転生したら乙女ゲームのラスボスだった 〜愛する妹の為にラスボスポジション返上します〜

夕凪ゆな@コミカライズ連載中

文字の大きさ
上 下
73 / 74
第3章 亡国の王子を籠絡せよ

11.ユリシーズの家庭事情(後編)

しおりを挟む
「顔……上げろ」

「…………っ」

「顔を上げろ、ユリシーズ。お前は何にも悪くねぇだろ。なのになんで怒らないんだよ、そこは怒るところだろ? 俺は今すげぇ腹が立ってるよ。お前の親じゃなかったら今すぐ殺してやりたいくらいに」
「――っ」
「自分の子供じゃないから部屋に閉じ込める? そんなこと許されていいはずないんだよ。大人が子供に手ぇ出したら終わりなんだ、絶対勝てないんだから」
「…………」
「お前はさっき父親を、"実の子として育ててくれた"って言ったけど、それ間違ってるからな。子供を部屋に閉じ込めるなんて立派な虐待だ。そんなのを親とは呼ばない。黙認してた母親も同罪だ。――たとえお前が許しても、俺は絶対許さない」
「……ッ」

 ――俺の言葉に、びくっと身体を震わせるユリシーズ。

 その顔がようやく前を向き、俺の視線を――捉えた。


「……アレク……僕…………怒って、いいの……?」
「ああ、怒れよ。お前が怒れないなら俺が代わりにぶん殴ってやる。――さすがに女は殴れないけど」
「……ははっ……君ならほんとにやりかねないな」
「おう。男なら王子セシル相手でもやるぞ、俺は」
「それ、誰かに聞かれたら不敬罪で首を刎ねられそうだ」


 ――その後、気持ちを落ち着けたユリシーズは色々と話してくれた。

 父親の影響で、上の兄と使用人からは透明人間扱いされていたこと。一緒に食事を取ることも許されなかったことなど――その多くは幼少期の辛い記憶だった。

 けれど、悪いことばかりでもなかったと。

 母親はユリシーズを溺愛していたらしく、優しくされた記憶しかないとユリシーズは語った。
 今思えばそれは、ユリシーズを愛人と重ねていたからだと理解しているそうだが、それでも自分にとっては大切な思い出だ、と。

 それに二番目の兄とも仲は悪くなかったらしい。

 今でこそ疎遠になってしまったが、幼いユリシーズに魔法の使い方を教えてくれたのは五つ歳の離れた二番目の兄なのだそうだ。

 兄は学校の長期休暇中に帰省すると、こっそりお菓子を分けてくれたり、父親の目を盗んで屋敷の外に連れ出してくれた、と。


「いいお兄さんだったんだな」
「うん。いつも笑顔を絶やさない、とても明るい兄上だった。今のアレクにちょっと似てるかも」
「えっ、俺?」
「うん、君に似てる。大雑把で無鉄砲なところなんかそっくりだ」
「それ悪口じゃねぇか」
「褒めてるよ。どちらも僕にはないものだから羨ましい。僕ならあんな風にガラスを割ったりできないし」


 普段の調子が戻ってきたのか、ユリシーズが毒を吐き始める。
 それすらも心地いいと思ってしまう俺は、おかしいだろうか。

「お前、根に持つなよ? ――つか、そろそろ使用人を呼び戻した方がいいんじゃないか?」
「あっ、忘れてた。もっと早く言ってよ、アレク」
「いや、俺も忘れてたし。でもあいつら父親がいるときはお前のこと雑に扱うんだろ? だったらもっと働かせてやった方がいいかもな」
「ちょっとアレク、今のはさすがに聞き捨てならないな。使用人が当主の命令に逆らえるわけないだろう。彼らは誰一人悪くないよ」
「…………」


 俺はそれを聞いて、やっぱりこいつはこいつだな、と思った。

 俺と違い、ユリシーズは基本的に優しいのだ。
 ただ、今回はちょっとタカが外れてしまっただけ。
 それだって辛い幼少期の副作用のようなものなのだろうから、本人のせいではない。

