう元の世界に戻れないと腹をくくって自分の国を見守る枢だが、千年経った時、衝撃のどんでん返しが待ち受けていて……。
【お知らせ】6/22 完結しました!
あいつに無理矢理連れてこられた異世界生活
mio
ファンタジー
なんやかんや、無理矢理あいつに異世界へと連れていかれました。
こうなったら仕方ない。とにかく、平和に楽しく暮らしていこう。
なぜ、少女は異世界へと連れてこられたのか。
自分の中に眠る力とは何なのか。
その答えを知った時少女は、ある決断をする。
長い間更新をさぼってしまってすいませんでした!
乙女ゲームに悪役転生な無自覚チートの異世界譚
水魔沙希
ファンタジー
モブに徹していた少年がなくなり、転生したら乙女ゲームの悪役になっていた。しかも、王族に生まれながらも、1歳の頃に誘拐され、王族に恨みを持つ少年に転生してしまったのだ!
そんな運命なんてクソくらえだ!前世ではモブに徹していたんだから、この悪役かなりの高いスペックを持っているから、それを活用して、なんとか生き残って、前世ではできなかった事をやってやるんだ!!
最近よくある乙女ゲームの悪役転生ものの話です。
だんだんチート(無自覚)になっていく主人公の冒険譚です(予定)です。
チートの成長率ってよく分からないです。
初めての投稿で、駄文ですが、どうぞよろしくお願いいたします。
会話文が多いので、本当に状況がうまく伝えられずにすみません!!
あ、ちなみにこんな乙女ゲームないよ!!という感想はご遠慮ください。
あと、戦いの部分は得意ではございません。ご了承ください。
勇者パーティーを追い出された大魔法導士、辺境の地でスローライフを満喫します ~特Aランクの最強魔法使い~
シオヤマ琴@『最強最速』発売中
ファンタジー
クロード・ディスタンスは最強の魔法使い。しかしある日勇者パーティーを追放されてしまう。
勇者パーティーの一員として魔王退治をしてくると大口叩いて故郷を出てきた手前帰ることも出来ない俺は自分のことを誰も知らない辺境の地でひっそりと生きていくことを決めたのだった。
乙女ゲームの悪役令嬢は生れかわる
レラン
恋愛
前世でプレーした。乙女ゲーム内に召喚転生させられた主人公。
すでに危機的状況の悪役令嬢に転生してしまい、ゲームに関わらないようにしていると、まさかのチート発覚!?
私は平穏な暮らしを求めただけだっだのに‥‥ふふふ‥‥‥チートがあるなら最大限活用してやる!!
そう意気込みのやりたい放題の、元悪役令嬢の日常。
⚠︎語彙力崩壊してます⚠︎
⚠︎誤字多発です⚠︎
⚠︎話の内容が薄っぺらです⚠︎
⚠︎ざまぁは、結構後になってしまいます⚠︎
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる