74 / 74
第3章 亡国の王子を籠絡せよ
12.ノアの居場所(前編)
しおりを挟むゲートルームに入って、壁面の表示が変わっているのに気がついた。
一から十までの表示になってる。これは階層を表してるんだな。
一を選んでタップする。
転移時の浮遊感と共に、見慣れた一階層の小部屋に立っている。
ダンジョンの出入り口はすぐ傍だ。
念のために壁に手の平を当てる。すぐに二から十までの数字とGの文字が浮かび、床が青白く光る。うん、チュートリアル通りだ。これでいつでも行き来できる。
ダンジョンの出口には見張り番のおじさんが立ってて、訝しそうに僕を見る。
僕が一人で、何も持ってないのに気がつくと、何とも気の毒そうな顔をした。
ポーターが置き去りにされるのは良くある事なので、それを察したんだ。
「坊主、良く無事だったな」
「うん、何とか逃げられたよ」わざと弱々しい声で答えておく。
僕たちの塒は街を通って流れる川に渡った橋の下。
端切れ板を組み合わせて、何とか雨風を凌げるようにしたオンボロだ。
入り口のぼろ布をかき分けて中に入る。
「ただいまー」
「アッシュ!」一斉に声がかかる。
「パーティーが全滅したって聞いて。もう駄目かと思ってたよお!十日もどうしてたの?」
カティが抱きついてきた。十歳の女の子。痩せてガリガリだ。食べ物がお土産だって言ったら喜ぶだろうな。
でも、十日って?潜って三日、管理者ルームに居たのは一日くらいだったぞ?
一番ありそうなのは、僕が亜空間に入ってゲートに出現するまで、何日か掛かっていたんだと思う。多分、ダンジョンが僕を解析するのに必要な時間だったんだろう。その間の記憶が無いのは、おそらく感覚が遮断されていたんだ。
「うん、囮にされたんだけど、うまく逃げられた。あれ、ターニャはまだ?」
カティを抱き返しながら、周りに聞く。
「ギルドに行ってるよ。アッシュがどうなったか確かめるって」
オルトは帰ってるか。僕より二つ上の兄貴分。僕より頭一つ高い。ひょろひょろだけど。
「あいつら、全滅か。自業自得だな」
僕には何の感慨も浮かばない。バックパックに入ってた筈の装備が無くて焦っただろうな。
「怪我してない?治癒魔法掛けようか?」
ミルカが駆け寄ってくる。七歳なのにもう魔法が使える。天才の女の子。
奥の方で眠そうに目を擦っているのはダイン。九歳の男の子。なぜか料理は一番うまい。
「あれ?アッシュ?幽霊?ゾンビ?」
「殺すなよ、ダイン。あ、そうだ、皆に良い土産があるよ」
僕は亜空間から、パーティーから預かっていた食料を取り出す。
「あいつら全滅したんだからもう要らないよね?」
全員が目を剥く。そして一斉に舌なめずり。
うん、僕たちはいつも空腹だ。食料が足りていない。
ポーターは、まあ、そこそこ稼ぎになる。でも途切れなく仕事にありつける訳でもない。
ターニャは今年十六。もう冒険者登録して稼いでいる。まあ、F級なのでポーターよりは良いけど、それ程の稼ぎはない。今でも僕らを見捨てないで稼ぎを入れてくれる。それでもギリギリ。
ダインが早速、食材を見繕って料理を始めた。
川縁に組んだ石のかまどに拾い集めた木材を燃やし、どこかでくすねてきた鍋で色々放り込んで煮ている。良い匂いがしてきた。
出来上がるまで、保存食の干し肉を皆でかじる。
「アッシュ!」
ターニャが帰ってきて、いきなり僕を胸に抱きしめる。