 兎にも角にも、これで一件落着と言えよう。――多分。



 その後、ユリシーズは執事バトラーを呼び出し、俺が見つかったことを告げた。
 加えて「明日は使用人全員に臨時休暇を取らせる」とも。


「全員……にございますか?」

 驚く執事に、ユリシーズは繰り返す。

「そう、全員だ。食事の支度も必要ない。どうせ僕と彼しかいないし、適当にやるよ」
「ユリシーズ様が厨房に入られると……? しかしそれは旦那様が――」
「いいじゃないか。どうせ父上はあと一週間は帰ってこないんだ。お前が黙っていればわからないさ」
「……承知いたしました。では使用人全員に本館への立ち入りを禁止させます。ユリシーズ様のお部屋は今夜中に片付けさせていただきますので」
「ああ、それでいい」

 
 ――こうして執事は去り、俺たちの長い夜は更けていった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

一家処刑?!まっぴらごめんですわ!!~悪役令嬢(予定)の娘といじわる(予定)な継母と馬鹿(現在進行形)な夫

むぎてん
ファンタジー
夫が隠し子のチェルシーを引き取った日。「お花畑のチェルシー」という前世で読んだ小説の中に転生していると気付いた妻マーサ。 この物語、主人公のチェルシーは悪役令嬢だ。 最後は華麗な「ざまあ」の末に一家全員の処刑で幕を閉じるバッドエンド‥‥‥なんて、まっぴら御免ですわ!絶対に阻止して幸せになって見せましょう!! 悪役令嬢(予定)の娘と、意地悪(予定)な継母と、馬鹿(現在進行形)な夫。3人の登場人物がそれぞれの愛の形、家族の形を確認し幸せになるお話です。

オバサンが転生しましたが何も持ってないので何もできません!

みさちぃ
恋愛
50歳近くのおばさんが異世界転生した! 転生したら普通チートじゃない?何もありませんがっ!! 前世で苦しい思いをしたのでもう一人で生きて行こうかと思います。 とにかく目指すは自由気ままなスローライフ。 森で調合師して暮らすこと! ひとまず読み漁った小説に沿って悪役令嬢から国外追放を目指しますが… 無理そうです…… 更に隣で笑う幼なじみが気になります… 完結済みです。 なろう様にも掲載しています。 副題に*がついているものはアルファポリス様のみになります。 エピローグで完結です。 番外編になります。 ※完結設定してしまい新しい話が追加できませんので、以後番外編載せる場合は別に設けるかなろう様のみになります。

鍵の王~才能を奪うスキルを持って生まれた僕は才能を与える王族の王子だったので、裏から国を支配しようと思います~

真心糸
ファンタジー
【あらすじ】  ジュナリュシア・キーブレスは、キーブレス王国の第十七王子として生を受けた。  キーブレス王国は、スキル至上主義を掲げており、高ランクのスキルを持つ者が権力を持ち、低ランクの者はゴミのように虐げられる国だった。そして、ジュナの一族であるキーブレス王家は、魔法などのスキルを他人に授与することができる特殊能力者の一族で、ジュナも同様の能力が発現することが期待された。  しかし、スキル鑑定式の日、ジュナが鑑定士に言い渡された能力は《スキル無し》。これと同じ日に第五王女ピアーチェスに言い渡された能力は《Eランクのギフトキー》。  つまり、スキル至上主義のキーブレス王国では、死刑宣告にも等しい鑑定結果であった。他の王子たちは、Cランク以上のギフトキーを所持していることもあり、ジュナとピアーチェスはひどい差別を受けることになる。  お互いに近い境遇ということもあり、身を寄せ合うようになる2人。すぐに仲良くなった2人だったが、ある日、別の兄弟から命を狙われる事件が起き、窮地に立たされたジュナは、隠された能力《他人からスキルを奪う能力》が覚醒する。  この事件をきっかけに、ジュナは考えを改めた。この国で自分と姉が生きていくには、クズな王族たちからスキルを奪って裏から国を支配するしかない、と。  これは、スキル至上主義の王国で、自分たちが生き延びるために闇組織を結成し、裏から王国を支配していく物語。 【他サイトでの掲載状況】 本作は、カクヨム様、小説家になろう様、ノベルアップ+様でも掲載しています。

婚約破棄してたった今処刑した悪役令嬢が前世の幼馴染兼恋人だと気づいてしまった。

風和ふわ
恋愛
タイトル通り。連載の気分転換に執筆しました。 ※なろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ、pixivに投稿しています。

魔法が使えない令嬢は住んでいた小屋が燃えたので家出します

怠惰るウェイブ
ファンタジー
グレイの世界は狭く暗く何よりも灰色だった。 本来なら領主令嬢となるはずの彼女は領主邸で住むことを許されず、ボロ小屋で暮らしていた。 彼女はある日、棚から落ちてきた一冊の本によって人生が変わることになる。 世界が色づき始めた頃、ある事件をきっかけに少女は旅をすることにした。 喋ることのできないグレイは旅を通して自身の世界を色付けていく。

「不細工なお前とは婚約破棄したい」と言ってみたら、秒で破棄されました。

桜乃
ファンタジー
ロイ王子の婚約者は、不細工と言われているテレーゼ・ハイウォール公爵令嬢。彼女からの愛を確かめたくて、思ってもいない事を言ってしまう。 「不細工なお前とは婚約破棄したい」 この一言が重要な言葉だなんて思いもよらずに。 ※約4000文字のショートショートです。11/21に完結いたします。 ※1回の投稿文字数は少な目です。 ※前半と後半はストーリーの雰囲気が変わります。 表紙は「かんたん表紙メーカー2」にて作成いたしました。 ❇❇❇❇❇❇❇❇❇ 2024年10月追記 お読みいただき、ありがとうございます。 こちらの作品は完結しておりますが、10月20日より「番外編 バストリー・アルマンの事情」を追加投稿致しますので、一旦、表記が連載中になります。ご了承ください。 1ページの文字数は少な目です。 約4500文字程度の番外編です。 バストリー・アルマンって誰やねん……という読者様のお声が聞こえてきそう……(;´∀`) ロイ王子の側近です。(←言っちゃう作者 笑) ※番外編投稿後は完結表記に致します。再び、番外編等を投稿する際には連載表記となりますこと、ご容赦いただけますと幸いです。

聖女の力を隠して塩対応していたら追放されたので冒険者になろうと思います

登龍乃月
ファンタジー
「フィリア! お前のような卑怯な女はいらん! 即刻国から出てゆくがいい!」 「え? いいんですか?」  聖女候補の一人である私、フィリアは王国の皇太子の嫁候補の一人でもあった。  聖女となった者が皇太子の妻となる。  そんな話が持ち上がり、私が嫁兼聖女候補に入ったと知らされた時は絶望だった。  皇太子はデブだし臭いし歯磨きもしない見てくれ最悪のニキビ顔、性格は傲慢でわがまま厚顔無恥の最悪を極める、そのくせプライド高いナルシスト。  私の一番嫌いなタイプだった。  ある日聖女の力に目覚めてしまった私、しかし皇太子の嫁になるなんて死んでも嫌だったので一生懸命その力を隠し、皇太子から嫌われるよう塩対応を続けていた。  そんなある日、冤罪をかけられた私はなんと国外追放。  やった!   これで最悪な責務から解放された!  隣の国に流れ着いた私はたまたま出会った冒険者バルトにスカウトされ、冒険者として新たな人生のスタートを切る事になった。  そして真の聖女たるフィリアが消えたことにより、彼女が無自覚に張っていた退魔の結界が消え、皇太子や城に様々な災厄が降りかかっていくのであった。

【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?

みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。 ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる 色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く

処理中です...