いや、ターニャはもう十六なんだからね。色々育ってきて当たるんだからね。
「心配掛けたね、ターニャ。でも大丈夫だから」
軽く髪を撫でる。感謝を込めて。
「今回の仕事は無駄足だったねえ。気を落とさず今度頑張ろうぜ」
優しいターニャは慰めようとしてくれる。パーティー全滅ならポーター料は未払いになるからだ。ほんとに僕たちの頼りになる姉御だ。
「いや、無駄足でもないさ。お土産たっぷりだよ」
僕はにやりとして、亜空間から全滅したパーティーの装備と、討伐した魔物の素材を出してみせる。
ターニャは目を丸くして、すぐに悪い笑みを浮かべる。
「お前も悪よのう、エチゴヤ」
「いえいえ、お代官ほどでも」
これは僕の前世話から、皆がお気に入りになったやり取り。
「この装備、売ったら結構な金になるね」
オルトが早速品定め。
僕がここの仲間になってから、皆に読み書きと計算を教えるようになっていた。
出来るのが八歳まで王子だった僕だけだったから。五才頃から教師が付いていたからね。読み書きとか魔法とか剣術とか。これで他の浮浪児グループより生きやすくなる。
一緒に生きてきた子供達。生き延びるための手段として身につけて欲しかった。
最初は面倒がってたけど、知識があると騙そうとした相手を見破られるのに気づいて、段々熱心になり始めた。ミルカには魔法の基礎を教えた。これで上達が早くなるだろう。
ターニャにも剣術の型を教えた。すぐに僕より強くなったのには参ったな。
教えた子供達の中でオルトが図抜けて優秀だった。彼なら結構良い商店で雇って貰えるだろう。
「こっちの素材、売れるかなあ」
ダインが首を傾げる。食材になる物はとっておく気満々だ。
「まあ、その前に小細工しないとね。そのままホイホイって訳にはいかないさ」
ターニャの言う通り、普通のポーターが素材屋に持って行ったら怪しまれる。
「どうするの?」
ミルカが首を傾げる。うん、その仕草、可愛いな。
「【腐肉漁り】をやった振りをするのさ」
ターニャがウィンクして、ニヤリと笑った。
一から十までの表示になってる。これは階層を表してるんだな。
一を選んでタップする。
転移時の浮遊感と共に、見慣れた一階層の小部屋に立っている。
ダンジョンの出入り口はすぐ傍だ。
念のために壁に手の平を当てる。すぐに二から十までの数字とGの文字が浮かび、床が青白く光る。うん、チュートリアル通りだ。これでいつでも行き来できる。
ダンジョンの出口には見張り番のおじさんが立ってて、訝しそうに僕を見る。
僕が一人で、何も持ってないのに気がつくと、何とも気の毒そうな顔をした。
ポーターが置き去りにされるのは良くある事なので、それを察したんだ。
「坊主、良く無事だったな」
「うん、何とか逃げられたよ」わざと弱々しい声で答えておく。
僕たちの塒は街を通って流れる川に渡った橋の下。
端切れ板を組み合わせて、何とか雨風を凌げるようにしたオンボロだ。
入り口のぼろ布をかき分けて中に入る。
「ただいまー」
「アッシュ!」一斉に声がかかる。
「パーティーが全滅したって聞いて。もう駄目かと思ってたよお!十日もどうしてたの?」
カティが抱きついてきた。十歳の女の子。痩せてガリガリだ。食べ物がお土産だって言ったら喜ぶだろうな。
でも、十日って?潜って三日、管理者ルームに居たのは一日くらいだったぞ?
一番ありそうなのは、僕が亜空間に入ってゲートに出現するまで、何日か掛かっていたんだと思う。多分、ダンジョンが僕を解析するのに必要な時間だったんだろう。その間の記憶が無いのは、おそらく感覚が遮断されていたんだ。
「うん、囮にされたんだけど、うまく逃げられた。あれ、ターニャはまだ?」
カティを抱き返しながら、周りに聞く。
「ギルドに行ってるよ。アッシュがどうなったか確かめるって」
オルトは帰ってるか。僕より二つ上の兄貴分。僕より頭一つ高い。ひょろひょろだけど。
「あいつら、全滅か。自業自得だな」
僕には何の感慨も浮かばない。バックパックに入ってた筈の装備が無くて焦っただろうな。
「怪我してない?治癒魔法掛けようか?」
ミルカが駆け寄ってくる。七歳なのにもう魔法が使える。天才の女の子。
奥の方で眠そうに目を擦っているのはダイン。九歳の男の子。なぜか料理は一番うまい。
「あれ?アッシュ?幽霊?ゾンビ?」
「殺すなよ、ダイン。あ、そうだ、皆に良い土産があるよ」
僕は亜空間から、パーティーから預かっていた食料を取り出す。
「あいつら全滅したんだからもう要らないよね?」
全員が目を剥く。そして一斉に舌なめずり。
うん、僕たちはいつも空腹だ。食料が足りていない。
ポーターは、まあ、そこそこ稼ぎになる。でも途切れなく仕事にありつける訳でもない。
ターニャは今年十六。もう冒険者登録して稼いでいる。まあ、F級なのでポーターよりは良いけど、それ程の稼ぎはない。今でも僕らを見捨てないで稼ぎを入れてくれる。それでもギリギリ。
ダインが早速、食材を見繕って料理を始めた。
川縁に組んだ石のかまどに拾い集めた木材を燃やし、どこかでくすねてきた鍋で色々放り込んで煮ている。良い匂いがしてきた。
出来上がるまで、保存食の干し肉を皆でかじる。
「アッシュ!」
ターニャが帰ってきて、いきなり僕を胸に抱きしめる。
いや、ターニャはもう十六なんだからね。色々育ってきて当たるんだからね。
「心配掛けたね、ターニャ。でも大丈夫だから」
軽く髪を撫でる。感謝を込めて。
「今回の仕事は無駄足だったねえ。気を落とさず今度頑張ろうぜ」
優しいターニャは慰めようとしてくれる。パーティー全滅ならポーター料は未払いになるからだ。ほんとに僕たちの頼りになる姉御だ。
「いや、無駄足でもないさ。お土産たっぷりだよ」
僕はにやりとして、亜空間から全滅したパーティーの装備と、討伐した魔物の素材を出してみせる。
ターニャは目を丸くして、すぐに悪い笑みを浮かべる。
「お前も悪よのう、エチゴヤ」
「いえいえ、お代官ほどでも」
これは僕の前世話から、皆がお気に入りになったやり取り。
「この装備、売ったら結構な金になるね」
オルトが早速品定め。
僕がここの仲間になってから、皆に読み書きと計算を教えるようになっていた。
出来るのが八歳まで王子だった僕だけだったから。五才頃から教師が付いていたからね。読み書きとか魔法とか剣術とか。これで他の浮浪児グループより生きやすくなる。
一緒に生きてきた子供達。生き延びるための手段として身につけて欲しかった。
最初は面倒がってたけど、知識があると騙そうとした相手を見破られるのに気づいて、段々熱心になり始めた。ミルカには魔法の基礎を教えた。これで上達が早くなるだろう。
ターニャにも剣術の型を教えた。すぐに僕より強くなったのには参ったな。
教えた子供達の中でオルトが図抜けて優秀だった。彼なら結構良い商店で雇って貰えるだろう。
「こっちの素材、売れるかなあ」
ダインが首を傾げる。食材になる物はとっておく気満々だ。
「まあ、その前に小細工しないとね。そのままホイホイって訳にはいかないさ」
ターニャの言う通り、普通のポーターが素材屋に持って行ったら怪しまれる。
「どうするの?」
ミルカが首を傾げる。うん、その仕草、可愛いな。
「【腐肉漁り】をやった振りをするのさ」
ターニャがウィンクして、ニヤリと笑った。
11
お気に入りに追加
178
この作品の感想を投稿する
あなたにおすすめの小説
婚約破棄されて辺境へ追放されました。でもステータスがほぼMAXだったので平気です!スローライフを楽しむぞっ♪
naturalsoft
恋愛
シオン・スカーレット公爵令嬢は転生者であった。夢だった剣と魔法の世界に転生し、剣の鍛錬と魔法の鍛錬と勉強をずっとしており、攻略者の好感度を上げなかったため、婚約破棄されました。
「あれ?ここって乙女ゲーの世界だったの?」
まっ、いいかっ!
持ち前の能天気さとポジティブ思考で、辺境へ追放されても元気に頑張って生きてます!

【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?
みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。
ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる
色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く

三歳で婚約破棄された貧乏伯爵家の三男坊そのショックで現世の記憶が蘇る
マメシバ
ファンタジー
貧乏伯爵家の三男坊のアラン令息
三歳で婚約破棄され
そのショックで前世の記憶が蘇る
前世でも貧乏だったのなんの問題なし
なによりも魔法の世界
ワクワクが止まらない三歳児の
波瀾万丈

もう死んでしまった私へ
ツカノ
恋愛
私には前世の記憶がある。
幼い頃に母と死別すれば最愛の妻が短命になった原因だとして父から厭われ、婚約者には初対面から冷遇された挙げ句に彼の最愛の聖女を虐げたと断罪されて塵のように捨てられてしまった彼女の悲しい記憶。それなのに、今世の世界で聖女も元婚約者も存在が煙のように消えているのは、何故なのでしょうか?
今世で幸せに暮らしているのに、聖女のそっくりさんや謎の婚約者候補が現れて大変です!!
ゆるゆる設定です。

オバサンが転生しましたが何も持ってないので何もできません!
みさちぃ
恋愛
50歳近くのおばさんが異世界転生した!
転生したら普通チートじゃない?何もありませんがっ!!
前世で苦しい思いをしたのでもう一人で生きて行こうかと思います。
とにかく目指すは自由気ままなスローライフ。
森で調合師して暮らすこと!
ひとまず読み漁った小説に沿って悪役令嬢から国外追放を目指しますが…
無理そうです……
更に隣で笑う幼なじみが気になります…
完結済みです。
なろう様にも掲載しています。
副題に*がついているものはアルファポリス様のみになります。
エピローグで完結です。
番外編になります。
※完結設定してしまい新しい話が追加できませんので、以後番外編載せる場合は別に設けるかなろう様のみになります。
婚約破棄してたった今処刑した悪役令嬢が前世の幼馴染兼恋人だと気づいてしまった。
風和ふわ
恋愛
タイトル通り。連載の気分転換に執筆しました。
※なろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ、pixivに投稿しています。
悪役令嬢は永眠しました
詩海猫
ファンタジー
「お前のような女との婚約は破棄だっ、ロザリンダ・ラクシエル!だがお前のような女でも使い道はある、ジルデ公との縁談を調えてやった!感謝して公との間に沢山の子を産むがいい!」
長年の婚約者であった王太子のこの言葉に気を失った公爵令嬢・ロザリンダ。
だが、次に目覚めた時のロザリンダの魂は別人だった。
ロザリンダとして目覚めた木の葉サツキは、ロザリンダの意識がショックのあまり永遠の眠りについてしまったことを知り、「なぜロザリンダはこんなに努力してるのに周りはクズばっかりなの?まかせてロザリンダ!きっちりお返ししてあげるからね!」
*思いつきでプロットなしで書き始めましたが結末は決めています。暗い展開の話を書いているとメンタルにもろに影響して生活に支障が出ることに気付きました。定期的に強気主人公を暴れさせないと(?)書き続けるのは不可能なようなのでメンタル状態に合わせて書けるものから書いていくことにします、ご了承下さいm(_ _)m

冤罪をかけられた上に婚約破棄されたので、こんな国出て行ってやります
真理亜
恋愛
「そうですか。では出て行きます」
婚約者である王太子のイーサンから謝罪を要求され、従わないなら国外追放だと脅された公爵令嬢のアイリスは、平然とこう言い放った。
そもそもが冤罪を着せられた上、婚約破棄までされた相手に敬意を表す必要など無いし、そんな王太子が治める国に未練などなかったからだ。
脅しが空振りに終わったイーサンは狼狽えるが、最早後の祭りだった。なんと娘可愛さに公爵自身もまた爵位を返上して国を出ると言い出したのだ。
王国のTOPに位置する公爵家が無くなるなどあってはならないことだ。イーサンは慌てて引き止めるがもう遅かった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる